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コミュニティ・ビジネスにおける働き方に関する調査報告書概要


平成16年6月18日
厚生労働省

<はじめに>

(1) 調査の目的

 本調査は、コミュニティ・ビジネスを、「営利・非営利を問わず」、「地域の課題を解決し」、「地域の発展に貢献する」といった広い概念で捉え、そこで従事する人々の実態と要望を把握することにより、課題の分析や労働行政上必要な支援の検討に資することを目的に、(株)三菱総合研究所に委託して実施した。

(2) 調査の実施要領

 調査実施期間
 平成16年2月

 調査対象及び件数
 特定非営利活動法人として認証されており、平成15年12月時点において各自治体及び関連団体のホームページにおいて住所が公開されているものから、無作為抽出
 ワーカーズコレクティブネットワークジャパン発行の冊子「今こそ、やっぱり、だからワーカーズコレクティブ(2002年2月)」に記載されているワーカーズコレクティブ(一部最新情報による)
 東京商工リサーチの企業名簿より、事業所規模、業種により有限会社、株式会社及び企業組合を無作為抽出
 事業所は上記属性合計10,000事業所に、また個人は各事業所において従事する者3名、合計30,000人に個人調査を依頼

 調査票回収数
・ 事業所調査票 1,489票(有効回答1,480票) 回収率14.9%
・ 個人調査票 2,755票(有効回答2,718票) 回収率9.2%


 1 コミュニティ・ビジネス事業所の特徴

 (1)回答事業所の約7割はNPO

 回答事業所の組織形態は、特定非営利活動法人(NPO)が約7割を占め、次に有限会社、ワーカーズコレクティブ(WCO)が1割強を占めている。

組織形態
組織形態のグラフ

(注1) ワーカーズコレクティブとは、地域に貢献する事業を、自分たちで出資し平等に運営するという協同組合方式で行っている団体。「ワーカーズコレクティブ」という名称の法人格はない。
(注2) 企業組合とは、中小企業協同組合法に定められている法人格。4人以上の個人が組合員となって資本と労働を持ち寄り、自らの働く場を創造する組織。


 (2)活動は福祉分野が中心

 回答事業所の活動目的は、「高齢者介護・生活支援」が26%、「障害者自立生活支援」が10%と福祉分野を中心となっている。

活動目的
活動目的のグラフ



 2 人員構成・就労環境

 (1)中高年齢層・女性の割合が多いコミュニティ・ビジネス

 回答従事者の年齢構成は、40歳以上の者が約8割を占めている。
 回答従事者の性別は、女性が約6割を占めている。

従事者の年齢構成
従事者の年齢構成のグラフ



従事者の性別

従事者の性別のグラフ


 (2)報酬形態別の人員構成では無償・パートで過半数

 回答事業所における報酬形態別の人員構成割合では、無償が28.3%と最も高い割合を占め、パート、常勤正社員が続いている。

報酬形態別人員構成

報酬形態別人員構成のグラフ


 (3)常勤の1週当たり従事時間は35.3時間、時間給は1,216円

 回答事業所における常勤の1週当たり従事時間は35.3時間、時給は1,216円となっている。
 回答事業所における非常勤の1週当たり従事時間は14.1時間、時給は1,074円となっている。

就労時間・日数

就労時間・日数の表
時間当たり賃金額

時間当たり賃金額の表


 (4)常勤の6割強、非常勤の8割強が時間給600円超1,200円以下

 時間当たり賃金額の分布をみると、常勤の時間給が600円超1,200円以下とする事業所が全体の6割強、非常勤の時間給が600円超1,200円以下とする事業所が全体の8割強を占めている。

時間当たり賃金額の事業所分布
時間当たり賃金額の事業所分布のグラフ


 (5)賃金以外(請負、謝礼実費、賃金か否か不明確)の報酬額の実態

 請負、謝礼実費の場合及び賃金かどうか明確に識別していない場合の時間当たり支払い額の分布をみると、800円超1,200円以下が最も多く、次いで700円超800円以下が多い。


