2. 家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告

(1) 原因家庭用品等種別の動向
 小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が226件(36.1%)で最も多かった。次いで「医薬品・医薬部外品」が97件(15.5%)、「玩具」及び「金属製品」がそれぞれ46件(7.3%)、「プラスチック製品」が28件(4.5%)、「洗剤・洗浄剤」が24件(3.8%)、「化粧品」が22件(3.5%)、「電池」が21件(3.4%)、「硬貨」が20件(3.2%)、「食品類」が19件(3.0%)であった(表4)。
 報告件数上位10品目までの原因製品については、順位に若干の変動はあるものの、例年と概ね同じ品目により占められていた。また、上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変化がなく、本年も同様であった(図2)。


(2) 各報告項目の動向
 障害の種類については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが73件(11.7%)と最も多かった。次いで意識障害、ふらつき等の「神経症状」が認められたものが22件(3.5%)となっていた。全体として、症状の発現が見られたものは133件(21.2%)であったが、これらには複数の症状を認めた例も含んでいた。本年度は幸い命が失われるといった重篤な事例はなかったが、「入院」、「転科」及び「転院」となったものが16件あった。それ以外はほとんどが「帰宅」となっていた。
 誤飲事故発生時刻については、例年同様夕刻以降に発生件数が増加するという傾向が見られ、午後4時〜10時の時間帯の合計は304件(52.2%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)であった(図3)。
 誤飲事故発生曜日については、曜日間による差は特に見られなかった。


(3) 原因製品別考察
 1) タバコ
 平成16年度におけるタバコの誤飲に関する報告件数は226件(36.1%)であり、依然全報告例の約4割を占めていた。その内訳を誤飲した種別で見ると、タバコ134件、タバコの吸い殻80件、タバコの溶液12件となっていた。
 タバコを誤飲した年齢について見ると、例年と同様、ハイハイやつかまり立ちを始める6〜11か月の乳児に報告例が集中しており、138件(61.1%)にのぼった。これに12〜17か月の幼児(58件)と合わせると86.7%を占めた(図4)。
 乳幼児は1歳前後には独力で室内を移動できるようになり、1歳6か月以降には動きも早くなって、両手で容器を持ち飲水できるようにもなる。タバコの誤飲事故の大半は、この1歳前後の乳幼児に集中してみられ、この時期を過ぎれば急激に減少する。期間にしてわずか1年に過ぎないこの期間に注意を払うことにより、タバコの誤飲事故は大幅に減らすことができるはずである。子供の保護者は、この時期に、タバコ、灰皿を子供の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないこと、飲料の空き缶等を灰皿代わりに使用しないこと等、その取扱いや置き場所に細心の注意を払うことが必要である。更に、保護者など周囲の人が禁煙する、あるいは家庭における喫煙を中止することにより、乳幼児のいる環境からタバコを遠ざけていくことが重要である。なお、特に、タバコ水溶液の場合はニコチンが吸収され易い状態にあるので、タバコ水溶液の誤飲の原因となりかねないジュースの空き缶を灰皿代わりにするなどの行為は避けるべきである。
 タバコの誤飲による健康被害を症状別に見ると、症状を訴えた38件中、消化器症状の訴えがあった例が29件と最も多かった。9割以上が受診後帰宅している。幸いなことに大事には至らなかったが、入院の事例が1件報告されている。
 来院前に応急処置を行った事例は101件あった。行った処置としては「かきだした・拭いた」事例が、38件と最も多かった。応急処置として、何らかの飲料を飲ませた例は16件あった。タバコの誤飲により問題となるのは、タバコに含まれるニコチン等を吸収してしまうことである。タバコを吐かせるのはニコチン等の吸収量を減らすことができるので有効な処置であるが、この際飲料を飲ませると逆にニコチンが吸収され易くなってしまう可能性がある。吐かせようとして飲料を飲ませても吐かなかった例も見られており、タバコを誤飲した場合には飲料は飲ませず直ちに受診することが望ましい。

