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平成13年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告

平成15年2月13日

目次

 はじめに

 報告結果(総括)

1.家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告
2.家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告
3.家庭用品等が原因と考えられる吸入事故等に関する報告

 おわりに

 <図表>

表1 年度別・家庭用品カテゴリー別皮膚障害報告件数
表2 年度別・家庭用品による皮膚障害のべ報告件数(上位10品目)
表3 金属製品のパッチテスト結果
表4 年度別・家庭用品等の小児の誤飲事故のべ報告件数(上位10品目)
表5 年度別・家庭用品等の吸入事故のべ報告件数(上位10品目)
図1 家庭用品による皮膚障害報告件数比率の年度別推移
図2 小児の家庭用品等誤飲事故報告件数比率の年度別推移
図3 時刻別誤飲事故発生報告件数
図4 年齢別誤飲事故報告件数



平成13年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告

平成15年2月13日
厚生労働省医薬局審査管理課
化学物質安全対策室

はじめに

 技術の進歩や生活慣習の変化に伴い、毎年新たな家庭用品が登場するだけでなく、同じ家庭用品でも使用される場所がより身近になったり、使用頻度が高くなったりするものが増えてきている。これらの製品の安全性については事前に十分考慮されるべきものではあるが、誤使用による事故や、当初は想定し得なかった危険性に起因する健康被害が生じてくる可能性は常に存在する。健康被害防止の観点から、現状の変化をモニターし迅速な対応を行うためのシステムを構築することは意義深いことであろう。そのための制度の一つとして、家庭用品に係る健康被害病院モニター報告制度が昭和54年5月から実施されており、今年度で23年目を迎えた。本制度により、日常生活において使用している衣料品、装飾品や時計等の身の回り品、家庭用化学製品等の家庭用品による皮膚障害ならびに小児による家庭用品等の誤飲事故の健康被害について、医師の診療を通じて最新の情報が収集されている。報告された健康被害の実態は専門家により検討され、その結果が本報告書としてとりまとめられている。本報告書は関係事業者、行政機関に配布するとともに広く一般へも公開し、健康被害の情報収集と、消費者・事業者への注意や対策の喚起を行ってきているところである。なお、平成13年度までの23年間に20,443件の健康被害事例が報告され、その結果は、家庭用品の安全対策に反映されてきている。
 本制度の実施にあたっては、モニター病院として皮膚科領域8病院(慶應義塾大学病院、堺市立堺病院、信州大学医学部附属病院、東京医科大学病院、東京慈恵会医科大学附属病院、東邦大学医学部附属大森病院、名古屋大学医学部附属病院及び日本赤十字社医療センター)と小児科領域8病院(伊丹市立伊丹病院、川崎市立川崎病院、医療法人財団薫仙会恵寿総合病院、埼玉社会保険病院、東京医科大学病院、東京都立墨東病院、東邦大学医学部附属大森病院及び名古屋第一赤十字病院)の協力を得ている。
 また、平成8年度からは(財)日本中毒情報センターの協力を得、主に吸入事故及び眼の被害等に関して同センターで収集した情報を提供していただいている。
 今般、平成13年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村 眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。


モニター報告制度協力施設一覧

【皮膚科】

施設 担当者
慶應義塾大学病院 西川武二、小林誠一郎、長坂武
堺市立堺病院 東禹彦
信州大学医学部附属病院 斉田俊明、松本和彦
東京医科大学病院 坪井良治、住田治子
東京慈恵会医科大学附属病院 新村眞人、山崎典子
東邦大学医学部附属大森病院 伊藤正俊、秋元留理
名古屋大学医学部附属病院 早川律子、加藤佳美、杉浦真理子、小川浩
日本赤十字社医療センター 紫芝敬子

【小児科】

施設 担当者
伊丹市立伊丹病院 三木和典
川崎市立川崎病院 武内可尚、長秀男、安倍隆、山下行雄、御宿百合子、中尾歩、麻生泰二、小須賀基通、後藤美和
医療法人財団薫仙会恵寿総合病院 山崎省行
埼玉社会保険病院 鈴木敏雄
東京医科大学病院 星加明徳
東京都立墨東病院 関一郎
東邦大学医学部附属大森病院 諸岡啓一、本山治、橋本卓史
名古屋第一赤十字病院 松山孝治


報告結果(総括)

報告件数の変動について

 平成13年度の報告件数は1,683件であった。
 そのうち家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告は182件であり、報告件数は前年度(225件)より減少した。皮膚科領域においては、複数の家庭用品が原因としてあげられている報告については、家庭用品の種類別の集計ではおのおの別個に計上しているため、のべ報告件数は209件となった。ここ5年間ののべ報告件数の推移を見ると、最低が平成9年度の168件、最高が平成10年度の261件であり、その間増減の傾向は一貫していない。平成13年度の報告数は前年度と比較して約2割減少したが、ここ5年間の報告数と比較すると変動の範囲内である。
 小児の家庭用品等の誤飲事故に関する報告は886件であり、報告件数は前年度(789件)より約1割増加し、ここ5年間で最高であった。
 また、(財)日本中毒情報センターに寄せられた家庭用品等に係る吸入等による健康被害の報告件数は615件であり、報告件数は前年度(546件)に比べて約1割増加した。件数については、幅広く被害情報を収集するという観点から平成10年度より液が眼に入るなどの眼の被害も集計に加えたため、平成10年度以降の報告数は8,9年と比較して多くなっている。
 なお、これらの健康被害は、患者主訴、症状、その経過及び発現部位等により家庭用品等によるものであると推定されたものであるが、因果関係が明白でないものも含まれている。


1. 家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

(1)原因家庭用品カテゴリー、種別の動向

 原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、装飾品等の「身の回り品」が89件で最も多く、次いで洗剤等の「家庭用化学製品」が63件であった(表1)。
  家庭用品の種類別では「装飾品」が46件(22.0%)で最も多く報告された。次いで「洗剤」が44件(21.1%)、「ゴム・ビニール手袋」が12件(5.7%)、「ベルト」が10件(4.8%)、「ナイロンタオル」が9件(4.3%)、「洗浄剤」と「眼鏡」が7件(3.3%)、「時計バンド」と「時計」が6件(2.9%)、「スポーツ用品」、「くつした」及び「下着」が5件(2.4%)の順であった(表2)。
 報告件数上位10品目について平成12年度と比較すると、上位2品目について「装飾品」と「洗剤」の順位に変動があった。報告件数については、「装飾品」の報告件数は5件減少したが全体に対しての割合は約2ポイント増加した。「洗剤」の報告件数は21件減少し、全体に対する割合も約5ポイント減少した。「ゴム・ビニール手袋」については、順位の変動はなかったものの、報告件数は25件から12件に減少し、全体に対する割合も約4ポイント減少した(表2)。その他の上位品目については、報告数、割合に変動があったものの概ね同じ品目で占められていた。

「洗剤」: 野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤
「洗浄剤」: トイレ、風呂等の住居用洗浄剤

 上位10品目の全報告件数に占める割合を長期的な傾向から見ると、変動はあるものの「洗剤」と「装飾品」の割合が常に上位を占めており(図1)、平成13年度も同様であった。

(2)各報告項目の動向

 患者の性別では女性が143件(78.6%)と大半を占めた。そのうち20代が50件と全体の27.5%を占めた。前年度と比べると6ポイント近く増加しており、依然として最も高い割合となっている。この50件中34件はアレルギー性の接触皮膚炎で、このうち23件が金属アレルギーによるものであった。
  障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が98件(46.9%)と最も多く、次いで「刺激性皮膚炎」52件(24.9%)、「KTPP型の手の湿疹」が21件(10.0%)、「湿潤型の手の湿疹」が11件(5.3%)、であった。

