第1 労働行政を取り巻く情勢

1 社会経済情勢

(1)経済社会の構造的な変化

我が国は、平成17年から人口減少に転じ、将来も一層の少子化・高齢化が進行し 、本格的な人口減少社会が到来する見通しである。人口減少により労働力人口が大幅に減少することとなれば、経済成長については、供給側の制約要因となるとともに、需要面でみてもマイナスの影響を与えるおそれがある。

また、経済のグローバル化や技術革新等の進展に伴い、国内労働市場において、コスト削減圧力により低賃金労働者の増加、不安定な就労形態の者が増加するとともに、企業が中核的人材を絞り込んだ結果、正社員の長時間労働が問題化している。この結果、労働者は働くことの充実感が得にくくなり、また、短時間で能率的に職務を遂行し、一方で自分の時間をもつ働き方ができれば労働生産性の向上の見込めるところ、長時間労働に従事する労働者については逆に、労働生産性が低下するおそれがある。

なお、国際的には、ILOは基本的な労働条件・労働環境等を備えたディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を掲げ、各国においてもそれぞれの国の状況を踏まえて労働政策に反映させているところである。さらに、本年5月には、我が国はG8各国の閣僚レベルで政策運営の合意を得る機会であるG8労働大臣会合の主催を予定している。

(2)最近の経済情勢

景気回復は、このところ足踏み状態にある。景気に係る主要な指標をみると、輸出は、緩やかに増加している。生産は横ばいとなっている。企業収益は、弱含みとなっている。設備投資は、おおむね横ばいとなっている。雇用情勢は、厳しさが残る中で、改善に足踏みがみられる。個人消費は、おおむね横ばいとなっている。住宅建設は、おおむね持ち直している。

先行きについては、改正建築基準法施行の影響が収束していくなかで、輸出が増加基調で推移し、景気は緩やかに回復していくと期待される。ただし、サブプライム住宅ローン問題を背景とするアメリカ経済の減速や株式・為替市場の変動、原油価格の動向等から、景気の下振れリスクが高まっていることに留意する必要がある。

2 雇用をめぐる動向

(1)最近の雇用失業情勢

最近の雇用失業情勢は、厳しさが残るものの、改善しているところであるが、このところ改善の動きが弱まっている。

新規求人数は、小規模事業所の新規求人の減少等の影響により、前年水準を下回って推移している。また、新規求職者数は、定年による離職者が前年と比較して増加しているものの、事業主都合、自己都合による離職者等がともに減少しているため、新規求人倍率は、全体としては低下傾向で推移し、平成14年12月以来62か月連続で1倍を上回っている(平成20年1月)。一方、有効求人倍率は、平成20年1月に0.98倍となり、平成19年12月に続き、2か月連続で1倍を下回った。

また、正社員の有効求人倍率(常用フルタイム有効求職者1人当たりの正社員有効求人数をいう。)は、依然として全体の有効求人倍率と比較すると低い水準にあり0.64倍となっている(平成20年1月)。

完全失業者数は、平成15年4月に過去最多の385万人となった後、減少傾向で推移し、平成20年1月は256万人となっている。完全失業率は、平成14年6月、8月及び平成15年4月に過去最高の5.5%となった後、おおむね低下傾向で推移し、平成20年1月には3.8%となった。

就業者数、雇用者数については、両者とも前年と比較して増加傾向が続いている。雇用者数を雇用形態別にみると、パート、派遣、契約社員等の増加が続く中で、正社員は減少傾向で推移してきたが、平成18年から増加に転じ平成19年も増加した。日銀短観(日本銀行「全国企業短期経済観測調査」)において企業の雇用人員判断についてみると、平成17年3月に不足超過となった後、更に不足感が高まり、平成19年に入ってからも、全規模、全産業で不足超過が続いた。また、雇用調整の実施事業所割合については、低下傾向で推移した。

地域別にみると、平成20年1月において、有効求人倍率については5ブロック(東海、北陸、北関東・甲信、南関東、中国)で1倍台となっているが、北海道ブロックにおいては0.5倍台、東北、九州の各ブロックにおいては0.6倍台、四国ブロックにおいては0.8倍台、近畿ブロックにおいては 0.9倍台となっており、完全失業率についても2%台から5%台までブロックごとにばらつきがみられる。

(2)若者の雇用状況

若者の雇用状況については、平成20年3月の高校新卒者の就職内定状況をみると、全国の内定率は89.4%(平成20年1月末現在)と、前年同期に比べ1.3ポイント上昇と5年連続で上昇し、平成20年3月の大学新卒者の就職内定状況についても、全国の内定率は88.7%(平成20年2月1日現在)と、前年同期に比べ1ポイント上昇している。 また、フリーター数については、平成15年の217万人から平成19年の181万人と4年連続で減少するなど、改善の動きが続いている状況にある。

しかしながら、若者の完全失業率は7.0%(平成20年1月)と、依然年齢計の3.8%(平成20年1月)と比べて相対的に高水準で推移しており、早期離職率も高い状況にある。 さらに、就職活動の時期が新卒採用 の特に厳しい時期、いわゆる就職氷河期に当たり正社員となれず、フリーターにとどまっている若者(25歳から34歳まで。以下「年長フリーター」という。)や、ニート状態にある若者(若年無業者)はいまだ多い状況にある。

