2. 家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告

(1)原因家庭用品等種別の動向

小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が231件(35.8%)で最も多かった。次いで「医薬品・医薬部外品」が106件(16.4%)、「玩具」が55件(8.5%)、「金属製品」が51件(7.9%)、「プラスチック製品」、「硬貨」がそれぞれ29件(4.5%)、「食品類」が16件(2.5%)、「洗剤・洗浄剤」、「電池」がそれぞれ14件(2.2%)、「文房具」が13件(2.0%)であった(表4)。

報告件数上位10品目までの原因製品については、順位に若干の変動はあるものの、例年と概ね同じ品目により占められていた。本年度においては、過去10年で初めて「文房具」が上位10品目に入った。上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変化がなく、本年も同様であった。

(2)各報告項目の動向

障害の種類については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが70件(10.8%)と最も多かった。次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが34件(5.4%)となっていた。全体として、症状の発現が見られたものは132件(20.4%)であったが、これらには複数の症状を認めた例も含んでいた。本年度は幸い命が失われるといった重篤な事例はなかったが、「入院」、「転科」及び「転院」となったものが24件あった。それ以外はほとんどが「帰宅」となっていた。

誤飲事故発生時刻については、例年同様夕刻以降に発生件数が増加するという傾向が見られ、午後4時〜10時の時間帯の合計は322件(51.9%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)であった。

誤飲事故発生曜日については、曜日間による差は特に見られなかった。

(3)原因製品別考察
1)タバコ

平成18年度におけるタバコの誤飲に関する報告件数は231件(35.8%)であり、前年度よりも全報告例に対する割合が増加したが、過去の変動の範囲内である。その内訳を誤飲した種別で見ると、タバコ*139件、タバコの吸い殻**72件、タバコの溶液***20件となっていた。

タバコを誤飲した年齢について見ると、例年と同様、ハイハイやつかまり立ちを始める6〜11か月の乳児に報告例が集中しており、124件(53.7%)に上った。これに 12〜17か月の幼児(67件)と合わせると82.7%を占めた(図4)。

乳幼児は1歳前後には独力で室内を移動できるようになり、1歳6か月以降には動きも早くなって、両手で容器を持ち飲水できるようにもなる。事例1のように、自力で予測が出来ないところに移動してタバコを誤飲することもあるので注意が必要である。タバコの誤飲事故の大半は、この1歳前後の乳幼児に集中して見られ、この時期を過ぎれば急激に減少する。この期間に注意を払うことにより、タバコの誤飲事故は大幅に減らすことができるので、この時期の小児の保護者は、タバコ、灰皿を小児の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないこと、飲料の空き缶、ペットボトル等を灰皿代わりに使用しないこと(親子共に誤飲する可能性がある)等、その取扱いや置き場所に特に細心の注意を払うことが必要である。さらに、小児が食品等へ混ぜ、それを別の小児が誤飲してしまうという症例も見られており、保護者など周囲の人が禁煙する、あるいは家庭における喫煙を中止することにより、乳幼児のいる環境からタバコを遠ざけるよう努めていくことが重要である。特に、タバコ水溶液の場合はニコチンが特に吸収され易い状態にあるので、タバコ水溶液の誤飲の原因となる飲料の空き缶を灰皿代わりにするなどの行為は避けるべきである。

誤飲の発生した時刻は、朝から夜遅くまで幅広く分布していた。

タバコの誤飲による健康被害を症状別に見ると、症状を訴えた38件中、消化器症状の訴えがあった例が29件と最も多かった。他には、呼吸器症状(咳)8件、循環器系症状(脈の異常、チアノーゼ)2件、神経症状(ふらつき)1件が認められた。一般に、タバコの誤飲においては、軽い場合は悪心・嘔吐、重くなるにつれて顔色不良、痙攣・チアノーゼが生じる。これらの症状は、誤飲した直後に出てくるとは限らないため、始めは症状が無くても慎重に対応する必要がある。今回報告のあった事例では、全例が受診後帰宅している。タバコはその苦みやニコチンの催吐作用により、実際の摂取量が家族等が推測した量と比べて少ないこともあるが、誤飲した現場を目撃していないことも多く、また幼児は正確な自己申告はできないため、摂取量が不明な場合もあり、受診後も十分経過に注意して適切に対応することが必要である。

