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中間報告書


平成15年3月18日
同性間性的接触におけるエイズ予防対策に関する検討会


「同性間性的接触におけるエイズ予防対策に関する検討会」中間報告書

目次

はじめに

第1 同性間性的接触におけるエイズ予防対策の現状

1 同性間性的接触におけるエイズ予防対策
2 同性間性的接触におけるエイズ予防対策の現状とその問題点

第2 同性間性的接触におけるエイズ予防対策の今後の在り方

1 啓発ポスター、パンフレットの製作・普及と広告媒体による啓発
2 予防スキルの提供とその機会の拡大
3 コンドーム使用と流通の拡大
4 検査環境の整備と医療機関との連携

おわりに

「同性間性的接触におけるエイズ予防対策に関する検討会」検討委員名簿

別紙
  「同性間性的接触におけるエイズ予防対策に関する検討会」の開催状況


はじめに

 我が国におけるエイズ対策の方向性を示した「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」において、「同性愛者」を特別な配慮を必要とする個別施策層の一つと位置づけ、人権や社会的背景に配慮したエイズ対策を講じることとしているが、近年、新規HIV感染者の約半数が同性間性的接触によるものであることから、男性の同性間性的接触におけるHIV感染予防対策の充実が急務となっている。
 このため、地域や医療現場において同性間性的接触を行う者へのエイズ予防対策に取り組んでいる有識者、医療従事者等と意見交換を行う「同性間性的接触におけるエイズ予防対策に関する検討会(以下「検討会」という。)」を設置し、平成14年1月から検討を重ねてきた。
 検討会としてこれまでに検討された、今後の同性間性的接触におけるエイズ予防対策の在り方についての提言を現時点で取りまとめたので、以下のように中間報告する。
 これまでの検討で出された提言は、同性間性的接触におけるエイズ予防対策のみならず、一般のエイズ予防対策としても活用できるものである。
 なお、検討の対象は「同性愛者」と自認している者に限られないため、エイズ動向委員会等においてHIVの推定感染経路の区分として使用している「同性間性的接触」という表現を採用した。


第1 同性間性的接触におけるエイズ予防対策の現状

 同性間性的接触におけるエイズ予防対策
 我が国におけるエイズ対策は、昭和58年度のエイズ研究班発足に始まり、昭和 59年度のAIDS調査検討委員会設置、昭和62年度より保健所における相談・検査体制の整備を行う等、当初からエイズ予防に関する対策を実施してきたところである。保健所における相談・検査については無料・匿名で実施することにより受検者のプライバシーに配慮してきた。
 こうした中で日本人男性が同性間性的接触によって国内で感染する事例が増加していることから、平成11年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づき作成された「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」において、「同性愛者」は特別な配慮を必要とする個別施策層の一つと位置づけられ、人権や社会的背景に最大限配慮したきめ細かく効果的な施策を実施することとされてきた。

 同性間性的接触におけるエイズ予防対策の現状とその問題点
 同性間性的接触におけるHIV感染者の発生は地域的・年齢的に偏在していること、また、性的指向に配慮した予防対策について経験が少ないこと等から、同性間性的接触におけるエイズ予防対策は一部の地域で試行錯誤を重ねながら実施されているのが現状である。同性間性的接触を行う者を対象とした啓発資材の作成、普及方法の確立、また、啓発に関わる人材の確保や啓発活動への支援等については、未だ十分に達成されていないことが予防対策上の問題点といえる。


第2 同性間性的接触におけるエイズ予防対策の今後の在り方
 エイズ対策においては感染者や個別施策層の当事者の関与が対策の効果を高めるとされている。
 この考え方に基づき、以下のような事項に留意した対策を講ずることが求められる。

 啓発ポスター、パンフレットの製作・普及と広告媒体による啓発
 効果的な啓発資材の作成にあたっては対象者の性的指向や行動様式等の社会的背景への配慮が必要であり、さらに啓発効果の維持には一定の期間内で資材の刷新を行う等の工夫が求められる。
 また作成した啓発資材を的確に対象まで届けるためには、同性間性的接触を行う者が利用する雑誌や商品、バー、クラブ、ハッテン場(同性間性的接触を行う男性が利用し、時に性的な関係を持つ相手との出会いとなる場)等の商業施設、インターネットを始めとするメディア等を活用すると共に、世界エイズデー等の機会を利用することが肝要である。

 予防スキルの提供とその機会の拡大
 同性間性的接触を行う者がエイズ予防に関する情報を活用し、エイズ予防に有効な行動を取るためには、予防スキル(方法や手段など)を身に付けることが必要で、適切な知識と習熟した技術を備えた人材による啓発の機会の提供が必要である。しかし、予防スキルを提供できる人材が少ない現状ではこれらの人材の育成を推進することが必要である。

