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予防接種

I  総論
天然痘の封じ込め対策は、接触者に対する選択的予防接種、追跡調査及び症例の隔離が中心となる。予防接種を感染拡大防止に有効に用いるためには、早期の症例の把握、接触者の同定及び追跡調査が必要である。
天然痘ワクチン接種はある程度の副反応が避けられないため、接種禁忌者等、実施に当たり十分注意する。また、このため、WHOは天然痘の発生の極めて低い地域や時点では、全国的な広範囲の接種は行うべきではないと勧告している。

II 天然痘ワクチン
 ワクチンの概要
天然痘ワクチンは天然痘ウイルスと同属のポックスウイルス科オルソポックスウイルス属ワクシニアウイルスを弱毒化して作成された生ワクチンである。
日本ではワクシニアウイルス株としてLC16m8株が使用されており、米国で使用されているものに比較し、副反応がより少ないとされている。
オルソポックスウイルス属のウイルス間では免疫応答がほぼ完全に交差するため、交差免疫が得られる。

 有効性
予防接種を適切に実施した場合、善感者における有効率はほぼ100%。
暴露後の予防接種においても、暴露後4日以内であれば、感染の予防又は症状の軽減が可能である。
また経験的に暴露後1週間以内であれば、ある程度の効果が期待できることが知られている。
天然痘ウイルスに暴露していることが確実である場合は、暴露後の日数にかかわらず、判明した時点で迅速に予防接種を行うことが望ましい。

 接種不適当者、接種後の正常な反応、副反応等
予防接種の不適当者は別紙1のとおり。これらに該当する者については接種を避けるが、感染の危険が重大な場合は、接種対象者の年齢、過去の他のワクチンへの反応、接触の程度等により、適用を考慮する。
接種後の正常な反応及び主な副反応は別紙2のとおり。
予防接種を受けた人からのワクチニアウイルス感染の可能性があるため、接種部位が完治するまで接触のある人の安全性についても考慮する。湿疹、アトピー性皮膚炎、基礎疾患、特に重度の免疫不全のある人との接触は避けるようにする。

III 予防接種の基本方針
 レベルI(平常時)
 原則として実施しない。

 レベルII(蓋然性上昇時)
 患者及び感染者に対応する可能性が高い、医療従事者、消防、警察、空港・港湾関係者等の初動対処要員を対象に実施する。また、発生国等特定の国、地域からの入国者等に対し、発生状況等考慮の上で必要に応じ実施する。

 レベルIII(国内患者発生時)
 国民に対して接触者の調査を踏まえた上で必要な範囲で実施する。また、医療関係者等の対処要員に対しても、二次医療圏や都道府県単位で地域を指定するなど、患者等発生状況を踏まえ、必要な範囲について漏れなく実施する。

IV 予防接種の法制面での整理
 レベルIIでの初動対処要員に対するワクチン接種
 レベルII段階での初動対処要員(主に公務員)に対する接種は、公務の円滑な遂行のため、被接種者の所属する機関が業務命令に基づき実施することを基本とする。
 しかしながら、所属機関が接種機会を提供する責務を果たすことが困難な場合で、天然痘のまん延防止上緊急の必要があると認めるときは、予防接種法第6条第2項に基づき臨時の接種を行うこととする。なお、予防接種法に基づくワクチン接種により健康被害が生じた場合であっても、国家公務員災害補償法及び地方公務員災害補償法に基づく救済の対象となる。

(1) 予防接種法を適用する場合の法的手続
(1) 予防接種法第6条第1項の規定に基づく臨時の予防接種を行う疾病を痘そうと厚生労働大臣が定める 【厚生労働大臣告示(予定)】
(2) 予防接種法第6条第2項の規定に基づき厚生労働大臣が都道府県知事に臨時の予防接種を行うよう指示 【文書(予定)】
(3) 地方自治法第245条の4の規定に基づき厚生労働大臣が都道府県知事に(公衆衛生担当者等に対する接種を行うよう)技術的助言 【文書(予定)】
(4) 厚生労働大臣の技術的助言を受けて、都道府県知事は予防接種法第6条第1項の規定に基づき対象者及びその期日又は期間を指定
(5) 臨時予防接種を実施
 実際には、(1)、(2)、(3)は同時並行に行う。

