厚生労働省
平成17年7月4日
担当 厚生労働省雇用均等・児童家庭局
雇用均等政策課
 課長 石井 淳子
 課長補佐 六本 佳代
  電話 03-5253-1111(内線7838)
  夜間直通 03-3595-3271

「女性の坑内労働に係る専門家会合」報告書について


 女性の坑内労働については、昭和22年に制定された労働基準法において全面的禁止の規定が設けられ、その後若干の規制緩和がなされたものの、現在においても、一部の例外を除き、原則として女性の坑内労働は禁止されている。
 昨年9月から、労働政策審議会雇用均等分科会において、男女雇用機会均等の更なる推進について幅広い検討が行われており、また、女性の坑内労働についても、女性技術者の増加等を背景に、女性技術者が監督業務等に従事できるようにするべき等の規制の見直しが要望されている。
 このため、厚生労働省では、学識経験者の参集を求め、昨年12月より「女性の坑内労働に係る専門家会合」(座長:櫻井治彦 中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター所長)を開催し、女性の坑内労働の規制の在り方について、現在の作業環境、作業態様と坑内労働が女性の健康等に与える影響等について、専門的見地から検討を行ってきた。このたび、その検討結果が別添のとおり取りまとめられたので、その内容を公表する。
 今後、厚生労働省としてはこの報告を受け、労働政策審議会雇用均等分科会における男女雇用機会均等に係る議論の中で、女性の坑内労働に係る規制の在り方について検討をしていただくこととしている。


女性の坑内労働に係る専門家会合報告書の概要


 はじめに

 現在も女性の坑内労働は原則禁止されているが、女性技術者の増加等を背景に、規制の見直しが要望されていることを踏まえ、現在の坑内労働の作業環境、作業態様と坑内労働が女性の健康等に与える影響等について、専門的見地から検討したもの。

 坑内労働の概況と特徴
(1) 坑内労働の概況
(1) 坑内労働には、「鉱山」におけるものと「ずい道工事等鉱山以外」におけるものがあるが、現在その大半は鉱山以外。いずれも技術の向上や機械化の進展等により筋肉労働の比率は低下。

(2) 鉱山における坑内労働
 鉱山数、鉱山労働者数、坑内労働者数ともに大きく減少。現在稼行中の主な坑内掘鉱山は19カ所。坑内労働者数は約1000人。

(3) ずい道工事等鉱山以外における坑内労働
 ずい道工事等の8割以上が道路、鉄道及び水路。今後とも一定数の労働者が従事する見込み。主な施工法は、山岳工法、シールド工法、推進工法、開削工法等。

(2) 坑内労働の特徴と労働災害の状況
(1) 坑内労働の特徴
 当専門家会合では鉱山3カ所、ずい道工事4カ所の現地調査を実施し、その特徴を整理。
 掘削する地層によりガスや地下水の流出、落石、落盤等の可能性。
 掘削断面の大小や工法の相違により、坑内環境や機械化が可能な範囲が異なる。
 重機作業がほとんどであるが、小規模断面では人力による筋肉労働が必要。

(2) 労働災害の状況
 近年、鉱業及びずい道新設事業における労働災害の発生は大幅に減少し、必ずしも常に産業平均より労働災害が多く発生しているものではない。

 坑内労働に係る規制について
(1) 我が国における坑内労働に係る規制について
(1) 坑内労働に係る女性特有の規制
 労働基準法第64条の2により女性一般の坑内労働は原則禁止(例外的に、「医師・看護師の業務」、「取材の業務」及び「高度の科学的な知識を必要とする自然科学研究の業務」について臨時的入坑は許容(妊産婦の規制あり。))。
 昭和22年の労働基準法制定時、肉体的、生理的に特殊性を持つ女性にとり適当な労働とはいえない等の理由で全面禁止。
 昭和31年(1956年)に「すべての種類の鉱山の坑内作業における女子の使用に関する条約」(ILO第45号条約)(1935年採択、1937年発効)を批准。
 昭和59年の婦人少年問題審議会建議を受け、母性保護規定以外の女子保護措置である坑内労働規制を見直し、一部の臨時的な業務について規制を緩和。

(2) 坑内労働に係る男女共通の規制
 昭和22年の労働基準法による労働時間規制等の他、昭和24年に鉱山保安法、昭和35年にじん肺法、昭和47年に労働安全衛生法が制定。その後、規定の追加や規制内容の強化を順次実施し、落盤等による危険の防止、粉じん対策、坑内ガスの管理など坑内の安全衛生対策について一定の水準を確保。

(3) 坑内労働以外の労働に係る女性特有の規制
 母性保護の見地から、労働基準法第64条の3により、妊産婦の妊娠・出産・哺育等に有害な業務への就業が制限。同規定により、重量物取扱業務・有害ガス等が発散する場所における業務は女性の妊娠及び出産に係る機能に有害な業務として、妊産婦以外の女性にも制限(同条は坑内労働にも適用。)。

(2) 諸外国における坑内労働に係る規制について
 当専門家会合では、ILO、EU、イギリス、オランダ、フィンランド、フランス、ドイツ及びアメリカについて調査を実施。

