平成17年5月30日

農薬危害防止運動の実施について


 運動の目的
 梅雨に入り病虫害などの発生が増加し、農薬を使う機会が多くなるこの時期を中心に、農薬の散布中における事故防止や農作物の安全性の確保、生活環境の保全を推進する運動を全国的に展開します。農薬を正しく使うため、農薬取締法、毒物及び劇物取締法等関係法令や農薬の性質及び作用、適正な使用方法、保管管理などについて、周知徹底を図ります。

 実施主体
 厚生労働省、農林水産省、都道府県、保健所を設置する市及び特別区

 実施期間
 平成17年6月1日から同年6月30日まで

 実施事項
  ・広報誌等による啓発宣伝
  ・児童及び生徒に対する本運動の趣旨の普及
  ・講習会等の開催
  ・医療機関等との連携
  ・農薬の適正使用等についての指導
  ・散布作業従事者の健康管理に関する指導
  ・環境への危害防止対策



薬食発第0530001号
17消安第1790号
平成17年5月30日




都道府県知事
保健所設置市市長
特別区区長



殿

厚生労働省医薬食品局長


農林水産省消費・安全局長


平成17年度農薬危害防止運動の実施について


 農薬危害防止運動の実施については、従来から格別の御配慮をいただいているところであるが、昨年度においては、土壌くん蒸剤による周辺住民への被害、リン化アルミニウム製剤の発火事故、劇物に指定されている農薬の盗難等の事例がみられたところである。また、農薬取締法(昭和23年法律第82号)第12条第1項及び「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(平成15年農林水産省・環境省令第5号)に基づき、遵守することが義務付けられた農薬の使用方法に違反した使用事例が散見されたところである。
 農薬危害防止運動は、これまでも農薬の適正な使用及び保管の徹底に大きな役割を果たしてきているところであるが、国民の健康の保護、生活環境の保全、農産物の安全性の確保等に対する社会的関心は非常に高く、これまで以上にその役割が重要となっているところである。
 このような状況にかんがみ、本年においても、国及び地方公共団体の緊密な連携の下、関係諸団体の協力を得て、別紙のとおり「農薬危害防止運動実施要綱」を定め、農薬危害防止運動を全国的に実施することとしたので、貴職におかれても本運動の趣旨を御理解の上、特段の御配慮及び御協力をお願いする。


別紙
農薬危害防止運動実施要綱


1 趣旨
 農薬の安全かつ適正な使用及び保管管理の徹底は、農産物の安全性の確保及び農業生産の安定のみならず、国民の健康の保護及び生活環境の保全の観点からも極めて重要である。
 このため、従来から、農薬取締法(昭和23年法律第82号。以下「法」という。)及び毒物及び劇物取締法(昭和25年法律第303号)に基づく取締り等に努めてきたところである。
 また、近年、食品の安全性に関する社会的関心が高まり、農薬の適正使用等についてもこれまで以上に強く求められるようになったことを踏まえ、平成14年及び平成15年の二度にわたり法改正を行い、安全に係る規制の強化を図ったところである。
 しかしながら、依然として農薬の使用又は保管管理について不適正な事例が散見される状況にある。さらに、最近では農薬の散布地域の周辺住民等の健康への影響について一層の配慮が求められているところである。
 このため、これら関係法令に基づき遵守すべき事項について周知徹底するとともに、農薬の性質等に関する正しい知識を広く普及させることにより、農薬による事故等の発生を極力防止することを目的として、農薬危害防止運動を実施する。

2 名称
 農薬危害防止運動

3 実施期間
 原則として、平成17年6月1日から同年6月30日までの1か月間とする。

4 実施主体
 国、都道府県、保健所設置市及び特別区

5 実施事項
 国にあっては1の(1)及び2の(2)に掲げる事項を実施する。その際、地方農政事務所等の職員を活用し、都道府県等と連携の上、地域に密着した農薬の適正使用等についての指導を行うものとする。
 都道府県、保健所設置市及び特別区にあっては、次に掲げるすべての事項を実施する。その際、地域の特性を活かした運動方針、重点事項等を掲げた実施要領を作成し、関係機関及び関係団体が一体となった協力体制の整備を図るとともに、農薬使用者及び地域住民の意見を採り入れ、運動の活発化を図るよう努めるものとする。

