別紙1

ニートの状態にある若年者の実態および支援策に関する調査研究報告書(概要)

第1章 ニート状態にある若者に対するアンケート調査結果

1.支援機関利用者に対する調査結果

ニートの状態にある若者の出身家庭は非常に幅広い

ここで調査されたニートの状態にある若者の出身家庭は非常に幅広く、あらゆる経済状況の出身者がいると考えられる。「あなたの家の暮らし向き」は「ふつう」47.1%、「やや苦しい」28.0%、「やや余裕がある」10.8%、「非常に苦しい」8.9%、「余裕がある」3.3%であった。

学校教育段階で躓きを経験している者が多い

進学率は同世代の水準からみて特に低いとはいえないが、高校、大学・短大、専門学校の各段階での中退者はあわせると3割を超え、在学中の1ヶ月以上の長期欠席経験者も高校で16.6%、大学・短大で25.8%いる。そして全体の37.1%が不登校を経験している。

8割近くが何らかの職業経験を持っているが、熟練を要しない仕事の経験者が多い

これまでに「連続一か月以上就労した経験」のある者は79.0%。その就労経験回数は平均2.6回である。経験した職種は「サービス職」「生産労務職」「営業販売職」が多く、その雇用形態は「アルバイト」であることが多い(のべ雇用経験の64.4%)。全体としては熟練を要しないアルバイト就労が目立つ。なお一週間未満の就労経験は、全体の44.1%に見られた。

学校でのいじめ、ひきこもり、精神科・心療内科の受診経験のある者が約半数

11の項目を挙げてこれまでの生活経験を尋ねた。半数以上が経験していたのは「ハローワークに行った」75.8%、「面接を受けるために会社に電話した」68.2%、「就職の面接を受けた」64.8%、「学校でいじめられた」55.0%、「自分から会社を辞めた」55.0%

また、全体の半数弱が、「ひきこもり」(49.5%)、「精神科又は心療内科での治療を受けた」(49.5%)、経験があることがわかった。なお、精神科又は心療内科での治療は、もともとメンタル面の問題があってニート状態になったケースと、ニート状態になったことがメンタル面の問題につながっているケースの両方があると思われる。

対面コミュニケーションの苦手意識が目立つ

一般的に就労に必要と思われる基礎的スキル6項目について苦手意識があるかを尋ねた。「人に話すのが不得意」が64.4%と突出しており、対面コミュニケーションの苦手意識が目立つ。

26項目を挙げて就労に必要な生活行動の苦手意識を尋ねると、「面接に通る」(75.1%)、「面接で質問に答える」(64.8%)、「職場で友達をつくる」(64.6%)、「上司から信頼される」(64.1%)といった項目の苦手意識が目立つ。

一般的な対人関係を含め、コミュニケーションの苦手意識は今回調査されたニートにかなり広く共通する特性である。コミュニケーションの苦手意識が不登校、いじめ、ひきこもり、職場の人間関係のトラブルといったネガティブな体験につながり、苦手意識がさらに増幅されて就労が困難な状況に追い込まれたケースが多いと思われる。

また、「仕事を覚える」(57.2%)、「仕事で失敗を繰り返さない」(59.8%)、「教えてもらわなくても周囲のやり方を見て覚える」(60.2%)等仕事に関して苦手意識を持つ者も多い。

ニート状態にあることに精神的な負担

29項目を挙げて一般的な生活意識、生活価値観を尋ねた。肯定的反応が80%を超える項目は、「仕事をしていないとうしろめたい」82.8%、「社会や人から感謝される仕事がしたい」82.5%、「仕事をしていくうえで人間関係に不安を感じる」80.9%、「どこでも通用する専門技能を身につけたい」80.4%であった。80%前後がニート状態であることを「うしろめたい」「世間体が悪い」と感じており、ニート状態にあることが精神的な負担になっていることがうかがえる。

「将来への希望」、「対人関係」、「仕事への期待」に消極的意識

生活意識、生活価値観に関わる29項目中23項目について2006年4月の新入社員の調査値と比較した。差が大きかった項目は「職場の同僚、上司、部下などとは勤務時間以外はつきあいたくない」「仕事はお金を稼ぐための手段であって、面白いものではない」(以上新入社員より多かった項目)、「自分はいい時代に生まれた」「世の中は、いろいろな面で今よりもよくなっていくだろう」「明るい気持で積極的に行動すれば、たいていのことは達成できる」(以上新入社員より少なかった項目)。新入社員との比較においてニートの状態にある若者の意識面の特性は、「将来に希望がもてない」「対人関係の苦手意識」「仕事に多くを期待しない」ことに要約される。

