照会先:厚生労働省健康局疾病対策課
担当:関山、菊岡、川口
電話:03-5253-1111(2350,2353,2354)
03-3595-2249(直通)


平成17年4月8日


1. 本日、14:00から厚生科学審議会疾病対策部会クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会(委員長 北本 哲之 東北大学医学部教授)が開催された。

2. 同委員会より別添のとおり、「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に係る二次感染について」の審議結果がまとめられた。


(添付資料)
 ○ 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に係る二次感染について(概要)
 ○ 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に係る二次感染について



変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に係る二次感染について(概要)


平成17年4月8日
健康局疾病対策課

1.調査方法

   平成17年2月4日に判断されたvCJDの確実例による二次感染の可能性等を把握するため、CJDサーベイランス委員会は以下の調査を実施した。
(1) ご家族及び主治医へのヒアリング調査による医療機関の受診歴、献血歴の把握
(2) 英国等への渡航後に受診した医療機関へのヒアリング調査等による医療行為等の把握
 なお、献血による二次感染の可能性、評価等については、薬事・食品衛生審議会血液事業部会等において行われることとなっている。

2.調査結果

   ご家族、主治医及び英国等から帰国後に受診した医療機関へのヒアリング調査等から、観血的医療行為・類似行為等は確認されなかったが、下部消化管の内視鏡検査(生検未実施、出血無し)の実施が確認された。

3.二次感染の可能性及びそれに対する方策

 
(1) 消化管内視鏡洗浄及び消毒方法に対する評価
今回の処理では、プリオン除去効果が完全ではない可能性が残っているものの、一定の洗浄効果は得られていると考えられる。
(2) 消化管内視鏡検査を介したプリオン病患者組織の感染力は、英国保健省のACDP/SEAC(Advisory Committee on Dangerous Pathogens and the Spongiform Encephalopathy Advisory Committee)の作成したガイドラインによれば、「低」あるいは「無」となり、使用された内視鏡に対する特別な措置は必要ないとされている。
(3) 英国HPA(Health Protection Agency)及び英国CJDサーベイランス部門の担当研究者から、生検を伴わない消化管内視鏡検査においては特別な措置は不要との見解を得た。
 以上から、内視鏡検査を介してプリオン伝達が生じるリスクは極めて低いと考えられるため、二次感染に関する特別な措置は必要ないと判断した。

4.おわりに

 
「2.調査結果」及び「3.二次感染の可能性及びそれに対する方策」から、vCJDによる二次感染(献血歴を除く)に対する特別な措置は必要ないと判断した。
今回のvCJDの臨床診断については、世界保健機関(WHO)が示しているvCJDの診断基準に合致しない脳波所見とMRI所見が確認されたことから、vCJDの診断に当たっては、今後はその点に留意して対応する必要があるとともに、的確な診断に至るよう、今後ともサーベイランス体制の強化を図っていく必要がある。
二次感染リスクを生じた者への対応については、わが国の状況にあった今後の対応策について検討を行う必要がある。
なお、感染経路に関しては、3月下旬に行った英国CJDサーベイランス部門との意見交換において「英国滞在時における曝露の可能性が他の考えられる感染経路の可能性よりも高い」ということで、見解の一致を見たところである。



変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に係る二次感染について


平成17年4月8日
厚生科学審議会疾病対策部会
クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会

1.調査方法

   vCJDによる二次感染は、観血的な医療行為・類似行為等に伴うもの又は献血に伴うものが考えられることから、平成17年2月4日に判断されたvCJD確実例による二次感染の可能性等を把握するため、CJDサーベイランス委員会が以下の調査を実施した。
(1) ご家族及び主治医へのヒアリング調査による医療機関の受診歴及び献血歴の把握
(2) 英国等への渡航後に受診した医療機関へのヒアリング調査等による医療行為等の把握
 なお、献血による二次感染の可能性、評価等については、薬事・食品衛生審議会血液事業部会等において行われることとなっている。

2.調査結果

 
1) 観血的な医療行為・類似行為等の状況
 ご家族、主治医及び英国等から帰国後に受診した医療機関へのヒアリング調査等から次の内容が確認された。
 手術歴(脳外科手術、脊髄手術、眼科手術等)、臓器提供歴、歯科治療歴、鍼治療歴、刺青、いずれも無し。
 下部消化管内視鏡検査歴
 vCJD発症後、下部消化管内視鏡検査を1回受けるが、生検は実施されず、出血もなかった。
2) 内視鏡検査を実施した医療機関における下部消化管内視鏡の当時の状況
 当時の消化管内視鏡の洗浄及び消毒方法
 1人の被験者終了ごとに、逆性石鹸水で送水、送気を行い、外表面はガーゼで汚れを落とす。次に、流水にて表面の汚れをスポンジで洗い落とし、送水しながら洗浄ブラシを鉗子口、吸引口に挿入し、管路内を2〜3回ブラッシングする。1日の検査終了後に自動洗浄装置を使用し、グルタールアルデヒドで洗浄する。
 当時使用されていた消化管内視鏡の状況
 当時使用されていた消化管内視鏡は6本あるが、当該患者にどの器具が使用されたのかの記録はない。6本のうち3本は現在も使用中であり、残りの3本はリース元へ返却し、すべて破棄されている。