 普及啓発及び関係機関との連携等
(1) 広報誌等による普及啓発
 報道機関への記事掲載の依頼を行うとともに、広報誌、ポスター、インターネット等多様な広報手段を用いて、本運動の普及を図る。また、農薬散布者の不注意等に起因する事故を未然に防止するため、散布作業従事者を対象として、関係法令に基づき遵守すべき事項及び別記1「農薬による事故の主な原因及びその防止のための注意事項」の周知徹底を図る。併せて、農薬の適正な使用や保管管理、中毒時の応急措置等について解説した資料を配布し、農薬に関する正しい知識の普及に努める。
(2) 児童及び生徒に対する本運動の趣旨の普及
 教育委員会の協力を得て、学校薬剤師等が中心となって管内の小学校の児童及び中学校の生徒に対し、本運動の趣旨の普及を図る。
(3) 講習会等の開催
 農業者、ゴルフ場関係者等農薬使用者のほか、毒物劇物取扱業者、農薬販売者等を対象に、農薬の適正な使用及び保管管理の方法、農薬の不適正使用の防止対策、農薬による危害の防止対策、事故発生時の応急措置、事故発生事例、関係法令等に関する講習会等の開催により、農薬に関する正しい知識の普及を図る。
 なお、農薬使用者に対する講習会については、農業者を中心とするよう配慮する。
(4) 医療機関等との連携
 医療機関等に対して、農薬の中毒時の症状及びその応急措置等について解説した資料を配布し、万が一事故が発生した場合の処置体制について万全を期するとともに、今後の事故防止対策に反映させる等の観点から、医療機関等との連携を密にし、医療機関等に対し、事故内容等の速やかな報告を依頼する等事故の状況を的確に把握する。
 農薬の適正使用等についての指導等
(1) 農業者、ゴルフ場関係者等農薬使用者のほか、毒物劇物取扱業者、農薬販売等を対象に、関係法令に基づく立入検査等を実施し、無登録農薬の販売及び使用の取締り並びに使用基準(農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(平成15年農林水産省・環境省令第5号。以下「使用基準省令」という。)で定められている基準をいう。以下同じ。)に違反した農薬の使用に対する指導及び取締りを徹底するとともに、適正な農薬の保管管理、処分等に関し指導する。
 なお、この立入検査の実施に際しては、法に基づく検査にあっては「農薬取締法に基づく立入検査等に係る技術的助言について」(平成15年12月17日付け15消安第4251号農林水産省消費・安全局長通知)を踏まえ、また、毒物及び劇物取締法に基づく検査にあっては毒物劇物監視指導指針(「毒劇物監視指導指針の制定について」(平成11年8月27日付け医薬発第1036号厚生省医薬安全局長通知)で定められた指針をいう。)に基づき、最近事故又は事件が発生している地区の販売者及び使用者、農薬の販売量又は使用量の多い者並びに過去に指導を受けた者に対して、重点的に指導を行うなど、重点実施方針を策定の上、計画的に行うこととする。
 特に、販売者に対する立入検査の実施に際しては、農薬取締担当部局と毒劇物取締担当部局との間で連携を密にする。
(2) 農薬による危害防止及び農作物の安全性を確保するため、農薬使用者等(農薬使用を委託する者を含む。以下同じ。)に対し、別記2「農薬の不適正使用の主な原因及びその防止対策」に基づく対策をとること及び次の事項の徹底を図るよう指導する。なお、指導の実施に当たっては、農業協同組合等の関係機関の職員を活用しつつ、訪問指導や集団指導等の方法によりその効果を上げるよう努めること。
 食用農作物等に農薬を使用するときは、農薬の容器等に表示されている事項を遵守すること。
 最終有効年月を過ぎた農薬を使用しないこと。
 航空機(航空法(昭和27年法律第231号)第2条第1項に規定する航空機をいう。)を用いて農薬を使用しようとするときは、農薬を使用しようとする区域(以下「対象区域」という。)における風速及び風向を観測し、対象区域外に農薬が飛散することを防止するために必要な措置を講じること。
 住宅地周辺等において農薬を使用するときは、農薬が飛散することを防止するため、必要な措置を講じるとともに、事前通知の実施や散布時及び散布後の立て看板の表示等周辺住民に対する配慮に努めること。
 水田において止水を要する農薬(使用基準省令別表第1に掲げる農薬をいう。)を使用するときは、当該農薬が流出することを防止するために必要な措置を講じること。
