厚生労働省発表
平成19年2月28日(水)
厚生労働省職業安定局総務課
調査官 小森   雅一
計画係長 松澤   浩二
電話    03-5253-1111(内線5723,5737)
     03-3502-6768(夜間直通)

独立行政法人雇用・能力開発機構
施設譲渡推進室長 堺      幸三
整理対策課長補佐 鈴木   克則
電話   045-683-1111



雇用促進住宅の譲渡・廃止に向けた方針について


本日、(独)雇用・能力開発機構の「雇用促進住宅管理経営評価会議」(民間委員4人と機構理事等計6人で構成)において、別紙のとおり、15年間で雇用促進住宅を譲渡・廃止する旨の方針が決まりましたのでお知らせします。








別 紙

雇用促進住宅の譲渡・廃止について


雇用促進住宅は、労働者の地域間移動の円滑化を図るため、雇用保険三事業(保険料は事業主負担)の雇用福祉事業により設置された勤労者向け住宅。
現在、(独)雇用・能力開発機構において、1,532住宅、3,838棟(141,722戸)所有。約35万人が居住。

[これまでの経緯]
 15年5月、「雇用促進住宅基本課題検討会」(職業安定局長私的諮問機関)報告において、譲渡・廃止について30年程度を目途に事業廃止に努めることが適当とされた。

 規制改革・民間開放推進会議第2次答申(17年12月21日)及び閣議決定(同月22日)において、事業廃止までに30年かける考え方を撤回し、「民間事業者等の知見・ノウハウを活用しながら、総収益の最大化を図りつつ、入居者がいることを踏まえた上で、できるだけ早期に事業を廃止すること」について、18年度中に検討を行い、結論を出すこととされた。

 上記答申を踏まえ、本年1月31日、三菱総研から、雇用促進住宅の早期事業廃止に向けた報告書(別添要約)が提出された。
収益を最大化するためには、17年間をかけて雇用促進住宅を売却していくことが適当」

[方針の決定]
 これを踏まえ、本日、雇用・能力開発機構の「雇用促進住宅管理経営評価会議」(民間委員4人+機構理事等計6人で構成)で、15年間で雇用促進住宅を譲渡・廃止する旨の方針を決定した。







最終報告書のポイント


1     売却方策
   ●    全雇用促進住宅(1,532住宅)について、市場性のあると判断された住宅は405住宅。
   ●    最大収益を目指す場合
   ・ 入居者がいるまま売却・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ 127住宅
   ・ 空家にして売却・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ 1住宅
   ・ 更地化して売却・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・1,272住宅
   ・ 入居者への売却(売却価格は家賃4年相当) ・・・・・・132住宅
   ●    いずれの売却方法をとっても、現入居者の退去の必要性や資産価値の面などから、それぞれ困難を伴う。

2     収益最大化のための試算
   ●    収益を最大化するためには、17年間をかけて雇用促進住宅を売却していくことが適当。
収益最大化のための試算表
(注) 黒字は、住宅を売却する際に、立退き料、建物取壊し費用などの経費を控除しても収入が得られるという意味であり、本来、機構が土地取得等に支払った費用を回収できるというものではない。

3     売却プロセス等
   (1)    地方公共団体等への売却
 雇用・能力開発機構は「総収益の最大化」及び「早期の譲渡」を図るうえで、地方公共団体等に対する売却も引き続き行うものとする。

   (2)    優先的に売却すべき住宅
 売却期間にわたって、処分までの運営収支並びに売却収支をあわせた全体収支を最大化させるためには、運営収支の赤字がもっとも大きい住宅から、売却を進めていくことが望ましい。

   (3)    売却推進に向けた体制強化
 本調査で検討した売却方策を実行していくためには、売却担当の責任者などに、民間の不動産取引にかかる専門家などを複数含む強固な体制を構築するべきである。







 


雇用促進住宅の早期事業廃止に向けた方針の
策定支援に係る業務委託



報告書 全体要約













2007年1月31日

   


目    次




<全体要約>
  (1)売却方策
  (2)収益最大化のための試算
  (3)売却先の可能性検討
  (4)売却プロセス
  (5)譲渡・廃止の実現可能性
  (6)維持・管理方策













<全体要約>

(1)売却方策
全雇用促進住宅(1,532住宅)について、民間企業の視点からみて当該物件に市場性(不動産市場における民間への売却可能性)があるかないかを判定したところ、市場性のあると判断された住宅は405住宅であり、全体の26%に過ぎない。
雇用促進住宅においては、市場性のない住宅を多く抱えており、全住宅を売却することは相当な難事業であるとの基本認識に立ち、売却方策を検討した。


   住宅の売却形態は、
   ・ 入居者がいるまま売却する」
   ・ 「入居者に全員退去頂き、空家状態にして売却する」
   ・ 「入居者に全員退去頂き、建物を取壊して更地状態で売却する」
   ・ 入居者に対して売却する」
   の4つに集約される。

