定例事務次官記者会見概要

(H17.07.21(木)14:03〜14:47 省内会見場)
【広報室】
《次官会議等について》

(次官)

 本日の事務次官等会議ですが、厚生労働省案件は久しぶりになしで、懇談会でも何も発言なしということでありました。



《質疑》

(記者)

 昨日の衆院厚生労働委員会の方で、工場で働く方の家族あるいは周辺住民の方の健康被害についても、1976年時点で認識されて当時通達を出されてらっしゃったけれどもフォローが十分でなかったということで、西副大臣の方も「決定的な失敗だった」というようなご見解を示していらっしゃいますが、これにつきまして厚労省としてのご見解をお願いしたいのですが。



(次官)

 これは昭和51年5月に当時の労働省労働基準局長の通達で「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進について」という通達を発出したわけであります。その前年昭和50年9月に特定化学物質等障害予防規則を改正して、石綿業務についての業務制限等の規制を強化したんですけれども、これをさらに強めようと通達を発出し、これに基づいて事業場に対する指導を行っていこうというものであります。今お話のように、石綿により汚染した作業着が二次発じんの原因になるということで、労働者の方が着ていた作業着を家庭に持ち込むことがないよう、専用の作業着を着用する、作業着については他の衣服と隔離して保管する、それから持ち出しは避けるように指導するといったことも含め、屋内での石綿粉じんの発散を防止するために密閉工程を採用するようにとか、あるいは除じん装置を設けた局所排気装置を設置するようにとか、発じん防止のための指導をきちんとやろうとなっているわけであります。併せて「関係資料」ということでイギリス・ロンドンの過去50年間での中皮腫の患者の方についての調査研究結果というのを付けまして、労働者の身内の方あるいは工場近くに居住している方についても中皮腫の診断が下された患者の方が出ているというものも含めて通達を発出した。労働基準局長通達というのは、労働基準監督署が事業場を監督・指導して取り締まるための文書であると同時に、関係の事業場に対して事業運営上、労働者の健康安全確保の基準としてお示しするというもので、単なる部内の通達ということではなく、これは皆さんご案内のとおりですけれども、広く公表しているところであります。この通達を発出した当時の担当者から当時の事情というのを聞かせてみたんですけれども、この通達について関係方面には随分説明に歩いた、周知も大分努めたということのようであります。ただ正直言って、事業場内でのアスベストによる粉じんによる吸入を防止する、工場外に粉じんが出ないような対策を取るということについては、この昭和51年の通達、前の年の特化則に基づいて指導し事業場の対応も求めていたんですけれども、事業場外の問題については、各省間の連絡・連携といったことがどういったことだったのかという思いで副大臣が昨日のような答弁をされたということかなと思っています。
 我々としては、当時のアスベストによる健康への影響について把握している限りでの情報を参考資料として付け、それに基づく対策を通達という形でまとめて、我々の第一線機関に通達すると同時に広く公表したと思っていますけれども、ただそれがどこまで関係方面・関係機関に徹底していたのかという辺りについてはもう少し事実関係を把握する必要があるかなと思っているところです。いずれにしても、事業場内での健康障害、健康被害の問題について、今回のアスベストで見られるような工場の外の方々への健康への影響ということはやはり生じてはいかんわけなので、そういったことのないようにさらにいろんな対策を点検して、こういった問題が生じないようにきちんとした対応を取っていくということも必要だろうと思っています。



(記者)

 先ほど次官がおっしゃっていた当時の担当者の方のお話でいろんな関係方面への働きかけ、周知などがなされていたということだったんですが、具体的に当時の方のお話で例えばこういうところに働きかけをしたんですよ、とかいうようなお話というのはありましたでしょうか。あるいは他の省庁との調整がどうであったとかいうような。



(次官)

 昨日国会でご質問もあったということで、取り急ぎ当時の担当者を名簿で捜して聞いてみたということで、聞かれた相手もその当時の資料を手に持っているわけでもないので「あっちこっち説明した記憶はある」という段階にまだとどまっています。いずれにしても、我々としては当時採った対策、当時の社会状況、事業場の対応、そういったものについてやはり事実関係をきちんと整理してみたいと、こう思ってます。



(記者)

 改めて伺いたいのですが、通達が危険性を認識しながら、その後の使用規制が何故もっと早く取られなかったのか、そこについて次官のご見解を伺いたいのですが。



(次官)

 今申し上げたように、石綿に替わる代替物質の開発に時間がかかったということだろうと思います。時間がかかる中で、石綿による健康被害を防止するために職場内でのアスベスト対策を取ってきたということだろうと思います。