来院前に応急処置を行った事例は147件あった。行った処置としては「かき出した・拭いた」事例が、66件と最も多かった。応急処置として、何らかの飲料を飲ませた例は28件あった。タバコの誤飲により問題となるのは、タバコに含まれるニコチン等を吸収してしまうことである。タバコを吐かせるのはニコチン等の吸収量を減らすことができるので有効な処置であるが、この際飲料を飲ませると逆にニコチンが吸収され易くなってしまい、かえって症状の悪化につながることがある。飲料を飲ませ、吐かせようとしても吐かなかった例も見られており、タバコを誤飲した場合には飲料は飲ませず直ちに受診することが望ましい。

:「タバコ」:未服用のタバコ
**:「タバコの吸い殻」:服用したタバコ
***:「タバコの溶液」:タバコの吸い殻が入った空き缶、空瓶等にたまっている液

◎事例1【原因製品:タバコ】

患者1歳2か月 女児
症状なし
誤飲時の状況7時45分頃、テーブルによじ登ってタバコを食べているところを兄(5歳)が発見。父が口からかき出した。
来院前の処置かき出した、拭いた
受診までの時間30分未満
処置及び経過胃洗浄を行いタバコの葉発見、その後帰宅

◎事例2【原因製品:タバコ】

患者9か月 男児
症状悪心・嘔吐
誤飲時の状況16時30分頃、2歳の姉が離乳食を男児に食べさせていた。18時頃嘔吐あり。見るとタバコの吸い殻の灰のような物が混じっていた。母親が4歳の姉に尋ねた所、2歳の姉がタバコ1本をばらばらにして、ご飯に混ぜて食べさせていたと言った。嘔吐時、男児には熱もあった(38.2度)。
来院前の処置なし
受診までの時間2時間〜3時間未満
処置及び経過採血を行ったが異常なし、その後帰宅

<担当医のコメント>

小児は何をするか予測がつかないので、小児の目につくところ、手の届くところにタバコを置かないことが重要である。

◎事例3【原因製品:タバコの吸い殻】

患者11か月 男児
症状悪心・嘔吐
誤飲時の状況男児から眼をはなしたすきにタバコの吸い殻を口に入れた。
来院前の処置吐かせた
受診までの時間1時間〜1時間30分未満
処置及び経過胃洗浄後、帰宅

◎事例4【原因製品:タバコの溶液】

患者2歳 女児
症状嘔吐 顔色不良
誤飲時の状況多数のタバコの吸い殻を自家用車内にあった水を入れたコーヒー缶にためておいた。その缶を飲料と間違えて、ドライブ中に摂取。それから20分後頃より顔色不良、救急車にて来院した。
来院前の処置なし
受診までの時間1時間30分〜2時間未満
処置及び経過血液検査にてニコチン濃度15 ng/mL、胃洗浄、電解質点滴後帰宅

<担当医のコメント>

コーヒー入りの缶とタバコ溶液入りの缶が並んでいて、大人がコーヒーを飲んだから小児が真似して隣にあった缶を飲んだということ。ニコチンの濃度のみを見るとあまり高くないかもしれないが、入院が必要であるくらい重篤であった。家族が帰宅を希望したため帰宅させた。

◎事例5【原因製品:タバコの溶液】

患者2歳 女児
症状顔色異常、心音:頻拍
誤飲時の状況書斎に入り、吸い殻(量不明)の入ったペットボトルを飲んだ。本人が苦いと言ってきたので気がついた。
来院前の処置なし
受診までの時間1時間30分〜2時間未満
処置及び経過吐根シロップを処置して嘔吐させ、後帰宅

<担当医のコメント>

ニコチン中毒では、始め頻脈、やがて重症化すると徐脈になる。タバコの吸い殻が入った溶液を飲んだ場合、速やかに吐かせることが必要である。

2)医薬品・医薬部外品

平成18年度における医薬品・医薬部外品に関する誤飲の報告件数は106件(16.4%)であった。前年度は100件(13.8%)であり、件数及び全体に対する割合はほぼ同じであった。症状の認められた25件中、傾眠などの神経症状が認められた例が13件と最も多く、次いで悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の消化器症状が認められた例が6件あった。入院を必要とした事例も12件あった。入院例の多くは保護者が注意をそらしている間に薬品を大量服用してしまった例であった。

