第2 平成18年度地方労働行政の課題
 厳しさの残る雇用情勢下における雇用の安定、労働条件の確保に向けた総合的な対応
 改善が進んでいるものの、厳しさが残る雇用情勢の中で、雇用情勢の地域差の問題への対応や離職者の早期再就職の促進とともに、適正な労働条件の確保を図ることが引き続き課題となっている。
(1) 雇用情勢が厳しい地域に重点化した雇用対策等
 雇用情勢は、全般的には改善が進んでいるところであるが、地域別にみると、大都市圏をはじめとして、有効求人倍率が1倍を超える地域が増える一方で、雇用情勢の改善が遅れ、依然として厳しい状況が続いている地域もあるなど、雇用情勢には地域差がみられる。こうした状況に対応するためには、地域が自発的に、創意工夫を活かしながら、雇用創造に取り組んでいくことが必要である。このため、特に、雇用の改善の動きが弱い北海道、青森県、秋田県、高知県、長崎県、鹿児島県、沖縄県の7道県に対して、地域の雇用創造に自発的に取り組む市町村等の取組を支援する「地域雇用創造支援事業」等について重点的・集中的に実施し、地域の取組を支援することとしている。また、当該7道県において「地域雇用戦略会議」を設置・開催し、関係府省の協力を得て、地方自治体、地元経済界、地方支分部局等の地域関係機関が地域レベルで一体となって雇用の改善に取り組む体制を構築することとしている。
 また、景気の回復を反映し、求人が増加している雇用環境の下で、職種、年齢、能力、賃金、雇用形態等における雇用のミスマッチの縮小に努め、的確な求人と求職のマッチングの実現を図ることが重要である。このため、公共職業安定所の特性、ノウハウを最大限に活かし、求職者の個々の状況に的確に対応したきめ細かな就職支援の実施、未充足求人のフォローアップなどの求人者サービスの充実に全力で取り組むことが必要である。
 さらに、多くの求職者が正社員等の安定した雇用形態での就職を希望しているにもかかわらず、正社員有効求人倍率は、全体の有効求人倍率に比べて低い水準にとどまっていることから、正社員求人の確保に努め、積極的なマッチングを行い、求職者が希望する就職の実現を図るとともに、離職者の早期再就職促進を実現するため、公共職業訓練の的確な活用、失業認定と職業紹介の一体的実施を行うことが重要である。
 加えて、公共職業安定所において有為な民間人材の積極的活用を図るとともに、公共職業安定所と民間や地方公共団体との共同・連携による就職支援や情報提供を効果的、効率的に実施することが必要である。その中で、キャリア交流プラザ事業の公設民営などの市場化テストのモデル事業を円滑に実施する。
 障害者が社会の支え手の一人として誇りを持って自立できるような環境の整備については、福祉施設での就労から雇用への移行の促進、精神障害者に対する雇用対策の強化など、障害者の雇用・就業支援を充実させることが重要である。
 このほか、生活保護受給者、児童扶養手当受給者、ホームレス等に関しても、福祉から就労へとの観点のもと、就労による自立を支援することが必要である。
(2) 労働条件の確保・改善
 景気は緩やかに回復を続けているものの、依然として会社都合等による解雇、労働条件の引下げ等労働条件を巡る相談が増加している状況がみられる他、賃金不払残業等法定労働条件の履行確保上の問題も生じている。
 このため、労働条件の確保を図るために労働基準行政が果たすべき役割の重要性を踏まえ、一般労働条件の確保・改善対策についてこれを積極的に推進し、企業における基本的な労働条件の枠組みを定着させるとともに、それらに関する管理体制を適正に確立させていくことが重要である。

 健康で安心して働ける環境の整備
 労働環境が変化する中で、全ての労働者が健康で安全かつ安心して働くことができ、また性別等にかかわりなく能力が発揮できるなど公正な働き方を実現することが課題となっている。
(1) 労働者の安全と健康の確保
 近年、爆発事故等の大規模な災害が頻発し、過労死、過労自殺等事案の件数も高水準で推移している。その背景として、昨今の企業を取り巻く社会経済情勢の変化の中で、就業形態の多様化、業務の質的・量的変化、いわゆる「現場力」の低下等の労働現場における様々な変化が指摘されている。これらに十分配慮の上、引き続き、第10次の労働災害防止計画にのっとり、労働安全衛生関係法令の遵守をはじめとした労働安全衛生面の対策を的確に推進するとともに、今般の労働安全衛生法の改正趣旨等を踏まえ、事業場における自主的な安全衛生活動を促進する取組が重要な課題となる。