賃金以外(請負、謝礼実費)の場合の時間あたり支払い金額
賃金以外(請負、謝礼実費)の場合の時間あたり支払い金額のグラフ


「賃金としての識別のない報酬」の時間あたり支払い金額
「賃金としての識別のない報酬」の時間あたり支払い金額のグラフ



 (6) 収入の位置付け、期待年収額と今後の収入依存度の方針
(1) 家計におけるコミュニティ・ビジネスの活動からの収入の位置付けは多様。年齢層が高まるほど、「家計に寄与していない」が高割合。

 現在のコミュニティ・ビジネスの活動からの収入の位置付けは、全体の4割弱が「活動からの収入がほとんどないため、家計に寄与していない」としており、次いで2割強が「世帯の家計を補助する収入であり、生活を支えている」としている。
 年齢階級別に収入の位置付けをみると、高齢になるほど、「活動からの収入がほとんどないため、家計に寄与していない」とする割合が高まる傾向にある。

収入の位置付け

収入の位置付けのグラフ


年齢階級別収入の位置付け

年齢階級別収入の位置付けのグラフ


  (2) 今後の収入依存度は、半数がコミュニティ・ビジネスの活動からの収入への依存度を高める方針。年齢層が高まるほど、今後の収入への期待は低い傾向。

 今後のコミュニティ・ビジネスの活動からの収入依存度は、全体の半数が活動からの収入への依存度を高める方針としている。
 年齢階級別に今後の活動からの収入依存度の方針をみると、今後の収入への期待度が低くなる傾向にある。

活動からの収入依存度の方針

活動からの収入依存度の方針のグラフ


年齢階級別活動からの収入依存度の方針

年齢階級別活動からの収入依存度の方針のグラフ



 3 コミュニティ・ビジネスにおいて求められる能力・知識

 事業所が、従事者にとって重要であるものの不足していると考えている能力・知識はマーケティング戦略立案や市場調査、商圏、立地調査に関する知識、消費者行動に関する知識、資金調達に関する知識など通常の企業でも重視される企画関連の能力・知識が中心であるが、従事者個人では、事業に直接関連する知識、技能・技術または業務経験が66%と他に比べて多く、そのほかは概ね事業所に比べ低い割合にとどまっている。

重要であるが不足していると考えている能力・知識 事業所と個人の認識【複数回答可】

重要であるが不足していると考えている能力・知識 事業所と個人の認識【複数回答可】の表



 4 コミュニティ・ビジネス立ち上げ代表者の特徴

 (1)男性中高年齢層による立上げが多いコミュニティ・ビジネス

 コミュニティ・ビジネスを自ら立ち上げ、現在代表者(以降「立ち上げ代表者」という。)である者の年齢分布をみると、45歳以上の層で8割以上を占めている。
 立ち上げ代表者の性別をみると、男性が7割近くを占めており、それ以外の者における性別割合と逆の傾向を示している。

立ち上げ代表者とそれ以外の年齢分布

立ち上げ代表者とそれ以外の年齢分布のグラフ

立ち上げ代表者とそれ以外の性別分布
立ち上げ代表者とそれ以外の性別分布のグラフ


 (2) 「地域活動への興味」を土台に「これまでの経験を活かそうと思って」コミュニティ・ビジネスを立ち上げ

 立ち上げ代表者は、それ以外の者と比べ、地域活動への関心度が高く、過去に携わった仕事での知識や経験を活かそうと思って活動に参加した者の割合も高い。

立ち上げ代表者とそれ以外の「地域活動への興味」

立ち上げ代表者とそれ以外の「地域活動への興味」のグラフ


立ち上げ代表者とそれ以外の「過去の仕事における知識や経験の活用意図」
立ち上げ代表者とそれ以外の「過去の仕事における知識や経験の活用意図」のグラフ


 (3) 立ち上げ代表者が不足を感じているのは、「事業計画、資金繰り策定に関する知識」、「資金調達に関する知識」などの資金面に関する能力

 不足と感じている能力をみると、従事者全体と比べ、立ち上げ代表者は、「事業計画、資金繰り策定に関する知識」、「資金調達に関する知識」、「貸借対照表・損益計算書の作成知識」といった資金面に関する能力について不足を強く認識している一方、「事業に直接関連する知識、技能・技術または業務経験」は全体の不足感に比べて、相対的には充足している程度が高い。

