こころの病気と向きあう

第5回:精神科救急医療の今とこれから

日本精神科救急学会副理事長 平田 豊明

精神疾患を抱えながら地域社会で生活する人や、急性の精神疾患に初めて見舞われた人にとって、精神科救急医療のあり方は、その後の人生を変えることすらある大変重要なものです。通常の急性疾患であれば、119番に電話すれば、たいていの地域では救急車が速やかに救急当番の医療機関に搬送してくれます。精神疾患の場合も、たいていは速やかに精神科救急当番の医療機関につながりますが、一部、そうはいかない地域もあります。そのような地域では、かかりつけの医療機関がなかったり、あっても対応できない場合は、遠隔地の当番病院に行くよう指示されることがあります。

厚生労働省が平成23年9月に公開した「精神科救急医療に関する検討会」報告書では、各医療機関が自院に通院中の患者さんからの夜間や休日の相談や診療の求め(ミクロ救急といいます)に速やかに応ずることや、都道府県が運営する当番制の精神科救急医療体制(マクロ救急といいます)を充実させることをうたっています。

日本精神科救急学会では、精神医療に関する電話相談に始まって、精神科の救急外来診療や入院治療に至るまで、安心して良質な精神科救急医療を受けられる体制をつくるために、様々なガイドラインを刊行しています。急性期の入院治療については、精神科救急病棟(精神科救急入院料届出病棟)が、平均1カ月半の入院期間で、平均的な精神科病棟よりも手厚い医療を提供しています。平成24年4月現在、全国に約100カ所ありますが、1カ所もない県があるなど、引き続き、全国への整備を進める必要があります。

また今後は、いつでもどこでも無料で相談できる精神医療相談窓口の整備や、医師や専門職員が自宅まで来て診察や相談に応じてくれるアウトリーチサービス、身体疾患を合併していても適切な治療が受けられる体制、児童・思春期や薬物依存症、認知症などの専門的医療につながるシステム、それに、入院したことがトラウマにならないような病棟環境の整備とスタッフ教育も必要です。

これらは、革新的な治療法の開発を待たなくても、今の技術水準で実現可能なサービスと考えられます。このため、本学会では、限られた医療資源や医療費を救急サービスに手厚く配分することについて、関係者の合意が各論レベルで得られるよう、あるべき精神科救急医療の実現に向けて、諦めることなく必要な努力を続ける所存です。

 

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