*: KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症)
手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激により起こる。まず、利き手から始まることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて角質の肥厚を伴う。

 症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると105件(57.7%)であった。なお、本年も「不明」が44件(24.2%)あった。このような転帰不明の報告例は、症状が軽快した場合に受診者が自身の判断で途中から通院を打ち切っているものと考えられる。

(3)原因製品別考察

1)装飾品
 平成13年度における装飾品に関する報告件数は46件(22.0%)であった。前年度51件(20.1%)と比較すると報告件数は減少したものの、全報告件数が減少したため、これに対する割合は約2%増加していた(表2)。
 原因製品別の内訳は、ネックレスが20件、ピアスが16件、イヤリングが10件、指輪が6件、ブレスレットが3件、不明が1件であった。これらのうち複数によるものも11件あった。
 障害の種類では、アレルギー性接触皮膚炎が41件(89.1%)と昨年と比較して若干割合が増加し、約9割を占めた。原因となった素材は、全てが金属であった。
 44件のパッチテスト施行例が報告され、前年度同様、ニッケルにアレルギー反応を示した例が33件と最も多かった(表3)。それに次いでコバルトで14件、金で7件等でパッチテストによりアレルギー反応が観察された。このパッチテストは同時に複数の金属について行われたが、ほとんどの場合、被験者は複数の金属に対して強弱の差はあるが、陽性反応を示していた。
 このような金属が原因の健康障害は、金属が装飾品より溶けだして症状が発現すると考えられる。そのため、直接皮膚に接触しないように装着することにより、被害を回避できると考えられる。しかしながら、夏場や運動時等、汗を大量にかく可能性のある時には装飾品類をはずす等の気を配ることが被害を回避する観点からは望ましい。また、ピアスは耳たぶ等に穴をあけて装着するため、表皮より深部と接触する可能性が高いため、初めて装着したり、種類を変えたりした際には、アレルギー症状の発現などに対して特に注意を払う必要がある。症状が発現した場合には、原因製品の装着を避け、装飾品を使用する場合には別の素材のものに変更することが症状の悪化を防ぐうえで望ましい。さらに、早急に専門医の診療を受けることを推奨したい。ある装飾品により金属に対するアレルギー反応が認められた場合には、金属製の別の装飾品、眼鏡、時計バンド、ベルト、ボタン等の使用時にもアレルギー症状が起こる可能性があるので、同様に注意を払う必要がある。例えば、最も症例の多いニッケルアレルギーの場合、金色に着色された金属製品はニッケルメッキが施されている場合が多いので注意が必要である。

◎事例1【原因製品:イヤリング、ネックレス】
患者 27歳 女性
症状 平成12年夏より、イヤリング、ネックレスを装着した部位に一致して紅斑が出現した。その後も同様の症状を繰り返すため、精査目的で受診した。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト ニッケル(+)
治療・処置 ステロイド薬外用、ニッケルの含まれる製品の使用を避けチタン等の製品を使用するよう指示
<担当医のコメント>
 パッチテストの結果、ニッケル以外のクロム、コバルトなどには陰性であり、ニッケルに対する金属アレルギーの症例と考える。

◎事例2【原因製品:ネックレス、眼鏡】
患者 57歳 女性
症状 約5年前から、ネックレスをすると紅斑、丘疹が出現するようになった。また、平成12年12月頃から、18金のフレームの眼鏡をよく使用するようになった。その頃から耳介の眼鏡のつるのあたるところに紅斑、痒みが出現し、徐々に浸出液を伴うようになった。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト 眼鏡のつる(+)、金(+)
治療・処置 ステロイド薬外用
<担当医のコメント>
 眼鏡のつるを変更したところ、再発しなくなった。

2)洗剤
 平成13年度における洗剤に関する報告件数は44件(21.1%)であった。報告件数は前年度65件(25.6%)より減少し、全報告件数に対する割合も約5ポイント減少したが、過去5年間の変動の範囲であった(表2)。
 内訳を見ると、合成洗剤が原因となった例が多かったが、石けんが原因となった例も3件見られた。原因製品の種類が判明しているものを用途別に見ると、洗濯用が21件、台所用が17件、両製品による事例が7件であった。用途が特定できないものも13件あった。
 洗剤が原因となった健康障害の種類は、刺激性の皮膚炎が25件(56.8%)、KTPP型の手の湿疹が14件(31.8%)、アレルギー性接触皮膚炎が6件(13.6%)、湿潤型の手の湿疹が5件(11.4%)であった。
 事例のように、皮膚を高頻度で水や洗剤にさらすことにより、皮膚の保護機能が低下し、刺激性皮膚炎が起こりやすくなっていたり、また高濃度で使用した場合に障害が起こったりというように、症状の発現には、化学物質である洗剤成分と様々な要因(皮膚の状態、洗剤の使用法・濃度・頻度、使用時の気温・水温等)が複合的に関与しているものと考えられる。基本的な障害防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守ることが第一である。また、必要に応じて、保護手袋を着用することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も有効な対処法と思われる。それでもなお、症状が発現した場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、早期に専門医を受診することを推奨したい。

◎事例1【原因製品:台所用洗剤】
患者 52歳 女性
症状 1年くらい前より右中指にカサカサした皮疹が出現し、人差指、親指に拡大。水仕事で食器用洗剤を使うと増悪する。
障害の種類 手の湿疹(KTPP型)
治療・処置 尿素配合薬外用、ステロイド薬外用
<担当医のコメント>
 洗剤による手の湿疹では、その刺激を避けるため、水仕事では手袋を使用する必要がある。

◎事例2【原因製品:洗濯用洗剤】
患者 16歳 女性
症状 幼少時よりアトピー性皮膚炎の治療を受けていた。2年程前より全身に紅斑が広がり悪化した。
障害の種類 刺激性皮膚炎
パッチテスト 洗濯用洗剤(+)
治療・処置 洗剤の使用量を適切にすること、すすぎをしっかり行うよう指導
<担当医のコメント>
 パッチテストで使用していた液体洗剤に刺激反応を認めた。洗剤の使用はアトピー性皮膚炎の悪化因子の一つと考える。

3)ゴム・ビニール手袋
 平成13年度における報告件数は12件(5.7%)であった。全報告件数に対する割合は、前年度(9.8%)に比べ約4ポイント減少した。素材別の内訳は、ゴム手袋が5件、ビニール手袋が6件、不明のものが1件であった。
 障害の種類としては、アレルギー性の接触皮膚炎が7件(58.3%)、KTPP型手の湿疹と湿潤型手の湿疹がそれぞれ4件(33.3%)報告された(重複事例含む)。
 本年度については、ラテックス蛋白質を原因とする接触蕁麻疹等の重篤な障害事例は報告されなかったが、前年度までの事例で紹介しているように、材質に対する反応は個人差があり、特にラテックスアレルギーは時にアナフィラキシー反応を引き起こし、じんましんの発疹、ショック状態等、重篤な障害をまねく恐れがあるので、製造者において、製品中のラテックス蛋白質の含有量を低減する努力が引き続き行われることが重要であるとともに、ラテックスに対するアレルギー反応の有無等、自己の体質にも注意が必要である。基本的には、既往歴があり、ゴム・ビニール手袋による皮膚障害が心配される場合には、以前問題が生じたものとは別の素材のものを使うようにする等の対策をまずはとる必要がある。はじめ軽度な障害であっても、当該製品の使用を継続することにより症状が悪化してしまうことがあり得る。また、原因を取り除かなければ治療効果も失われてしまうので、何らかの障害が認められた場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、専門医を受診することを推奨したい。