(記者)

 それに関連づけて、さっきお話ありましたけれども、当時の関係者の話では、当時の環境庁であったり、通産省とかあるいは厚生省に連携したという形跡はあるんですか。



(次官)

 石綿のいろんな対策を取るということになりますと先程来申し上げている代替物質、代替製品がどこまで確保出来るかということとの見合いでの対策になるので、それぞれの対策を取るたびごとに、関係省庁とは当然相談しながらやっているということだろうと思います。



(記者)

 危険性を把握された時期に、危険だから廃止にしようというような話し合いはなされていないのでしょうか。



(次官)

 ちょっと調べないと分からないですけれども、一般論として申し上げれば、たぶん職場の安全衛生、労働者の安全衛生を確保するというのが労働基準局の使命の1つですから当然そういった観点からの主張はしていたと思います。そういう中で、関係省庁なり関係業界なりが、そうは言っても代替品がない中で急に廃止と言ったら例えば石油コンビナートで硫酸が漏れちゃいますよとか、どうやって防止出来るんですかというような話だったんだろうというふうに思いますけれども、個々にどういう議論が行われていたかということはまだ把握していません。いずれにしても事業場での安全確保のための対策を新たに講じるという時は、対象となる業界、それを所管する関係省庁とも十分協議しながら進めてきているというのがこれまでですから、一般論として申し上げれば、当然そういった話し合いをしている中で、対策を取ってきたということだろうと。



(記者)

 代替品の開発を急がせるということについて、経産省に厚労省の方から強力に働きかけを行うというようなことというのはされてきたのでしょうか。



(次官)

 ILOでの動き、ヨーロッパ各国の動きを労働省は把握していたわけですから、そういった中でやはり日本も労働者の健康を確保するという観点から出来るだけ代替品の開発に努めていただくようにというお願いは当然していたと思います。



(記者)

 昨日の西副大臣の答弁ですと、厚生・労働・環境の縦割り行政の谷間に落ちてしまったと、決定的な失敗だったというようなことを答弁されているんですけれども、この問題はどこが主導的に違う役所に働きかけを行うべきだったかと次官はお考えになりますでしょうか。



(次官)

 それぞれの省庁の所管している業務、各省庁が果たすべき責任、そういった中でそれぞれの省庁が安全衛生の確保、関係者に被害が及ばないようにということで取り組むのが行政として当然の役割だと思います。我が国の場合で申し上げると、その石綿の安全対策ということについては職場での健康被害というのが一番深刻な問題でないかと従来から思われていて、厚生労働省もそう思っていたと思うんですけれども、それで各省が取り組んできたということと思います。そういうことで労働省あるいは厚生労働省が職場での石綿作業による健康被害が生じないようにということで、いろいろな医学的な情報、研究も含めて厚生労働省を中心に取り組んできたということが中心なんだろうと思うので、そういった意味では厚生労働省が把握した様々な情報、事実を関係省庁にきちんと伝えていく。というのがやはり厚生労働省としての役割だったと思います。それが「どこまで伝わっていたのか」というのと、それから「それぞれの関係省庁がどこまで受け止めていたのか」ということについて、実際に今回地域住民の方、家族の方、多くの方に結果として石綿による被害というのが明らかになっているというのは紛れもない事実なので、そういった事実を目の前にした時に、関係省庁間の連携、その上でのそれぞれの省庁の取組みということについて、従来の関係省庁間の在り方、行政の進め方の中にある種の限界があったんじゃないかと副大臣は受け止められて、そういうご発言になったということではないかと思います。



(記者)

 次官ご自身は失敗だったというふうにお考えでしょうか。



(次官)

 厚生労働省あるいは労働省としては、先程来申し上げているように代替品の開発をとにかく急いでくれと要請をしてきた中で、その時々の工場の設備の現状、企業としての対応可能性といったものも十分勘案して必要な対策は採ってきたと思っています。それからここはちょっとまだもう少し確認しないといかんと思いますけれども、そういう対策・規制は着実に強化していたわけで、規制を強化するに際して関係者の方に理解・協力を求めるという過程では、当然その段階で石綿による健康被害についての科学的な治験といったものもきちんと説明しながらやってきたんだろうと思っているわけで、そういった意味では失敗ということでないんじゃないかと思います。ただ先ほど申し上げましたけれども、家族の方、工場の周辺住民の方に中皮腫等の石綿による健康被害というのが起きているということが現実としてあるわけですから、それがいったい何故起きたのかということになると、関係省庁間あるいは企業、いろんな関係者の方々の間の連絡・連携に何か問題があったのかどうかというあたりもよく見極めなくてはいかんということは事実としてあると思っています。