(3)高齢者の雇用状況

高齢者の雇用状況(平成19年6月1日現在)を見ると、高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用確保措置を導入している企業は92.7%となっている(51人以上規模企業からの報告。)。また、雇用失業情勢については、改善傾向にあるものの離職すると再就職が厳しい状況が続いている。

(4)女性の雇用状況

女性雇用者数は平成19年には2,297万人となり、18年に比べ20万人増加(前年比0.9%増)している。

また、年齢階級別に労働力率をみると、M字型カーブの底である30〜34歳層の労働力率は64.0%(前年差1.2ポイント上昇)、35〜39歳層の労働力率は64.3%(前年差0.7ポイント上昇)と上昇している。

(5)パートタイム労働者の雇用状況

短時間雇用者(週間就業時間が35時間未満の非農林業の短時間雇用者)数は、平成19年においては1,346万人と、雇用者総数の24.9%を占めるに至るとともに、近年では、勤続年数の伸長、基幹的な役割を担う者の増加もみられる。

(6)障害者の雇用状況

障害者の雇用状況については、平成19年6月1日現在の民間企業(56人以上規模の企業)の実雇用率が1.55%と前年比0.03%ポイント上昇するなど、着実な進展がみられる。しかしながら、中小企業において実雇用率が低い水準にあることや、過半数の企業が雇用率未達成であること等、改善すべき点も多い。

また、公共職業安定所を通じた障害者の就職件数は、平成18年度において年間約4万4千件と、初めて4万件を超え、過去最高となった。一方、有効求職者数は、15万人を超え、依然として高い水準で推移している。

3 労働条件等をめぐる動向

(1)申告・相談等の状況

総務部企画室及び総合労働相談コーナーには、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(以下「個別労働紛争」という。)に関する相談やあっせんの申請等が数多く寄せられており、その数は引き続き増加している。その内容を見ると、解雇、労働条件の引下げ、いじめ・嫌がらせ等多様なものとなっている。

労働基準監督署には、賃金不払を中心に労働基準関係法令上問題が認められる申告事案が依然として数多く寄せられている。

雇用均等室には、募集・採用、解雇等に関する性別を理由とする差別的取扱い、妊娠・出産等を理由とする解雇やその他不利益取扱い、セクシュアルハラスメント、母性健康管理措置、育児・介護休業の取得、パートタイム労働者の雇用管理等に関する相談が多数寄せられており、複雑・困難化の傾向がみられる。また、平成19年4月より、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「男女雇用機会均等法」という。)の改正法が施行されたことに伴い、同法に基づく紛争解決援助の件数が増加している。

(2)労働時間・賃金の状況

平成19年における年間総実労働時間は1,850時間(所定内労働時間は1,690時間、所定外労働時間は160時間)となっており、前年に比べて8時間増加している。一般労働者(常用労働者のうち、パートタイム労働者を除いた労働者)については、年間総実労働時間は2,033時間(所定内労働時間は1,841時間、所定外労働時間は192時間)と前年に比べて10時間増加している。「労働力調査」により週労働時間別の雇用者の分布をみると、35時間未満の雇用者の全体に占める割合が増加する一方、60時間以上の雇用者の割合が高い水準で推移するなど「労働時間分布の長短二極化」の状況にある。また、平成18年における年次有給休暇の取得率については、46.6%となっており低下傾向が続いている。

また、平成19年の賃金構造基本統計調査によると、平成19年の一般労働者の所定内給与額の男女間賃金格差は男性を100としたときに女性は66.9となった。この他、パートタイム労働者と通常の労働者との賃金格差について、一般労働者の所定内給与額を男女別に時給換算したものをそれぞれ100とした場合、男性パートタイム労働者は53.8、女性パートタイム労働者は70.1となっている。こうした格差については、合理的な説明が困難な事例がみられることなど、パートタイム労働者の雇用管理の改善等が十分に図られているとはいえない状況にある。

(3)労働災害・労災補償の状況

労働災害の発生状況は、2月時点の速報値によると、平成19年は死亡者数が前年比7.4%減、休業4日以上の死傷者数が前年比1.8%減、重大災害(一度に3人以上の労働者が死傷する災害)が前年比11.1%減と、いずれについても、前年に比べ減少しているが、依然として、建設業、製造業等において重篤な災害が多発するとともに、派遣労働者の労働災害等が増加している。

労働者の健康面については、一般健康診断の結果、脳・心臓疾患につながる血中脂質、血圧等に係る有所見率が増加傾向にあり、また、職場においてストレス等を感じている労働者の割合も高い。

また、化学物質による疾病は増減を繰り返しながら長期的に減少がみられない。

労災保険給付の新規受給者数は、ここ数年約60万人で推移している。

平成18年度の脳・心臓疾患事案及び精神障害等事案に係る労災請求件数は、それぞれ938件(対前年度比8%増)及び819件(対前年度比25%増)であり、依然として増加している。

また、石綿関連疾患に係る労災請求件数は、社会問題となった平成17年度に1、796件(前年度比1,586件増)と急増し、平成18年度においても1,715件と高止まり状況にあり、平成18年3月に施行された「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づく特別遺族給付金の請求も引き続きなされているところである。


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