  注) 「タバコ」 :未服用のタバコ
  「タバコの吸い殻」 :服用したタバコ
  「タバコの溶液」 :タバコの吸い殻が入った空き缶、空瓶等に溜まっている液

  ◎ 事例1【原因製品:タバコ】
 患者    1歳0か月 女児
 症状  なし
 誤飲時の状況  母がトイレに行って戻ってきたらタバコを口にしていた。
 来院前の処置  口中の葉を取り出した
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  処置なく帰宅

<担当医のコメント>
 基本的には誤飲後、30分以内に受診することが望ましい。

  ◎ 事例2【原因製品:タバコの吸い殻】
 患者    0歳10か月 女児
 症状  嘔吐
 誤飲時の状況  棚の上に置いてあった灰皿を、誰も見ていない間に床に落とし、吸い殻を口に入れていた。母親は同室にいたが、メールをしていて気付かず。様子を見ていたが、食事後嘔吐したため来院。
 来院前の処置  口の中を水でゆすいだ。
 受診までの時間  1時間〜1時間30分未満
 処置及び経過  胃洗浄で食物残渣少量を確認、点滴し帰宅

  ◎ 事例3【原因製品:タバコの溶液】
 患者    1歳2か月 男児
 症状  なし
 誤飲時の状況  ベランダで母親が洗濯物を干しており、児はそばで遊んでいた。母親が気付いた時には、タバコの吸い殻の入った缶の中の液体がこぼれており、児の手と口の周囲にタバコが付着していた。缶に何本入っていたかは不明。症状はなかったが、近医に連絡後、救急車にて搬送された。
 来院前の処置  吐かせようと口に指を入れた。
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  胃洗浄、点滴を行い、帰宅

<担当医のコメント>
 ニコチンは溶液中には大量に溶出するので危険です。飲料の缶を灰皿の代わりにすることは、絶対に止めるべきです。万が一、タバコを浸した溶液を飲んでしまった場合は、なるべく早く(30分以内に)受診してください。


 2) 医薬品・医薬部外品
 平成16年度における医薬品・医薬部外品に関する誤飲の報告件数は97件(15.5%)であった。前年度は99件(11.5%)であり、件数及び全体に対する割合はほぼ同じであった。症状の認められた23件中、傾眠などの神経症状が認められた例が15件と最も多く、次いで悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の消化器症状が認められた例が4件あった。入院を必要とした事例も8件あった。入院例の多くの場合は保護者が注意をそらせている間に薬品を大量服用してしまっている例であった。
 誤飲事故を起こした年齢について見ると、タバコが6か月〜17か月児に多く見られているのに対し、医薬品・医薬部外品は年齢層はより広いものの、特に1〜2歳児にかけて多く見られていた(67件、69.1%)。このころには、自らフタや包装を開けて薬を取り出せるようになり、また家人が口にしたものをまねて飲んだりもするため、誤飲が多くなっているものと思われた。
 また、誤飲の発生した時刻は、昼や夕刻の食事前後と思われる時間帯に高い傾向があった。本人や家人が使用し、放置されていたものを飲んだり、家人が口にしたのをまねて飲むこと等が考えられ、使用後の薬の保管には注意が必要である。
 原因となった医薬品・医薬部外品の内訳を見ると、中枢神経系の薬が29件で最も多いなど、一般の家庭に常備されているものだけではなく、保護者用の処方薬による事故も多く発生していた。
 医薬品・医薬部外品の誤飲事故は、薬がテーブルや棚の上に放置されていた等、保管を適切に行っていなかった時や、保護者が目を離した隙等に発生している。また、シロップ等、子供が飲みやすいように味付けしてあるもの等は、子供がおいしいものとして認識し、冷蔵庫に入れておいても目に付けば自ら取り出して飲んでしまうこともある。小児の医薬品類の誤飲は、時に重篤な障害をもたらす恐れがある。家庭内での医薬品類の保管・管理には十分な注意が必要である。

  ◎ 事例1【原因製品:錠剤】
 患者    3歳5か月 男児
 症状  ふらつき
 誤飲時の状況  午後6時30分頃、何かを飲み込んでいる様子。その後の夕食中にふらつきが見られた。階段に抗うつ薬の錠剤の空のシート(10錠分)が落ちており、薬を男児が飲み込んだと考え来院。
 来院前の処置  催吐
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  血液検査、胃洗浄、点滴(入院3日間)