◎事例1【原因製品:ビニール手袋】
患者 28歳 女性
症状 5〜6年前から家事をするようになり、手が荒れ、紅斑、落屑が出現した。家事でビニール手袋を使用している。
障害の種類 手の湿疹(KTPP型)
パッチテスト ビニール手袋1(表(塩化ビニル樹脂)(+?)、裏(レーヨン)(+?))、ビニール手袋2(表(塩化ビニル樹脂)(+?)、裏(+?))
治療・処置 ステロイド薬外用、ビタミンA軟膏
<担当医のコメント>
 使用していたビニール手袋2種についてパッチテストを行ったところ、刺激反応を認めたため、手袋をゴム製のものに変更することを指導した。塩化ビニール製手袋でも皮膚障害は起こることがあるので注意が必要である。

◎事例2【原因製品:ゴム手袋】
患者 67歳 女性
症状 平成13年5月、両前腕に紅斑出現し、近医受診するも増悪のため来院。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト ゴム手袋(+)
治療・処置 ステロイド薬外用、抗アレルギー薬内服、手袋の使用中止を指示
<担当医のコメント>
 ゴム手袋などラテックス製品に接触する機会が多いと、ラテックスアレルギー発生の危険度が高くなる。全身性蕁麻疹やアナフィラキシーショックに発展する場合もあり、注意が必要である。

4)ベルト
 平成13年度におけるベルトに関する報告件数は10件(4.8%)であった。前年度10件(3.9%)と比べると報告件数は変化がなかったものの、全報告件数が減少していたため、これに対する割合は若干増加していた(表2)。
 また被害を発症した全ての原因がバックル部分の金属によるものであった。この全てが金属アレルギーであり、そのうち3件でパッチテストが施行されていたが、全てニッケルに陽性反応を示していた。(表3)
 対策としては、皮膚に直接バックル部分が触れないように着用することが第一であるが、それでも症状が発現した場合には、原因となった部分の素材を別のものに変更することが必要である。また、このように金属部分でアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス、眼鏡、時計バンド等の他の金属製品の使用にあたっても注意が必要である。

◎事例1【原因製品:ベルトの留め具】
患者 24歳 女性
症状 2年前より夏期を中心にベルト(バックル)の周囲に紅斑が出現する。汗をかく時期になり、再び同様の症状が出現したため受診した。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト ニッケル(++)
治療・処置 ステロイド薬外用、抗ヒスタミン薬内服、布製等のベルト使用を指導
<担当医のコメント>
 パッチテストはニッケル以外の金属は全て陰性であった。汗にバックルのニッケルが溶出して皮膚炎を起こすと考えられる。

5)ナイロンタオル
 平成13年度におけるナイロンタオルに関する報告件数は9件(4.3%)であった。前年度4件(1.6%)と比べると報告件数、全報告件数に対する割合とも増加していた(表2)。
 障害の種類は、色素沈着が8件、刺激性皮膚炎が2件等であった(重複事例含む)。

◎事例1【原因製品:ナイロンタオル】
患者 34歳 女性
症状 20歳頃より背中に色素沈着。ナイロンタオルを使用していた。
障害の種類 色素沈着
治療・処置 非ステロイド薬外用、ナイロンタオルの使用中止にて、徐々に色素沈着が薄くなっている。
<担当医のコメント>
 ナイロンタオル皮膚炎(=摩擦黒皮症)は、近年の清潔志向により、ナイロンタオルやブラシ、スポンジ、へちま、麻タオルなど、摩擦の強いもので皮膚をこすりすぎることによって起こる。使用中止にて回復するが、色が消えるまでに数か月〜数年かかることもある。原因に気が付かないことが多く、啓蒙が必要である。

6)その他
 その他、被害報告件数が多かったものは洗浄剤と眼鏡が各7件(3.3%)、時計バンドと時計が各6件(2.9%)、スポーツ用品、くつしたと下着が各5件(2.4%)等であった。

◎事例1【原因製品:住宅用洗浄剤】
患者 65歳 女性
症状 一週間前に家の大掃除をして、その際、洗浄剤を素手でさわった。5日前より両前腕、手背に痒みを伴う皮疹が出現した。
障害の種類 刺激性皮膚炎
治療・処置 ステロイド薬外用、抗アレルギー薬内服
<担当医のコメント>
 台所用だけでなく、住宅用洗浄剤でも障害を起こすことがある。手袋を着用するよう指導した。

◎事例2【原因製品:時計バンド】
患者 45歳 男性
症状 平成13年9月、ステンレス製時計(バンドはゴム製)で左手首にゴムによるかぶれを生じたため、使用を中止した。このため、時計、バンドともステンレス製のものや金製の時計(バンドは革製)を使用したところ、同様にかぶれを生じた。時計を右手に変更したが、こちらにもかぶれを生じた。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド薬外用

<担当医のコメント>
 パッチテスト未実施のため、どの金属にかぶれたか不明だが、金属製の時計バンドでは、種類を替えてもかぶれることがあるので、注意が必要である。

◎事例3【原因製品:時計】
患者 27歳 女性
症状 左前腕内側の時計が当たる部分に皮疹が出現してきた。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト ニッケル(+)、金(++)、インジウム(+)、アンチモン(+)
治療・処置 抗アレルギー薬内服、ステロイド薬外用
<担当医のコメント>
 典型的な金属によるアレルギー性接触皮膚炎である。これらの金属を含むアクセサリーが直接肌に接触するような着用方法を避けるよう指導した。

◎事例4【原因製品:シュノーケル、ゴーグル(ダイビング用)】
患者 41歳 女性
症状 両頬部、眼部の発赤、腫脹あり。痒みを伴う。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト シュノーケル(+)、ゴーグル(+)
治療・処置 ステロイド配合薬外用、ステロイド薬内服
<担当医のコメント>
 パッチテストの結果、シュノーケルとゴーグルともに陽性であり、これらによるアレルギー性接触皮膚炎と診断した。

◎事例5【原因製品:ゴーグル(競泳用)】
患者 72歳 女性
症状 平成13年5月頃より、眼囲が赤くなった。プールに通いゴーグルを使っている。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト ゴーグルのゴム部分(水色(+)、灰色(+))
治療・処置 ステロイド薬外用、ゴーグル変更を指示
<担当医のコメント>
 最近、高齢者が健康維持のためプールに行くようになり、ゴーグルによる皮膚障害は高齢者でも見られるようになった。

◎事例6【原因製品:くつした(ストッキング)】
患者 37歳 女性
症状 入院中にいわゆる弾性ストッキングを着用していたところ、足背に水疱・紅斑、大腿に丘疹、むくみが生じた。
障害の種類 刺激性皮膚炎
治療・処置 ステロイド薬外用
<担当医のコメント>
 手術後にいわゆる弾性ストッキングの着用が頻用されている。着用した翌日に症状が出現しているため、刺激性皮膚炎と診断。水疱形成など重篤な症状も出現し、半年経っても色素沈着は消失していない。

◎事例7【原因製品:線香】
患者 65歳 女性
症状 約2年前より顔面の眼の下から頬にかけて紅斑が出現し、増悪、軽快を繰り返していた。2年前より線香を家で使用している。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト 線香(+)、水銀(+)、コバルト(+?)、クロム(+?)
治療・処置 ステロイド薬外用・内服、ビタミンB2、C内服、非ステロイド薬外用
<担当医のコメント>
 パッチテストを行ったところ、線香のほか、水銀、コバルト、クロムが陽性であったが、使用状況等から原因製品は線香であると診断した。空気伝播性接触皮膚炎は原因と気付かないことが多く、長期化することが多い。

◎事例8【原因製品:いす(革)】
患者 53歳 女性
症状 3日前より両前腕外側に皮疹が出現した。入院中で革のいすに座り本を読んでいた。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド薬外用
<担当医のコメント>
 パッチテスト未実施のため確定的ではないが、同じ姿勢で座っていたため、接触していた皮革により接触皮膚炎を起こしたと考えられた。