 特に、多発する重大災害等を防止するために、製造業、建設業をはじめとした業種別労働災害防止対策、交通労働災害、機械災害等の特定災害防止対策に引き続き強力に取り組むとともに、改正労働安全衛生法において努力義務とされた危険性又は有害性等の調査等の措置(以下「リスクアセスメント」という。)、労働安全衛生マネジメントシステムの普及促進等を図る必要がある。
 また、長時間労働による脳・心臓疾患や精神障害等の労災認定件数が高い水準で推移していることから、改正労働安全衛生法において義務付けられた長時間労働等を行った者に対する医師による面接指導制度の周知徹底を含め、引き続き、過重労働による健康障害防止対策及びメンタルヘルス対策に強力に取り組む必要がある。また、小規模事業場における健康管理の徹底のため、地域産業保健センターの機能の充実など、小規模事業場に対する支援の強化が必要である。
 さらに、アスベスト使用建築物の解体作業等における健康障害防止対策や、退職者を含めたアスベスト取扱い作業等の従事者に対する健康管理対策等の労働者の健康を確保するための施策を積極的に推進していく必要がある。
(2) 労災補償の迅速・適正な実施
 調査・判断の難しい脳・心臓疾患、精神障害等事案の労災請求件数が依然として高い水準にあることから、事務処理能力の向上や組織的対応の推進を図ることにより、迅速・適正な労災補償の実施に引き続き努める必要がある。
 また、平成18年度には、通勤災害保護制度、障害等級表、障害等級認定基準及び労災診療費算定基準が改正されることから、改正内容を踏まえ、適切な事務処理に努める必要がある。
 さらに、「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下「アスベスト救済法」という。)が平成17年度末から施行されることから、平成18年度においても、その円滑な施行のための取組を進める必要がある。
(3) 男女雇用機会均等の更なる推進
 働く女性が性別により差別されることなく、かつ、母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮することができる雇用環境を整備するため、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「男女雇用機会均等法」という。)の履行確保を図るとともに、女性の能力発揮のための企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)を促進すること等により、実質的な男女の均等確保の実現を目指すことが重要となっている。
(4) 労働保険制度の適正な運営
 労働保険が、労災保険給付や失業等給付等を通じた労働者の福祉の増進に寄与する制度として的確な役割を果たしていくため、これまで以上に、適用徴収業務の適正な推進により、制度の信頼性、費用負担の公平性等を確保する必要があり、引き続き、(1)未手続事業の一掃、(2)労働保険料の適正徴収、(3)労働保険事務組合の一層の活用、育成、指導などの取組が必要である。
(5) 個別労働紛争の解決の促進
 企業組織の再編や企業の人事労務管理の個別化、就業形態の多様化等を背景として増加する個別労働紛争について、その実情に即した迅速かつ適正な解決に向け、都道府県労働局において、的確な相談・情報提供、助言・指導及びあっせんの実施等の個別労働紛争解決制度の積極的な運用に努めるとともに、企業内における紛争の自主的な解決を促進する必要がある。

 少子・高齢化の進行と多様な働き方への対応
 急速な少子化の進行により、今後、人口減少社会を迎える中で、我が国の経済社会の活力を維持するためには、労働力人口を確保し、多様な人材がその能力を最大限に発揮する環境の整備が不可欠であることから、若者の職業意識啓発と就職支援、仕事と子育ての両立など仕事と生活のバランスのとれた働き方の実現、高齢者や障害者の雇用環境の整備といった対策が重要である。
 また、平成16年12月に策定された「少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画について」(「子ども・子育て応援プラン」)では、平成21年度までの5年間に講ずる具体的な施策内容と目標として、若者の就労支援の充実、仕事と家庭の両立支援と働き方の見直しなどが含まれていることを踏まえ、都道府県労働局においても、同プランに掲げられた施策を強力に進めるため、局内外の連携を強める必要がある。
 さらに、働き方の多様化が進む中では、就業形態の違いにより労働者の処遇に不合理な格差が生じないように、適正な評価と公正な処遇の図られた働き方の選択肢の整備を図ることが必要である。
(1) 若者の職業意識啓発と就労支援
