厚生労働省発表

平成15年4月25日
大臣官房地方課
  労働紛争処理業務室長  高崎真一
  室長補佐  二階堂善滋
  電話  03-5253-1111 (内線7737)
  夜間直通  03-3502-6679


《 平成14年度個別労働紛争解決制度施行状況 》
 厳しい経済・雇用情勢を反映し、右肩上がりの実績が続く
   個別労働紛争相談件数  10万3千件
   あっせん申請受理件数 3千件
 〜紛争調整委員・労働紛争調整官の大幅増員により対応〜

   《 概要 》

個別労働関係の紛争の解決促進に関する法律施行状況 〜平成14年度〜

1.総合労働相談件数  625,572件(24.3%増*)
2.民事上の個別労働紛争相談件数  103,194件(25.0%増*)
3.助言・指導申出受付件数  2,332件(63.3%増*)
4.あっせん申請受理件数  3,036件(98.7%増*)
【* 増加率は、平成13年度下半期分(H13.10.1〜H14.3.31)を平年度化した実績と比較したもの。】

 厳しい経済・雇用情勢を反映し、全国約 300ヵ所の総合労働相談コーナーに寄せられた総合労働相談件数は62万件を超えた。また、助言・指導、あっせん件数は 5千件を超えるなど、平成14年労働関係民事通常訴訟事件の新受・件数2,321件(全国地方裁判所)と比較しても労働分野のADR(裁判外紛争処理制度)として国民の期待は大きいといえる。
 そのため、平成15年度においては、個別労働紛争解決業務を担当する専門官職である労働紛争調整官を50人増員するとともに、あっせんを行う紛争調整委員会委員の大幅増員(174人⇒300人)を行うなど、施行体制の整備を図ったところである。今後とも、当該制度の円滑な実施に努めていくこととしている。

 『個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(別添56)』に基づく、個別労働紛争解決制度の平成14年度の施行状況は以下のとおりである。(概要は別添3、都道府県労働局別一覧は別添4

◆相談受付状況
 各都道府県労働局、主要労働基準監督署内、駅近隣の建物などにおいて、労働に関するあらゆる相談にワンストップで対応するための総合労働相談コーナー(約300ヵ所)を開設しているところであるが、平成14年度1年間に寄せられた相談は62万5,572件であった。
 このうち、労働関係法上の違反を伴わない、解雇、労働条件の引下げ等のいわゆる民事上の個別労働紛争に関するものが10万3,194件である。半期ごとの推移を見ると、確実に件数が伸びている。
相談件数の維持の図

 また、民事上の個別労働紛争にかかる相談内容の内訳は、厳しい経済・雇用情勢を反映して、解雇に関するものが28.6%と最も多く、次いで労働条件引下げが16.5%、退職勧奨6.3%、いじめ・嫌がらせ5.8%と続いている。
民事上の個別労働紛争相談の内訳の図

◇都道府県労働局長による助言・指導及び紛争調整委員会によるあっせん
 平成14年度の当該制度に係る助言・指導申出受付件数は、2,332件。あっせん申請受理件数は、3,036件である。半期ごとの推移はともに右肩上がりである。
助言・指導申出受付件数及びあっせん申請受理件数の図

◆紛争調整委員会によるあっせん
 あっせんの申請の主な内容は、解雇に関するものが46.0%と最も多く、労働条件引下げが10.4%、退職勧奨6.4%、いじめ・嫌がらせが6.1%と続いている。
あっせん申請内容の内訳の図

 あっせんの実施事例は、別添1のとおり。
 平成14年4月から平成15年3月の1年間に申請を受理した事案の都道府県労働局における処理状況をみると、手続きを終了したものは2,882件であり、このうち、合意が成立したものは1,086件(37.7%)、自主的解決等により申請が取り下げられたものは394件(13.7%)、紛争当時者の一方が手続きに参加しない等の理由により、あっせんを打ち切ったものは1,388件(48.2%)となっている。
 処理に要した期間は、1ヶ月以内が61.0%、1ヶ月超え3ヶ月以内が27.9%となっており、3ヶ月以内に96.5%が処理されており、迅速な処理が行われているといえる。
 申請人は、労働者が2,972件(97.9%)と大半を占めるが、事業主からの申請も57件(1.9%)となっており、労使双方からの申請も7件あった。就労状況は、正社員が69.5%と最も
多いが、パート・アルバイトが13.2%、派遣労働者・期間契約社員も9.3%を占めている。事業所の規模は、10〜49人が28.7%と最も多く、次いで10人未満17.9%、50〜99人9.5%となっている。また、労働組合のない事業所の労働者が55.7%である。
 なお、増加の一途を辿っている個別労働関係紛争の解決促進にきめ細かく対応するため、本年4月から紛争調整委員会委員を大幅に増員し、300人体制としたところであるが、委員の内訳は以下のとおりとなっている。
紛争調整委員会委員の内訳の図