(4)全体について
 平成13年度の家庭用品を主な原因とする皮膚障害の種類別報告全182件のうち、98件はアレルギー性接触皮膚炎であった。この中でも、装飾品、眼鏡、ベルトの留め金、時計や時計バンドなどで見られた金属アレルギーが約6割を占めた。平成8年来、上位3品目の内容は変わっておらず、これらで全体の約半数を占めていた。
 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどである。家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用は極力避けることが望ましい。故意、もしくは気付かずに原因製品の使用を継続すると、症状の悪化をまねき、後の治療が長引く可能性がある。
 症状が治まった後、再度使用して同様の症状が発現するような場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療を受けることが必要である。本年は報告されなかったが、ゴム手袋のラテックスタンパク質に対するアナフィラキシーショックのように重篤なものもあるので、注意が必要である。
 また、使用法の誤りから障害が起こった事例も依然見受けられており、これらの被害を避けるためにも、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、化学物質に対して感受性が高くなっているアレルギー患者等では、自分がどのような化学物質に反応する可能性があるのかを認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。


2. 家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告

(1)原因家庭用品等種別の動向

 小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が401件(45.3%)で最も多かった。次いで「医薬品・医薬部外品」が122件(13.8%)、「玩具」が57件(6.4%)、「金属製品」が48件(5.4%)、「プラスチック製品」が46件(5.2%)、「洗剤・洗浄剤」が31件(3.5%)、「化粧品」が26件(2.9%)、「硬貨」が24件(2.7%)、「電池」が18件(2.0%)、「食品類」が16件(1.8%)であった(表4)。
 報告件数上位10品目までの原因製品については、順位に若干の変動はあるものの、3年連続で同一品目により占められていた。また、上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変化がなく、本年も同様であった。

(2)各報告項目の動向

 障害の種類については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが86件(9.7%)と最も多かった。次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが51件(5.8%)となっていた。全体として症状の発現が見られたものは164件(18.5%)であったが、これらには複数の症状を認めた例も含んでいた。本年度は幸い命が失われるといった重篤な事例はなかったが、「入院」、「転科」及び「転院」となったものが34件あった。それ以外はほとんどが「帰宅」となっていた。
 誤飲事故発生時刻については、例年同様夕刻以降に発生件数が増加するという傾向が見られ、午後4時〜10時の時間帯の合計は488件(57.2%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)であった(図3)。
 誤飲事故発生曜日については、曜日間による差は特に見られなかった。

(3)原因製品別考察

1)タバコ
 平成13年度におけるタバコの誤飲に関する報告件数は401件(45.3%)であった。前年度385件(48.8%)と同様、依然全報告例の約半数を占めていた(表4)。
 その内訳を誤飲した種別で見ると、タバコ247件、タバコの吸い殻**147件、タバコの溶液***7件、となっていた。
 タバコを誤飲した年齢について見ると、例年と同様、ハイハイやつかまり立ちをはじめる6〜11か月の乳児に報告例が集中しており、264件(65.8%)にのぼった。これに12〜17か月の幼児(101件)と合わせると91.0%を占めた(図4)。乳幼児は1歳前後には独力で室内を移動できるようになり、1歳6か月以降には動きも早くなって、両手で容器を持ち飲水できるようにもなる。タバコの誤飲事故の大半は、この1歳前後の乳幼児に集中してみられ、この時期を過ぎればタバコの誤飲例は急激に減少する。期間にしてわずか1年に過ぎないこの期間に注意を払うことにより、タバコの誤飲事故は大幅に減らすことができるはずである。子供の保護者は、この年齢の時期には特別に、タバコ、灰皿を子供の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないこと、飲料の空き缶等を灰皿代わりに使用しないこと等、その取扱いや置き場所に細心の注意を払うことが必要である。特に、タバコの水溶液の場合はニコチンが吸収され易い状態にあるので、タバコ水溶液の誤飲の原因となりかねないジュースの空き缶を灰皿代わりにするなどの行為は避けるべきである。
 タバコの誤飲による健康被害を症状別に見ると、症状を訴えた55件中、消化器症状の訴えがあった例が33件と最も多かった。9割以上が受診後帰宅している。幸いなことに大事には至らなかったが、本年は入院、転院の事例が各1件報告されている。
 来院前に応急処置を行った事例は203件あった。行った処置としては何も飲ませずに「吐かせた」及び「吐かせようとした」事例が、あわせて110件と最も多かった。応急処置として、何らかの飲料を飲ませた例は31件あった。タバコの誤飲により問題となるのは、タバコに含まれるニコチン等を吸収してしまうことである。タバコを吐かせるのはニコチン等の吸収量を減らすことができるので有効な処置であるが、この際飲料を飲ませると逆にニコチンが吸収され易くなってしまう可能性がある。吐かせようとして飲料を飲ませても吐かなかった例もかなり見られており、タバコを誤飲した場合には飲料は飲ませず直ちに受診することが望ましい。
:「タバコ」 :未服用のタバコ
**:「タバコの吸い殻 :服用したタバコ
***:「タバコの溶液」 :タバコの吸い殻が入った空き缶、空瓶等にたまっている液

◎事例1【原因製品:タバコ
患者 1歳8か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 カバンの中に入っていたタバコを取り出し、飲み込んでしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 胃洗浄(タバコの葉少量)
のち帰宅

◎事例2【原因製品:タバコの吸い殻**
患者 9か月 男児
症状 悪心・嘔吐、ふらつき
誤飲時の状況 灰皿の中にあったタバコの吸い殻を口の中に入れた。
来院前の処置 指を入れ吐かせようとしたが、吐かなかった。
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 胃洗浄、点滴
のち帰宅

◎事例3【原因製品:タバコの溶液***
患者 4歳 女児
症状 なし
誤飲時の状況 灰皿代わりにした缶ジュースの中身を飲んでしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 なし
のち帰宅
<担当医のコメント>
 ニコチンは溶液中には大量に溶出するので危険である。飲料の缶を灰皿の代わりにすることは、絶対に止めるべきである。万が一、タバコを浸した溶液を飲んでしまった場合は、なるべく早く(30分以内に)受診して下さい。

2)医薬品・医薬部外品
 平成13年度における医薬品・医薬部外品に関する誤飲の報告件数は122件(13.8%)であった。前年度は108件(13.7%)であり、件数はやや増加した(表4)。症状の認められた21件中、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の消化器症状が認められた例が9件と最も多く、次いで傾眠などの神経症状が認められた例が7件あった。入院を必要とした事例も13件あった。入院例の多くの場合は保護者が注意をそらせている間に薬品を大量服用してしまっている例であった。
 誤飲事故を起こした年齢について見ると、タバコとは異なり、例年と同様各年齢層にわたっているものの、特に1〜2歳児にかけて多く見られていた(82件,67.2%)。このころには、自らフタや包装をあけて薬を取り出せるようになり、また家人が口にしたものをまねて飲んだりもするため、誤飲が多くなっているものと思われた。また、誤飲の発生した時刻は、昼や夕刻の食事前後と思われる時間帯に高い傾向があった。本人や家人が使用した薬が放置されていたものを飲んだり、家人が口にしたのをまねて飲むこと等が考えられ、使用後の薬の保管には注意が必要である。
 原因となった医薬品・医薬部外品の内訳を見ると、中枢神経系の薬が32件で最も多いなど、一般の家庭に常備されている医薬品・医薬部外品だけではなく、保護者用の処方薬による事故も多く発生していた。
 医薬品・医薬部外品の誤飲事故の大半は、薬がテーブルの上に放置されていた等、医薬品の保管を適切に行っていなかった時や、薬を飲ませた直後等のように保護者が目を離した隙、等に発生している。また、シロップ等、子供が飲みやすいように味付けしてあるもの等は、子供がおいしいものとして認識し、冷蔵庫に入れておいても目につけば自ら取り出して飲んでしまうこともある。小児の医薬品の誤飲は、大量に誤飲したり、効力の強い薬を誤飲した場合には、時に重篤な障害をもたらす恐れがある。家庭内での医薬品類の保管・管理には十分な注意が必要である。