<担当医のコメント>
 内服直前に水を取りに行った隙に誤飲することも多く、服用したら必ず片付けるように心がけてください。万が一、誤飲した場合は飲んだ薬や薬の説明書を持って必ず病院を受診してください。

  ◎ 事例2【原因製品:軟膏】
 患者    1歳1か月 男児
 症状  なし
 誤飲時の状況  居間の棚の上に置いてあった小児用のアトピー性皮膚炎の塗り薬のふたを自分で開けて、指にとって舐めていた。親は台所にいた。
 来院前の処置  お茶を飲ませた
 受診までの時間  30分未満
 処置及び経過  処置なく帰宅


 3) 電池
 平成16年度の電池の誤飲に関する報告件数は21件(3.4%)であった。前年度21件(2.4%)と比較して件数は同じであったが、割合はわずかであるが増加しており、単独製品による事故数としては依然軽視できない数である。
 誤飲事故を起こした年齢について見ると、前年度と同様、本年も特に6か月〜17か月児に多く見受けられたが、依然幅広い時期に発生している。
 誤飲した電池の大半は、ボタン電池であった(17件)。電卓やリモコン等ボタン電池を使用した製品が多数出回っているが、誤飲事故は幼児がこれらの製品で遊んでいるうちに電池の出し入れ口のフタが開き、中の電池が取り出されたために起こっている場合がある。製造業者は、これらの製品について幼児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要であろう。また保護者は、電池の出し入れ口のフタが壊れていないか確認することが必要である。
 また放電しきっていないボタン電池は、体内で消化管等に張り付き、せん孔の可能性があるので、子供の目に付かない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。

  ◎ 事例1【原因製品:ボタン電池】
 患者    4歳9か月 男児
 症状  なし
 誤飲時の状況  母が外出から帰宅した午後5時頃、男児が、ボタン電池を飲んだと言った。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  X線撮影により胃に電池を確認。透視下磁石付き胃内チューブにて摘出。

<担当医のコメント>
 幼児期の子供を一人で家に残すことは、誤飲等事故の要因となることがある。


 4) 食品
 本年度は、酒類の誤飲事故の報告が10件と前年度(7件)より増加している。放置されたものの誤飲や保護者が誤って飲ませてしまった例などであった。全般的に言えることであるが、誤飲の危険のあるものを放置しないようにすることが重要である。また、酒類の保管として、飲みかけの酒類を机の上などに放置しないようにしたり、酒類の容器がジュース類の容器と類似している場合には、子供が誤って飲む場合もあるので注意が必要である。また、子供に飲料を与える前には内容を確認するようにしたい。
 飴やこんにゃくゼリー等は、大きさや形状、硬さのために誤飲事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道に入ってしまうと摘出が困難であり、重篤な呼吸器障害につながるおそれがあり、乳幼児にそのまま食べさせること自体禁忌である。
 食品を乳幼児等に与える際には、保護者はこのような点にも十分に注意を払う必要がある。

  ◎ 事例1【原因製品:酒】
 患者    3歳3か月 女児
 症状  悪心・嘔吐(2回)、腹痛
 誤飲時の状況  宴会場でウーロン茶を頼んだが、間違ってウイスキーが届き、知らずに女児が飲んだ(100ml)。顔が紅潮し、腹痛を訴え気付いた。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  30分未満
 処置及び経過  点滴し帰宅

  ◎ 事例2【原因製品:食品】
 患者    0歳5か月 女児
 症状  呼吸困難
 誤飲時の状況  スイカの種がのどの奥へ入ってしまった。泣いて苦しがったため、手を突っ込んで出そうとしたが、出せず、苦しそうな声を出す。その後、落ち着いて眠った。
 来院前の処置  吐かせようとした。
 受診までの時間  不明
 処置及び経過  処置なく帰宅

<担当医のコメント>
 5か月は、離乳食を始める時期です。5か月の乳児にスイカを直接食べさせるのは適切ではなく、つぶして、こしてからあげましょう。このようにすることで、種も除くことができます。

