2. 家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告

(1)原因家庭用品等種別の動向
    小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が224件(30.9%)で最も多かった。次いで「医薬品・医薬部外品」が100件(13.8%)、「玩具」が69件(9.5%)、「金属製品」が54件(7.4%)、「プラスチック製品」が43件(5.9%)、「硬貨」が27件(3.7%)、「洗剤・洗浄剤」が26件(3.6%)、「電池」及び「食品類」がそれぞれ23件(3.2%)、「化粧品」が19件(2.6%)であった(表4)。
  報告件数上位10品目までの原因製品については、順位に若干の変動はあるものの、例年と概ね同じ品目により占められていた。また、上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変化がなく、本年も同様であった(図2)。

(2)各報告項目の動向
    障害の種類については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが77件(10.6%)と最も多かった。次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが44件(6.1%)となっていた。全体として、症状の発現が見られたものは144件(19.9%)であったが、これらには複数の症状を認めた例も含んでいた。本年度は幸い命が失われるといった重篤な事例はなかったが、「入院」、「転科」及び「転院」となったものが28件あった。それ以外はほとんどが「帰宅」となっていた。
  誤飲事故発生時刻については、例年同様夕刻以降に発生件数が増加するという傾向が見られ、午後4時〜10時の時間帯の合計は391件(56.8%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)であった(図3)。
  誤飲事故発生曜日については、曜日間による差は特に見られなかった。

(3)原因製品別考察
 
1) タバコ
    平成17年度におけるタバコの誤飲に関する報告件数は224件(30.9%)であり、全報告例に対する割合は減ったものの、約3割を占めていた。その内訳を誤飲した種別で見ると、タバコ*144件、タバコの吸い殻**67件、タバコの溶液***13件となっていた。
  タバコを誤飲した年齢について見ると、例年と同様、ハイハイやつかまり立ちを始める6〜11か月の乳児に報告例が集中しており、126件(56.3%)に上った。これに 12〜17か月の幼児(73件)と合わせると88.8%を占めた(図4)。
  乳幼児は1歳前後には独力で室内を移動できるようになり、1歳6か月以降には動きも早くなって、両手で容器を持ち飲水できるようにもなる。タバコの誤飲事故の大半は、この1歳前後の乳幼児に集中して見られ、この時期を過ぎれば急激に減少する。期間にしてわずか1年に過ぎないこの期間に注意を払うことにより、タバコの誤飲事故は大幅に減らすことができるはずである。子供の保護者は、この時期に、タバコ、灰皿を子供の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないこと、飲料の空き缶等を灰皿代わりに使用しないこと等、その取扱いや置き場所に細心の注意を払うことが必要である。さらに、保護者など周囲の人が禁煙する、あるいは家庭における喫煙を中止することにより、乳幼児のいる環境からタバコを遠ざけていくことが重要である。なお、タバコ水溶液の場合はニコチンが特に吸収され易い状態にあるので、タバコ水溶液の誤飲の原因となりかねないジュースの空き缶を灰皿代わりにするなどの行為は避けるべきである。
  タバコの誤飲による健康被害を症状別に見ると、症状を訴えた37件中、消化器症状の訴えがあった例が30件と最も多かった。また、9割以上が受診後帰宅している。幸いなことに大事には至らなかったが、入院の事例が1件報告されている。
  来院前に応急処置を行った事例は138件あった。行った処置としては「かき出した・拭いた」事例が、58件と最も多かった。応急処置として、何らかの飲料を飲ませた例は37件あった。タバコの誤飲により問題となるのは、タバコに含まれるニコチン等を吸収してしまうことである。タバコを吐かせるのはニコチン等の吸収量を減らすことができるので有効な処置であるが、この際飲料を飲ませると逆にニコチンが吸収され易くなってしまう可能性がある。吐かせようとして飲料を飲ませても吐かなかった例も見られており、タバコを誤飲した場合には飲料は飲ませず直ちに受診することが望ましい。