(2) 予防接種法を適用する場合の接種対象者
 レベルII段階での接種対象者は、「天然痘ウイルスへの暴露が確実である場合にもそれを承知で職務を遂行しなければならない者」とし、天然痘テロ発生時には発生地域にかかわらず、自治体間の相互協定に基づき協力を行うことのできる者、に限定する。
 「天然痘技術派遣チーム」「疫学調査班」「検体採取・輸送班」「消毒班」「予防接種班」は、いずれもレベルII段階での接種が必要である。接種対象者は、レベルIの段階で選定し、リストを作成するとともに、必要なワクチン量を厚生労働省に登録する。

(3) ワクチン接種に係る費用
 ワクチン、二又針については厚生労働省より無償譲与する(初動対処要員用のワクチン・二又針は厚生労働省より各都道府県に譲渡済み。)。その他の実費については、各自治体ごとに負担を行い、予防接種法を適用する場合は、その半分を国が負担することとなる。

 天然痘発生地域からの入国者に対するワクチン接種
 天然痘発生国からの入国者については、天然痘が国内に持ち込まれることを防ぐ観点から、ワクチン接種を済ませた後に、発生国を出発させることを原則とする。天然痘は検疫法第2条第1号の検疫感染症であることから、やむを得ず、発生国において接種を実施できなかった入国者であって、天然痘ウイルスへの暴露が疑われるものに対しては、状況に応じ、検疫法第14条第1項7号に基づき、到着後に各検疫所においてワクチン接種を実施する等の対応を行う。

 レベルIIIでのワクチン接種
 レベルIIに加え、患者の疫学調査により同定された接触者に対するワクチン接種(輪状接種)及び事態対処のための要員に対する拡大接種が必要となる。
 いずれも、予防接種法第6条第2項に基づきワクチン接種を実施する。

V 予防接種の実施方法
1 接種者対象数の把握
(1) 接触者の把握が可能である場合
接触者調査で把握された接触者については、氏名、年齢、性別を含むリストを作成し、可能な限り同一日に接種する予定を立てる。
接触者へは個別に接種日時、接種会場を通知し、ワクチン接種を希望する住民が接種会場に殺到することを避ける。通知の際には、重篤な急性疾患にり患していることが明らかな者等、別紙1に挙げる者は接種できない可能性があることをあらかじめ伝えておく。
また、接種当日に発熱、発疹等、体調が不良な接種対象者は、接種場所に来場する前に問い合わせるよう指導する。
(2) 接触者の把握が困難である場合
天然痘患者が多数発生し、接触者調査により接触者を把握することが困難である場合は、地域を指定し、その地域の住民を対象に接種を行うことも検討する(この場合も、接触者調査により可能な限り接触者の把握に努め、接触者対象の接種については、別途、日時、場所を設定して実施することが望ましい。)。
各接種会場の規模、人員に応じ、1日に接種可能な人数をあらかじめ算定する。
各接種日の接種対象者を住民台帳等をもとにして、氏名、年齢、性別を含むリストを作成し、リストに従い接種日を振り分け、接種対象者数を把握する。
リストをもとに接種日を各接種対象者に通知する。
その際、重篤な急性疾患にり患していることが明らかな者等、別紙1に挙げる者は接種できない可能性があることをあらかじめ伝えておく。
また、接種当日に発熱、発疹等、体調が不良な接種対象者は、接種場所に来場する前に問い合わせるよう指導する。

 接種会場
接種会場の選定に当たっては、予想される接種対象者数に応じて、建物の規模等を決定する。大規模接種の場合、学校の体育館規模の建物が必要になる。また、駐車場の確保とともに、駐車場が遠隔の場合、送迎バスも考慮する。
接種会場は別紙3のワクチン接種の流れ、別紙4の接種会場設営例及び必要なスタッフ例を参考に設営する。
必要な物品例を別紙5に示す。

 有症者及び接触者への対応
接種会場の入口に配置された人員は、有症者及び接触者の確認を行う。
有症者の確認は、体温測定、皮膚の目視、聞き取り等により行う。この時点で発熱、発疹等の症状を認めた者は、有症者として、有症者控室に誘導し、医師による診察を行う。
聞き取り調査により、天然痘患者との接触や生物テロとしての天然痘ウイルスへの暴露が疑われた場合は、接触者リストに追加し、「疫学調査及び接触者の管理」に基づき管理及び監視を行う。
ワクチン接種に当たっては接触者、非接触者ともに、4以下の手順で実施する。