 また、食品ではないが、食品の付属物や関連器具による誤飲例も次のように見られている。同様な誤飲は昨年度も報告されており、誤飲の可能性のあるものとして注意が必要である。

  ◎ 事例3【原因製品:食品包装】
 患者    1歳0か月 女児
 症状  出血
 誤飲時の状況  よだれに血が混じっていた。ベビーフードの袋の切れ端が口の中にあり、取り出した。
 来院前の処置  不明
 受診までの時間  不明
 処置及び経過  処置なく帰宅

<担当医のコメント>
 1歳ともなると色々なものに興味を持って口に入れます。袋の端で口の中を切ったと考えられます。子供は床の上にあるものを拾いますし、発達が早ければ立ち上がって台の上のものをつかむので、絶えず注意をする必要があります。


 5) その他
 代表的な事例だけではなく、家庭内・外にあるもののほとんどが子供の誤飲の対象物となり得る。1歳前であっても指でものを摘めるようになれば、以下に紹介する事例のように様々な小さなものを無分別に口に入れてしまう。床など子供の手の届くところにものを置かないよう注意が必要である。

 固形物の誤飲では、ビー玉、キーホルダー等の玩具、磁石、ボタン等が報告され、中でもストラップ等携帯電話関連の製品が増加している(7件)。これら固形物の場合は、誤飲製品が体内のどこにどんな状態で存在するか一見したところでわからないので、専門医を受診し、経過を観察するか、摘出するかなど適切な判断を受けることが望ましい。誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題はないとする向きもあるが、硬貨が胃内から長時間排泄されなかったり、小型磁石や先に別途例示されたボタン電池等の場合に腸壁に張り付きせん孔してしまったりして、後日腹痛や障害を発生させる可能性もあるので、排泄の確認はするようにしたい。
 本年も衣類用の防虫剤の誤飲事例があった。防虫剤は見かけ上よく似ているが、使用されている成分は数種類あるので、医療機関等に相談する場合は誤飲した製品名等を正確に伝えた方がよい。またこれらの防虫剤を誤飲した場合は、応急処置として牛乳を飲ませてはいけない。牛乳は防虫剤の吸収を促進するためである。
 液体の誤飲では、台所用洗剤、ハンドソープ、除光液等が報告された。液体の場合には、コップ等に移し替えたものや、詰め替えボトル入りのものを誤飲する事例が見受けられる。そのようなものを子供の目に付くところへ放置せず、手の届かない場所へ片付ける配慮が必要である。

 【固形物】
  ◎ 事例1【原因製品:携帯ストラップ】
 患者    1歳10か月 女児
 症状  なし
 誤飲時の状況  夕食後、居間で兄と遊んでいた。親がおむつを換えようと、女児を横にすると、口をもごもごさせていたので、口を開けたら、携帯ストラップのチェーンを口腔内に確認。すぐ取り出そうとしたが、飲み込んだ。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  30分未満
 処置及び経過  X線撮影により胃内にチェーンを確認。その他の処置なく帰宅

<担当医のコメント>
 最近、携帯電話のストラップ関連製品を誤飲した報告が増えています。子供が噛んで引っ張ると容易に壊れ、飲み込む場合があるので注意が必要です。また、子供の遊び道具として携帯電話を手渡すことがないよう注意してください。

  ◎ 事例2【原因製品:金属製品(ヘアピン)】
 患者    1歳0か月 女児
 症状  なし
 誤飲時の状況  午後8時頃、ヘアピン(5×1.5センチ)を飲み込んだかもしれないとのことで、救急外来受診。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  2時間〜3時間未満
 処置及び経過  X線撮影により胃内に確認。十二指腸を通過するか微妙だったため、内視鏡的除去を他院に依頼(転院)。2日後に排泄を確認した。

  ◎ 事例3【原因製品:体温計】
 患者    2歳6か月 男児
 症状  なし
 誤飲時の状況  午後8時30分頃自宅居間にて水銀体温計の先(水銀の溜まっている部分)をかじって飲み込んでしまった。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  X線撮影により胃内に水銀とガラス片を確認。胃洗浄を勧めたが、親が自宅で様子を見たいという意向であり、帰宅した。