2.若者自立塾で支援を受けた若者に対する調査結果

※調査方法は若者自立塾トレーナーによる面接質問紙法調査

43.5%が訓練期間内の就労を達成しているが、その多くは月収10万円程度のアルバイト

在塾中になんらかの職業的資格を取得した者は36.4%(取得準備中を除く)であった。活動の終えかたは「満期修了」が68.2%、「早期修了」が3.7%、「中途退塾」4.9%である。「就業にいたった」者は43.5%、「求職中など」が23.0%で、在塾中に「就業できなかった」者が33.5%いる。「就業にいたった」者の雇用形態は、「正社員」19.1%、「アルバイト」49.4%、「契約社員・臨時社員など」21.9%であった。ニート期間と就業の成否との関係を見ると、「3年超〜5年以下」の50.7%がもっとも高く、以下「1年超〜3年以下」45.1%、「1年以下」44.2%、「5年超」42.3%となる。

自立塾で支援を受けた者の43.5%が訓練期間内の就労を達成しているが、その多くは月収10万円程度のアルバイトであり、この状態では経済的に自立しているとは言いにくい。自立塾の支援は、これまで半ばあきらめていた就労の第一歩を達成させているケースが多いことに留意し、修了者に対しても引き続き支援が必要と思われる。

自立塾の支援内容(「生活訓練」「就労体験」「職業訓練」)への評価は高い

各自立塾では様々な独自のプログラムを用意しているが、それを「生活訓練」「就労体験」「職業訓練」の三種に分類し、それぞれについて「トレーナーから見た参加の積極性」「トレーナーから見た効果」「塾生の感想」を4段階評価で聞いた。各プログラムを終えていない「無回答・非該当」を除くと、どの項目についても60%前後がもっとも高い評価(「積極的」「効果的」「役立った」)を与えている。また、20%前後が二番目に高い評価(「やや積極的」「やや効果的」「やや役立った」)を与えている。

第2章 脱ニート者へのヒアリング調査結果

※脱ニート者へのヒアリング調査は、臨床心理士資格者7名及び(財)社会経済生産性本部職員(キャリア開発担当)1名により実施。

1.脱ニート者に見られた心理的特徴(ニート状態にあるときから続く特徴)

受動性

脱ニート者に共通する人格的印象として、人や活動に対する「受動性」が挙げられる。具体的には、ものごとに対しての積極性のなさ、人の意見に身を任せるという点である。そうした受動性が、行動面において「特にやることがないから」家にいたり、「何をしたいとかがないから」就職する意欲がないというような行動として表出されている、と思われる。

「生きていくこと」への欲求の希薄さ

ヒアリングを行った事例に共通して、全般的に「生きていく」という意味での基本的欲求が希薄であるという印象を受けた。具体的には、自分の得た収入の使用目的を問われた際に、「特に買いたい物がない、取りあえず貯金する」と回答したり、これからの人生設計を問われた際も「今はさきのことを考えていない」と言うように、この年代の若者に見られるようなモノヘの欲求とか、将来への希望(野望)とかが希薄な点である。

対人関係の希薄さ

被調査者らの臨床的印象やニートの状態に至った経緯に対する‘見立て’として、面接者らが共通して挙げていたのが、「希薄な対人関係」である。彼らの示すこうした対人関係の特徴はこれまでも指摘されてきているところであるが、前述の受動性や基本的欲求の低さということにもつながる可能性がある。

対人関係の希薄さの背景要因として彼ら自身の人との関係作りの弱さ、ネットワークの狭さが共通して見られた。それは、未就労期以前の交友関係のみならず塾生同士の交流の乏しさにも反映されている。仮にあっても、それをお互いに継続しようとする意欲がないため、場が異なってしまうと簡単に断絶してしまっている事例が少なくない。

2. 脱ニート者から見た支援

支援機関が心理社会的サポートの場となっている

高度な心理技術というよりはむしろ、“親や友人ではない新しい他の人間”に認められ、温かみを感じるというごく素朴な地点が重要である。

塾のスタッフや心理相談員に認めてもらおうという気持ちが、本人の動機づけにつながることも多くみられ、自立塾のスタッフが職業訓練のプログラム提供者であるのみならず、脱ニート者らの心理的支えであることがうかがわれた。