不足と感じている能力(立ち上げ代表者と全体)【複数回答可】

不足と感じている能力(立ち上げ代表者と全体)【複数回答可】のグラフ



 5 コミュニティ・ビジネスに携わる者のキャリアルート

  本調査では、コミュニティ・ビジネス従事者のキャリアルートを明らかにするため、従事者に対して、これまでのキャリア内容を質問したところ、特徴は、次のとおりである。

(職務)
 直近過去のコミュニティ・ビジネス、コミュニティ・ビジネス以外の仕事における職務と同様の内容の職務(例えば、現在、コミュニティ・ビジネスにおいて医療健康相談関係の職務に就いている場合、直近過去のコミュニティ・ビジネス以外の仕事で医療・福祉関係の職務に就いていた等)を、現在のコミュニティ・ビジネスにおいても担っているケースが多い。
(雇用形態・収入・労働時間)
 直近過去と現在も同じ雇用形態のままであるケースが多いが、雇用者(常勤)から役員へ、雇用者(パート)から雇用者(常勤)へといった、より主体的に活動に携わる形態への移動もみられる。また、移動によって、収入、労働時間の減少傾向がみられる。
(現在、コミュニティ・ビジネス以外の仕事を兼業している場合の特徴)
 職務については、現在就いているコミュニティ・ビジネスの仕事と関連のある職務で兼業しているケースが多い。
 兼業している場合は、していない場合と比較して、コミュニティ・ビジネスで役員である割合が比較的高くなっている。
 コミュニティ・ビジネスの仕事での労働時間の方が兼業先の労働時間より長いとする割合は約2割にすぎない一方、兼業先の労働時間の方が長いとする割合は約5割に達しており、兼業している場合は、兼業先を主な仕事としている者が多いと考えられる。



 6 労働政策におけるコミュニティ・ビジネス活用の可能性

 (1) 約半数の事業所が「高齢者に雇用・生きがいの場を提供」、「若年者に雇用・就労体験の場を提供」することに積極的

 企業退職後の高齢者が、新たな生きがいをみつけたり、企業で蓄えた知識・経験を地域に還元する場として、コミュニティ・ビジネスが期待を集めている。
 また、コミュニティ・ビジネスは、厳しい雇用失業情勢の中、若年者が無業から脱して本格的な就労につなげるための職業意識形成の場としても期待が高まっている。
 こうした中、回答事業所の半数が「高齢者に雇用・生きがいの場を提供」、「若年者に雇用・就労体験の場を提供」することに積極的な意向(「他の属性に優先して重点的に取り組みたい」+「積極的に取り組みたい」)を有しており、コミュニティ・ビジネスを活用した高齢者・若年者の就労・社会参加の場づくりの促進が期待される。

雇用や生きがい・就労体験の場を提供することについての意向

雇用や生きがい・就労体験の場を提供することについての意向のグラフ


 (2) 高齢者や若年者に雇用・生きがい・就労体験の場を提供するに当たっての主な隘路は、「やってほしい職務に合う人が少ない」、「指導・サポートできる人材がいない」

 「高齢者に雇用・生きがいの場を提供」、「若年者に雇用・就労体験の場を提供」することに積極的でない事業所(「他の属性と区別していない」と回答した事業所)に、その隘路はどのようなものであるか質問した。
 その結果、「高齢者に雇用・生きがいの場を提供」、「若年者に雇用の場を提供」する場合の隘路は、やってほしい職務に合う人が少ないとする事業所の割合が一番高くなっている。
 また、「若年者に就労体験の場を提供」する場合の隘路は、指導・サポートできる人材がいないとする事業所の割合が一番高くなっている。