◎事例1【原因製品:錠剤】
患者 1歳6か月 女児
症状 意識障害、立位不可
誤飲時の状況 母が気が付くと、児がフラフラしていた。父の精神安定剤が少なくなっていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 X線検査(異常なし)、血液検査、胃洗浄
入院

◎事例2【原因製品:シロップ薬 】
患者 2歳3か月 男児
症状 不機嫌
誤飲時の状況 耳鼻科で処方されたシロップ薬(5回分)を一度に飲んでしまった。薬の入った容器を棚の上に置いていたが、踏み台を利用して自分で取って飲んでしまったとのこと。
来院前の処置 不明
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 血液検査、胃洗浄(活性炭注入)、点滴
入院(2日)

3)電池
 平成13年度の電池の誤飲に関する報告件数は18件(2.0%)であった。前年度14件(1.8%)と比較して件数、割合とも横ばいであり、単独製品による事故数としては依然軽視できない数である(表4)。
 誤飲事故を起こした年齢について見ると、本年も12〜17か月の幼児に若干多い傾向はあったが、6か月から15歳にわたって見受けられ、依然幅広い時期に発生している。
 誤飲した電池の大半は、ボタン電池であった(11件)が、単4サイズの小さい乾電池を誤飲した事例の報告もあった。電卓やキッチンタイマー等ボタン電池を使用した製品が多数出回っているが、電池の誤飲事故は幼児がこれらの製品で遊んでいるうちに電池の出し入れ口のフタが何らかの理由で開き、中の電池が取り出されてしまったために起こっている場合が多い。また、交換した後に放置されたボタン電池を誤飲した事例もあった。製造業者は、これらの製品について幼児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要であろう。また保護者は、電池の出し入れ口のフタが壊れていないか確認するとともに、電池を子供の手の届くところに置かないことが必要である。特に放電しきっていないボタン電池は、体内で消化管等に張り付き、せん孔の可能性があるので、子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。

◎事例1【原因製品:ボタン電池】
患者 11か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 おもちゃの腕時計を一人でいじっていた。裏フタが開いていてボタン電池がなくなったのに母が気付いた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 X線検査で胃内に異物確認、摘出術
のち帰宅

4)食品
 本年度は誤飲したピーナッツが気管に侵入したとみられる、咳、喘鳴、呼吸困難等の症状を呈した事例があった。他にもあめを飲み込んで気道が一時ふさがれたと思われる事例が見られた。ピーナッツやあめ等は、気道に入りやすい大きさ、形状及び硬さを有しているので、特に2歳未満の乳幼児においては、誤飲事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道に入ってしまうと摘出が困難であり、乳幼児にそのまま食べさせること自体禁忌である。これらによる死亡事故の報告もあり、保護者自身が十分に注意する必要がある。
 酒類については3件の報告があった。放置されたものの誤飲や保護者が誤って飲ませてしまった例などであった。全般的にいえることであるが、誤飲の危険のあるものを放置しないようにすることが重要である。また、酒類の保管方法や子供に飲料を与える前には内容を確認する等の注意も必要である。
 なお、未だ本報告の調査では報告例はないが、過去にこんにゃくゼリーの誤飲による死亡事故が発生している。カナダや米国において一部製品が回収や警告の措置をうけたとの報告もある。当該事故後に硬さや形状の工夫等の対策はとられているが、こんにゃくのようなものは、かみ切りにくく、いったん気道へ詰まってしまうと、重篤な呼吸器障害につながる恐れがある。食品の誤飲で重篤な症状に至るもののほとんどは気道に詰まって窒息を起こすものである。食品を乳幼児等に与える際には、保護者はこのような点にも十分に注意を払う必要がある。

◎事例1【原因製品:ピーナッツ】
患者 1歳4か月 男児
症状 咳、喘鳴、呼吸困難
誤飲時の状況 ピーナッツを食べてむせて苦しがり、顔色不良となった。その後咳が止まらなかった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査(左肺気腫状)
転院

◎事例2【原因製品:あめ】
患者 2歳9か月 男児
症状
誤飲時の状況 あめをなめていて飲み込んでしまった。咳き込み、啼泣、歐気あり。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

 また、食品ではないが、食品の付属物や関連器具による誤飲例も下記のように見られている。本年度は、誤飲したお菓子の袋により気道がふさがれ、摘出術、入院が必要となった事例があった。幸いそれ以上重篤な症状には至らなかったが、同様な誤飲は昨年度も報告されており、誤飲の可能性のあるものとして注意が必要である。

◎事例1【原因製品:プラスチックフォーク】
患者 1歳8か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 果物を食べていて、プラスチックフォークの先が割れた。飲み込んでしまったかもしれない。
来院前の処置 なし
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 X線検査(異常なし)
のち帰宅
<担当医のコメント>
 歯が生えそろってくると、柔らかいスプーン、フォーク等は噛み切ってしまうので、保護者として使用させないよう注意する必要がある。

◎事例2【原因製品:ビニール袋】
患者 10か月 女児
症状 喘鳴、チアノーゼ、意識消失
誤飲時の状況 咳嗽、喘鳴が見られたため、指を口腔内に入れたが、異物を認めなかった。(親が目を離した隙にせんべいのビニール袋を飲み込んでいた。)
来院前の処置 指を口に入れた。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査(肺炎)、血液ガス測定、気管内挿管及び摘出術
入院

◎事例3【原因製品:乾燥剤(シリカゲル)】
患者 11か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 台所の棚の扉を開けて、お菓子の袋の中のシリカゲルを口に入れていた。機嫌はよい。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

5)その他
 代表的な事例だけではなく、家庭内・外にあるもののほとんどが子供の誤飲の対象物となる可能性があり、子供のいる家庭においては保護者の配慮が必要である。1歳前であっても指でものをつまめるようになれば、以下に紹介する事例のように様々な小さなものを無分別に口に入れてしまう。本年度は、観葉植物の葉を誤飲した事例も報告されているように、床など子供の手の届くところにものを置かないよう注意が必要である。
 また、灯油を誤飲し吐かせた事例が報告されたが、灯油等は、吐き戻した際に肺に侵入し、場合によっては化学性肺炎を引き起こして重篤な症状となる恐れがあるので吐かせず医師の診断を受けた方がよい。固形物の誤飲の場合は、誤飲したものが体内のどこにどんな状態で存在するかは一見したところではわからないので、専門医を受診し、経過を観察するか、必要に応じて摘出するかなど適切な判断を受けることが望ましい。誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題はないとする向きもあるが、硬貨が胃内から長時間排泄されなかったり、小型磁石や先に別途例示されたボタン電池等の場合に腸壁に張り付きせん孔してしまったりして、後日腹痛や障害を発生させる可能性もあるので、排泄の確認はするようにしたい。
 本年も防虫剤の誤飲事例があったが、衣類用の防虫剤は見かけ上はみなよく似ているが、よく使用されている成分には数種類あるので、医療機関等に相談する場合は何を誤飲したかを正確に伝えた方がよい。またこれらの防虫剤を誤飲した場合は、吸収を促進することになるので応急処置として牛乳を飲ませてはいけない。

◎事例1【原因製品:縫い針】
患者 1歳9か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 縫い針で遊んでいて飲んでしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査(食道内にあり)
転院