誤飲事故を起こした年齢について見ると、タバコが6か月〜17か月児に多く見られているのに対し、医薬品・医薬部外品は、年齢層はより広いものの、特に1〜2歳児にかけて多く見られていた(73件、68.9%)。この頃には、自らフタや包装を開けて薬を取り出せるようになり、また家族が口にしたものをまねて飲んだりもするため、誤飲が多くなっているものと思われた。

また、誤飲の発生した時刻は、昼や夕刻の食事前後と思われる時間帯に高い傾向があった。本人や家族が使用し、放置されていたものを飲んだり、家族が口にしたのをまねて飲むこと等が考えられ、使用後の薬の保管には注意が必要である。

原因となった医薬品・医薬部外品の内訳を見ると、中枢神経系の薬が16件で最も多いなど、一般の家庭に常備されているものだけではなく、他の家族に処方された薬による事故も多く発生していた。

また、ホウ酸団子(殺虫剤)に関しては、見かけが食物に似ているため毎年誤飲例が見られるが、本年度においても何例か見られており、引き続き注意が必要である。

医薬品・医薬部外品の誤飲事故は、薬がテーブルや棚の上に放置されていた等、保管を適切に行っていなかったときや、保護者が目を離した隙等に発生している。また、シロップ等、小児が飲みやすいように味付けしてあるもの等は、小児がおいしいものとして認識し、冷蔵庫に入れておいても目につけば自ら取り出して飲んでしまうこともある。小児の医薬品類の誤飲は、時に重篤な障害をもたらすおそれがある。家庭内での医薬品類の保管・管理には、場所とともに保管容器を開けにくい物にする等の十分な注意が必要である。

◎事例1【原因製品:錠剤】

患者1歳8か月 男児
症状元気がない
誤飲時の状況姉(3歳9か月)と二人で車の中にいた。車の中で一般用医薬品・総合感冒薬の錠剤をばらまいており、それを飲んでいたと姉が両親に伝えた。
来院前の処置なし
受診までの時間1時間〜1時間30分未満
処置及び経過胃洗浄により、白い残渣物を認める。点滴後アセチルシステイン投与。入院3日。

◎事例2【原因製品:錠剤】

患者1歳8か月 女児
症状なし
誤飲時の状況医療用医薬品・降圧剤の錠剤を高いところに置いていたが、兄弟が物を投げた時に落ち、それを拾って食べた。
来院前の処置なし
受診までの時間30分未満
処置及び経過点滴後、帰宅

<担当医のコメント>

事故を防ぐためには、ただ高い所に置けば良いということではない。セーフティキャップ等の開けにくい容器に入れる、置き場所に細心の注意を払い常に大人が管理しておく等の対応が必要である。小児は何をするか分からないということを忘れてはいけない。

◎事例3【原因製品:シロップ剤】

患者2歳10か月 女児
症状興奮、他
誤飲時の状況医療用医薬品・抗ヒスタミン薬のシロップ剤を冷蔵庫で保管していたが、気付くと空の容器が転がっており、女児の様子がおかしかったため来院。
来院前の処置なし
受診までの時間不明
処置及び経過点滴後、帰宅

<担当医のコメント>

家庭内での医薬品類の保管場所には注意が必要。冷蔵庫に入れるのみでは不十分である。

◎事例4【原因製品:殺虫剤】

患者2歳6か月 男児
症状なし
誤飲時の状況14時45分頃、知人が作ったホウ酸団子(おはじきくらいの大きさ2個)を食べていた
来院前の処置吐かせようとするも吐かず
受診までの時間1時間30分〜2時間未満
処置及び経過胃洗浄するも、食物残渣のみでホウ酸団子が確認出来ず。血液検査一般、生化学検査でも異常なし。電解質点滴を行い帰宅。

<担当医のコメント>

外見が食物に非常に似ているので小児が誤飲してしまう可能性が高い。味も苦みが無いので、小児がはき出さない可能性が高い。

3)電池

平成18年度の電池の誤飲に関する報告件数は14件(2.2%)であった。前年度23件(3.2%)と比較して件数、割合はともに同程度で推移しており、単独製品による事故数としては依然軽視できない数である。