<担当医のコメント>
 胃の中に入った水銀はそのほとんどが吸収されず、排泄されるが、注意が必要。

  ◎ 事例4【原因製品:ステイプル針】
 患者    0歳9か月 女児
 症状  悪心・嘔吐
 誤飲時の状況  ステイプル針の箱をひっくり返して遊んでいた。口の中にステイプル針のかたまりが入っており、その後せんべいを一口食べ、むせて嘔吐。
 来院前の処置  不明
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  X線撮影したが特に所見なく帰宅。

  ◎ 事例5【原因製品:豆電球】
 患者    2歳8か月 女児
 症状  なし
 誤飲時の状況  豆電球を口の中で転がして遊んでいたところ、歯で噛んでしまった。ガラスの破片を飲み、歯に破片が付いていた。
 来院前の処置  うがい
 受診までの時間  2時間〜3時間未満
 処置及び経過  処置なく帰宅

  ◎ 事例6【原因製品:画びょう】
 患者    1歳0か月 女児
 症状  なし
 誤飲時の状況  玄関で画びょうを口に入れて歯茎でかんでいた。飲み込んでいないか不安であったため来院。
 来院前の処置  口の中のものを取り出した。
 受診までの時間  2時間〜3時間未満
 処置及び経過  X線検査では異常なく帰宅

<担当医のコメント>
 一般家庭ではマグネットの使用が多くなってきたが、まだまだ画びょうも使用している。特に葬式の時に画びょうの誤飲はしばしば経験する。通常、胃内に確認でき自然排泄するが、食道上部に刺入し摘出手術となった事例もあった。

  ◎ 事例7【原因製品:硬貨】
 患者    3歳0か月 男児
 症状  異常な泣き方
 誤飲時の状況  急に啼泣した。その際一円玉を手に握っていて、周囲にも2枚落ちていた。
 来院前の処置  不明
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  X線撮影により食道入口部に一円玉を確認。ファイバーにて胃内に落とし、その後入院し、全身麻酔下で摘出(入院3日間)。

  ◎ 事例8【原因製品:玩具】
 患者    1歳9か月 男児
 症状  なし
 誤飲時の状況  気付いたら魚釣りセットの竿をかじっていた。付いていたはずの磁石がなくなっていた。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  1時間半〜2時間未満
 処置及び経過  X線検査、その後帰宅。

  ◎ 事例9【原因製品:玩具】
 患者    3歳7か月 女児
 症状  なし
 誤飲時の状況  母が近くにいたが、横になって目を離している時に「口に入れて遊んでいたビー玉を飲み込んだ」と子供が言った。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  30分未満
 処置及び経過  X線検査、その後帰宅。

  ◎ 事例10【原因製品:パチンコ玉】
 患者    5歳6か月 男児
 症状  なし
 誤飲時の状況  本人がパチンコ玉を食べたと言う。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  帰宅、排泄確認(2日後)

 
  ◎ 事例11【原因製品:磁石】
 患者    1歳9か月 男児
 症状  なし
 誤飲時の状況  磁石を口に入れて遊んでいたら、突然吐き気の様子あり。飲んでしまったようであった。1日放置したが、便中に出てこないので来院した。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  12時間以上
 処置及び経過  X線撮影により、腹部に磁石を確認。その他の処置は行わず帰宅

 【液体】
  ◎ 事例12【原因製品:台所用洗剤】
 患者    2歳7か月 男児
 症状  嘔吐
 誤飲時の状況  テーブルに置いてあった詰め替え用台所用洗剤を、ペットボトル入り飲料と勘違いして、飲んだ。直後、嘔吐。
 来院前の処置  不明
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  処置なく帰宅

<担当医のコメント>
 漂白剤、洗剤等を日常飲食する容器やそれに類似した容器に入れて放置することは、誤飲の原因となるため行うべきではありません。

  ◎ 事例13【原因製品:化粧品】
 患者    1歳4か月 女児
 症状  なし
 誤飲時の状況  浴室にあったクレンジングオイルを、自分でふたを開けて飲んだ(15ml)。
 来院前の処置  水を飲ませた。
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  吐根シロップ投与後、帰宅。