◎事例2【原因製品:硬貨】
患者 4歳11か月 男児
症状 咽頭痛
誤飲時の状況 落ちていた100円玉を食べたと言って、咽頭痛を訴えた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 X線検査(咽頭にあり)、摘出術
のち帰宅

◎事例3【原因製品:人形】
患者 10か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 人形の頭部の飾り(プラスチック製)を口で噛み切った。母が気付き、指を入れて1個は取り出したが、他の1個は飲み込んでしまった。
来院前の処置 指を入れて取り出した。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

◎事例4【原因製品:おはじき】
患者 3歳8か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 おはじきを飲んでしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査(おはじきあり)
のち帰宅

◎事例5【原因製品:台所用洗剤】
患者 4歳9か月 女児
症状 悪心・嘔吐、顔色不良
誤飲時の状況 台所用洗剤をお茶のペットボトルに入れて冷蔵庫に保存していたが、間違えて勢いよく飲んでしまった。
来院前の処置 牛乳を飲ませ、吐かせた。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 胃洗浄
のち帰宅
<担当医のコメント>
 食品等の容器に洗剤等を入れることは避けるべきである。また、洗剤等の保管は、子供が間違えて飲んでしまうことのないよう注意する必要がある。

◎事例6【原因製品:台所用漂白剤】
患者 6か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 母が目を離した隙に、台所の漂白剤をなめてしまった。
来院前の処置 すぐにミルクを飲ませた。
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
診察所見 なし
処置及び経過 なし
のち帰宅

◎事例7【原因製品:防虫剤(ナフタリン)】
患者 9か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 気が付いたら、落ちていたものを食べていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 胃洗浄(ナフタリン臭あり)
入院(2日)

◎事例8【原因製品:香水】
患者 4歳5か月 男児
症状 悪心・嘔吐
誤飲時の状況 母の香水を飲んでしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 不明
処置及び経過 点滴
のち帰宅

◎事例9【原因製品:瞬間接着剤】
患者 1歳4か月 女児
症状 嘔吐
誤飲時の状況 瞬間接着剤のチューブを噛んでいた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 口腔内の接着剤のかたまりを摘出
のち帰宅

◎事例10【原因製品:綿棒】
患者 9か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 突然苦しそうに咳をしたので、口を開けさせたところ白くて細長いものが見えた。指を入れて取ろうとしたが飲み込んでしまった。
来院前の処置 指で取ろうとした。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

◎事例11【原因製品:灯油】
患者 1歳6か月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 親が目を離した隙に、置いてあった灯油ホースを使って灯油を飲んだ。
来院前の処置 吐かせようとした。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査(肺炎像(±))、血液検査
入院(1日)

◎事例12【原因製品:観葉植物】
患者 11か月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 ベランダにあった日々草の歯をかじった様子であった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

<担当医のコメント>
 観葉植物の中には、有害な物質を含むものがあるので、子供の手の届くところに置かないよう注意する必要がある。

(4)全体について

 小児による誤飲事故は相変わらずタバコによるものが多い。タバコの誤飲事故は生後6か月からの1年間に発生時期が集中しており、この1年間にタバコの管理に特段の注意を払うだけでも相当の被害の軽減がはかれるはずである。一方、医薬品の誤飲事故はむしろこれよりも高い年代での誤飲が多い。それ自体が薬理作用を有し、子供が誤飲すれば症状が発現する可能性が高いものなのでその管理には特別の注意を払う必要がある。食品であってもそのものが気道を詰まらせ、重篤な事故になるものもあるので、のどに入るような大きさ・形をした物品には注意を怠らないように努めることが重要である。発生時間帯は夕刻以降の家族の団らんの時間帯に半数近くが集中しているという傾向が続いている。保護者が近くにいても、乳幼児はちょっとした隙に、身の回りのものを分別なく口に入れてしまう(本年度事故例中の約半数で保護者はそばにいた。)ので注意が必要である。
 一方、今年度は保育所や幼稚園等、多数の子供が生活している施設で起こった誤飲の報告事例は少数で、このことからも、誤飲は避けられない事故ではなく、誤飲をする可能性があるものを極力子供が手にする可能性のある場所に置かないことが最も有効な対策であることが伺い知れる。乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力、乳幼児の口に入るサイズのものは置かないようにしたい。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。口に入るサイズはおよそ直径3cmの円に入るものであるとされている。
 誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為であり、応急処置に関して正しい知識を持つことが重要である。
 なお、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故に関する注意点や応急処置などを記した、啓発パンフレットが作成され、全国の保健センター等に送付されている。


3.家庭用品等が原因と考えられる吸入事故等に関する報告

 (財)日本中毒情報センターは、一般消費者もしくは一般消費者が受診した医療機関の医師からのあらゆる化学物質による健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。毎年数万件の問い合わせがあるが、このうち最も多いのが幼少児のたばこの誤食で、これのみで年間6,000件に達する。
 この報告は、これら問い合わせ事例の中から、家庭用品等による吸入事故及び眼の被害に限定して、収集・整理したものである。なお、医薬品など、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」上の家庭用品ではないものも含まれている。

(1)原因製品種別の動向

 全事例数は615件で、昨年度より若干増加した。原因と推定された家庭用品等を種別でみると、前年度と同様、殺虫剤類の報告件数が最も多く、133件(21.6%)であった。次いで洗浄剤(住宅用・家具用)123件(20.0%)、漂白剤48件(7.8%)、消火剤46件(7.5%)、芳香・消臭・脱臭剤39件(6.3%)、園芸用殺虫・殺菌剤類27件(4.4%)、洗剤(洗濯用・台所用)22件(3.6%)、灯油19件(3.1%)、塗料18件(2.9%)、接着剤13件(2.1%)の順であった。前年度15件あった防水スプレーは3件に、防虫剤は16件から6件に減少しているが、これらの変化については今後も経時的に追う必要があると考える。なお、園芸用殺虫・殺菌剤類で前年度に比べ件数が増加しているのは、今年度は農作業用の殺虫剤等が家庭で使用されることにより発生した健康被害事例についても集計対象に含めることとしたためと考える。
 製品の形態別の事例数では、「スプレー式」が215件(そのうちポンプ式が90件)、「液状」213件、「粉末状」85件、「固形」46件、「蒸散型」33件、その他10件、不明が13件であった。なお、前年度まで「エアゾール式」や「ポンプ式」等の製品を「エアゾール式」と総称して記載していたが、「ポンプ式」等エアゾール式以外の製品も含まれていたことから、今年度は「エアゾール式」や「ポンプ式」の製品を含め「スプレー式」と総称することとし、記載を改めている。

(2)各報告項目の動向

 年齢から見ると、0〜9歳の子供の被害報告事例が256件と半数近くを占め、前年度と同様、最も多かった。その他では30代が多く、次いで50代、20代の順であった。年齢別事例数は製品によって偏りが見られるものがあり、洗浄剤(住宅用・家具用)、漂白剤は0〜9歳以外に30代にピークが見られ、芳香・消臭・脱臭剤は0〜9歳の子供が多い。消火剤も同様に0〜9歳の子供が多く、次に10代であった。
 性別では、女性が331件(53.8%)、男性が229件(37.2%)、不明が55件(8.9%)で男女比は過去とほぼ同等であった。電話での問い合わせのため、記載漏れ等があり、被害者の性別不明例が多少存在する。
 健康被害の問い合わせ者は、一般消費者からの問い合わせ事例が390件、受診した医療機関等医療機関関係者からの問い合わせ事例が225件であった。
 症状別に見ると、症状の訴えがあったものは404件(65.7%)、なかったものは202件(32.8%)、不明のものが9件(1.5%)であり、前年に比べて症状の訴えがあったものの割合が増加した。症状の訴えがあった事例のうち、最も多かったのが、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を訴えたもの156件(25.4%)で、次いで、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を訴えたもの155件(25.2%)、頭痛、めまい等の「神経症状」を訴えたものが118件(19.2%)、眼の違和感、痛み、充血等の「眼の症状」を訴えたものが91件(14.8%)であった。前年度と比べて上位に占める症状はほとんど変動していない。
 発生の時期を見ると、品目別では、殺虫剤類による被害が5〜9月の夏前後に多い。昨年は年末に漂白剤、洗浄剤(住宅用・家具用)による被害が若干多かったが、今年は季節による目立った傾向は見られなかった。曜日別にも解析を行ったが、際だった特徴はなかった。時間別では午前9時〜午後9時の間にほぼ均等に発生しており、午前1時から午前7時頃までが少なくなっていた。前年度と比較して、際だった変化はなく、生活活動時間に比例している。