誤飲事故を起こした年齢について見ると、前年度と同様、本年も特に6か月〜17か月児に多く見受けられたが、依然幅広い時期に発生している。

誤飲した電池の大半は、ボタン電池であった(11件)。放電しきっていないボタン電池は、体内で消化管等に張り付き、せん孔を起こす可能性があるので、小児の目につかない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。誤飲してから時間が経つと、消化管等に癒着してしまい、取り出せなくなってしまう。よって、誤飲したことが判明した際には直ぐに医療機関を受診するべきである。

電卓やリモコン等ボタン電池を使用した製品が多数出回っているが、誤飲事故は小児がこれらの製品で遊んでいるうちに電池の出し入れ口のフタが開き、中の電池が取り出されたために起こっている場合がある。製造業者は、これらの製品について小児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要であろう。また保護者は、電池の出し入れ口のフタが壊れていないか確認することが必要である。

 

◎事例1【原因製品:ボタン電池】

患者 1歳 男児
症状 なし
誤飲時の状況 自宅居間で男児が遊んでいる時に、両親が他の道具のボタン電池を出して目の前に置いていた。気付くと2個の電池が無く、1個は口から出てきた。部屋中探したが見つからず、受診。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 X線撮影により胃内に電池型の陰影を認め、その後帰宅。その日のうちに排泄。

<担当医のコメント>

ボタン電池のように誤飲すると危険な物については特に、例え短時間であっても小児の手の届く場所には置かないこと。症状が悪化するのが早いので、ボタン電池を誤飲した場合には速やかに受診し、担当医の判断に委ねることが望ましい。

◎事例2【原因製品:ボタン電池】

患者 8か月 女児
症状 咳・喘鳴、発熱
誤飲時の状況 両親が誤飲に気付いていなかったため不明。
来院前の処置 なし
受診までの時間 不明
処置及び経過 X線撮影により食道内に異物を認めた。他院に転院し、内視鏡摘出術を行うも取れず、頸部食道を切開して摘出。食道気管瘻、縦隔炎合併が認められた。

<担当医のコメント>

誤飲には気付かなかったものの喘鳴を認めたため来院し、初診なのでX線撮影を行ったら偶然誤飲が判明。時間が経ったため、消化管に癒着してしまい、摘出術によって取れなくなったと考えられる。

4)食品

本年度は、酒類の誤飲事故の報告が8件と前年度(5件)より増加した。放置されたものの誤飲や保護者が誤って飲ませてしまった例などであった。全般的に言えることであるが、誤飲の危険のあるものを放置しないようにすることが重要である。また、酒類の保管方法や小児に飲料を与える前には内容を確認する等の注意も必要である。

飴やこんにゃくゼリー、豆、丸いチーズ等は、大きさや形状、硬さのために誤飲事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道の入口をふさいでしまい、その場合の摘出が困難であり、重篤な呼吸器障害につながるおそれがあるため、乳幼児にそのまま食べさせること自体禁忌である。これらのように、食品を乳幼児等に与える際には、保護者は食品の性状といった点等にも十分な注意を払う必要がある。

なお、こんにゃくゼリーについては、今回のモニター報告事例はなかったものの、小児及び高齢者において窒息事故が相次いだことを受け、関係団体は、袋に小児及び高齢者は食べないようにとの警告マークを表示することとした。

  

◎事例1【原因製品:酒】

患者 3歳 男児
症状 顔面発赤、多弁
誤飲時の状況 祖母が誤って麦茶の代わりに焼酎の麦茶割りを100 mLほど飲ませた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄にてアルコール臭(+)、食物残渣あり。電解質点滴後、帰宅。

<担当医のコメント>

小児が飲む可能性があると考えられる飲み物に、酒を加えたものを放置及び作り置きしないこと。

◎事例2【原因製品:ラムネ】

患者 1歳6か月 男児
症状
誤飲時の状況 ラムネを食べながら寝てしまい、約30分後に咳が出た。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 X線検査にて異常なし、帰宅