  :「タバコ」 :未服用のタバコ
** :「タバコの吸い殻」 :服用したタバコ
*** :「タバコの溶液」 :タバコの吸い殻が入った空き缶、空瓶等にたまっている液

◎事例1【原因製品:タバコ】
  患者   1歳1か月 男児
症状 呼吸困難はなく、意識清明。顔色蒼白でややぐったりしていた。胸部聴診上異常なし。採血、胸部X線上異常はなかった。
誤飲時の状況 午後7時頃、母親が別室にいた時、母親のかばんの中に入れていたタバコを食べた様子。突然静かになったので様子を見に行くと、フィルターが2本残っていた。30分後嘔吐1回。その後も悪心続き来院。
来院前の処置 なし。
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 胃洗浄をしたところ、タバコの残渣あり。点滴を行い、帰宅。

<担当医のコメント>(参考)
基本的には誤飲後、速やかに受診することが望ましい。

◎事例2【原因製品:タバコの吸い殻】
  患者   1歳1か月 女児
症状 嘔吐
誤飲時の状況 携帯用の灰皿が開いていた。抱いていた父親が気付くと口の中が灰で黒くなっていた。吐物にタバコあり。
来院前の処置 吐かせた。
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 吐根シロップによりタバコの葉少量嘔吐。その後、帰宅。

◎事例3【原因製品:タバコの溶液】
  患者   1歳7か月 男児
症状 なし。
誤飲時の状況 捨てようと思って不燃物の所に置いていた瓶に吸い殻を2本入れた。中に少量の水が入っていた。児が一口飲んだところで気が付いた。
来院前の処置 ジュースを飲ませて吐かせようとするも吐かず。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 吐根シロップによりタバコ浸出液嘔吐。点滴を行い、帰宅。

<担当医のコメント>(参考)
ニコチンは溶液中には大量に溶出するので危険である。飲料の缶を灰皿の代わりにすることは、絶対に止めるべき。万が一、タバコを浸した溶液を飲んでしまった場合は、速やかに受診することが望ましい。

2) 医薬品・医薬部外品
    平成17年度における医薬品・医薬部外品に関する誤飲の報告件数は100件(13.8%)であった。前年度は97件(15.5%)であり、件数及び全体に対する割合はほぼ同じであった。症状の認められた18件中、傾眠などの神経症状が認められた例が9件と最も多く、次いで悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の消化器症状が認められた例が7件あった。入院を必要とした事例も13件あった。入院例の多くの場合は保護者が注意をそらせている間に薬品を大量服用してしまっている例であった。
  誤飲事故を起こした年齢について見ると、タバコが6〜17か月児に多く見られているのに対し、医薬品・医薬部外品は年齢層はより広いものの、特に1〜2歳児にかけて多く見られていた(61件、61.0%)。この頃には、自らフタや包装を開けて薬を取り出せるようになり、また家人が口にしたものをまねて飲んだりもするため、誤飲が多くなっているものと思われた。
  また、誤飲の発生した時刻は、昼や夕刻の食事前後と思われる時間帯に高い傾向があった。本人や家人が使用し、放置されていたものを飲んだり、家人が口にしたのをまねて飲むこと等が考えられ、使用後の薬の保管には注意が必要である。
  原因となった医薬品・医薬部外品の内訳を見ると、中枢神経系の薬が20件で最も多いなど、一般の家庭に常備されているものだけではなく、保護者用の処方薬による事故も多く発生していた。
  医薬品・医薬部外品の誤飲事故は、薬がテーブルや棚の上に放置されていた等、保管を適切に行っていなかった時や、保護者が目を離した隙等に発生している。また、シロップ等、子供が飲みやすいように味付けしてあるもの等は、子供がおいしいものとして認識し、冷蔵庫に入れておいても目につけば自ら取り出して飲んでしまうこともある。小児の医薬品類の誤飲は、時に重篤な障害をもたらすおそれがある。家庭内での医薬品類の保管・管理には十分な注意が必要である。