(3)原因製品別考察

1)殺虫剤・防虫剤
 殺虫剤に関する事例は133件(21.6%)と多いが、防虫剤に関する事例は、今年度はわずか6件(1.0%)と減少した。
被害事例の状況として
1. 適応量を明らかに超えて使用する事例
2. 換気を十分せずに使用する事例
3. 燻煙剤を使用し、退室までに吸入してしまった事例
4. 燻煙剤を使用後、十分換気せずに入室してしまった事例
5. 隣の部屋で燻煙剤を使用し、煙を吸入してしまった事例
6. エアゾール缶で、噴射口の向きを間違えて使用した事例
7. ヒトの近辺で使用し、影響が出た事例
8. 散布時に風下にいたため、吸入した事例
等があり、使用の際には細心の注意が必要である。

◎事例1.【原因製品:殺虫剤(エアゾールタイプ)】
患者 34歳 女性
状況 スズメバチを殺そうとして、1時間のうちに3本使用した。
症状

◎事例2.【原因製品:殺虫剤(エアゾールタイプ)】
患者 68歳 男性
状況 締め切ったトイレで大量にスプレーした。
症状 めまい、しびれ、酸素濃度の低下
処置・転帰 酸素投与、点滴

◎事例3.【原因製品:殺虫剤(蒸散タイプ)】
患者 50歳 女性
状況 パソコンにカバーするのを忘れたため、噴射してすぐ部屋に入り、頭からかぶった。
症状 喉の痛み
処置・転帰 血液検査と注射により、2日ほどで症状は消失。

◎事例4.【原因製品:殺虫剤(蒸散タイプ)】
患者 41歳 女性
状況 障子越しの隣の部屋に30分間いて,吸入した。
症状 手足のしびれ、悪心、呼吸困難
処置・転帰 外来で点滴、症状改善。

◎事例5.【原因製品:殺虫剤(エアゾールタイプ)】
患者 72歳 女性
状況 使用時、反対向けに噴射し、眼に入った。
症状 眼の赤み

2)洗浄剤(住宅用・家具用)、洗剤(洗濯用・台所用)
 洗浄剤(住宅用・家具用)に関する事例は123件(20.0%)で、前年に比べてやや増加傾向にある。最も多いのは、次亜塩素酸系の製品によるもの(50件)であり、混合により発生した塩素ガスを含めると60件を数える。その多くはポンプ式スプレー製品(45件)である。また、洗剤(洗濯用・台所用)に関する事例は、22件(3.6%)であった。
 被害事例の状況として

1. 換気不十分で使用している事例
2. 狭い場所で、長時間あるいは大量に使用している事例
3. 2剤を併用し、塩素ガスが発生した事例
4. 誤ってかかってしまう、あるいは自分にかけてしまう事例(乳幼児に多い)
5. 高い場所に使用し、眼に入ったり、吸入した事例
6. 粉末の製品を開封する際に舞い上がり、吸入した事例
等があり、被害を防ぐには、換気を十分に行う、長時間使用しない、適量を使用すること等に気をつける必要がある。また、塩素系の洗浄剤と酸性物質(事故例の多いものとしては塩酸や有機酸含有の洗浄剤、食酢等がある)との混合は有毒な塩素ガスが発生して危険である。これらの製品には「まぜるな危険」との表示をすることが徹底されているが、いまだに発生例がみられ、一層の啓発が必要である。なお、乳幼児の事故事例は、保管場所を配慮することによって防止できるものが多い。

◎事例1.【原因製品:住居用洗浄剤(アルコール系溶剤含有)】
患者 12歳 女児
状況 窓を閉め切って10〜15分間掃除をした。
症状 悪心、嘔吐、意識混濁(泥酔状態)
胸部X線上は異常なし
処置・転帰 輸液のみで経過観察、8時間後より意識レベル良好となる。

◎事例2.【原因製品:カビ取り用洗浄剤(塩素系)】
患者 46歳 女性
状況 1時間半にわたり、浴室の掃除をした。
症状 呼吸困難
処置・転帰 酸素投与、輸液。9日後退院。

◎事例3.【原因製品:トイレ用洗浄剤(塩素系+塩酸含有製品)】
患者 60歳 男性
状況 トイレの清掃のため、2剤を混合し、ガスが発生した。
症状 気分不良、動悸
処置・転帰 酸素投与、輸液。入院3日。

◎事例4.【原因製品:衣類用洗剤(エアゾールタイプ)】
患者 1歳 男児
状況 母親が目をはなしたすきにいたずらした。泣き声に気づいた時には口の中および周囲に白い泡が付着していた。
症状 嘔吐、嗄声、犬吠様咳嗽、呼吸困難、咽頭・声門浮腫
処置・転帰 胃洗浄、エピネフリン、ステロイド、抗生剤投与。
入院4日。

◎事例5【原因製品:パイプ用洗浄剤(顆粒)】
患者 33歳 女性
状況 中身が固まっていたので容器をたたいてから蓋を開けたところ、細かな粉が舞い上がって吸入した。
症状 咳込み、喉の痛み
処置・転帰 内科受診し、無処置で帰宅
気管支炎様の症状が2日間続いたが、改善。

3)漂白剤
 漂白剤に関する事例は48件(7.8%)で、このうち次亜塩素酸系(塩素系)が最も多く、混合により発生した塩素ガスを含めると44件と大半を占めた。
被害事例の状況として

1. 塩素系漂白剤と酸素系漂白剤との混合によりガスが発生した事例
2. 希釈して使用するところを原液のまま使用した事例
3. 次亜塩素酸系の漂白剤と酸を混合して塩素ガスが発生した事例
等があり、注意が必要である。塩素系の漂白剤と酸素系の漂白剤とを混合し、ガス(塩化水素等)を発生させる事例が散見されている。また、塩素系の漂白剤と酸性物質とを混合し塩素ガスを発生させた事例も相変わらず見られ、前述の洗浄剤と合わせるとこれら危険性の高い塩素ガス発生事例は21件にものぼる。塩素ガスを発生させる恐れのあるものには「まぜるな危険」の表示、そうでなくとも「他剤と混合しない」という注意書きがなされているが、これら混合の危険性についてさらに一層の啓発をはかる必要がある。

◎事例1.【原因製品:塩素系漂白剤+酸素系漂白剤】
患者 33歳 女性
状況 別々の容器で使用していたが、廃棄時に混ぜて流した。
症状 咳、痰
処置・転帰 注射を受け、症状は消失。

◎事例2.【原因製品:塩素系漂白剤】
患者 17歳 女性
状況 シーツに原液をかけて浴室に放置したまま入浴した。
症状 立ちくらみ様症状
処置・転帰 症状が改善したため、受診せず。