 紛争調整委員会とは・・
 弁護士、大学教授等の労働問題の専門家である学識経験者により組織された 委員会であり、都道府県労働局ごとに設置されている。この紛争調整委員会の 委員のうちから指名されるあっせん委員が、紛争解決に向けてあっせんを実施 するものである。





◆都道府県労働局長による助言・指導
 助言・指導の申出の主な内容は、解雇に関するものが、36.4%と最も多く、労働条件引 下げが16.3%、出向・配置転換5.6%、いじめ・嫌がらせ5.5%と続いている。
助言・指導申出内容の内訳の図

 助言・指導の実施事例は、別添2のとおり。

 平成14年4月から平成15年3月の1年間に申出を受け付けた事案について都道府県労働局における処理状況をみると、平成14年9月までに手続きを終了したものは2,244件であり、このうち助言・指導を実施した件数は1,641件(73.1%)、申出が取り下げられたものは302件(13.5%)、処理を打ち切ったものは129件(5.7%)であった。
 処理に要した期間は、1ヶ月以内が76.0%、1ヶ月超え3ヶ月以内が20.0%となっており、3ヶ月以内に96.0%が処理されており、迅速な処理が行われているといえる。
 申出人は、労働者が99.2%とほぼ大半を占めるが、事業主からの申出も19件あった。就労状況は、正社員が68.8%と最も多いが、パート・アルバイトが15.7%、派遣労働者・期間契約社員も9.6%を占めている。事業所の規模は、10〜49人が32.7%と最も多く、次いで10人未満20.5%、50〜99人12.8%となっている。また、労働組合のない事業所の労働者が65.0%である。



別添1

あっせんの例

○上司からのいじめ・嫌がらせをめぐるあっせんの事例
事案の概要  申請人は、営業課長と営業に出かけることが多かったが、課長は何かにつけ、申請人につらく当り、仕事上のトラブルを全て申請人の責任として会社に報告するなどの嫌がらせが続いていた。ある日、営業課長と得意先周りをしていたところ、対応が悪いと理由も説明せず頭部を殴打された。申請人は会社にそのことを報告したが、上司に対し注意を行う等もせず、放置された。
 この一週間後、申請人は支社長に呼び出され、営業課長等に取り囲まれ、「客からクレームがきているので、始末書を書け。書くまで帰さない。」と威圧的に言われ、クレーム内容の説明もないまま、「客からクレームを受けましたが、以後このようなことのないよう職務に専念します。再度クレームを受けるようなことをしたときには、私の処分を会社に一任します。」という旨の始末書を書かされた。
 会社は、営業課長の報告をうのみにし、申請人を退職させようとしているが、本人は退職の意思はなく、(1)暴行について上司本人が謝罪し、会社は上司の管理責任を認めること、(2)始末書を書かせた理由を明確にすることを求めてあっせん申請を行った。

 あっせんの結果、(1)会社が、申請人の上司が申請人に行った行為について監督責任を認め謝罪文を提出すること、(2)申請人が書いた始末書を破棄すること、で紛争当事者双方の合意が成立した。
あっせんの
ポイント
 会社に対し、申請人の受けている嫌がらせの実態を十分に把握させることで解決に導いたもの。

○復職と慰謝料を求めたセクシュアルハラスメントに係るあっせんの事例
事案の概要  申請人は、支店長から受けたセクシュアルハラスメントについて、会社の責任を認めるよう求めたが拒否されたため、紛争となり、申請人が会社に対し慰謝料等を求めて、あっせん申請を行ったもの。

 申請人(セクシュアルハラスメントを受けたことによる精神的苦痛から体調不良を訴え休職中)が復職を希望していることから、(1)申請人の休職期間、(2)休業補償の額、(3)慰謝料の額等、会社が講ずべき具体的措置について、当事者双方の主張の調整を行い、当事者双方に対し、(1)申請人が1か月後に復職すること、(2)会社が申請人に対し、慰謝料として150万支払うことというあっせん案を提示し、これを双方が受諾したことで合意が成立した。
あっせんの
ポイント
 紛争当事者双方とも、セクハラの事実と慰謝料の支払については、争いがないものの、慰謝料の額に大きく隔たりがあった事案。
 「申請人が復職をするとともに、会社に対し、休業補償及び治療費を含む慰謝料を払う」とするあっせん案を双方とも受諾し、合意が成立したもの。