<担当医のコメント>
 ジュースなど飲料と類似の容器や内容物の色・香りの良いものは誤飲しやすい。特に1歳6か月前後は何にでも興味を示し、操作したり飲んだりといった事故を起こしやすい。

  ◎ 事例14【原因製品:芳香剤】
 患者    1歳9か月 男児
 症状  悪心・嘔吐
 誤飲時の状況  車の芳香剤を50から100ml飲んだ。その後、嘔吐3回。
 来院前の処置  不明
 受診までの時間  30分〜1時間未満
 処置及び経過  処置なく帰宅

  ◎ 事例15【原因製品:ポット洗浄剤】
 患者    1歳0か月 女児
 症状  なし
 誤飲時の状況  液体タイプのポット洗浄剤を入れたお湯でミルクを作ってしまい、女児に飲ませてしまった。
 来院前の処置  指を入れて催吐
 受診までの時間  1時間〜1時間30分未満
 処置及び経過  処置なく帰宅

<担当医のコメント>
 本来、ポット洗浄剤の主成分はクエン酸で酸性なので、吐かせてはいけない。

  ◎ 事例16【原因製品:漂白剤】
 患者    1歳4か月 男児
 症状  異常な泣き方
 誤飲時の状況  午前9時頃、兄と二人で台所で遊んでいて、弟(患者男児)の悲鳴が聞こえたため、親が見に行くと、漂白剤約250mlの容器が空になっていた。男児は頭から濡れていた。飲んだかどうかは不明。
 来院前の処置  シャワーで洗った。
 受診までの時間  1時間〜1時間30分未満
 処置及び経過  角膜洗浄、胃洗浄した後に帰宅。

 【不明】
  ◎ 事例17【原因製品:不明】
 患者    1歳7か月 男児
 症状  異常な泣き方、元気がない
 誤飲時の状況  親が掃除機をかけながらそばにいた夕方、何かを飲み込んだ模様。祖母がのどに手をつっこみ取ろうとしたが、苦しみながら飲み込んだ。
 来院前の処置  なし
 受診までの時間  1時間〜1時間30分未満
 処置及び経過  X線検査では異常は写らず、特に所見もないため帰宅。


(4) 全体について
 小児による誤飲事故は減少傾向にはあるものの相変わらずタバコによるものが多い。タバコの誤飲事故は生後6か月からの1年間に発生時期が集中しており、この1年間にタバコの管理に特段の注意を払うだけでも相当の被害の軽減が図れるはずである。
 一方、医薬品の誤飲事故はむしろこれよりも高い年代での誤飲が多い。それ自体が薬理作用を有し、子供が誤飲すれば症状が発現する可能性が高いものなのでその管理には特別の注意を払う必要がある。
 食品であっても、気道を詰まらせ、重篤な事故になるものもあるので、のどに入るような大きさ・形をした物品には注意を怠らないように努めることが重要である。また、酒類にも注意が必要である。
 小児による誤飲事故の発生時間帯は夕刻以降の家族の団らんの時間帯に半数近くが集中しているという傾向が続いている。保護者が近くにいても、乳幼児はちょっとした隙に、身の回りのものを分別なく口に入れてしまうので注意が必要である。
 一方、保育所や幼稚園等、多数の子供が生活している施設で起こった誤飲の報告事例は少数で、このことからも、誤飲は避けられない事故ではなく、誤飲をする可能性があるものを極力子供が手にする可能性のある場所に置かないことが最も有効な対策であることがうかがい知れる。
 乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力、乳幼児の口に入るサイズのものは置かないようにしたい。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。口に入るサイズはおよそ直径3cmの円に入るものであるとされている。これは、玩具であっても同様である。

 誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為であり、応急処置に関して正しい知識を持つことが重要である。
 なお、(財)日本中毒情報センターにより、小児のタバコ誤飲事故に関する注意点や応急処置などを記した啓発パンフレットが作成され、全国の保健センター等に送付されている。

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