 ワクチンの説明と予診票への記載
接種対象者に、説明のための場所において、別紙6及びビデオを用いて、ワクチンの性状、効能、接種不適当者、接種後の皮膚反応、副反応等に関して説明する。ビデオ内容の要旨はホームページ上に掲載している。(http://221.114.248.67/smallpox/)
説明終了後、接種対象者に説明場所の出口で予診票(別紙7)を手渡し、次の予診票記入室で記入してもらう。

 医師による問診、診察、接種可否の決定
医師は予診票の記載に誤記入がないか確認し、ワクチンの説明を補足しつつ接種対象者からの質問に対し十分に説明する。当日の体調、予防接種が不適当又は慎重投与になる基礎疾患の有無については特に留意する。
十分に診察する。その所見は適切に予診票に記載する。
以上の予診票の記載、問診、診察等の結果をもとに、医師は接種の可否を判断して予診票に記載して署名する。
予診票の記載及び診察の結果で、当日、発熱、皮疹など天然痘を完全に除外出来ない接種対象者を認めた場合、有症者控室に誘導する。
当日の体調、基礎疾患により接種不可又は不適当者と判断されたもの(有症者控室に誘導されたものを除く。)についてはその理由を十分に説明し、接種対象者の発病の危険度に応じて以後の注意事項(例:危険度の高い接触者には、外出を避けること、家族や患者と生活空間を共有しないこと、接触者の場合17日間体温・症状に注意し毎日記録すること、症状出現時の連絡先、症状出現時の対処方針等)を説明して帰宅させる。

 接種対象者の同意
医師は問診、診察の結果、当該接種対象者が接種可能であると認めた場合は、その旨を説明し、更に質問があれば十分に回答した上で接種対象者の意思を確認し、同意が得られた場合、予診票上の所定の同意欄に署名してもらう。
以上が終了した上で、接種対象者を接種室に誘導する。

 ワクチンの接種
接種を担当する医師はあらかじめ厚生労働省が作成・配布した天然痘CD−ROM(天然痘の症状、診断及びワクチンについて:ワクチンの接種方法等を解説)及び別紙8を熟知した上で、接種を同意した接種対象者に接種を行う。
接種人数は、予診又は接種を行う2名の医師を中心として構成した1班当たり、予診の時間を含めて1時間につき40名程度を目安とする。なお、医師1名が予診及び接種を行う場合は、上述を標準として接種人数を調整する。
使用した二又針は滅菌を行った後に、洗浄、再滅菌して再利用する。
接種の際、予診票の該当欄にワクチンの名称、メーカー名、ロット番号を記載する。
接種後、所定の接種済証(別紙9)に接種を行った医師が署名した上で、被接種者に交付する。接種済証にもワクチンの名称、メーカー名、ロット番号を記載する。

 ワクチン接種後
接種後は30分以上被接種者を所定の場所で観察し、異常な副反応が見られた場合、医師は直ちに適切な処置を行う。
副反応が見られなかった場合、医師、保健師又は看護師は、接種後の日常生活の注意事項、天然痘ワクチンの副反応について、別紙6に基づき再度説明する。予防接種の有効性が認められない場合には再接種が必要となるので、その際の対応及び連絡先を明確に説明するとともに、記載された副反応又はそれ以外でも体調の変化を生じた場合には、速やかに医療機関を受診するよう指導する。

 有症者控室入室者の取り扱い
医師は患者との接触の有無を再確認した上で、再度、診察を行う。
接触がなく、症状、所見から天然痘以外の疾患の可能性が高いと思われる有症者については、回復後に接種を受けること、一般医療機関を受診することを指示して帰宅させる。
接触が否定できず、天然痘の除外が困難と思われる有症者については、第一種感染症指定医療機関等への移送を検討する。接触していることが明らかであれば、発熱等の多少の症状がある場合であっても、ワクチン接種を行うべきである。

VI 接種後の対応
 有効性の判定及び再接種
接種部位は予防接種後3日以内に丘疹が現れ、6〜7日後に疱疹状となる。この反応が現れていない旨、保健所が被接種者から連絡を受けた場合は、保健所の担当者が、予防接種済証、予診票等をもとに、被接種者のワクチン接種の有効性を調査する。その上で再接種の必要性を判定し、再接種を行う。再接種に当たっては、実施できる医療機関をあらかじめ選定する等の対応を行う。また再接種を行った場合は、被接種者氏名、有効性判定者、再接種日時、再接種場所等の情報を当初作成したリストにあわせ記載し保存する。