◎事例3【原因製品:あめ玉】

患者 1歳7か月 男児
症状 呼吸困難
誤飲時の状況 直径1センチメートル程度のあめ玉を口に入れ、はしゃいでいたら急に声が出なくなり呼吸できなくなった。父が直ぐに背部を叩打し、1分程で口からあめ玉が出た。
来院前の処置 背中を叩いた
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査にて異常なし、帰宅

<担当医のコメント>

飲み込んで声も出なくなり呼吸できなくなったという事例であり、大変危険で窒息死する危険性をはらんでいた。親が背中を何回も叩いて口からあめ玉が出てきたので事なきを得た。このように、家庭の最初の処置が重要である。

また、食品ではないが、食品の付属物や関連器具による誤飲例も次のように見られている。同様な誤飲は例年も報告されており、誤飲の可能性のあるものとして注意が必要である。

◎事例4【原因製品:乾燥剤】

患者 2歳1か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 母の前にて、のりに付いているシリカゲルを飲んだ。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 処置なく帰宅

◎事例5【原因製品:金属製品】

患者 5歳 男児
症状 なし
誤飲時の状況 ソーセージの包みを開けようとしてアルミ製のリングを飲んでしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 X線検査にて異常なし。その他の処置なく帰宅。
5)その他

代表的な事例だけではなく、家庭内外にあるもののほとんどが小児の誤飲の対象物となりうる。1歳前であっても指でものをつまめるようになれば、以下に紹介する事例のように様々な小さなものを口に入れてしまう。床など小児の手の届くところにものを置かないよう注意が必要である。

固形物の誤飲では、おはじき、パチンコ玉、ビー玉、キーホルダー等の玩具、磁石、ヘアピン、シール、温度計、文房具等が報告された。これら固形物の場合は、誤飲製品が体内のどこにどんな状態で存在するか分からないので、専門医を受診し、経過を観察するか、摘出するかなど適切な判断を受けることが望ましい。誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されるから問題ないと考える向きもある。しかし、硬貨が胃内から長時間残留したり、小型磁石や前述のボタン電池等の事例のように腸壁に張り付きせん孔してしまったりして、後日腹痛や障害を発生させる可能性もあるので、排泄の確認は是非するべきである。排泄が確認できないときは、フォローアップのレントゲン等を撮り、消化管の通過障害をきたすおそれがある場合や、せん孔に至る危険性がある場合は、外科的な摘出術を考慮することも必要である。

本年も衣類用の防虫剤の誤飲事例があった。防虫剤は見かけ上よく似ているが、よく使用されている成分は数種類あるので、医療機関等に相談する場合は誤飲した製品を持参する等により、製品名等を正確に伝える方がよい。防虫剤を誤飲した場合は、応急処置として牛乳を飲ませてはいけない。牛乳は防虫剤の吸収を促進するためである。

液体の誤飲では、台所用洗剤、灯油、除光液等が報告された。液体の場合には、コップ、飲料用ボトル等に移し替えたもの(事例15、17)や、詰め替えボトル入りのものを誤飲する事例が見受けられる。そのようなものを小児の目に付くところへ放置せず、手の届かない場所へ片付ける配慮が必要である。

【固形物】

◎事例1【原因製品:歯科材料】

患者 13歳 男児
症状 胸痛
誤飲時の状況 11時頃水泳をしていて、刺し歯(前歯3本、ワイヤー付)を飲み込んだ。その後胸痛出現し受診。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 X線検査にて、食道部分にワイヤーが認められた。その後他院に転院し、透視下バルーンで摘出に成功。

◎事例2【原因製品:ホチキスの針】

患者 1歳7か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 午前10時ごろ、リビングで、落ちていたホチキスの針を食べているのを母が発見。
来院前の処置 かき出した、拭いた
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 X線検査により胃内にホチキスの針2個を確認、その後帰宅

◎事例3【原因製品:携帯ストラップチェーン】

患者 0歳11か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 少しの間目を離した隙に、居間で鞄の中をあさってボールチェーンを見つけ、それをなめたりしていたずらしていたらしい。
来院前の処置 背中を叩いた。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査にて胃の中にボールチェーンを認め、その後帰宅
  

