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ものづくり人材育成研究会
報告書

(概要版)



平成14年12月


アンケート調査結果

1.調査目的
(1)集積地域におけるものづくり企業の現状の把握
(2)集積地域におけるものづくりに携わる人材の確保・育成の現状の把握
(3)集積地域のネットワークを生かした人材育成方策の現状とそれへの期待

2.調査対象及び調査数、回収数及び回収率
 調査対象としては、平成7年に実施された「中小製造業の技術・技能集積に関する調査」(中小企業労働福祉推進会議専門小委員会報告書、平成8年 3月)の結果との比較考察を行うために同調査の調査対象に準拠することとし、「山形県村山」「茨城県北部」「多摩北部」「東京南部」「長野県諏訪」「長野県坂城」「静岡県西遠」「愛知県尾張北部」「大阪府中河内」「福井県鯖江」の10集積地域に位置する、「鉄鋼業」「非鉄金属製造業」「金属製品製造業」「一般機械器具製造業」「電気機械器具製造業」「輸送用機械器具製造業」「精密機械器具製造業」「工業用プラスチック製品製造業」の8業種に分類される従業員5人以上300人未満の企業を調査対象とした。
 上記条件をもとに抽出した合計7,972社に郵送で調査票を配布した(有効配布数7,933社)。有効回収数は1,545社で有効回収率は19.5%であった。


3.主な調査結果

(1) 経営状況

 1995年調査と比較しても、「悪化気味」は6.2ポイント(30.7%→36.9%)、「かなり悪化している」は12.1ポイント(24.9%→37.0%)増加しており、現在は厳しい経営環境となっていることがわかる。(問2)

  3年前と比べた売上高・出荷額の伸び(前年調査との比較)
図

(2) 取引状況

 特定企業(親企業)の協力会への加盟状況を見てみると、「入っている」が32.8%で最も多いが、1995年調査と比較してみると17.5ポイントも激減しており、親企業からの脱皮やケイレツ崩壊が進んでいるとみることができる。(問5)

  協力会への加入の有無(前回調査との比較)
図

 
 競争相手の企業の立地地域について、現在の競争相手としては「近接の都道府県及び一円」「立地都道府県内」「その他の国内」「地元」がどれも3割前後で高くなっているが、近い将来の競争について見てみるとこれらの割合が低下し中国を始めとしたアジアをあげる割合が高くなっている。特に「中国」は44.7%と極めて高く、半数弱の企業が近い将来の競争相手として意識している。(問8:複数回答)

  現在・近い将来の競争相手企業の立地地域
(単位:%)
図

(3) 労務管理・人材確保

 それぞれの種類の従業員が「必要である」場合についてその過不足状況を尋ねた結果、最も不足傾向が強いのは「技術者」であり「不足している」と「やや不足している」を合わせた割合は62.6%に達する。(問16)

  従業員の過不足状況(全体)
図

 
 自社の技能者について、4つの類型別にその構成比みてみると、平均で「多能工」が38.2%で最も多く、次いで「高度熟練技能者」の25.1%、「マネージャー型技能者」の19.2%、「テクノワーカー」の17.6%、の順となった。(問17)

  技能者数に占める各類型の人数(全体)
(単位:%)
図

(4)  人材育成・能力開発

 基幹的従業員に求められる知識・技能としては、「生産工程を合理化する知識」が最も多く(61.6%)、次いで「複数の基本的な技能」(52.4%)、「品質管理や検査・試験の知識・技能」(49.1%)の順である。(問19:複数回答)

  基幹的従業員に求められる知識・技能(前回調査との比較)
(単位:%)
図

 
 高いレベルの技能を持つ技能者の評価・処遇については、「給与等の金銭面で優遇」が圧倒的に多く、約7割(69.4%)の企業で行われていることとなる。次いで「雇用延長や再雇用の対象者を選抜する際に、優先」の31.3%である。(問24:複数回答)

  高レベル技能の技能者への評価・処遇方法(業種別)
(単位:%)
図

(5) 地域での取り組み

 地域におけるネットワーク活動について、現在「参加していない」企業が34.0%にものぼる。残りの「参加している」企業の中で参加しているネットワーク活動についてみてみると、最も多いのが「技術的な情報交換をしている」(33.5%)、「共同で人材育成を行っている」はわずか3.3%に過ぎない。関心があるものとしては、「技術的な情報交換」が最も多く(29.0%)、次いで「新製品開発」(24.7%)、「大学・研究機関との産学連携」(23.0%)、「新規事業」(21.7%)、の順である。現在の活動に比べて、より実際的な「新製品開発」「新規事業」などに関心が高いことが注目される。(問29:複数回答)