◎事例1【原因製品:錠剤】
  患者   3歳1か月 男児
症状 ややもうろうとしている。
誤飲時の状況 午後6時15分頃、薬(アレルギー治療薬)を握りしめていた。
来院前の処置 吐かせた。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 血液検査(異常なし)、点滴後帰宅。

<担当医のコメント>(参考)
内服直前に水を取りに行った隙に誤飲することも多く、服用したら必ず片付けるように心がけること。万が一、誤飲した場合は飲んだ薬や薬の添付文書を持って必ず病院を受診することが望ましい。

◎事例2【原因製品:シロップ剤】
  患者   3歳3か月 男児
症状 やや傾眠傾向
誤飲時の状況 市販の子ども咳止めシロップをほとんど飲んでしまった。
来院前の処置 吐かせようとするも吐かず。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 点滴後帰宅。

<担当医のコメント>(参考)
家庭内での医薬品類の保管場所には注意が必要。

3) 電池
    平成17年度の電池の誤飲に関する報告件数は23件(3.2%)であった。前年度21件(3.4%)と比較して件数、割合はともに同程度で推移しており、単独製品による事故数としては依然軽視できない数である。
  誤飲事故を起こした年齢について見ると、前年度と同様、本年も特に6か月〜17か月児に多く見受けられたが、依然幅広い時期に発生している。
  誤飲した電池の大半は、ボタン電池であった(18件)。電卓やリモコン等ボタン電池を使用した製品が多数出回っているが、誤飲事故は幼児がこれらの製品で遊んでいるうちに電池の出し入れ口のフタが開き、中の電池が取り出されたために起こっている場合がある。製造業者は、これらの製品について幼児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要であろう。また保護者は、電池の出し入れ口のフタが壊れていないか確認することが必要である。
  また放電しきっていないボタン電池は、体内で消化管等に張り付き、せん孔の可能性があるので、子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。
  誤飲した場合には、直ちに受診することが望ましい。

◎事例1【原因製品:ボタン電池】
  患者   0歳10か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 携帯電話に付いているストラップ(電池で光るタイプ)の電池が気付いたらなくなっていた。電池ケースのふたが周辺に転がっていた。その状況から電池の誤飲を疑い来院。
来院前の処置 お茶を飲ませた。
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 前医で磁石付きカテーテルによる摘出を試みたが失敗し、救急搬送される。X線撮影により下行結腸内にボタン電池を発見。保存的に観察して、2日後排泄を確認。

<担当医のコメント>
誤飲すると危険なものは、子どもの手の届く場所には置かないこと。また誤飲した場合には速やかに受診し、担当医の判断に委ねることが望ましい。

4) 食品
    本年度は、酒類の誤飲事故の報告が5件と前年度(10件)より減少した。放置されたものの誤飲や保護者が誤って飲ませてしまった例などであった。全般的に言えることであるが、誤飲の危険のあるものを放置しないようにすることが重要である。また、酒類の保管方法や子供に飲料を与える前には内容を確認する等の注意も必要である。
  飴やこんにゃくゼリー等は、大きさや形状、硬さのために誤飲事故の原因となりやすいため、特に注意する必要がある。このような食品は、気道に入ってしまうと摘出が困難であり、重篤な呼吸器障害につながるおそれがあり、乳幼児にそのまま食べさせること自体禁忌である。
  食品を乳幼児等に与える際には、保護者はこのような点にも十分に注意を払う必要がある。

◎事例1【原因製品:酒】
  患者   3歳1か月 男児
症状 ふらつきあり、顔面発赤
誤飲時の状況 午前7時30分頃、350ml缶のチューハイが半分残っていたのを飲んだ。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 点滴後、帰宅。

<担当医のコメント>(参考)
飲みかけのアルコール類を机の上などに放置しないよう注意が必要である。特に、アルコール類の容器がジュース類の容器と類似している場合には、子供が誤って飲む場合もあるので危険である。