 コンドーム使用と流通の拡大
 これまでコンドームは主に避妊具として使用されてきたため、同性間性的接触を行う者がHIV感染症を始めとする性感染症予防を目的として自らが購入して使用するようになるまでには至っていない。コンドーム使用の機会を増やすためには当面、地域の実情に合わせたコンドームの配布等の措置を継続的・効果的に行うことが必要である。
 また、同性間性的接触を行う者が継続してコンドームを使用するためにはそのニーズにあった商品の提供が重要である。

 検査環境の整備と医療機関との連携
 HIV検査は自らの意思で感染の有無を知ると同時に、その個人がその情報を自らの健康に役立て、より安全な性行動につながるよう支援する場でもある。受検者にとって利便性の高い検査を提供するには、平日日中の検査に加え、夜間や休日における検査を導入するなど、地域の実情に合わせた検討が望まれる。特に同性間性的接触においては、梅毒を始めとする性感染症の予防対策との連携がエイズ予防を推進すると期待される。
 HIVを含む性感染症の検査陽性者に対しては、医療を受ける者が自らの意志で医療機関を選択し適切な医療を受けられるよう関係機関との連携を進めることが必要である。
 また、検査に際して実施される情報提供、相談、カウンセリングに関しては地域の実情に合わせた手法がとられているが、受検者の性的指向に関わらず有効なエイズ予防対策の実践が可能であることを理解した上で、受検者のニーズに合わせた情報の提供を行うことが必要である。

 なお、同性間性的接触におけるエイズ予防対策を進めるにあたり、当事者に対する偏見等が生じないように配慮した対応が必要である。このため、当事者の事情に詳しいNGO等の協力のもと、これまでのエイズ対策の知見に加えて、当事者の意見を反映した啓発資材の作成・普及、コンドームの普及、予防スキルの提供、検査環境の整備が総合的に実践されることが必要である。


おわりに

 これまでの検討により、我が国で実施されてきた同性間性的接触におけるエイズ予防対策は、保健所等における無料・匿名検査体制の整備や、地域の実情に応じてNGOや感染者を活用した対策が行われてきたと評価できる一方で、同性間性的接触を行う者に効果的な対策を実施するためにはいくつかの課題があることが明らかとなった。例えば、同性間性的接触を行う者に対するエイズ予防対策の効果評価についてはいまだ研究段階であることや、出会い系サイトの普及により、商業施設等を介さない同性間性的接触には直接的な予防介入が困難であること等が挙げられた。

 HIV感染は特定の者に限らず、性的接触を行う全ての者に可能性があるため、エイズ予防に有効な行動について、行政機関のみならず報道機関を通じた広報活動等、あらゆる機会を捉えた啓発を継続的に行うことにより、エイズ予防は誰にとっても重要な問題であることを国民一人一人に浸透させることが重要である。
 今回の検討を踏まえ、同性間性的接触を行う者が自己決定に基づくエイズを含む性感染症予防のための行動の確立が可能となるよう、これらの者に対するエイズ予防対策が推進され、これが我が国におけるエイズ予防対策全体の模範となり、また国民全体の利益につながると期待し、今後の同性間性的接触を行う者に対するエイズ予防対策の一層の充実を望むものである。


同性間性的接触におけるエイズ予防対策に関する検討会名簿


生島  嗣(ぷれいす東京専任相談員)

市川 誠一(神奈川県立衛生短期大学衛生技術科公衆衛生学教授)

内海  眞(国立名古屋病院臨床研究センター長兼第1内科医長)

鬼塚 哲郎(京都産業大学語学教育研究センター助教授)

河村 昌伸(エンジェルライフ名古屋役員)

木村 博和(横浜市立大学医学部公衆衛生学講座助手)

佐藤 未光(MASH東京代表)

菅原 智雄(動くゲイとレズビアンの会理事)

橋本 哲志(AIDSケアプロジェクト代表)

長谷川 博史(NoGAP代表)

○:座長


別紙 「同性間性的接触におけるエイズ予防対策に関する検討会」の開催状況


第1回検討会開催(平成14年1月25日)
 ・同性間性的接触におけるエイズ予防対策の現状と課題について(1)

第2回検討会開催(平成14年2月27日)
 ・同性間性的接触におけるエイズ予防対策の目的等について

第3回検討会開催(平成14年4月18日)
 ・同性間性的接触におけるエイズ予防対策の現状と課題について(2)

第4回検討会開催(平成14年6月18日)
 ・同性間性的接触におけるエイズ予防対策の5つの骨子(案)の呈示
 啓発ポスター、パンフレットの普及
 広告媒体による啓発
 ワークショップ等による予防スキルの提供
 コンドーム普及
 検査環境の整備
 ・啓発ポスター、パンフレットの普及、広告媒体による啓発、ワークショップ等による予防スキルの提供について

第5回検討会開催(平成14年8月21日)
 ・コンドーム普及について

第6回検討会開催(平成15年2月12日)
 ・検査環境の整備について

第7回検討会開催(平成15年3月18日)
 ・中間報告書作成


照会先
健康局疾病対策課エイズ医療係
担当 柳澤(内2358)


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