雇用や生きがい・就労体験の場を提供する場合の隘路【複数回答可】

雇用や生きがい・就労体験の場を提供する場合の隘路【複数回答可】のグラフ


 (3) 地域における人とのつながりやネットワーク、若年者の職業意識の形成等に資するコミュニティ・ビジネスにおける活動

 コミュニティ・ビジネスを通じて得たものとしては、「地域における人とのつながりやネットワーク」が最も高い割合を示しており、コミュニティ・ビジネスを通じた地域社会の再生の可能性を垣間見ることができる。
 また、若年層においては、「ビジネスの常識やマナー」、「職業に関する意識が高まった」、「自分の今後のキャリアプランに対する考え方」を得たとする割合が、他の年齢階級と比較すると高くなっている。若年者の本格的就労に向けて、コミュニティ・ビジネスを若年者の職業意識形成の場として活用することが期待される。

年齢階級別 コミュニティ・ビジネスを通じて得たもの【複数回答可】

年齢階級別 コミュニティ・ビジネスを通じて得たもの【複数回答可】のグラフ


 (4) 主婦や企業退職者を中心に旺盛な新規採用意欲

 今後半年以内に1人以上採用意向があるとする事業所の割合は78%、その平均採用希望人数は、主婦2人、次いで企業退職者が0.9人で、合計では6.1人に達している。
 このように、旺盛な新規採用意欲がみられるコミュニティ・ビジネスが、地域における就労・社会参加の場の提供主体として成長していくことが期待される。

過去半年以内の入職・離職及び今後の採用希望

採用意向の有無
事業所構成

採用意向の有無 事業所構成のグラフ
過去半年以内の入職・離職及び今後の採用希望のグラフ



 7 コミュニティ・ビジネスの事業運営上の課題と求められている支援

 (1) 資金面における事業運営上の課題としては、「事業収入の頭打ち・減少」、「十分な賃金が払えない」が高割合

 資金面における事業運営上の課題では、全体として「事業収入の頭打ち・減少」、「十分な賃金が払えない」が高い割合であり、組織形態別に見ても、有限会社、株式会社やワーカーズコレクティブで、特に「事業収入の頭打ち・減少」の指摘割合が高い。また、「十分な賃金が払えない」、「受けたい補助制度が条件面で適用されない」については、NPOが最も高い割合を示している。

事業運営上の課題(資金面)【複数回答可】

事業運営上の課題(資金面)【複数回答可】のグラフ


 (2) 人材・能力面における事業運営上の課題としては、「人員不足」が高割合

 人材・能力面における事業運営上の課題では、全体として「人員不足」が高い割合を示しており、特に、ワーカーズコレクティブで顕著である。

事業運営上の課題(人材・能力面)【複数回答可】

事業運営上の課題(人材・能力面)【複数回答可】のグラフ


 (3) 運営面における事業運営上の課題としては、「顧客開拓が難しい」が高割合

 運営面における事業運営上の課題では、全体として「顧客開拓が難しい」が高い割合を示しており、とりわけ有限会社、株式会社で多く挙がっている。「メンバーのモチベーション維持、ミッション共有の難しさ」はワーカーズコレクティブで多く、「メンバーのスケジュール調整が困難」も高い割合を示している。また、「活動に対する世間の理解不足」は、NPOで高い割合を示している。

事業運営上の課題(運営面)【複数回答可】

事業運営上の課題(運営面)【複数回答可】のグラフ


 (4) 事業運営上必要とする支援としては、事業化後の補助金・助成金、出資・寄附、施設・設備の貸与・廉価提供、雇用に関する助成金・補助金が高割合

 事業運営上必要とする支援としては、事業化後の補助金・助成金、出資・寄付、施設・設備の貸与・廉価提供や、雇用に関する助成金・補助金、広報活動支援などが多く挙がっている。
 必要としているにもかかわらず、実際に支援を受けているかどうかという点については、事業化後の補助金・助成金についてはその半数程度が実際に支援を受けており、施設・設備の貸与・廉価提供は3分の1程度が支援を受けている。広報活動の支援は、必要とする割合が高水準にもかかわらず、受けていない割合が高い。

事業運営上必要とする支援と実際に受けている支援【複数回答可】

事業運営上必要とする支援と実際に受けている支援【複数回答可】のグラフ


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