 副反応等の発生時
副反応又はそれ以外でも体調の変化が生じた場合には、保健所は速やかに医療機関を受診するよう指示する。また、受診した医療機関からは被接種者の情報が適切に提供されるように連携体制を整備する。副反応の報告には「予防接種の実施について」(平成6年8月健医発第962号厚生省保健医療局長通知)別紙「予防接種実施要領」に定める予防接種後副反応報告書を用いる。
副反応に対しては、静注グロブリンの大量投与又はシドフォビルによる治療が可能とされている。重篤な副反応が発生した場合は、速やかに収容医療機関、被接種者の症状等の情報とともに、厚生労働省健康局結核感染症課へ連絡し、シドフォビルの提供を受ける。概要、使用方法については「治療指針」参照。
予防接種と副反応の因果関係が認定された場合は、予防接種健康被害救済制度により、医療費、医療手当、障害年金等の所定の救済が行われることとなる。支給手続きは、「予防接種法及び結核予防法の一部を改正する法律の一部等の施行について」(昭和52年3月衛発第186号厚生省公衆衛生局長通知)に則り行う。
また、公務員が業務命令に基づきワクチン接種を受けた場合には、国家公務員災害補償法及び地方公務員災害補償法に基づく救済の対象にもなる。



別紙1 天然痘ワクチン接種不適当者

 次のいずれかに該当すると認められる場合には、接種不適当者(予防接種を受けることが適当でない者)として、原則として接種を行ってはならない。しかしながら、感染の危険が重大な場合は、2以下に該当する事例においても、接種対象者の年齢、過去の他のワクチンへの反応、接触の程度を考慮した上で、適用を考慮する。
 ワクチンの成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者(*1)
 明らかな発熱を呈している者
 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者(*2)
 妊娠していることが明らかな者
 まん延性の皮膚病にかかっているもので、予防接種により障害を来たすおそれのある者。(*3)
 上記に揚げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者(*4)

*1  例えば日本製のワクチンには抗生物質としてストレプトマイシン、エリスロマイシンが含まれており、アレルギーを有する者には注意が必要である。また、ゼラチン含有製剤又はゼラチン含有の食品に対して過敏症を示す者にも注意を要する。
*2
(1) 白血病、リンパ腫、全身の悪性腫瘍、低ガンマグロブリン症(通常の5%未満)、慢性好中球減少症、顆粒球減少症などの免疫不全を引き起こす疾患のり患者
(2) 副腎皮質ステロイド剤やシクロスポリンなどの免疫抑制剤による治療を受けている者
(3) HIV感染者
*3  皮膚病として、湿疹及びその既往歴を有する者も該当する。また、アトピー性皮膚炎、火傷、膿痂疹、水痘、帯状疱疹などのり患者では、副反応を生じやすくなるとされている。
*4
(1) 脳炎を含む神経疾患が認められる、又は脳炎の既往歴を有する者
(2) 症状の有無にかかわらず医師により以下の心疾患又は循環器系の危険因子を有すると診断されている者(※参照)
 
冠血管疾患
 心筋梗塞の既往
 狭心症
うっ血性心不全
心筋症
一過性虚血性発作(胸痛発作の症状を呈するが心障害を残さないもの)
労作時の胸痛又は呼吸困難
医師の管理下にあるその他の心疾患
次の5つの危険因子のうち、3つ以上に該当する者
 高血圧
 高コレステロール血症
 糖尿病又は高血糖
 50歳未満の近親者(例:両親、兄弟姉妹)に心疾患を有する者がいる者
 喫煙(現在)

米国において、ワクチンの副反応として、いくつかの心疾患を引き起こす可能性が指摘されている。因果関係は明らかになっていないが、2003年12月末の時点で、当面の対応として、上述に該当する者への予防接種は、天然痘感染者の接触者を除き、避けることが望ましいとされた。また、予防接種後、被接種者が胸痛、呼吸困難、その他の心疾患の症状を呈した場合には、直ちに担当者へ連絡を取ることを求めている。

米国における2002年12月から2003年3月の予防接種結果
筋炎・心膜炎(初回接種 20,000回に1回)
市民対象の予防接種25,645例中2例で、予防接種の2-17日後に生じた。また軍対象の予防接種では325,000例(うち初回接種225,000例)中11例で、予防接種の6-12日後に生じた。ほとんどが軽度か中等度で回復したが、1例は心不全を呈し重篤となった。
心症・心筋梗塞
予防接種25,645例中5例で発生(狭心症2例、心筋梗塞3例)。予防接種の4-17日後に生じた。心筋梗塞の2例は致死的となった。