◎事例2【原因製品:銀杏】
  患者   2歳11か月 男児
症状 両上下肢間代性けいれん。脱力、固視。嘔吐。
誤飲時の状況 午後11時頃、父親と一緒に銀杏を24個食べた後、就寝。翌朝5時頃1分程度の両上下肢間代性けいれんが出現。脱力、固視出現2〜3分。嘔吐1回。救急車にて来院。
来院前の処置 なし。
受診までの時間 4〜6時間未満
処置及び経過 点滴、入院2日

<担当医のコメント>
銀杏は食べ過ぎるとけいれんを起こすことがあるので、注意が必要である。

◎事例3【原因製品:アメ玉】
  患者   1歳7か月 女児
症状 ヒクヒクした。
誤飲時の状況 公園からの帰り道にアメ玉を食べたら、転んだ拍子に飲み込んだ。しばらくヒクヒクしていたため胸部を叩打したら治まった。
来院前の処置 胸部叩打
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 処置なく帰宅。

<担当医のコメント>
乳幼児は特に転びやすく事故を起こしやすいため、歩行しながら物を食べるのは危険である。
また、食品ではないが、食品の付属物や関連器具による誤飲例も次のように見られている。同様な誤飲は前年度も報告されており、誤飲の可能性のあるものとして注意が必要である。

  また、食品ではないが、食品の付属物や関連器具による誤飲例も次のように見られている。同様な誤飲は前年度も報告されており、誤飲の可能性のあるものとして注意が必要である。

◎事例4【原因製品:乾燥剤】
  患者   3歳2か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 お菓子を食べた後、気が付いたらシリカゲルの袋を破り、シリカゲルを指にくっつけてなめていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 処置なく帰宅。

5) その他
    代表的な事例だけではなく、家庭内・外にあるもののほとんどが子供の誤飲の対象物となりうる。1歳前であっても指でものをつまめるようになれば、以下に紹介する事例のように様々な小さなものを無分別に口に入れてしまう。床など子供の手の届くところにものを置かないよう注意が必要である。

  固形物の誤飲では、ビー玉、キーホルダー等の玩具、磁石、ボタン等が報告されたが、今年度はストラップ等携帯電話関連の製品は5件であった。これら固形物の場合は、誤飲製品が体内のどこにどんな状態で存在するか一見したところで分からないので、専門医を受診し、経過を観察するか、摘出するかなど適切な判断を受けることが望ましい。誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題はないとする向きもあるが、硬貨が胃内から長時間排泄されなかったり、小型磁石や先に別途例示されたボタン電池等の場合に腸壁に張り付きせん孔してしまったりして、後日腹痛や障害を発生させる可能性もあるので、排泄の確認は是非するべきである。排泄が確認できないときは、フォローアップのレントゲン等を撮り、消化管の通過障害をきたすおそれがある場合や、せん孔に至る危険性がある場合は、外科的な摘出術を考慮することも必要である。
  本年も衣類用の防虫剤の誤飲事例があった。防虫剤は見かけ上よく似ているが、よく使用されている成分は数種類あるので、医療機関等に相談する場合は誤飲した製品名等を正確に伝える方がよい。またこれらの防虫剤を誤飲した場合は、応急処置として牛乳を飲ませてはいけない。牛乳は防虫剤の吸収を促進するためである。
  液体の誤飲では、台所用洗剤、灯油、除光液等が報告された。液体の場合には、コップ等に移し替えたものや、詰め替えボトル入りのものを誤飲する事例が見受けられる。そのようなものを子供の目に付くところへ放置せず、手の届かない場所へ片付ける配慮が必要である。

【固形物】
◎事例1【原因製品:キーホルダーのチェーン】
  患者   1歳9か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 口の中にキーホルダーのチェーンを入れて遊んでいた。捜したがどこにもない。飲み込んだかもしれない。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線撮影により胃内にチェーンを確認。その他の処置なく帰宅。2日後に排泄を確認。