 土壌において被覆を要する農薬(使用基準省令別表第2に掲げる農薬をいう。)を使用するときは、農薬を使用した土壌から当該農薬が揮散することを防止するために必要な措置を講じること。
 農薬の使用状況等が把握できるよう、次の事項について帳簿に記載するとともに、農薬の保管状況、使い残しの農薬及び空容器の処理状況、使用器具の管理状況等、万が一事故が発生したときの状況等を作業日誌等に記録すること。
(ア) 農薬を使用した年月日
(イ) 農薬を使用した場所
(ウ) 農薬を使用した農作物等
(エ) 使用した農薬の種類又は名称
(オ) 使用した農薬の単位当たりの使用量又は希釈倍数
(3) 農林水産航空事業(「農林水産航空事業の実施について」(平成13年10月25日付け13生産第4543号農林水産事務次官依命通知)に定める「農林水産航空事業」をいう。)の実施主体に対して、当該事業の実施に当たり、関係法令を遵守し、危害の未然防止の徹底を図るよう指導する。
(4) 無人ヘリコプターを用いる農薬使用者等に対し、「無人ヘリコプター利用技術指導指針」(平成3年4月22日付け3農蚕第1974号農林水産省農蚕園芸局長通知)を遵守し、危害の未然防止の徹底を図るよう指導する。
(5) 農薬使用者等に対し、現地混用に関する注意事項の情報提供に努めるとともに、当該注意事項の遵守について指導の徹底を図る。
(6) 住宅地周辺等における農薬の散布作業に従事する者に対し、(2)のエの指導及び「住宅地等における農薬使用について」(平成15年9月16日付け15消安第1714号農林水産省消費・安全局長通知)の周知を徹底するとともに、周辺住民等に対しても農薬に対する正しい理解が得られるよう、必要な情報提供等に努める。
(7) 農薬使用者等に対し、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(昭和25年法律第175号)に基づく有機農産物の認証を受けようとする農家の生産ほ場周辺で作業する場合には、農薬の飛散等に十分注意するよう指導する。
(8) 農薬使用者等に対し、次の事項について周知及び指導の徹底を図る。
 種苗法施行規則(平成10年農林水産省令第83号)、農薬取締法施行規則(昭和26年農林省令第21号)及び使用基準省令の改正により、本年6月21日から指定種苗については種苗生産段階において使用された農薬の有効成分及び使用回数が表示されることとなるとともに、当該種苗を用いて農産物を生産する場合には、農薬のラベルに表示されている有効成分の総使用回数から当該種苗に表示されている使用回数を引いた回数を超えて農薬を使用してはならないこととされること。
 使用基準省令附則第3条に基づき承認していた約9千件のマイナー作物に対する経過措置のうち、約5千6百件については、本年3月末日をもってその承認を取り消したところである。このため、当該経過措置の承認が取り消された農薬を使用しないこと。
 農薬販売者の届出を行っていない者がインターネットオークション上で農薬を販売する事例が発生したところである。農薬の販売に当たっては、都道府県知事への届出が義務づけられているところであり、当該届出を行うことなく、農薬をインターネット等を利用して販売しないこと。
 散布作業従事者の健康管理に関する指導
 農薬の散布作業に従事する者に対し、その健康の管理に十分留意させるとともに、特に病害虫の共同防除に従事する者に対しては、作業の前後に必要に応じて健康診断を行うよう指導する。
 環境への危害防止対策
(1) 魚介類の被害の防止、河川、水道水源等の汚染の防止等環境の保全を図るため、農薬を使用する場所の周辺の公共用水域の水質の調査等を必要に応じて行い、その結果を活用して農薬使用者等を指導する。なお、水質調査等の実施に際しては、水道事業者等関係機関との連携を図り、当該事業者等が実施する水質検査結果を活用する。
(2) 土壌くん蒸剤の臭化メチルについては、特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(昭和63年法律第53号)第20条第1項の規定に基づく特定物質の排出抑制・使用合理化指針(昭和64年1月4日環境庁・通商産業省告示第2号)に基づき、その使用量及び放出量の削減並びに代替薬剤及び代替技術の円滑な導入・普及を強力に推進する。
(3) みつばち、蚕等の有用生物及び野生生物に対する被害を防止するため、農薬使用者に対し農薬の適正な使用方法の遵守、農薬の適切な保管管理及び農薬の用途外使用の防止を徹底する。