<担当医のコメント>

鉛を含有している可能性を念頭に置き、明後日までに排泄がされない場合には医療機関を受診するよう病状説明を行った。

小児に対する鉛の毒性を予測するためには、どのくらいの時間胃に滞留したかについて注意を払うことが重要である。

◎事例4【原因製品:水銀体温計】

患者 3歳 男児
症状 悪心・嘔吐
誤飲時の状況 午前9時30分頃、水銀体温液をかじり、水銀玉が布団にちらばった。その後牛乳を飲ませたが嘔吐あり。
来院前の処置 牛乳を飲ませた。
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 処置無く帰宅

◎事例5【原因製品:ヘアピン】

患者 0歳11か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 本人が泣いていて、それまで頭につけていたヘアピンが無くなっていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 X線検査にて、胃内にヘアピンを認めた。2日後に排泄されたことを確認した。

◎事例6【原因製品:プラスチック製品】

患者 1歳1か月 女児
症状 悪心、嘔吐
誤飲時の状況 19時35分頃嘔吐があり、親が様子を見に行ったところ電灯のスイッチのひもの先についている星型の飾りが無くなっているのに気付いた。その後機嫌が悪くなり、嘔吐が2回あったため来院。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 当日、咽頭後壁に当該製品を確認し、マギール鉗子により摘出

◎事例7【原因製品:硬貨】

患者 8歳 女児
症状 腹痛・下痢
誤飲時の状況 100円玉を持って遊んでいて口に入り飲み込んだ。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査にて、食道下部にコインを認め、その日のうちにバルーンカテーテルにて摘出。

◎事例8【原因製品:パチンコ玉】

患者 2歳 男児
症状 なし
誤飲時の状況 居間に落ちていたパチンコ玉を飲み込んだ。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 X線検査で胃内にパチンコ玉を認め、その後帰宅。2日後に排泄を確認した。

<担当医のコメント>

この事例では胃に入ったが、パチンコ玉は気道に入り、気道をふさいでしまう可能性もある。パチンコ玉より小さいような、気道異物になる可能性のある製品を小児の周囲においてはいけない。

◎事例9【原因製品:シール】

患者 0歳9か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 15時50分頃、父が眼をはなした隙に、周囲にあった紙のシールを飲み込んで急に泣き出した。救急車要請。救急車内で口からシールを取り出し、落ち着いた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 当日、口からシールを取り出した

◎事例10【原因製品:文房具】

患者 11歳 女児
症状 咳、喘鳴
誤飲時の状況 15時頃、シャーペンについている消しゴムのフタをかんでいたら、吸い込んでしまった。
来院前の処置 吐かせようとするも吐かず
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 気管支にあることを確認。内視鏡的摘出のため呼吸器科へ転院

<担当医のコメント>

吸い込んでしまった消しゴムのフタはプラスチック製のため、X線撮影では検出が出来なかった。この事例では、気管支に入ってしまったことが判明したため、呼吸器科へ転院した。長時間の咳や嘔気がある場合には、気管支に入っていることを疑い、X線検査等が必要である。

◎事例11【原因製品:防虫剤】

患者 0歳9か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 17時頃衣替えで床に防虫剤を置いていた。4月に開封した防虫剤を袋ごと口の中にいれたところを姉が見ていて母に知らせた。他院を受診したところ、症状は無かったが、当院を紹介されて受診。
来院前の処置 口の中を拭いた。
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 胃洗浄して食物残渣を認めた。さらに活性炭、パントテン酸マグネシウム投与。その後帰宅。

<担当医のコメント>

様々な成分が使用されているので、誤飲した可能性のある防虫剤を袋ごと持って行き、医師に対応を判断してもらうことが推奨される。

【液体】

◎事例12【原因製品:消臭剤】

患者 1歳2か月 女児
症状 皮疹
誤飲時の状況 19時頃、トイレに置いてあった消臭剤をこぼして口、四肢、服についているのを発見。トイレには兄が入った後ドアが開けてあったため、小児が入ることが出来た。
来院前の処置 水またはお湯を飲ませた
受診までの時間 12時間以上
処置及び経過 処置無く帰宅

◎事例13【原因製品:シャボン玉液】

患者 4歳 女児
症状 嘔吐、顔色不良
誤飲時の状況 入浴中にシャボン玉液(石けん水)を誤飲し、入浴直後に嘔吐。自宅安静していたが、睡眠後顔色が悪くなったため、救急要請。
来院前の処置 水又はお湯を飲ませた。
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 処置無く帰宅