別紙2 接種後の通常の反応と主な副反応

I 予防接種後の通常の反応
 接種後は接種部位が発赤腫脹し、疼痛を伴うこともある。また、2〜3日の発熱、腋下リンパ節の腫脹が見られることもあるが、20%の接種者に認められる一般的な反応である。
 接種部位は、接種後3〜4日で発赤腫脹が起こり、発赤した皮膚の中心に水疱ができる。7〜11日後には、水疱の中心が陥凹し、水疱の中心に膿がたまる。水疱は次第に乾燥し2〜3週間後には痂皮を形成する。3週間目の終わり頃には痂皮が取れ、ピンク色の瘢痕が出来る。なお、接種後7日後に接種部位を確認し、反応が生じていない場合は再接種を考慮する必要がある。

II 主な副反応
 天然痘ワクチンの重篤な副反応の発生は少ないが、まれに次のような副反応が生じることがある。これらは米国のデータであり、日本のワクチン株の副反応発生頻度はさらに低いとされている。なお、副反応はヒトワクシニア免疫グロブリン(VIG)、免疫グロブリン大量投与又はシドフォビルにより治療可能とされている。VIG及びシドフォビルは、日本では承認されていない薬剤であるが、シドフォビルについては厚生労働省健康局結核感染症課を窓口として入手可能であるので、必要時に連絡を行う。

1 異所性接種
 天然痘ワクチンの副反応の大半を占め、初回接種2,000回に1回生じる。手などを介して接種部位から他の部位にワクチンウイルスが定着することで起こる。主に眼瞼、鼻、口唇等の顔面、性器及び直腸等の陰部に水泡ができるが、大部分は自然治癒する。接種部位の直接の接触を避け、また触れた場合は良く手指を水洗いすることで予防できる。

2 ワクチン後湿疹
 一般的に現在湿疹に罹っている、若しくは湿疹の既往歴がある者、又は他の皮膚病に罹っている者が予防接種を受けた場合に起こる。また、この者が最近接種を受けた者と接触しても生じることがある。初回接種26,000回に1回生じる。湿疹のある場所又はあった場所に全体に水泡が生じ、発熱、全身のリンパ節腫脹が認められることがある。病状は一般に軽度であり、自然に治癒するが、まれに重症化することがある。重症化と基礎疾患の湿疹の病状の間に関係は認められない。

3 全身性ワクシニアウイルス症
 予防接種の6〜9日後に体の広い範囲に水泡が生じるもので、ウイルスが血行性に広がることで起こる。初回接種5,000回に1回生じる。全身に広がることはまれで、ほとんど自然に治癒する。しかし、免疫不全や全身状態の悪い者では重症になることもある。

4 壊死性ワクシニア症
 ワクチン接種部位の水泡が治癒傾向を見せず、壊死が周囲まで進行性に拡大するもので、免疫機能が低下した者において起こる。接種部位以外の他部位に進行性壊死が生じることがある。初回接種、再接種問わず発症し得るものであり、重症でしばしば致死的になる。

5 種痘後脳炎
 予防接種の8〜15日後に、発熱、頭痛、嘔吐、傾眠傾向で発症し、麻痺、痙攣、昏睡などの症状を示す。リスター株等の旧ワクチンでは、種痘後脳炎により約100万接種当たり10〜30人死亡する。ほとんど1歳未満の乳児の初回接種後に生じる。素因等については不明。(現在日本で使用されている天然痘予防接種に用いられているウイルス株は従来のものより毒性が低く、副反応の発生頻度は上記より低いと考えられている。)

III その他の関連情報
米国における2002年12月から2003年3月の予防接種の結果から、因果関係は明らかになっていないが、副反応として、いくつかの心疾患を引き起こす可能性が指摘されている。このことに関連する接種対象者に関する注意点は別紙1参照。

1 心筋炎・心膜炎
市民対象の予防接種25,645例中2例で、予防接種の2〜17日後に生じた。また軍 対象の予防接種では325,000例(うち初回接種225,000例)中11例で、予防接種の6〜12日後に生じた(初回接種 20,000回に1回)。ほとんどが軽度か中等度で回復したが、1例は心不全を呈し重篤となった。

2 狭心症・心筋梗塞
予防接種25,645例中5例で発生した(狭心症2例、心筋梗塞3例)。予防接種の 4〜17日後に生じ、心筋梗塞の2例は致死的となった。



別紙3 ワクチン接種の流れ
ワクチン接種の流れの図


別紙4 接種会場設営例
(接種対象者が相当数にのぼり、体育館などの大規模な場所において接種を行う場合を想定。
 接種対象者がある程度限られる場合等、状況に応じて規模、設営は適宜変更する。)