(記者)

 官房長官なり厚生労働省の外から「対応が遅かったのではないか」という発言もいくつか続いていますけれども、そのことについてはどういうふうにお感じになってらっしゃいますか。



(次官)

 これについても何度も申し上げていますけれども、ヨーロッパ、アメリカといったところの取り組みと比べると、とり分け遅かったということではないんじゃないかと思っております。そのときの代替品開発の状況、産業構造の状況、それからヨーロッパと日本でプラントの規格、構造の違いとかいろんな事情の違いがある中で、EUにかなり近いテンポでは対応してきたということではないかと思っていますけれども。



(記者)

 51年の通達の中に先ほど次官もおっしゃいましたけれども、「作業着も二次発じんの原因になるので職場から持ち出さないように」というようなことも盛り込まれているというお話でしたけれども、まさにこの7月から施行された石綿則に同じことが盛り込まれているわけです。これは確かに旧労働省としては労働者の安全ということをメインに考えていらっしゃったと思うんですけれども、あくまでもおっしゃる二次発じんというのは、家族なり周辺の住民ということを考えてのお話だと思うんです。それが通達にも盛り込まれた。クボタの尼崎の工場なんかは周辺住民や従業員の家族からも中皮腫の被害が出ているとなると、やはりその人達から見れば29年前の通達で周辺に対する影響ということに言及していながら、今年の29年後になってようやく石綿則に作業着の持ち出し禁止が盛り込まれたというのは、これまで石綿に対する規制というのは段階的にいろいろとかけてこられたのもわかりますし、労災認定についてもかなり柔軟に対応されてきた面もあるとは思うんですけれども、やっぱりそこで周辺住民や家族という視点が29年前にせっかくありながら放置されてきて、なおかつ今現在の枠組みでも彼らは労災の補償対象にならないと思いますので、どこが国が補償するのかと言うと今のところそういった制度はないというふうに見受けられるんですけれども、そこら辺について厚生労働省として何か対策というか補償なりを考えているということはないんでしょうか。



(次官)

 労働基準局の通達の効果、効力というのはかなり強いというのが事実だろうと思います。ですから、それを踏まえると昭和51年の通達以降はおそらく今お話の二次発じんということを事業場もかなり意識をして、作業着の保管とか作業着を家に持って帰らないようにとかいうことは取り組んでいったのではないかと思っています。事業場がどこまで取り組んでいたのかということになると今の段階で把握しているわけではありませんから、それ以上申し上げるべき材料は持っていないんですけれども、昭和50年の特化則改正、51年通達による様々な取り組みはどの程度徹底していたのか。徹底していたのだと思いますけれども、その効果というのはこれから先にならないと実はよくわかってこない。ご案内のようにアスベストが発ガン性を顕現するのは30年ないし50年ということなので、今あるいはこれまで肺ガン、中皮腫で労働災害の認定をされた方の相当部分というのは、その規制をされる前に作業をやっていたという方がかなり多いんじゃないかと思っています。ただ規制後も作業をされていたという可能性はあるかも知れません。そこは正直言って、今把握していないわけでありますので、そのあたりがどうだったのかというのはよく確認してみたいと思います。
 それからもう1つ。現実に家族の方、工場周辺の住民の方に石綿、アスベストが原因と思われる症状が現れているのは事実なので、これに対してどう対応するのか。家族の方について申し上げれば、これは以前の記者会見でも申し上げましたけれども、労災保険はあくまで企業に雇われている労働者の方の健康障害の補償制度でありますから、家族の方については企業と労働組合なり労働者の代表の方で話し合っていただくというのが基本になるかと思います。それから周辺の住民の方の健康被害ということになりますと、これは関係省庁の連絡会議が設けられたところでありますので、そういった中で各省の役割・責務ということも含め、健康被害の広がり・深刻さを十分踏まえて、これからよく相談をしていくということが重要だろうと思っています。



(記者)

 関連してですが、民主党が労災認定のいわゆる時効ですね、死後5年間について、これを撤廃しろというような法案の改正案を出すということなんですが、この点について可能性というかどう思っていらっしゃいますか。



(次官)