◎事例14【原因製品:除光液】

患者 2歳5か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 親戚と遊んでいて、親戚が使ったマニキュアの除光液を誤って5〜10 mL 程飲んでしまった。
来院前の処置 水又はお湯を飲ませた
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 胃洗浄を行い、さらに活性炭の胃内注入を行った。その後帰宅。

<担当医のコメント>

誤飲量は少量であったが、除光液にアセトンが含有しているとの記載があり、吸収してしまったら危険であると判断。時間が20分程しか経過していないことを踏まえ、誤嚥に気を付けながら胃洗浄及び活性炭注入を行った。

◎事例15【原因製品:漂白剤】

患者 2歳 男児
症状 なし
誤飲時の状況 コーヒーのボトルに漂白剤の原液を移し替えた。飲んでいるところを家族が発見。
来院前の処置 水又はお湯を飲ませ、吐かせた
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 ミルクを飲ませ、帰宅

◎ 事例16【原因製品:化粧水】

患者 3歳 男児
症状 なし
誤飲時の状況 化粧水の試供品をなめていた。
来院前の処置 吐かせようとするも吐かず
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 処置無く帰宅

◎ 事例17【原因製品:灯油】

患者 2歳 男児
症状 呼気に灯油臭
誤飲時の状況 祖父母宅に遊びに行った時に、倉庫にあった灯油(飲料水のペットボトルに入っていた)を誤飲。口に入れて直ぐに吐き出すのを目の前で父親が見ていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査に異常無し。電解質点滴。入院9日。
(4)全体について

小児による誤飲事故については、減少傾向にはあるものの相変わらずタバコによるものが多い。タバコの誤飲事故は生後6か月からの1年間に発生時期が集中しており、この1年間にタバコの管理に特段の注意を払うだけでも相当の被害の軽減が図れるはずである。

一方、医薬品の誤飲事故はむしろこれよりも高い年代での誤飲が多い。それ自体が薬理作用を有し、小児が誤飲すれば症状が発現する可能性が高いものなのでその管理には特別の注意を払う必要がある。また、今年度では高い所に保管していたものが、小児の手の届く場所に落下した結果、誤飲事故が生じた事例も見られたことから、ただ高い所に置くのではなく、セーフティキャップ等の開けにくい容器に入れる、置き場所に細心の注意を払い常に大人が管理する等の対策も必要と思われる。

食品であっても、気道を詰まらせ、重篤な事故になるものもあるので、のどに入るような大きさ・形をした物品には注意を怠らないように努めることが重要である。また、酒類にも注意が必要である。

小児による誤飲事故の発生時間帯は夕刻以降の家族の団らんの時間帯に半数近くが集中しているという傾向が続いている。保護者が近くにいても、乳幼児はちょっとした隙に、身の回りのものを口に入れてしまうので注意が必要である。特に、近年様々な形をした製品が出回るようになったので、その中でも見かけ上食べ物に見えるような商品には特別の注意が必要であると考えられる。

一方、今年度は保育所や幼稚園等、多数の小児が生活している施設で起こった誤飲の報告事例は少数で、このことからも、誤飲は避けられない事故ではなく、誤飲をする可能性があるものを極力小児が手にする可能性のある場所に置かないことが最も有効な対策であることがうかがい知れる。

事故は家族が側で小児に注意を払っていても発生してしまうことがある。乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力、乳幼児の口に入るサイズのものは置かないようにしたい。特に、歩き始めた小児は行動範囲が広がることから注意を要する。口に入るサイズはおよそ直径3cmの円に入るものであるとされている。これは、玩具であっても同様である。

誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為であるが、しかし間違った応急処置を行うと、かえって症状が悪化することがある。応急処置に関しては、正しい知識を持つことが重要である。

参考:国立保健医療科学院「子供に安全をプレゼント〜事故防止支援サイト」(窒息時の応急方法等)

http://www.niph.go.jp/soshiki/shogai/jikoboshi/general/infomation/firstaid.html

なお、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故に関する注意点や応急処置などを記した啓発パンフレットが作成され、全国の保健センター等に送付されている。


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