接種会場設営例の図
I  場所の選定に当たっての注意点
 交通が便利であり、接種予定人員に応じた広さを有する。
 採光、換気等に十分な窓の広さ、照明設備等を有する清潔な場所であり、寒期には十分な暖房設備を備える。
 電気、水道、机・椅子等各種備品など予防接種の実施に当たっての必要な設備が調っているか、その準備が容易である。

II  設営に当たっての注意点
 予診票の記入場所は記入者のプライバシーも考慮し十分なスペースを設ける。また、予診票の確認、問診、診察及び接種意思の確認を行う場所はプライバシーが保持できるよう、仕切を設け周囲から独立した空間となるようにする。
 問診、診察等は十分な余裕をもって行う必要があるため、問診、診察等のための場所を多く設置する等配慮する。
 有症者は有症者控室において対応を行い、無症者と別の流れになるように配慮する。
 脱衣にかかる手間等を想定し、必要に応じ男女を分けた接種室とする。
 接種対象者のための接種前の待合スペース、接種後の経過観察・説明及び緊急時の対応を行うためのスペース、事務的な対応を行うための部屋が必要である。

III 接種場所に必要なスタッフ例
役割
接触者、非接触者及び有症者の確認・誘導
予防接種説明、予診票記入要領説明
ビデオ放映
予診表配布
予診・診察・同意の確認
接種者・証明書記入
ワクチン調整
医師予診等、接種場所入場後
 見出された有症者の誘導
接種後注意事項説明
予診票内容のデータ入力
接種場所責任者
物品供給管理
会場内誘導
予備人員
接触者評価
有症者評価
被接種者緊急時対応
コンピュータ管理
 
職種
保健師、看護師
保健師、看護師
事務官
事務官
医師
医師、保健師、看護師
薬剤師、保健師、看護師

事務官
保健師、看護師
事務官
保健所長等
事務官
事務官
事務官
医師
医師
医師、保健師、看護師
事務官



別紙5 接種場所の必要物品例

I  予防接種用物品
天然痘ワクチン及び溶解液
ワクチン保管用冷蔵庫(2〜8℃のもの)
滅菌二又針
注射針付き滅菌注射器(ワクチン溶解のため0.5mlの計量用)
使用済み針入れ用容器
医療廃棄物用廃棄容器
ゴム手袋
マスク
白衣
使い捨てエプロン
ヘッドカバー
ゴーグル
消毒用アルコール
消毒用アルコール綿
消毒用手洗い石鹸
ガーゼ

II  緊急時対応用物品
アンビューバッグ
蘇生セット(挿管チューブ、除細動器等)
点滴セット
点滴ボトル
ディスポーザブル注射器(各種容量)
駆血帯
エピネフリン(商品名:ボスミン)
抗ヒスタミン剤
ヒドロコルチゾン(商品名:ソルコーテフ、サクシゾン、コートリル等)
ジアゼパム座薬又は抱水クロラール座薬
ジアゼパム静注(商品名:セルシン)
アミノフィリン
グルコン酸カルシウム(商品名:カルチコール)
炭酸水素ナトリウム(商品名:メイロン)
フェニトイン,−ナトリウム(商品名:フェニトイン、アレビアチン等)
インスリン
解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン等)
酸素ボンベ
消毒用アルコール綿
エアウェイ
診察用器具(聴診器、舌圧子、血圧計、ポケットライト、体温計、膿盆、記録用紙)
その他(ベッド、枕、毛布等)

III  コンピューター関連
コンピューター
プリンター
印刷紙
インターネット接続用備品

IV  一般物品

筆記用具
輪ゴム
ホッチキス
付箋
整理ファイル
ファクシミリ
紙タオル
ゴミ箱/ゴミ袋
緊急連絡先一覧
ビデオプレーヤー
説明様式、予診票
ついたて
 
いす
封筒
セロハンテープ
はさみ
クリップボード
電話
コピー機
テッシュペーパー
スタッフ用名札
テレビ
説明用ビデオソフト
ホワイトボード/ホワイトボードマーカー
掃除用具