形   態 売却に要する
主な費用
特      徴
入居者付 不動産売買に係る
諸費用
現入居者がそのまま居住継続できる
第三者が所有する場合は、家賃収入によるキャッシュフローが投資に見合う必要がある。よって現行家賃が低いことがネックとなる。
ただし、企業が社宅として引き取る場合は別途想定しうる(個別事情による)。
地方公共団体等が購入することも考えられる。
空家 上記
+立退き費用
現入居者は退去する必要があり、立退き料の支払いのほか、代替住居の確保等が必要になる可能性が高い。
建物の利用価値があることが前提であり、築浅物件かつ立地良好のものに限られる。
更地 上記
+建物取壊し費用
現入居者の退去に関しては「空家」と同様。
建物取壊しにあたり、物件によってはアスベスト対応の必要が生じ、費用がかさむ可能性がある。
入居者への
売却
不動産売買に係る
諸費用のみ
入居者による中間法人を設立し、当該中間法人が物件を取得し、法人への出資者が入居することで、実質的に入居者が購入したのと同等の状態にする。
費用面で最も機構にも有利になるが、物件の資産価値と入居者の購入意向が鍵。
入居率がある程度高いもの等、対象となる住宅には制約が生じる。




(2)収益最大化のための試算

[1] 処分形態別の収支試算結果(総括)
    対象住宅の処分形態別の収支試算結果(図中の金額は、金額規模を概算するために、現時点で一括して売却した場合で想定)は下図のとおり。
   ・ 入居者への売却を132住宅について実施する想定のもとで、現時点で一斉売却を行った場合、総売却収支は、約281億円の赤字(下図の各収支の合計)のシミュレーション結果が得られた。
   ・ 入居者への売却の場合、売却価格を家賃4年相当とし、従来の生活状況から負担なく購入が可能であろう条件を設定している。

対象住宅1,532住宅
   
入居者付売却
(現行家賃ベースで20%の期待利回り)
127住宅、約53億円
(約4,185万円/住宅)
 
空家売却
1住宅、約6.1億円
 
更地化売却
1,272住宅、▲約410億円
 
入居者への売却
132住宅、約70億円


[2] 目標売却期間に応じたシミュレーション結果
    売却完了までの所要年数について、何年を目標とするのが最も売却収支の期待黒字幅が大きくなるのかをシミュレーションした。(前提条件の変更により異なる結果が出る。)
    その結果、17年間とするのが最も期待黒字幅が大きく約144億円と算出された。なお、15年間では約141億円、20年間では約125億円と算出された。
    なお、本シミュレーションにあたっての主な前提条件は次のとおり。
    最大収益を達成する処分完了目標期間において、毎年同数の住宅を売却していくと想定した。例えば20年間で全住宅を売却終了する場合、各年、およそ75住宅ずつ売却することとなる。
    売却収入を最大化させるためには、運営支出の赤字がもっとも大きい住宅から、売却を進めていくこととする。
    また、入居者の自然減や、普通借家から定期借家への切替えによるコストの低減、建物経年劣化への対応による修繕コストの負担増及び耐震補強工事コスト、地価変動、不動産管理にかかる人件費等の売却進捗による低下などを想定した。
    なお、入居者向け売却については、購入率を平均継続入居年数等より32%と推定し、これによる購入者が25戸以上となる住宅のみ入居者向けに売却するものと想定した。購入希望が25戸に満たない住宅は、更地化売却と仮定したため、立退き料や建物取壊し費用が必要となる。
    シミュレーションは上記の前提に基づいた場合の試算結果である点、留意が必要である。






収益最大化のための試算表
  売却完了目標期間


収益最大化のためのシミュレーション結果

注) このシミュレーション上の“黒字”とは、雇用促進住宅の売却収入から立退き料、建物取壊し費用などの経費を控除してもプラスになる(キャッシュフロー上のプラス)という意味であり、その経費に当初の土地取得費や建設費等は含まれていない。すなわち、簿価も含めた資金回収ができるという意味での“黒字”ではない。




(3)売却先の可能性検討

[1] 売却先

    売却先とその利用イメージについて幅広く検討し、下表のとおり想定した。

分野 売却先の例 利用イメージの例
自治体 地方公共団体等 公営住宅、UJIターン対策用住宅、移転対策用住宅等
民間 住宅所有法人(新設) 賃貸住宅等
投資ファンド 賃貸住宅等
・利回りが出せる金額での売却が前提
公的団体 都市機構、公社 賃貸住宅、移転対策用住宅等
財団、協会 グループホーム等
病院(医療法人)、福祉法人等 グループホーム、ケアハウス等
大学、教育機関 学生寮、留学生会館等
民間企業 デベロッパー 開発用地(住宅に限らず)等
・一般的には更地化が前提
地方の建設会社 賃貸住宅等
・市場価格家賃が前提
不動産仲介会社 賃貸住宅等
・市場価格家賃が前提
社宅・寮経営会社 社宅・社員寮等
一般民間企業 社宅・社員寮等
*入居者が出資者となる中間法人を設立するもの。

[2] 地方公共団体等への売却

    地方公共団体及びこれに準じる団体(以下、「地方公共団体等」という)は、入居者付売却の有力な売却先であり、売却コスト等の面でも多くの場合有利であることから、雇用・能力開発機構は「総収益の最大化」及び「早期の譲渡」を図るうえで、地方公共団体等に対する売却も引き続き行うものとする。