 1つは、国による様々な補償制度には時効があるわけで、その時効の趣旨というのはいったい何なのか。最高裁での時効についての判決というのもあるわけで、そのあたり。それからもう1つは、行政の公平な運営・運用。そのあたりを行政としては考えることが不可欠なわけで、そういったことから考えるとアスベストによる疾病だけを取り上げて時効期間の延長をするということについて理論的な整理が出来るかどうかというのが非常に大きい問題ではないかと思っております。現段階で申し上げると、なかなか理論的に整理するのが難しいのではないかと事務的には考えているということであります。ただ各方面からいろんなご意見・ご要望等もあるわけで、そういった中で時効制度についての最高裁の判決、それから労災保険についてだけ申し上げても、他にもいろいろな労働者の方の労働災害はあるわけで、そういった中で何か時効を見直すという合理的な理由があるかどうかというあたりはさらに検討してみたいと思っています。ただ現状では事務的な理屈の整理というのは非常に難しいなというところであります。



(記者)

 今の次官のお話をずっと聞いていると、労働省としてはやるべきことは全てやって、可能なことは全てやって失敗はなくて、ただ各省との連携についてはいろいろ課題が残ったけれど、労働行政としては特に問題がなかったというふうに一応整理されているのでしょうか。



(次官)

 やはりその時々の技術的な水準、その時々の社会的な状況というのをもう少し整理してみないといかんと思っています。労働省に全く落ち度がなかったかどうかということについては、全く落ち度はありませんということを言うところまで議論は整理されていないと思っています。ただ先程来申し上げているのは、その時々の置かれた状況の中で可能な取り組みはしてきたと考えているということです。もう少しきちんと整理をしてみる必要はあると思っています。



(記者)

 きちんと整理した結果、何らかの教訓が引き出せるかどうかというのはまたこれから検討する感じですか。



(次官)

 そうです。もしそういう教訓が引き出されるということであれば、やはり今後の職場での安全確保対策にきちんと生かしていきたいと思っております。そこはこれから整理をする必要があると思っています。



(記者)

 先ほどの工場外の健康被害の問題なんですけれども、昨日のお話だとイギリスでの例が通達の中にも盛られていたという話なんですが、03年の厚生労働省の労災認定基準の見直しの検討会の報告書を見ていると、その中に国内にはアスベスト産地だった熊本の採掘所の周辺に住む住民の間で胸膜プラークという石綿をおそらく吸い込んだことによる胸の異常というのがかなり高率で出ていると。そういう事実が引用されているわけですよね。この検討会というのはあくまで認定基準の見直しのためというのは非常によく解るんですが、その場でアスベストが死亡例じゃないにしても間違いなくアスベストの吸引による人体への影響と見られるという結果がそこで出ている。そこでちょっと不思議に思ったんですけれども、少なくとも03年の段階では工場外の一般住民もアスベストの吸引による健康被害はあるんだということは既に把握していたという、そういう考え方でよろしいんですか。



(次官)

 アスベストに関して言うと、これまでも例えばアスベストを使用している建物の取り壊し作業等に伴う作業者の方以外の方についての健康への影響ということも議論になっていたわけで、そういった意味で一般論として申し上げれば、おそらく閉鎖・密閉された建物内での工場作業については当該事業場が外にアスベストの粉じんを出さないように、という努力はさせていたということですけれども、今お話のように開かれた空間でそういったものがあるということについて、おそらく水をまいたり、あるいは周りにシートを張ったりというような対応はされていたんだろうと思いますけれども、それでも被害が出ているということは否定できないということだと思います。ちょっと私も詳細は把握していないので、それは担当の方に聞いてもらえればと思います。



(記者)

 胸膜プラークというのは直接いわゆる中皮腫か何かに転化をしないというふうに報告書の中でも書いているんですが、将来的に中皮腫になってしまう可能性・リスクが通常の11倍ぐらいあると報告書の中に書いてあるんですね。そうなると熊本の当時調査対象だった住民達というのは15年くらい経っているんですけれども、かなり症状が進んでいる可能性もあると思うんですけれども、その辺に関する配慮というか調査対象に含めるとか、その辺のお考えはないでしょうか。



(次官)

 これは先ほども申し上げましたけれども、事業場に雇われている人たちがアスベストを使用する作業をし、それによる健康被害に関しては労働安全衛生法ということなんですけれども、それ以外の方々、その周辺にいた方々の被害ということになると、これは厚生労働省、他の省庁それぞれの役割・責務をきちんと整理して、どこでどうするのかというのをやはり早急に決めて、対策をきちんと考えることが必要だと思っています。とにかく「これはうちの役所ではない」とか「知りません」とかいうことになっては健康不安に怯えている方々やあるいは既に健康障害が起きている方々にとって大変申し訳ないことなので、とにかく各省庁連絡会議の中でそれぞれの役割分担をきちんと決めて、隙間の生じないようにきちんと対策をとっていくということが重要だろうと思います。


(了)

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