V  接種対象者交通整理
接種場所までの案内板
接種場所内の各種案内



別紙6 天然痘ワクチンの予防接種を受ける方に

 天然痘予防接種については、いくつか知っておいていただきたいこと、注意しておいていただきたいことがあります。何かありました場合に適切に対応していただくため、以下の諸点をご理解ください。また体調に異常が生じたり、7日後になっても予防接種の反応がみられない場合などありましたならば、問合せ先にご連絡ください。

I 天然痘ワクチン
 天然痘ワクチンは天然痘ウイルスと同属のワクチニアウイルスを弱毒化して作成した、生ワクチンです。適切に実施した場合、善感者については天然痘ウイルスの感染はほぼ100%抑えることができ、また天然痘ウイルスに暴露した後でも4日以内であれば感染の予防又は症状の軽減が可能です。

II 接種方法
 天然痘ワクチン接種用の特別な針にワクチンを付け、上腕部に15回軽く圧迫します。にじむ程度の出血があることがあります。接種後、接種部位に残っているワクチン液は、1〜3分後に堅く絞ったアルコール綿で吸いとるようにします。ガーゼ等で覆う必要はなありません(数日後、接種部位に発赤、水疱等の変化が現れたら、ガーゼ等で覆うように指導してください)。

III 予防接種を受けることが不適当とされている方
 次に該当する方は予防接種を原則として受けることができません。詳細は医師にご相談ください。
 ワクチンの成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者
 明らかな発熱を呈している者
 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者
 妊娠していることが明らかな者
 まん延性の皮膚病にかかっており、予防接種により障害を来たすおそれのある者
 上記に揚げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
 (*「VII その他」もご参照ください。)

IV 接種後の注意点
 接種を受けた日は翌日まで接種を受けた場所を触ったり、水につけないようにしましょう。接種を受けた日は、入浴せず、飲酒、激しい運動は避けましょう。

V 予防接種後の通常の反応
 接種後は接種部位が発赤腫脹し、疼痛を伴うことがあります。また、2〜3日の発熱、腋下リンパ節の腫脹が起こることもありますが、20%の接種者に認められる一般的な反応です。
 接種部位は、接種後3〜4日で発赤腫脹が起こり、発赤した皮膚の中心に水疱ができます。7〜11日後には、水疱の中心が陥凹し、水疱の中心に膿がたまります。水疱は次第に乾燥し2〜3週間後には痂皮(かさぶた)を形成し、3週間目の終わり頃には痂皮が取れ、ピンク色の瘢痕ができます。
 痂皮が取れるまでは、接種部位にはワクチンウイルスが存在するので、手などで触れないようにガーゼ等を当てておく必要があります。また、入浴時に直接水がかからないようにし、他人と接種部位が接触しないようにしてください。特に湿疹や免疫不全のある方はワクチンウイルスの重篤な感染が起こることがありますので、接触を避けてください。
 なお、接種後7日後に接種部位を確認し、反応が生じていない場合は再接種を考慮する必要があります。

VI 主な副反応
 天然痘ワクチンの重篤な副反応の発生は少ないですが、まれに次のような副反応が生ずることがあります。

1 異所性接種
 天然痘ワクチンの副反応の大半を占め、初回接種2,000回に1回生じます。手などを介して接種部位から他の部位にワクチンウイルスが定着することで起こります。主に眼瞼、鼻、口唇等の顔面、性器及び直腸等の陰部に水疱ができますが、大部分は自然治癒します。接種部位の直接の接触を避け、また触れた場合は良く手指を水洗いすることで予防できます。

2 ワクチン後湿疹
 一般的に現在湿疹に罹っている、若しくは湿疹の既往歴がある者、又は他の皮膚病に罹っている者が予防接種を受けた場合に起こることがあります。また、このような方が最近接種を受けた者と接触しても生ずることがあります。初回接種26,000回に1回生じます。湿疹のある場所又はあった場所に全体に水疱が生じますが、発熱、全身のリンパ節腫脹が認められることがあります。病状は一般に軽度であり、自然に治癒しますが、まれに重症化することがあります。

3 全身性ワクシニアウイルス症
 予防接種の6〜9日後に体の広い範囲に水疱が生じるもので、ウイルスが血行性に広がることで起こります。初回接種5,000回に1回生じます。全身に広がることはまれで、ほとんど自然に治癒します。しかし、免疫不全や全身状態の悪い者では重症になることもあります。

4 壊死性ワクシニア症
 ワクチン接種部位の水疱が治癒傾向を見せず、壊死が周囲まで進行性に拡大するもので、免疫機能が低下した者において起こります。接種部位以外の他部位に進行性壊死が生ずることもあります。初回接種、再接種問わず発症し得るもので、重症でしばしば致死的になります。