(1) ILO第45号条約
 同条約は、鉱山の坑内労働(鉱山以外の坑内労働は対象外)における著しく過酷な条件から女性を保護することを目的としており、女性の鉱山における坑内作業を禁止。管理の地位にあって筋肉労働をしない場合等については例外を規定。
 調査対象国中、現在同条約を批准している国はフランス及びドイツのみ。イギリス(1988年廃棄)、オランダ(1998年廃棄)、フィンランド(1997年廃棄)及びアメリカ(未批准)は批准せず。

(2) 諸外国における規制の概況
 調査対象国中、女性の鉱山以外における坑内労働を規制している国はない。
 鉱山の坑内労働については、フランス、ドイツが女性の就業を規制。
 1975年の国際婦人年以降、男女の機会均等確保の観点から、先進国を中心に10を超える国が、ILO第45号条約を廃棄。

(3) 諸外国における規制の見直しの考え方等
 調査対象国のうち、ILO第45号条約廃棄・国内規制の撤廃を行った国における廃棄等の理由は、(ア)雇用における男女の機会均等、(イ)安全技術の向上や労働環境の改善、(ウ)坑内労働のリスクは男女共通であること等。
 これらの国も、妊娠中や授乳期の女性労働者については保護するため規制。

(4) 国際機関の動向
 ILO理事会は、より新しい条約である「鉱山における安全及び健康に関する条約」(第176号条約)を批准することを推進し、併せて古い条約である第45号条約を廃棄することを勧めることを1996年に決議。
 EUにおいては、欧州委員会が、女性の鉱山の坑内労働を原則禁止しているオーストリアを雇用における男女の均等待遇に関する指令に違反しているとして、2003年に欧州司法裁判所に提訴。オーストリアは実質敗訴。

 現在の坑内労働の作業環境、作業態様と坑内労働が女性の健康等に与える影響について
(1) 落石、落盤、出水、ガス爆発等坑内労働における主なリスク要因
 男女双方が等しく遭遇し得るリスクであり、防止措置が法令に規定された結果労働災害が減少。
(2) その他のリスク要因のうちの有害化学物質による影響
 労働基準法第64条の3により、妊産婦保護及び女性の妊娠・出産機能の保護のため、有害物のガス、蒸気、粉じんが発散している場所における業務は、坑内・坑外を問わず規制。坑内労働に固有の問題として考慮する必要はない。
(3) その他のリスク要因のうちの高温や気圧、粉じんや筋肉労働等による影響
 坑内労働規制を設けた当時と比べ作業環境・作業態様が変化。
 作業環境については、労働安全衛生法令等により管理水準が確保。
 作業態様についても機械化・工法の進展により、重機操作や監視業務が主な作業となり、従前のような筋肉労働は存在しない。
 重量物取扱業務を除き、これまでも坑内労働以外の業務については、諸法令等の規制下、高温や異常気圧等の下での妊産婦以外の女性の就労や、粉じん作業(有害物の粉じんを除く)への女性の就労は認められてきたが、妊産婦以外の女性に、健康面や安全面で男性と比較して特別に問題が生じるとの明らかな知見は得られていない。

(4) 以上から、総じて坑内労働については、作業環境及び作業態様の双方において格段に高い安全衛生の確保が図られるようになり、このような安全衛生の水準が保たれていることを前提とすれば、現在では女性の坑内での就労を一律に排除しなければならない事情は乏しくなってきていると考えられる。
(5) ただし、妊産婦については母性保護の観点から、十分な配慮が必要と考えられる。

 坑内労働に係る規制の課題

 女性の坑内労働に係る規制の在り方については、今般の取りまとめ結果を踏まえ、適切な対応、措置を講じるための検討を行うことが望まれる。
 なお、今後の検討によってはILO第45号条約との整合性が問題になるが、その場合、ILO第176号条約が求める安全衛生管理の水準にも留意が必要。



(関係資料)

報告書 (PDF:183KB)
目次 (PDF:17KB)
 1 鉱山の概況等 (PDF:36KB)
 2 ずい道工事等の現況等 (PDF:66KB)
 3 ずい道工事等の施工法 (PDF:55KB)
 4 坑内労働現地調査概要 (PDF:100KB)
 5 労働災害の状況 (PDF:39KB)
 6 女性の坑内労働禁止に関する規定 (PDF:24KB)
 7 女性の坑内労働禁止規定の変遷 (PDF:39KB)
 8 坑内労働の安全衛生確保に係る規制(主要なもの)の変遷 (PDF:26KB)
 9 妊産婦等に係る危険有害業務の就業制限に関する規定 (PDF:78KB)
 10 諸外国における女性の坑内労働に係る規制等 (PDF:63KB)
 11 ILO第45号条約 (PDF:17KB)
 12 ILO第176号条約 (PDF:160KB)
(参考1) 女性の坑内労働に係る要望 (PDF:40KB)
(参考2) 女性土木技術者数の推移 (PDF:37KB)
 女性の坑内労働に係る専門家会合参集者名簿 (PDF:13KB)


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