別添2

助言・指導の例

○一方的な賃金引下げ及び解雇の是非をめぐる助言・指導の事例
事案の概要  申出人は、日額1万5千円(月換算額30万円)の条件でトラック運転手として勤務していたが、社長から突然「賃金を月額25万円に変更する。同意できないのであれば、辞めてもらわなければならない」と、一方的な賃金の引下げを申し渡された。申出人がそのような条件はのめないと同意しなかったところ、会社から解雇する旨の通告を受けたため、解雇を撤回し、賃金の引下げも行わないよう、労働局長の助言・指導を求めたもの。

 ○労働局長の指導により、会社は解雇を撤回し、賃金の引下げも行わなかった。
助言・指導
の内容
 賃金引下げに納得しないことは、社会通念上相当な解雇理由とならないこと及び賃金引下げを行うことに合理性はなく、また、賃金引下げについて、従業員の同意も得ず、就業規則の変更もないことから、判例に照らし、解雇及び賃金引下げは無効となるおそれが高いので、解雇及び賃金引下げの決定を取り消すこと。

○経歴詐称を理由とする懲戒解雇の是非をめぐる助言・指導事例
事案の概要  申出人は、コンピューターソフト開発を行う会社の営業職として3か月勤務していたが、内臓疾患で障害者認定を受けていることと履歴書の職歴に記載漏れが発覚し、経歴詐称として懲戒解雇された。 しかし、障害を悪化させるような業務内容ではなく、また、障害が理由で仕事に支障が出たことはないことから、懲戒解雇を撤回するよう労働局長の助言指導を求めたもの。

 ○労働局長の指導により、会社は、申出人と話しあった結果、申出人は既に他の就職先を見つけていたため、職場復帰は行わず、補償金を支払うことで和解した。
助言・指導
の内容
 申出人は、他の営業職の労働者と同条件で仕事をこなしており、身体上の問題が仕事に支障をもたらした事実が認められないこと、また、会社の労働条件の体系を乱し、健全な企業運営を阻害される等の事実も認められないことから、判例に照らし、解雇は無効となるおそれが高いので、申請人に対して行った解雇処分を取り消すこと。



別添3

個別労働紛争解決制度の運用状況について
               (平成14年4月1日〜平成15年3月31日)

1総合労働相談コーナーに寄せられた相談 625,572件
   相談者の種類
 労働者 388,657件  事業主 180,870件  その他 56,045件
2民事上の個別労働紛争に係る相談の件数  103,194件
 
(1) 相談者の種類
労働者 85,148件  事業主 11,256件  その他 6,790件
(2) 紛争の内容(※内訳が複数にまたがる事案もあるため、計が113,422件となる。)
普通解雇 22,828件  整理解雇 6,507件  懲戒解雇 3,119件
労働条件の引下げ 18,699件  出向・配置転換 3,550件
退職勧奨 7,137件  その他の労働条件 20,927件  セクシュアルハラスメント 1,912件
女性労働問題 1,866件  募集・採用 1,492件  雇用管理等 2,133件
いじめ・嫌がらせ 6,627件  その他 16,625件
3 都道府県労働局長による助言・指導の件数
(1) 助言・指導の申出の受付を行った件数 2,332件
   紛争の内容(※内訳が複数にまたがる事案もあるため、計が2,422件となる。)
  普通解雇 640件  整理解雇 135件  懲戒解雇 106件
労働条件の引下げ 395件  出向・配置転換 136件
退職勧奨 98件  その他の労働条件 410件  セクシュアルハラスメント 17件
女性労働問題 7件  募集・採用 34件  雇用管理等 27件
いじめ・嫌がらせ 132件  その他 285件
(2) 助言・指導の手続を終了した件数 2,244件
   終了の区分
  助言を実施 1,641件  指導を実施 90件
取下げ 302件  打切り 129件  その他 82件
4 紛争調整委員会によるあっせんの件数
(1) あっせんの申請の受理を行った件数 3,036件
   紛争の内容(※内訳が複数にまたがる事案もあるため、計が3,126件となる。)
  普通解雇 1,101件  整理解雇 266件  懲戒解雇 72件
労働条件の引下げ 324件  出向・配置転換 121件  退職勧奨 201件
その他の労働条件 448件  セクシュアルハラスメント 97件  女性労働問題 3件
雇用管理等 30件  いじめ・嫌がらせ 192件  その他 271件
(2) あっせんの手続を終了した件数 2,882件
   終了の区分
  当事者間の合意の成立 1,086件  申請の取下げ 394件
打切り 1,388件  その他 14件