<担当医のコメント>
長いものであっても、飲み込んでしまうことがある。

◎事例2【原因製品:指輪】
  患者   1歳0か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況   午前6時10分、嘔吐2回あり。指輪がないのに気付いたため受診。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線撮影により指輪を確認後、帰宅。1日後に排泄を確認。

◎事例3【原因製品:水銀体温計】
  患者   1歳1か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況   父と一緒にいたが、父は寝ていた。母が帰宅すると、手に体温計を持って遊んでいた。先が折れており、床に水銀が散らばっていた。口の中をかき出すと、1mm未満の小さな玉が2つあった。
来院前の処置 口の中の水銀をかき出した。
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 X線撮影により1mm以下の非透過性物体を確認。その後帰宅

<担当医のコメント>(参考)
胃の中に入った水銀はほぼ吸収されない。

◎事例4【原因製品:ヘアピン】
  患者   0歳10か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 目を離した隙にヘアピン(直径3×2cm)を飲み込んだかも知れない。ヘアピンが見あたらないため、受診。
来院前の処置 なし
受診までの時間 4時間〜6時間未満
処置及び経過 X線撮影により、腹部にヘアピンを確認。2日後に排泄確認。

<担当医のコメント>
比較的大きいヘアピンだが、以前にも同様の例を経験していた。その症例ではまだ胃の中にあったので、内視鏡的摘出術を依頼すべく他院の小児外科に紹介したところ、保存的な経過観察の後、後日排泄が確認された。その経験を踏まえ、本症例では来院時の腹部レントゲンで少なくとも胃以降に存在しているようだったので、帰宅させ、そのまま経過観察したところ、2日後に排泄が確認された。

◎事例5【原因製品:お線香】
  患者   1歳3か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 本人が口をモゴモゴしていた。母が口の中に指を入れるとお線香が出てきた。
来院前の処置 不明
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 処置なく帰宅

◎事例6【原因製品:硬貨】
  患者   2歳2か月 男児
症状 嘔気、嘔吐
誤飲時の状況   親とは別の部屋にいた。財布を持っており、中の10円玉が1枚無くなっていることに気づいた。本人は苦しそうにしていた。嘔吐が3回出現。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 X線撮影により喉頭部に50円玉を確認。ファイバーにて胃内に落とした後、帰宅。

◎事例7【原因製品:玩具】
  患者   2歳11か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 午後9時20分頃、くつろいでいるところ、「うっ」となって吐きたくても吐けないような様子であった。近くにビー玉があり、食べたのかと聞くと本人sがうなずいたため来院。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査(異常なし)、その後帰宅。

<担当医のコメント>
通常、ビー玉であればX線検査で写る。来院までに吐き出された可能性もある。

◎事例8【原因製品:鉛筆のキャップ】
  患者   4歳9か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 自宅の居間で鉛筆のキャップを口の中に入れ飲んだかもしれない。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 処置なく帰宅

<担当医のコメント>
口の中に入れて遊んだりしないように注意が必要である。

◎事例9【原因製品:殺虫剤】
  患者   0歳11か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 母の入浴中に起きて、テレビの後ろのアリ用殺虫剤(ジェル、顆粒)を発見し、食べた。母が出てきたところ口にくわえていた。
来院前の処置 口の中からかき出した。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄後、帰宅。

【液体】
◎事例10【原因製品:台所用洗剤】
  患者   2歳2か月 男児
症状 嘔気
誤飲時の状況 台所用洗剤で作ったシャボン玉液を飲んだ。口の中を水ですすいだが、気持ち悪がり、吐きそうになる。
来院前の処置 うがいさせた。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 処置なく帰宅

<担当医のコメント>(参考)
台所用洗剤ではシャボン玉遊びをしないこと。

◎事例11【原因製品:化粧品】
  患者   1歳9か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 隣の部屋の段ボール箱の中にあった除光液の容器を手にしていた。7割は残っていたはずだが、半分ぐらいに減っていて、口のにおいをかぐと、除光液のにおいがした。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 処置なく帰宅。