◎事例3.【原因製品:塩素系漂白剤(ポンプ式スプレータイプ)】
患者 34歳 女性
状況 スプレー使用時、跳ね返ったものが眼に入った。
症状 角膜損傷
処置・転帰 来院前によく水洗し、眼科受診、外来にて洗眼。

4)消火剤
 消火剤に関する事例は46件(7.5%)であった。被害状況としては、消火器が倒れて消火剤が噴出した例、誤って噴射し吸入した例等、使用時以外の被害が目立った。使用中はもちろんのこと、保管場所、取扱いには十分な注意が必要である。

◎事例1.【原因製品:粉末消火器】
患者 28歳 女性
状況 幼稚園で園児が消火器を倒し、粉末を吸入した。
症状 喉の痛み
処置・転帰 翌日、喉の痛みは取れたが涙と鼻汁が持続。
外来にて経過観察し、2日後治癒。
◎事例2.【原因製品:粉末消火器】
患者 35歳 女性
状況 飛散した消火器の粉を1時間清掃。
症状 咳、めまい

5)芳香・消臭・脱臭剤
 芳香・消臭・脱臭剤に関する事例は39件(6.3%)で、前年とほぼ同様である。被害状況としては、誤って自分にかけてしまった例が多く、使用中の取扱いには十分な注意が必要である。今回初めて認められた例として、携帯用の消臭剤を点眼薬と取り違えた事例があった。

◎事例1.【原因製品:携帯用消臭剤】
患者 28歳 女性
状況 目薬と間違えて眼にさした。
症状 眼の痛み
処置・転帰 洗眼により症状が軽減、翌日には症状が治まったため、受診せず。

6)園芸用殺虫・殺菌剤類
 園芸用殺虫・殺菌剤類に関する事例は27件(4.4%)、その他(除草剤等)は10件(1.6%)であった。成分別では有機リン含有剤、ピレスロイド含有剤、ジチオカーバメート含有剤による事故が複数認められた。
被害状況としては

1. マスク等保護具を装着していなかったこと等により、吸入した例
2. 散布時に風下にいたため、吸入した例
3. 近隣で散布されたのを、吸入した例
4. 使用したことに気づかず、接触した例
等が見られた。屋外で使用することが多く、使用者以外にも健康被害が発生しているのが特徴である。家庭園芸用であっても十分な注意喚起を図る必要がある。

◎事例1.【原因製品:有機リン含有剤】
患者 61歳 男性
状況 マスクを着用せずに、5分ほど散布したところ、吸入した。
症状 20分後よりめまい、嘔吐、縮瞳

◎事例2.【原因製品:ピレスロイド含有剤】
患者 1歳 女児
状況 散布中、風下にいた子供にかかってしまった。
症状 嘔吐、下痢
処置・転帰 直後、自宅にてシャワーで洗浄、うがい。
外来にて経過観察。

◎事例3.【原因製品:ピレスロイド含有剤】
患者 36歳 女性
状況 隣人がベランダで散布したものを吸入した。
症状 めまい、舌のしびれ、悪心、下痢

◎事例4.【原因製品:除草剤】
患者 50歳 女性
状況 除草剤が散布されていたのに気づかず、素手で庭の草むしりを30分ほど行った。
症状 発熱、白血球の減少

7)その他
 昨今色々な商品が発売されているが、それに伴って家庭の中でもさまざまな目新しい商品による事故の発生例が報告されてきている。いずれもわずかな注意で防げる事例が多い。

◎事例1.【原因製品:結露防止剤(エチルアルコール含有)】
患者 35歳 女性
状況 窓に使用後、窓を閉め、近くでパソコンを使用していた。
症状 めまい、悪心
処置・転帰 症状の悪化はなく、受診せず。

◎事例2.【原因製品:木酢液】
患者 34歳 男性
状況 10倍希釈液を室内に散布したところ、吸入した。
症状 めまい、喉の痛み、しびれ、発赤

(4)全体について

 この報告は、医療機関や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、その発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたものである。したがって、一部の事例については追跡調査を行っているが、大部分は問い合わせ時以降の健康状態等の把握は行っていない。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。
 情報収集の対象は、吸入事故及び眼の被害に限定しているが、製品については医薬品など「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」上の家庭用品ではないものも集計に加えている。
 今年度も前年度同様、子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。保護者は家庭用品等の使用時やその保管方法に十分注意するとともに、製造者も子供のいたずらや誤使用等による健康被害が生じないような対策を施した製品開発に努めることが重要である。
 製品形態別では、スプレー式の製品による事故が多く報告された。スプレー式の製品は内容物が霧状となって空気中に拡散するため、製品の種類や成分にかかわらず吸入、眼への接触による健康被害が発生しやすい。使用にあたっては換気状況を確認すること、一度に大量を使用しないこと等の注意が必要である。
 主成分別では、次亜塩素酸系の洗浄剤等による健康被害報告例が相変わらず多くみられた。次亜塩素酸系の成分は、臭いなどが特徴的で刺激性が強いことからも報告例が多いものと思われるが、使用方法を誤ると重篤な事故が発生する可能性が高い製品でもある。製造者においては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等による継続的な注意喚起と適正な使用方法の推進をはかる必要がある。
 また、事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例や、わずかな注意で防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者にあっては、日頃から使用前には注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが大切である。万一事故が発生した場合には、症状の有無にかかわらず、(財)日本中毒情報センターに問い合わせをし、必要に応じて専門医の診療を受けることを推奨したい。


おわりに

 はじめにも触れたように、現在のモニター報告は治療を目的に来院する患者から原因と思われる家庭用品等について情報を収集するシステムである。特定の家庭用品による健康被害の報告の変動があれば、その情報の周知をはかり、当該物品による被害の拡大を防止すること、また、必ずしも容易ではないが、そこから原因となった化学物質を特定し、必要な対策をとることにより新たな健康障害を未然に防止することを目指している。また、(財)日本中毒情報センターに問い合わせのあった事例に関する情報は、主に電話によって収集されたものであり、医学的により詳細な内容を把握したり、予後を明確にすることは困難であるが、モニター病院で収集している以外の情報が消費者より直接寄せられており、家庭用品等による健康被害をモニターするうえで重要な役割を果たしている。
 本モニター報告は平成13年度で23回目となった。ここ数年、報告件数において上位を占める製品はほとんど変動していない。それだけ広く普及し、使用されているものでもあるのだが、引き続き注意の喚起と対策の整備を呼びかけ、注意により避けられる健康被害例を減少させるべく努めていく必要がある。特に、次亜塩素酸系(塩素系)の洗浄剤・漂白剤と酸性洗浄剤の混合による塩素ガス発生死亡事故が過去に発生し、これらの混合使用に対して広く注意喚起が行われて久しいが、幸い死亡という痛ましい事例はないにせよ、いまだにガス発生事故事例の報告が存在している。この中には有機酸や食酢等との混合事例もあり、タイプの異なる洗浄剤の混合使用を戒めると同時に、それ以外でも混合すると危険があり得るものをより具体的に明示し啓発していく必要がある。また、塩素系と酸性のものではないが、タイプの異なる複数の漂白剤等類の同時・混合使用により、別のガスを発生させる例もあり、注意の喚起と同時に、混合使用できるもの、できないものを何らかの形でわかりやすく伝えていく工夫も必要であろう。これらの注意喚起に加え、今までにない化学物質による、新たな健康被害が生じていないか、特に注意すべき事例はないか等、引き続きモニターしていくことも本制度に課せられた役割である。
 昨今、危機管理と言うことが盛んに叫ばれているが、危機管理というものは常日頃の連絡体制を効率よく運営することにより十分なされ得ることであり、平時のそのシステムの構築こそが最も重要である。本制度がそれに応え得るよう今後とも継続・充実をはかっていきたい。


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