別添4

 個別労働紛争解決制度の運用状況(平成14年4月〜平成15年3月分)

局名 総合労働相談件数 民事上の個別労働紛争相談件数 労働局長の助言・指導制度の申出受付件数 紛争調整員会のあっせん制度申請受理件数
北海道 22,710 2,257 208 139
青森 3,274 369 5 37
岩手 3,722 919 27 16
宮城 11,446 941 26 74
秋田 4,632 825 20 33
山形 3,317 610 50 57
福島 8,470 894 35 32
茨城 13,124 1,954 53 134
栃木 9,829 911 9 27
群馬 8,979 1,092 32 27
埼玉 39,263 6,947 56 68
千葉 25,511 6,722 28 59
東京 100,470 6,802 295 472
神奈川 39,338 6,560 53 123
新潟 14,691 2,700 20 41
富山 3,217 794 15 28
石川 6,647 2,123 29 41
福井 3,035 785 7 23
山梨 1,745 910 18 26
長野 8,167 780 64 26
岐阜 10,638 1,506 30 30
静岡 18,385 5,305 43 37
愛知 27,735 3,940 49 185
三重 4,270 641 30 50
滋賀 3,651 1,504 16 12
京都 17,990 3,232 63 93
大阪 53,953 5,779 156 175
兵庫 51,050 6,867 168 94
奈良 3,812 1,464 24 51
和歌山 3,803 961 17 14
鳥取 774 560 15 19
島根 1,157 573 35 21
岡山 10,786 1,540 60 57
広島 20,781 1,726 33 88
山口 3,301 927 53 39
徳島 1,969 681 27 24
香川 6,414 2,861 28 24
愛媛 6,479 589 33 40
高知 2,264 684 18 30
福岡 11,522 8,411 19 91
佐賀 3,267 1,028 125 76
長崎 4,926 2,370 19 58
熊本 6,591 1,310 93 74
大分 4,572 495 16 45
宮崎 4,337 892 28 43
鹿児島 4,264 774 52 45
沖縄 5,294 679 32 38
合計 625,572 103,194 2,332 3,036



別添5

個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の概要

 趣旨
 企業組織の再編や人事労務管理の個別化等に伴い、労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(以下「個別労働関係紛争」という。)が増加していることにかんがみ、これらの紛争の実情に即した迅速かつ適正な解決を図るため、都道府県労働局長の助言・指導制度、紛争調整委員会のあっせん制度の創設等により総合的な個別労働紛争解決システムの整備を図る。

 概要
(1)  紛争の自主的解決
 個別労働関係紛争が生じたときは、紛争の当事者は、自主的な解決を図るように努めなければならないものとする。
(2)  都道府県労働局長による情報提供、相談等
 都道府県労働局長は、個別労働関係紛争の未然防止及び自主的な解決の促進のため、労働者又は事業主に対し、情報の提供、相談その他の援助を行うものとする。
(3)  都道府県労働局長による助言及び指導
 都道府県労働局長は、個別労働関係紛争に関し、当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当事者に対し、必要な助言又は指導をすることができるものとする。
(4)  紛争調整委員会によるあっせん
 都道府県労働局長は、個別労働関係紛争について、当事者の双方又は一方からあっせんの申請があった場合において、当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせるものとする。
 都道府県労働局に、紛争調整委員会を置くものとする。
 あっせん委員は、当事者間をあっせんし、双方の主張の要点を確かめ、実情に即して事件が解決されるように努めなければならないものとする。
 あっせん委員は、当事者等から意見を聴取し、事件の解決に必要なあっせん案を作成し、これを当事者に提示することができるものとする。
(5)  地方公共団体の施策等
 地方公共団体は、国の施策と相まって、地域の実情に応じ、労働者又は事業主に対し、情報提供、相談、あっせんその他の必要な施策を推進するように努めるものとし、国は、地方公共団体の施策を支援するため、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。また、当該施策として地方労働委員会が行う場合には、中央労働委員会が、当該地方労働委員会に対し、必要な助言又は指導をすることができるものとする。



別添6

個別労働紛争解決システムのスキーム

個別労働紛争解決システムのスキームの図


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