卒塾後や就職後のアフターケアが大きな意味を持つ

今回面接した事例の多くが、自立塾の3ケ月の訓練期間後も塾側および職場での受け入れ側の細やかで丁寧なフオローアップによって、仕事に就き、それを継続できていることは注目すべきポイントであると思われる。その意味で、塾経営者および関連スタッフの熱意というものが、「脱ニート者」たちの職場への「根付き」を考える上で非常に重要な要素となっていると思われる。具体的には、アフターケアとして卒塾後ある一定期間は定期的に連絡する、支援が必要であれば、地域若者サポートステーションへつなげるといったシステム作りが重要であると思われる。

「乗り気でなかった」若者も自立塾での経験が肯定的なものに変わる

被調査者らの多くは、周囲からの勧めで自立塾に「乗り気でないままに」入塾することとなった事例が多かった。しかし、本人も、結果としてそこでの経験を肯定的なものとしてとらえている。

第3章 支援機関での支援

社会的認知を広める活動を実施するも個々の機関のみの努力には限界

各支援機関は、支援を必要とする若者に存在を知ってもらうために、地元自治体の広報、説明会開催、ホームページ設置など様々な方法で広報活動を展開している。一方で、個々の支援機関の努力に限界を感じている。ニート状態にある若者だけでなく広く一般の認知度を高めることが重要である。

若者の状況に合わせた多様な支援を実施

支援の方法は、個々の若者の状況を把握し、それにあわせたプログラムを提案することが重視されている。

多くの機関でニート状態の若者及びその家族の孤立状態を緩和するために居場所作りや、家族会の編成など人間関係を豊富にする試みがなされている。

ニート状態を脱するための支援プロセス

若者自立塾等の支援機関による支援は多様であるが、ニート状態を脱するための行われている効果的な支援には以下の共通するプロセスが見られた。

(1)個々の状態を見立てた上での対応

  • 表情・所作等非言語的な部分にも注意
  • 発達障害等の可能性にも注意

(2)本人の状況に合わせた小さなステップを登る支援による自己評価の向上

  • 就労を継続するための「職場適応能力」の向上のための小さなステップ
  • 無理しすぎて挫折しないよう配慮しつつ、自己評価を向上

(3)規則正しい生活習慣や仕事を継続するための基礎体力の確保

  • 昼夜逆転など不規則な生活から規則正しい日常生活へ
  • 仕事をするための基礎体力を段階的に育成

(4)コミュニケーションの苦手意識への対応

  • 人間関係そのものトレーニングだけではなく、その前提となる声出し、話し方といったトレーニングも実施

(5)就労体験を通じた社会への手応えの付与

  • 就労体験は、社会とのつながりへの手応えを感じる契機
  • 就労体験に当たっては、通常の就業環境が脱ニート段階では極めて高いハードルになっていることを踏まえた就労先との相互理解が必要

(6)訓練修了後や就職後のアフターケア

  • アフターケアは、それまでの支援と同等の重要性

第4章 本調査研究の総括と今後の課題

1.本調査対象者の特徴とニートの状態にある若者の全体像

内閣府の「青少年の就労に関する研究調査報告(平成17年7月)」では、就業構造基本調査のデータを用いて仕事に就いていない若年無業者を3つのカテゴリーに分けている。(1)「求職型」:就業希望を表明しかつ求職活動を行っている者=失業者、(2)「非求職型」:就業希望を表明していながら求職活動は行っていない者、(3)「非希望型」:就職希望を表明していない者である。

本調査の結果によれば、8割近くが職歴をもっている。ただし雇用形態はアルバイトが多く、離転職を何度か繰り返している。「人間関係が苦手」、「手先が不器用」、「計算や字を書くことが苦手」などの状況が職場の人間関係のトラブルといったネガティブな体験につながり、苦手意識がさらに増幅されて就労が困難な状態に追い込まれていく状況がうかがわれる。非求職型や非希望型のコアはこのような若者ではないかと思われる。

2.ニート支援における課題

社会的認知度向上と早期支援の必要性

支援人材の量的拡大と質的向上の必要性

量的な拡大: 支援を専任で行う者を拡大、就労体験時のサポートを担当するボランティア等地域ボランティアを幅広い募集・活用
質的な向上: 自立にいたる好事例、支援ノウハウの体系化や共有化

通所による各種支援プログラムや継続的なフォローの充実

諸機関が連携した支援体制づくり

3.長期的展望に立った「ニート」を生まないための取組

ハンディを補うことを重視した教育・訓練等

精神的問題や発達的問題を抱える者への対応

孤立化・孤独化する環境への対応等


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