◎事例12【原因製品:芳香剤】
  患者   1歳7か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 車の中で目を離した隙に、ジェル状芳香剤を飲んでしまった。
来院前の処置 かき出した、拭いた。水を飲ませた。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 処置なく帰宅

◎事例13【原因製品:漂白剤】
  患者   1歳0か月 男児
症状 顔色不良、眼の充血
誤飲時の状況 母の所にハイハイしてきたときには、顔面蒼白で眼が充血していた。また、手がぬるぬるし、洗剤の匂いがした。
来院前の処置 拭いた。
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 処置なく帰宅

◎事例14【原因製品:カビ取り用洗浄剤】
  患者   0歳11か月 女児
症状 咽頭に2,3か所びらんあり。
誤飲時の状況 母が風呂掃除をしているところへ児が入ってきた。母が振り向いたときには、カビ取り用洗浄剤のボトルを口につけていた。
来院前の処置 水を飲ませた。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 血液検査(異常なし)、上部消化管内視鏡検査(食道入口部に軽度発赤あり)、胃洗浄、その後入院(2日間)。

<担当医のコメント>
カビとり用洗浄剤は危険なため、極力乳幼児の手の届かない所に置くことが重要である。

◎事例15【原因製品:ベンジン】
  患者   2歳1か月 男児
症状 喘鳴
誤飲時の状況 午後8時50分頃、机の上にあったベンジンのビンを母同室で目を離している間に口元に持って行った。取り上げたら胸元にこぼれ、拭くと同時に吐いた。飲み込んだかどうかは不明。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 喘鳴が認められたため、ネブライザー施行。点滴実施。X線検査では異常は写らず、経過観察後入院(2日間)。症状なく退院。

<担当医のコメント>
揮発性のものは飲み込むことも危険であるが、臭いをかぐことで気管支、肺に異常を起こすことがある。

(4)全体について
    小児による誤飲事故については、減少傾向にはあるものの相変わらずタバコによるものが多い。タバコの誤飲事故は生後6か月からの1年間に発生時期が集中しており、この1年間にタバコの管理に特段の注意を払うだけでも相当の被害の軽減が図れるはずである。
  一方、医薬品の誤飲事故はむしろこれよりも高い年代での誤飲が多い。それ自体が薬理作用を有し、子供が誤飲すれば症状が発現する可能性が高いものなのでその管理には特別の注意を払う必要がある。
  食品であっても、気道を詰まらせ、重篤な事故になるものもあるので、のどに入るような大きさ・形をした物品には注意を怠らないように努めることが重要である。また、酒類にも注意が必要である。
  小児による誤飲事故の発生時間帯は夕刻以降の家族の団らんの時間帯に半数近くが集中しているという傾向が続いている。保護者が近くにいても、乳幼児はちょっとした隙に、身の回りのものを分別なく口に入れてしまうので注意が必要である。
  一方、保育所や幼稚園等、多数の子供が生活している施設で起こった誤飲の報告事例は少数で、このことからも、誤飲は避けられない事故ではなく、誤飲をする可能性があるものを極力子供が手にする可能性のある場所に置かないことが最も有効な対策であることがうかがい知れる。
  乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力、乳幼児の口に入るサイズのものは置かないようにしたい。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。口に入るサイズはおよそ直径3cmの円に入るものであるとされている。これは、玩具であっても同様である。
  なお、米国において、本年3月にブレスレットを誤飲し、ブレスレット中の鉛中毒による死亡事例の発生が報告された。本邦においては、これまで企業等にアクセサリー等による鉛中毒は報告されていないが、比較的安価なアクセサリーを中心に鉛を含有する製品の販売が確認されている。アクセサリーは小さい部品等から構成されており、他の製品と同様、誤飲の可能性のある年齢の子供から離して管理することが必要と考えられる。
  誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為であり、応急処置に関して正しい知識を持つことが重要である。
  なお、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故に関する注意点や応急処置などを記した啓発パンフレットが作成され、全国の保健センター等に送付されている。


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