中国製ダイエット用健康食品(未承認医薬品)の健康被害問題に関連して肝障害の原因として報告された製品は、平成14年12月末現在で117製品に上っているが、健康被害事例の半数以上は、「御芝堂減肥こう嚢(おんしどうげんぴこうのう)」、「せん之素こう嚢<(せんのもとこうのう)」、「茶素減肥(ちゃそげんぴ)」の3製品(いずれも未承認医薬品)が原因とされている。これら3製品に関するこれまでの分析結果等は、以下のとおりとなっている。
I 成分分析 |
1. これまで検出されている成分
これらの3製品に共通の成分として、下記の成分が検出されている。N−ニトロソフェンフルラミン以外の成分については、生理活性に関する知見が存在するが、肝障害性は知られていない。
御芝堂減肥こう嚢 | せん之素こう嚢 | 茶素減肥 | ||
成分 | N−ニトロソフェンフルラミン | ○ | ○ | ○ |
フェンフルラミン | □ | □ | □ | |
甲状腺末 | △ | ○ | ○ | |
ニコチン酸アミド | ○ | ○ | ○ | |
リボフラビン | ○ | ○ | ○ | |
カフェイン | ○ | ○ | ○ | |
カテキン類 | ○ | ○ | ○ | |
クロロゲン酸 | ○ | ○ | ○ |
(注) | 1. | ○:検出 □:極微量検出 △:一部の検体で検出 |
2. | ニコチン酸アミド・・・ビタミン(B群) リボフラビン・・・ビタミン(B群) カフェイン・・・コーヒーや茶に含まれる成分 カテキン類、クロロゲン酸・・・茶に含まれる成分 | |
3. | この他、極微量ではあるが、プラスチック可塑剤であるフタル酸ジヘキシルエステルが共通して検出されている。 |
・ | これら3製品の液体クロマトグラフィーのパターン(以下「プロファイル」という)には、強い類似性が認められる。 |
・ | プロファイルの強い類似性は、これら3製品が共通の原料をベースにして製造されたか、あるいは、共通の処方をベースに製造された可能性を示唆するものと考えられる。 |
・ | 御芝堂減肥こう嚢の旧製品とされる御芝堂清脂素のプロファイルは、御芝堂減肥こう嚢とはかなり異なるパターンを示している。 |
3.N−ニトロソフェンフルラミンの含有状況
・ | 製造年月日が判明している製品についてN−ニトロソフェンフルラミンの濃度を分析したところ、御芝堂減肥こう嚢とせん之素こう嚢については、濃度の変動が認められた。 |
・ | 御芝堂減肥こう嚢のN−ニトロソフェンフルラミンの濃度は、2001年(平成13年)9月〜11月製造品の1%台から2002年(平成14年)2月〜3月製造品の5%台へと、半年間で約5倍と急上昇している。 |
・ | せん之素こう嚢では、製造品中のN−ニトロソフェンフルラミンの濃度が2000年(平成12年)から2001年秋にかけて大きく上昇し、その後、概ね一定し、2001年10月〜2002年3月製造品では、2%〜3%程度となっている。 |
・ | 茶素減肥では、2001年6月〜2002年6月製造品のN−ニトロソフェンフルラミンの濃度は2%〜3%程度と概ね一定したものとなっている。 |
3製品中のN−ニトロソフェンフルラミンの濃度 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(注) | 1. | 御:御芝堂減肥こう嚢 千:せん之素こう嚢 茶:茶素減肥 |
2. | 茶素減肥の2001年10月28日製造のものについては、県において収去されたものからは、N−ニトロソフェンフルラミンが検出されなかったが、2002年7月12日に公表した健康被害事例に係るものからは、同物質が約3%検出されている。 |
II 健康被害事例の解析 |
1.健康被害の発生状況(参考図2)
・ | 2002年12月末までに都道府県を通じて報告のあった肝障害事例は、御芝堂減肥こう嚢135件、せん之素こう嚢120件、茶素減肥21件の合計276件であり、これは、2002年7月12日以降報告のあった中国製ダイエット用健康食品(未承認医薬品)に係る肝障害事例(117製品474件)の58.2%を占めている。 |
・ | 全体傾向として、2001年6月頃から肝障害事例の発生が認められるが、2002年2月頃まではその発生に一定の傾向は見られない。その後、2002年3月頃から被害の発生に上昇傾向が見られ、更に、2002年5月頃より被害発生件数が急速に上昇している。 |
・ | 御芝堂減肥こう嚢については、2002年3月以降、肝障害事例の増加が始まり、特に5月以降、外来受診例が急激に増加している。 |
・ | せん之素こう嚢については、2001年6月頃から肝障害事例の発生が認められているが、2002年2月頃までは、その発生状況にムラが見られる。2002年7月のみ発生件数が急激に上昇しているが、これを例外と考えれば、全体的には、被害発生水準は、概ね横這いとなっている。 |
・ | 茶素減肥については、他の2製品に比べると、肝障害事例の発生件数は少ないが、2002年春あたりから被害の発生に上昇傾向が出てきている。 |
2.服用量、服用日数等の状況
・ | これらの肝障害事例での製品の服用状況を解析すると、茶素減肥の1日服用量(平均4.4カプセル)は、他の2製品(御芝堂減肥こう嚢:平均8.0カプセル、せん之素こう嚢:平均6.3カプセル)に比べ少なく、製品表示上の服用量(III-2参照)の差が反映されたものと考えられる。 |
・ | 肝障害発生までの総服用量については、茶素減肥(平均243.5カプセル)は、他の2製品(御芝堂減肥こう嚢:平均387.8カプセル、せん之素こう嚢:平均466.3カプセル)に比べ少ないものとなっているが、2002年以降に服用を始めた事例に限ると、茶素減肥(平均254.5カプセル)とせん之素こう嚢(平均232.6カプセル)は、ほぼ同じとなる。 |
・ | 御芝堂減肥こう嚢とせん之素こう嚢には、茶素減肥に比べ、肝障害発症までに長期間を要した事例が見られるが、これは、服用開始後、相当の期間にわたり、発症に至らない程度の低濃度で健康被害原因物質に曝露されたためと推定される。 |
III 製品の販売等の状況 |
1.製品の発売等の状況
・ | 御芝堂減肥こう嚢が本格的に個人輸入され始めたのは、2001年夏頃からと考えられる。 |
・ | せん之素こう嚢は、3製品の中で、最も古くから個人輸入等により使用されており、2000年9月〜12月には、この製品による健康被害(甲状腺障害)6例が発生している。 |
・ | 茶素減肥は、2001年1月から、健康食品として輸入され、国内販売されている。 |
2.製品の表示等
・ | これら3製品は、いずれも1カプセル約250mgである。 |
・ | 製品の表示では、御芝堂減肥こう嚢とせん之素こう嚢が、通常、1日12カプセル服用とされ、茶素減肥が1日6〜9カプセル服用とされている。 |
IV N−ニトロソフェンフルラミンの毒性 |
動物実験を実施した結果、次のようなN−ニトロソフェンフルラミンの肝障害作用等が明らかとなった。
・ | N−ニトロソフェンフルラミンは、一過性の神経症状と共に摂餌量の減少、体重増加抑制作用を発揮した。 |
・ | 体重増加抑制があるにもかかわらず肝の絶対重量の増加が観られ、血清生化学検査の結果から肝細胞性の障害の存在と、胆管系への影響が示唆される所見が得られた。 |
・ | 以上より、N−ニトロソフェンフルラミンは、肝細胞性の障害のみならず、胆管系への障害の可能性も含む広義の肝障害を惹起するものと推察される。 |
V 総括 |