3.二次感染の可能性及びそれに対する方策

   上記の調査結果によれば、二次感染の可能性が懸念されるのは、vCJD発症後に受けた下部消化管内視鏡検査に起因する場合である。

1) 下部消化管内視鏡検査に起因する二次感染の可能性及び対策
 英国CJDインシデントパネルにおいては、医療等用具を介したヒト同士の異常プリオン蛋白の伝播に関連する因子として、
(1) 消毒後の器具に残った感染力
(2) プリオン病患者組織の感染力
の2点を重要視している。
 このため、vCJD患者から医療等器具を介した二次感染対策を講じるに当たって、「2.調査結果」を踏まえ、下部消化管内視鏡検査について以下の検討を行った。
(1) 消化管内視鏡洗浄及び消毒方法に対する評価
 感染因子プリオンに対する有効な消毒方法は、強力な蛋白変性剤の使用であり、内視鏡の消毒方法として適応可能な方法はないのが現状である。よって、内視鏡に付着すると考えられる感染因子プリオンの濃度を低下させるいわゆる洗浄こそが現実的な対処方法である。
 内視鏡の洗浄方法として、(A)流水による簡易な洗浄、(B)吸引孔や通気孔のブラッシング、(C)自動洗浄装置を使った洗浄、などがあるが、このような洗浄方法のうち当該医療機関では、患者1例毎に(A)(B)による洗浄を行い、さらに1日の検査終了後に(C)を含む洗浄を行ったと報告されている。
 このような処理では、プリオン除去効果が完全ではない可能性が残っているものの、一定の洗浄効果は得られていると考えられる。
 なお、内視鏡の製造元に確認したところ、先端部分からの吸引と通気は別のチャンネルであり、いったん内視鏡内に吸引された患者組織が別の患者の通気の際に腸管内に戻ることはないとのことであった。
(2) 消化管内視鏡検査を介したプリオン病感染組織の感染力
 英国保健省のACDP/SEAC(Advisory Committee on Dangerous Pathogens and the Spongiform Encephalopathy Advisory Committee)の作成したガイドライン(2004年9月作成)によれば、内視鏡検査を介した消化管の組織の感染リスクは、内視鏡下で生検を実施しなかったことから、「低」あるいは「無」となり、使用された内視鏡に対する特別な措置は必要ないとされている。
(3) 英国HPA(Health Protection Agency)及びCJDサーベイランス部門の担当研究者の見解
 本年3月下旬、英国HPA及びCJDサーベイランス部門の担当研究者との意見交換において、生検を伴わない消化管内視鏡検査においては、英国では消化管内視鏡検査を介したCJDの発生が確認されておらず、また、二次感染の可能性は「低」あるいは「無」であるため、特別な措置(二次感染が疑われる者の登録あるいは告知等)は不要との見解を得た。
(4) 二次感染対策
 二次感染の可能性については、上記(1)、(2)及び(3)から、現在のところ消化管内視鏡検査によってプリオンが伝播されることを示唆する根拠はなく、また、本事例では生検といった観血的操作が実施されていないこともあり、仮に消化管内視鏡に対して完全な洗浄効果が得られなくとも、消化管内視鏡検査を介してプリオン伝達が生じるリスクは極めて低いと考えられる。このため、二次感染に関する特別な措置は必要ないと判断した。

4.おわりに

   「2.調査結果」及び「3.二次感染の可能性及びそれに対する方策」から、vCJDによる二次感染に対する特別な措置は必要がないと判断した。
 今回のvCJDの確実例の診断、感染経路及び二次感染対策の検討に当たっては、現在の最高の科学的知見を活用すべく、英国HPA及び英国CJDサーベイランス部門と緊密に連携しながら対応してきたところである。
 このような連携の下に、今回のvCJD症例の臨床診断については、世界保健機関(WHO)が示しているvCJDの診断基準に合致しない脳波所見とMRI所見が確認されたことから、vCJDの診断に当たっては、今後はその点に留意して対応する必要があるとともに、的確な診断に至るよう、今後ともサーベイランス体制の強化を図っていく必要がある。
 CJD一般の二次感染リスクが生じた者への対応については、わが国の状況にあった今後の対応策について検討を行う必要がある。
 なお、感染経路については、3月下旬に行った英国CJDサーベイランス部門との意見交換において、「英国滞在時における曝露の可能性が、他の考えられる感染経路の可能性よりも高い」ということで見解の一致をみたところである。


参考)
HPA(Health Protection Agency):
 英国保健省の予算及び事業計画の承認を受け、公衆衛生の保持、感染症、毒物、化学物質、放射性物質の危険から人の健康被害を最小限に食い止めることを目的とした機関。

英国CJDインシデントパネル:
 観血的医療行為等による二次感染の拡大防止等を目的として、医療機関へ的確な助言を行うために、英国保健省が2000年に設立した委員会。

英国CJDサーベイランス部門:
 英国内で発生したCJD症例の診断を確定し、疫学的調査を実施している機関。

トップへ