別記1
農薬による事故の主な原因及びその防止のための注意事項


 農薬による事故の主な原因
(1) 農薬の保管管理が不適切であり、老人、子供等が誤飲する状況にあったこと。
(2) 散布作業前日及び散布作業後に飲酒又は夜更かししたこと。
(3) 病後、睡眠不足時等体調の万全でない状態で散布作業に従事したこと。
(4) 農薬用マスク、保護メガネ等の防護装備が不十分な状態で散布作業に従事したこと。
(5) 炎天下で長時間散布作業に従事したこと。
(6) 強風中や風下での散布等散布者の不注意により、農薬に暴露したこと。
(7) 散布途中で喫煙したこと又は散布後農薬が付着した手で食事をしたこと。
(8) 防除機等の点検不備により薬液を浴びたこと。
(9) 周辺に通行人がいることを十分確認せず散布したこと。
(10) 土壌くん蒸剤を使用した後、揮散防止措置を講じなかったこと。
(11) 定められた使用方法以外の方法による散布等農薬を不適正な方法で使用したこと。
 農薬による事故防止のための注意事項
(1) 毒物又は劇物に該当する農薬のみならず、全ての農薬について、安全な場所に施錠して保管する等農薬の保管管理には十分注意すること。
(2) 農薬を他の容器(清涼飲料水の容器等)へ移し替えないこと。
(3) 散布作業前日及び散布作業後には、飲酒又は夜更かしをしないこと。
(4) 体調の優れない、又は著しく疲労しているときは、散布作業に従事しないこと。
(5) 農薬の使用に当たっては、容器の表示事項等をよく読んで、安全かつ適正に使用すること。また、使用に関し不明な点がある場合は、病害虫防除所等に相談すること。
(6) 農薬の調製又は散布を行うときは、農薬用マスク、保護メガネ等防護装備を着用し、かつ、農薬の取扱いを慎重に行うこと。
(7) 散布に当たっては、事前に防除機等の十分な点検整備を行うこと。
(8) 風下からの散布、水稲の病害虫防除の際の動力散粉機(多孔ホース噴頭)の中持ち等はやめ、農薬を浴びることのないように十分に注意すること。
(9) 農薬を散布するときは、散布前に関係者に連絡し、必要に応じ立札を立てることなどにより、子供や散布に関係のない者が作業現場に近づかないよう配慮するとともに、居住者、通行人、家畜、蚕等に被害を及ぼさないよう、風向き等に十分注意すること。
(10) 散布作業は、風の強くない、朝夕の涼しい時間を選び、2〜3時間ごとに交替して行うこと。
(11) 公園、校庭等に農薬を散布した後は、少なくとも当日は散布区域に縄囲いや立札を立てる等により、関係者以外の者の立入りを防ぐようにすること。
(12) クロルピクリン剤等土壌くん蒸剤の取扱いについては、表示された使用上の注意事項を遵守すること。また、薬剤が揮散し周辺に影響を与えないよう風向きなどに十分注意し、被覆を完全に行うこと。
(13) 水田において止水を要する農薬(使用基準省令別表第1に掲げる農薬をいう。)を使用するときは、使用基準省令第7条及び水質汚濁性農薬の使用規制に関する都道府県知事の規則を遵守し、水田周辺の養魚池における淡水魚又は沿岸養殖魚介類の被害、河川、水道水源等の汚染の防止等環境の保全に万全を期すること。
(14) 農薬の散布によってめまいや頭痛が生じ、又は気分が少しでも悪くなった場合には、医師の診断を受けること。
(15) 作業後は、手足はもちろん、全身を石けんでよく洗うとともに、洗眼し、衣服を取り替えること。
(16) 使用残農薬を不注意に廃棄したり、不要になった農薬を放置したりすると、思わぬ事故を引き起こすことがあるので、その処理に当たっては関係法令を遵守して適正に行うこと。また、散布に使用した器具及び容器を洗浄した水は、河川等に流さず、散布むらの調整等に使用すること。特に、種子消毒剤等農薬の廃液処理に当たっては、周辺環境に影響を与えないよう十分配慮した処理を行うこと。
(17) 農薬の空容器、空袋等の処理は、廃棄物処理業者に処理を委託する等により適切に行うこと。



別記2

農薬の不適正使用の主な原因及びその防止対策


 農薬の不適正使用の主な原因
(1) 使用する農薬と同一の有効成分を含む他の農薬が使用対象とする農作物に使用できるため、当該農薬についても、当該農作物に使用できるとの誤解
(2) 使用する農薬が類似した農作物に使用できるため、使用対象とする農作物にも使用できるとの誤解
(3) 使用から収穫までの日数が長く設定されている農薬について使用からの経過日数の確認不足
(4) 病害虫が継続的に発生したことによる同一農薬の反復使用
(5) 同一の有効成分を含む複数の農薬の併用

 農薬の不適正使用の防止対策
(1) 農薬は製剤ごとに使用できる農作物が異なるため、農薬の使用前にラベルを確認する。
(2) 類似した農作物に使用できる農薬であっても、使用対象とする農作物に使用できるとは限らないため、農薬の使用前にラベルを確認する。
(3) 使用時期と農作物の出荷予定日までの日数が確保されるか、農薬の使用前にラベルを確認する。
(4) 農作物を収穫する前に、農薬の使用記録により農薬を使用した日から収穫までの日数が農薬のラベルどおり確保されているかを確認する。
(5) 同じ農薬の連続使用は避ける。
(6) 使用記録簿には有効成分ごとの使用回数を記載し、農薬の使用前に使用記録簿とラベルにより使用回数を確認する。

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