照会先厚生労働省健康局結核感染症課
課長三宅
担当者三木(内線2376)
杉江(内線2373)
電話03-5253-1111
平成18年11月22日


フィリピンからの帰国後に狂犬病を発症した患者(輸入感染症例)について


 今般、フィリピンより帰国した男性が、現地で狂犬病ウイルスに感染し、国内で発症したことが確認されましたので、その経過等についてお知らせします。

1. 患者に関する情報
(1)年齢・性別 60歳代 男性
(2)経過
11月15日 風邪様症状と右肩の痛みが発現。
11月19日 A病院を受診。点滴及び血液検査を受け帰宅。夕方薬を服用しようとしたが、飲水困難となる。夜になり呼吸困難を呈する。
11月20日 A病院に再度受診。興奮状態となり、恐風症状及び恐水症状を呈していることから、狂犬病の疑いがあるとしてB病院に転院。
11月22日 現在、人工呼吸器を装着。

(3)感染原因
 当該患者は、フィリピン滞在中(8月頃)、犬に手を咬まれており、これにより狂犬病に罹患したと判断される。なお、現地における暴露後のワクチン接種は受けていない。

2. 検査に関する情報
 国立感染症研究所において、PCR法による病原体の遺伝子の検出を試みたところ、狂犬病ウイルス遺伝子を確認。

 以上の検査結果及び臨床症状等を踏まえ、担当医師により狂犬病と診断され、今朝、管轄保健所に感染症法に基づく届出がなされたものである。

3. 厚生労働省の対応
 輸入感染事例の報告を受けて、検疫所等における渡航者向けの一層の注意喚起を行うとともに、医師に対する診断方法等の情報の周知を図ることを予定している。

(注) 狂犬病は、通常、ヒト−ヒト感染することはなく、感染した患者から感染が拡大することはありません。

(注) アジア地域など、狂犬病流行国において犬等に咬まれ、ワクチン未接種の方は、最寄りの医療機関又は保健所にご相談下さい。



狂犬病について(参考)

1 病原体:狂犬病ウイルスrabies virus
2 感染動物:全ての哺乳類(アジアでは犬が主な感染源)
3 感染経路:通常は罹患動物による咬傷の部位から、唾液に含まれるウイルスが侵入。通常、ヒトからヒトに感染することはなく、感染した患者から感染が拡大することはない。

4 発生状況:日本、英国、スカンジナビア半島の国々など一部の地域を除いて、全世界に分布
 (1) 世界の発生状況(WHO、2004年)
 年間の死亡者数推計 55,000人
 (うち、アジア地域31,000人、アフリカ地域24,000人)
 年間の暴露後ワクチン接種者数推計 1千万人
 (2) フィリピンにおける発生状況(WHO、2000年から2004年)
  2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
死亡者数 359人 293人 269人 258人 248人
犬の発生数 不明 2,550頭 2,365頭 1,901頭 1,546頭
 (3) 我が国における発生状況
  1953年 1954年 1955年 1956年 1957年以降
死亡者数 3人 1人 0人 0人 発生なし(※)
犬の発生数 176頭 98頭 23頭 6頭 発生なし
1970年及び2006年に狂犬病流行地渡航中に犬に咬まれ帰国後発病・死亡した輸入症例がそれぞれ1例ずつあり。

5 潜伏期:1〜3ヶ月程度

 診断と治療
 (1) 臨床症状
前駆期;発熱、食欲不振、咬傷部位の痛みや掻痒感
急性神経症状期;不安感、恐水及び恐風症状、興奮性、麻痺、幻覚、精神錯乱などの神経症状
昏睡期;昏睡(呼吸障害によりほぼ100%が死亡)
 (2) 病原体診断
(1)PCR法による病原体の遺伝子の検出(唾液等)
(2)蛍光抗体法(FA)によるウイルス抗原の検出(皮膚、角膜等)
(3)間接蛍光抗体法(IFA)又はELISA法による抗ウイルス抗体の検出(脳脊髄液)
(4)分離・同定による病原体の検出(唾液)
 (3)治療:発病後の有効な治療法はない。

7 発症予防:罹患動物に咬まれた場合の治療として、ワクチン接種などにより行う。

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