(4)売却プロセス
[1] 優先的に売却すべき住宅
     売却期間にわたって、処分までの運営収支並びに売却収支をあわせた全体収支を最大化させるためには、運営収支の赤字がもっとも大きい住宅(すなわち、保有していることによる費用負担が大きい住宅)から、売却を進めていくことが望ましい。
   ただし、実際の売却順序は、買い手など市場の状況等により、柔軟に決定すべきである。
 
[2] 売却不調に備えた対応
     個別に住宅を売却しようとすると、自治体向け売却、入居者への売却(住宅所有法人への売却)、更地化して売却のいずれの方策によっても条件等が折り合わず、処分が不調となるケースも現実には発生しうる。
   その場合には、優良物件と売却困難物件でバルクを構成し、売却していくことが考えられる。
 
[3] 売却推進に向けた体制強化
     売却を遂行していくにあたっては、手法及び目標年次の設定のみならず、その推進体制についても十分な準備が求められる。
   想定している売却方策は、高度な専門知識を要する不動産取引になるものと見込まれ、特に入居者への売却については、国内に例のない手法であることから、専門家の知見が不可欠となる。
   また、全国で1,500以上もの事業廃止対象住宅があることをふまえると、相応の陣容を擁する必要もあると考えられる。
   以上から、本調査で検討した売却方策及び目標売却期間を実行していくためには、法律の専門家としての弁護士の知見を活用するとともに、売却担当の責任者などに、民間の不動産取引にかかる専門家などを複数含む強固な体制を構築するべきである。











バルクとは、大量のものをひとまとめにした固まりのことをいう。不動産取引においては、大量の不動産をひとまとめにして売買する取引をバルクセールという。



(5)譲渡・廃止の実現可能性
1)  入居者付の売却
    入居者に対する退去要請が不要であり、現入居者にとっては受容しやすいものと予想される。
  投資目的や公的な政策目的などのために、入居者がいる状態で取得を希望する買い手が存在することが、実現の条件となる。
  しかしながら、投資目的の場合には、家賃収入が投資に見合う必要があり、雇用促進住宅においては、家賃が低いことがネックとなる。
  また、地方公共団体等への売却は、財政等の問題から困難が伴う。
 
2)  空家での売却
    立地及び現況建物に市場性が見込める場合に成立しうる。
  すなわち、住宅市場の形成されている市街地中心部で、ある程度土地が有効に活用されている状況の住宅である必要がある。調査結果によれば、該当する住宅数は1住宅のみで、極めて少ない。
 
3)  更地化しての売却
    一般に、既存建物が存在する不動産に比べて更地状態にある土地の方が取引対象として有利である。雇用促進住宅についても、更地の状態にすることができれば、既存住宅が存在する状態に比べて譲渡・処分の実現性が高まると一般的には期待される。
  そのためには、更地化の実現可能性とこれに伴う費用・期待収益のバランスが第一に重要になる。しかし雇用促進住宅の場合、更地化の実現は、空家化と同様に現入居者への退去要請が前提となるため、費用と時間を要する。また、必ずしも市場性の高くない住宅を更地化した後の売却先探索など、外部要因においてあらかじめ確定し得ない条件が含まれる。こうした点から、本形態による実際の譲渡・処分のプロセスには困難が伴う。
  なお、市場性の見込みにくい物件については、バルクを組成して売却することも有効な手段として念頭におくべきである。
 
4)  入居者への売却
    海外での事例や、一部の公営・公的住宅における国内の事例はあるものの、今回想定しているような規模や形態での入居者への売却事例は国内に例がない。
  また、入居者への売却価格について、入居者が負担可能な水準での売却価格の柔軟な設定の可否によっても実現可能性が左右される。原則として現入居者に退去を要請する必要がなく、売却形態自体の可能性には期待すべきものがある一方で、実際の譲渡・処分のプロセスには解決すべき課題も多く、更地化や空家での売却形態とは違う形での困難が伴う。
  なお、本売却形態については、現行法制度のもとで実現可能と考えられる。




(6)維持・管理方策
[1] 計画修繕
   今後家賃収入が減少傾向になることが見込まれる中で、計画修繕については、修繕工事の内容やその実施間隔などを工夫し、今後とも費用支出の合理化を図っていく必要がある。

[2] 組織体制
   財団法人雇用振興協会が、今後採用する管理人については、非正規職員として採用することを検討すべきである。

[3] 管理コスト
   民間賃貸住宅の一般的な管理費用水準と現在の管理費用をモデル的に比較したところ、後者の方が年間で約100万円程度低廉な価格となっている。この差は、民間の場合、そもそも適正利益が必要なこと、また、例えば共用部の清掃を住民による自治会に依頼している例があること等が要因として挙げられる。
   さらに、今後、入居者向け売却を含め処分を円滑に進めていくためには、既に住民との信頼関係を長年にわたって構築してきた管理主体が管理を続けることで、住民に対していたずらに不信感を与えないことも重要な要素のひとつとして留意すべきである。


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