平成19年3月30日(金)
医薬食品局総務課医薬品副作用被害対策室
 室長:森  (内線2716)
 補佐:小林 (内線2717)

フィブリノゲン製剤訴訟・東京地裁判決について

本日、国といたしましては、平成19年3月23日(金)に言い渡されましたフィブリノゲン製剤訴訟の東京地方裁判所の判決について、控訴いたしました。

東京地方裁判所の判決概要及び控訴の必要性等については、別添の資料を参照願います。控訴理由については、控訴審で明らかにしてまいりたいと考えております。

なお、C型肝炎施策の推進は、司法判断に関わりなく国民の健康の向上の観点から行われるものであり、今回の控訴は肝炎施策を一層進める上で何ら差し障りになるものではありません。C型肝炎施策の推進は、感染経路の如何を問わず、様々な原因によりC型肝炎に罹り苦しんでおられる方々にとって重要であり、今後とも一層の推進を図ってまいります。

フィブリノゲン製剤訴訟東京地裁判決(平成19年3月23日)概要

フィブリノゲン製剤

【国の責任】

製造・販売が開始された昭和39年以降、昭和63年時点においても、後天性低フィブリノゲン血症に対する有用性が認められ、適応症を制限しなかったこと等について、国の責任はない。

昭和62年4月の乾燥加熱製剤への切替えの際、必要な情報収集、分析、検討を怠り、乾燥加熱製剤の適正な使用を確保し、副作用被害の拡大を防止するために、企業を指導して、乾燥加熱製剤の使用に関して必要かつ十分な指示・警告をさせる状況があったにもかかわらず、これを看過したものであり、厚生大臣の権限の行使は薬事法上許容される限度を逸脱し、著しく合理性を欠くものである。

昭和63年6月、乾燥加熱製剤について緊急安全性情報が配布されたことから、配布が完了した同月23日以降は、国の責任は認められない。

したがって、今回判決の対象となった原告15名のうち、昭和62年4月以降、昭和63年6月23日までの間に、フィブリノゲン製剤の投与を受けたと認められる原告6名に対し、損害賠償責任があるとされた。

(注)

企業は、昭和60年8月に、肝炎感染の危険性が少ないBPL処理されたフィブリノゲン製剤から、輸血と比較しても肝炎感染リスクが高いHBIG処理に切り替えた段階で、処理方法の変更により肝炎感染リスクが増大していること等について、指示・警告することを怠った過失があるとして、昭和60年8月から昭和63年6月23日まで損害賠償責任があるとされた(15名中11名に責任。)。

【損害額】

慢性肝炎の原告については、2200万円、無症候性キャリアの原告については、1320万円

血液凝固第IX因子製剤

クリスマシンには、医薬品としての有用性が認められ、かつ、国には副作用被害の発生について差し迫った危険性を抱かせる具体的状況にはなかったことから、製薬企業に指示・警告を行わせなかったことが直ちに薬事法の目的に著しく反する義務違反に当たるということはできないから、国に責任はない。

(注)

企業は、昭和58年末までには、クリスマシンの使用はその副作用リスクをかんがみれば、他の製剤で治療困難な重篤な出血を伴う症例に限定されるべきであったこと等について、指示・警告する義務を怠った過失があるとして、昭和59年1月1日以降損害賠償責任があるとされた(6名中2名に責任)。

フィブリノゲン製剤訴訟・東京地裁判決への控訴の必要性

判決概要 控訴の必要
青森県における肝炎発生を受け、加熱製剤に早急に切り替えるという方針は是認できないわけではないが、切り替えにあたっては、加熱製剤の副作用リスクを慎重に吟味するとともに、これを投入すべき医療ニーズについても製剤の使用状況等を調査し、確認する必要があった。
(1) 国は、迅速かつ積極的に、当時より安全と考えられた加熱製剤への切り替えを行い、切り替えに当たっては、(2)のとおり最善の対応を採ったにもかかわらず、判決は、この措置を採った故に国賠法上の責任を認めたものであり、不当。
(2) 加熱製剤承認後開催された血液製剤評価委員会での検討結果を踏まえ、旧厚生省は、加熱製剤の発売前に、ミドリ十字に対し、
・関係の情報を医療機関に提供し注意喚起する
・適応を明確にすること
等の指示を行っており、製薬企業への必要な指導は遅滞なく行われたと評価されるべき。
厚生大臣は、加熱製剤を製造承認するに際して、必要な情報収集等を怠り、加熱製剤の適正な使用を確保し、副作用被害の拡大を防止するために、加熱製剤による肝炎感染の危険性、非A非B型肝炎の重篤性及び適応症遵守の3点において、ミドリ十字を指導して、加熱製剤の使用に関して必要かつ十分な指示・警告をさせる状況があったにもかかわらず、これを看過したものであり、違法。
(1) 昭和62年10月、日本母性保護医協会から提出された要望書には、「肝炎発生の副作用につき、今後なお一層厳重な注意を払うべく会員指導に当たる」と記載されており、医療機関において厳重な注意が払われていると理解する十分な理由がある。
(2) 非A非B型肝炎のように一般的な疾患の病態等は、医師が自ら習得すべき知識であって、これを網羅的に調査して指示・警告することまで、医薬行政が責任を負うものではない。

以上のように、国としての責任を果たしているにもかかわらず、判決では責任ありとされており、今後の医薬行政の運営に支障をきたす。

加熱製剤切り替え(昭和62年4月)の際の安全対策について

以下のとおり、加熱製剤の添付文書を改訂。

【昭和62年5月】

添付文書の「使用上の注意」欄に、一般的注意として赤字で次のように記載。

「肝炎等の血液を介して伝播するウイルス疾患が知られているので、使用に際しては必要最小限の投与とし十分な観察を行うこと。(使用の決定に際しては、患者のリスク負担と投与によって受ける治療上の利益を考慮すること。)」

【昭和62年6月】

添付文書の前文に、以下の一文を追加。

「しかし、他の加熱処理凝固因子製剤で非A非B肝炎の発症が報告されているので本剤の使用に際しては後記「使用上の注意」に十分留意し、治療上必要不可欠の患者に使用すべきである。」

旧ミドリ十字は、加熱製剤承認後、同製剤を使用した患者に対して追跡調査(月1回以上医療機関を訪問し、使用患者にあたっては継続6ヶ月間)を実施。


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