 働く意欲が不十分な若者の増加が指摘されているが、若者が意欲を持って働き、経済的にも自立できるようにすることが喫緊の課題となっている。このため、経済界、労働界、教育界、マスメディア、地域社会等関係者が一体となって若者の雇用問題に取り組む「若者の人間力を高めるための国民運動」を展開しており、各界が連携・協力しつつ、国民運動の趣旨を踏まえた具体的取組が行われるよう、都道府県労働局が積極的に働きかけていくことが必要である。
 また、「若者自立・挑戦プラン」に基づく各施策を着実に実施するとともに、平成18年1月に関係府省により策定された「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」(改訂版)を推進することにより、若者の職業的自立を促進することが重要である。
(2) 仕事と家庭の両立支援
 出産を機に働く女性の約7割が退職する等、出産・子育て等と仕事との両立が困難であり、また、一旦退職すると、再就職・再就業が困難となっているが、就業継続を希望する女性は増加しており、子育てで離職した者の再就業希望も多い。
 このため、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」という。)及び「次世代育成支援対策推進法」(以下「次世代法」という。)について、引き続きその実効を確保していくとともに、出産・子育て等により離職した女性について、その能力を活かした再就職・再就業を支援していくことが必要である。
(3) 高齢者の雇用の確保
 少子高齢化の急速な進行により、今後、労働力人口の減少が見込まれる中で、我が国経済社会の活力を維持していくためには、高齢者の高い就業意欲が活かされ、その有する能力が十分に発揮されることが不可欠となる。このため、平成16年6月に改正高年齢者雇用安定法が成立し、平成18年4月から段階的に65歳までの定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の措置が義務付けられることから、これを踏まえ、当面は65歳までの雇用の確保に取り組みつつ、将来的には意欲と能力のある限り働くことができる社会の実現に向けた環境整備を進めることが重要である。また、高齢期には、個々の労働者の意欲、体力等の個人差が拡大することから、労働者の多様なニーズに対応した雇用・就業機会を確保することも併せて重要である。
(4) 障害者の雇用の確保
 障害者の就業意欲が高まる中、雇用支援策の充実強化を図りながら、障害者雇用の一層の促進を図っていくことが必要となっている。具体的には、平成17年6月に成立した改正障害者雇用促進法や、10月に成立した障害者自立支援法を踏まえ、福祉施策との連携の強化を図るとともに、障害の種類及び程度等に応じたきめ細かな支援を充実していくことが重要である。
 また、改正障害者雇用促進法施行に伴い、在宅就業支援制度等により多様な就業の選択肢を提供し、就業機会の拡大を図ることが重要である。
(5) 多様な働き方への対応
 急速な少子・高齢化、労働者の意識やニーズの多様化が進む中で、多様な働き方の選択肢の整備を図るとともに、その担い手である労働者が生涯を通じて職業に意欲と能力を十分発揮できるようにしていくことが必要である。
 これを踏まえ、多様な働き方の選択肢の整備を図るため、ワークシェアリングの普及・啓発を進めるとともに、雇用・就業形態の多様化に伴う課題に対応するため、パートタイム労働者と通常の労働者との均衡等を考慮した適正な処遇の推進、派遣労働者の就業条件の整備、在宅ワークの健全な発展のための施策を推進していくことが必要である。
 また、「労働力調査」により労働時間の動向をみると、雇用者全体に占める週労働時間60時間以上の雇用者と35時間未満の雇用者の割合が同時に高まる「労働時間分布の長短二極化」が近年進展する傾向にある。さらに、年次有給休暇の取得率の低下も続いている。こうした中で、労働時間、休日及び休暇が個々の労働者の健康や生活に配慮して定められるよう、所定外労働の削減、年次有給休暇の取得促進等これまでの取組も踏まえつつ、事業場ごとの労使の自主的取組を一層促進していくことが必要である。
(6) 2007年問題への対応
 2007年(平成19年)以降、「団塊の世代」が引退過程に入る中、今後とも我が国産業が競争力を維持しさらに発展していくためには、熟練技能者の優れた技能を失うことなく、いかに次の世代へ円滑に継承していくかが重要であり、このことが「2007年問題」として喫緊の課題となっている。このため、技能継承・現場力強化に取り組む中小企業等への支援や、若者を現場に誘導・育成するための取組が必要である。

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