5 種痘後脳炎
 予防接種の8〜15日後に、発熱、頭痛、嘔吐、傾眠傾向で発症し、麻痺、痙攣、昏睡などの症状を呈します。リスター株等の旧ワクチンでは、種痘後脳炎により約100万接種当たり10〜30人死亡すると言われています。ほとんど1歳未満の乳児の初回接種で起こり、有効な治療法はありません。

現在日本で使用されている天然痘予防接種に用いられているウイルス株は従来のものより毒性が低く、副反応の発生頻度は上記より低いと考えられています。

VII その他
 米国の2002年12月〜2003年3月の予防接種の結果から、因果関係は明らかになっていませんが、心筋炎・心膜炎(初回接種20,000回に1回)、狭心症・心筋梗塞(約25,000例で5例)など、副反応としていくつかの心疾患を引き起こす可能性が指摘されています。循環器系の疾患に罹っている方等は、予防接種に注意が必要ですので医師にご相談ください。また予防接種後、数日から3週間の間に、胸痛、呼吸困難、その他心疾患の症状があった場合は、問合せ先にご連絡ください。

VIII 問合せ先

________接種所で接種を受けた方:

________保健所 _____係

電話番号: ___−____−______。



別紙7-1 天然痘予防接種予診票

別紙7-1 天然痘予防接種予診票

別紙7-2 天然痘予防接種予診票(乳幼児用)

別紙7-2 天然痘予防接種予診票(乳幼児用)


別紙8 予防接種の実際

I 総論
 天然痘予防接種には、二又針を用いる。
 予防接種及びその関連の業務を実施する者は、天然痘予防接種を受け天然痘に対する免疫を獲得したことが明らかな者とする。
 予防接種を実施する者は、天然痘ワクチンの拡大防止等のために手袋、使い捨てエプロン、マスク、ヘッドカバー、ゴーグルを着用し、接種部位に接触することを避ける。このうち、手袋は接種ごとに取り替える。また、手指の消毒、手洗いができる体制を整えておく。

II ワクチンの調整
 ワクチンは凍結乾燥品であり1バイアルに添付の溶剤0.5mlを用いて溶解する。溶解後バイアルを開封する。
 一度溶解したワクチンは当日中に使用し、保存したものは使用しない。
 複数の接種者が同時に接種を行う場合に、溶解したワクチンを滅菌した容器に分注して実施することも可能である。ただし、あまり細かく分注すると溶解液が蒸発し、接種できる人数が少なくなってしまうことがあるので注意する。
 ワクチンに含まれるウイルスは、日光により速やかに不活化されるので、溶解の前後にかかわらず光が当たらないように注意する。

III 二又針を使用した接種の実際
 接種部位は、上腕(肩側)1/3の正中少し後方に行う。
 消毒用アルコール等の消毒液はワクチンを不活化するため接種部位の消毒は行わない。接種部位が汚れている場合は、石鹸と水で洗浄し、十分乾かした後に接種を行う。
 溶解したワクチンのバイアルに二又針の分岐側を浸す。
 二又針の先端部分にワクチン液が保有されていることを確認する。
 針を持った手の手首を被験者の皮膚の上におき、針を皮膚に直角になるように保持する。
 二又針の針を軽く皮膚を圧迫するように15回動かし、おおよそ5mmの範囲に接種を行う。この際の圧迫する強さとしては、皮膚に少し血がにじむ程度とする。なお、圧迫する回数は初回接種、再接種にかかわらず、同じ回数とする。
 使用した二又針はバイアルに戻さず、直ちに消毒用アルコールを満たした使用済二又針入れに入れ、併せて二又針の消毒を行う。
 接種後の接種部位に残っているワクチン液は、1〜3分後に堅く絞ったアルコール綿で吸いとる。ガーゼ等で覆う必要はない(数日後、接種部位に発赤、水疱等の変化が現れたら、ガーゼ等で覆うように指導する。)。

(参考)二又針を再利用する場合の滅菌方法等

 使用済針入れ容器の二又針を洗浄後梱包し、高圧蒸気滅菌(121℃、20分間又は134℃、10分間)を行う。
 ワクチンの針先への適切な保持が困難となった場合や針先に変形が見られた場合は廃棄する。(通常、100回くらいの再利用が可能とされている。)



別紙9 天然痘予防接種済証


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