  地域におけるネットワーク活動への参加状況(全体)
(単位:%)
図

 
 集積地域としてのメリットを生かして生産現場の基幹的従業員の能力向上を地域全体で図っていく方策としては、「熟練技能者の人材バンクやOB組織を作り、必要な時にアドバイスを受けられたり、若い技能者を教えてもらったりできるようにする」が最も高い。(問31:複数回答)

  集積地域のメリットを生かして能力向上を地域全体で図っていく為の効果的方法(全体)
(単位:%)
図

 
 地域で生産現場の基幹的従業員の育成を進める上での問題点としては、「地域内の企業間での交流が少ない」が最も多く(40.5%)、次いで「同種技能を持つ企業が地域に少ない」(27.1%)、「地域の企業数自体が減少傾向にある」(26.5%)、の順となっている。(問32:複数回答)

  地域で基幹的従業員育成を進める上での問題点(業種別)
(単位:%)
図


4.特定テーマ分析
(1) 取引関係の変化と人材問題

 現在の厳しい環境の中で売上を伸ばしている企業は、不況期では早々に事業再構築に取り組み研究開発に力を入れた企業であり、現場の技能者レベルでは高度な技術的知識を身につけたテクノワーカーの割合を高めた企業である。世界をリードできる製造業の位置を維持していくには、絶えざるイノベーションを支える高度な人材の養成と蓄積の手をゆるめてはならない。

  売上高伸び別にみた、この3年間に取り組んだ事業再構築
(単位:%)
表図

  売上高伸び別にみた、近く取り組む予定の事業再構築
(単位:%)
表図

  被説明変数:売上高・出荷額の伸び
表図

(2) 集積地域における中小製造業のIT戦略と人材ニーズ

 集積地域のなかで、営業力や技術力を背景に高付加価値分野にシフトしながら、成長を続けている勝ち組企業群と技術革新等に遅れ気味で守りの経営に陥ってしまっている企業群、つまり、受注の低迷に悩んでいる企業群との二極化が一層加速されつつある。

  インターネットの活用状況(複数回答)
図

  CAD/CAMの活用状況(複数回答)
(単位:%)
表図

(3) ものづくり人材の育成と確保−企業と地域における取り組み

 企業の人材育成や熟練技能確保に生じている問題は、製造業集積地域においては地域全体の将来を左右する重要かつ深刻な問題として現われる。現状の地域における人材育成の取り組みは活発とは言い難い。その背景には、集積地域が各企業にとって有効な企業間交流の場として機能していないという点に加え、人材育成は地域における企業間交流によるものではなく企業の自主的な取り組みによるものであるという企業関係者における根強い通念が存在していると推測される。

  地域におけるネットワーク活動への参加
(複数回答、%)
表図

(4) 技能者類型による分析

 テクノワーカー型企業では「成長中」「安定している」とする企業が多く比較的好調と推測されるのに対し、高度熟練技能者型企業や多能工型企業では「かなり悪化している」とする企業の割合が高い。

  「3年前と比べた売上高の伸び」と技能的企業類型
(単位:%)
図


現地調査結果

 第1部の調査対象とした10の集積地域のうち、アンケート結果で特徴的な傾向が得られた4つの集積地域を対象として、ものづくり人材育成の現状を把握した。対象とした地域は次の4地域である。

 (1) 大阪府中河内地域:都市部開発企業型地域の事例として
 集積全体としてはまだまだ国際競争力を保持しており、高付加価値の製品やオンリーワンの製品を作っている企業があるかぎり、集積が衰退さらには空洞化することはないという自信が垣間見られる。また、公共団体と地元企業との連携がかなり緊密であり、強みとなっている。
 ものづくり技能・技術は常に進化(ないし深化)しており、特に開発型企業が多いこの地域ではこの傾向は顕著である。そのため、高齢者が体現している熟練技能を若い世代へとそのままの形で継承させていくことが、次代のものづくり人材育成の必要十分条件であるとはこの地域では限らない。ただし、最先端と言われる技術もあくまでも基盤技術の延長線上にあるため、基盤となる加工技術を完全に投擲してしまってよいというものでもなく、「技術者と技能者の中間的な人材」が必要とされている。

 (2) 山形県村山地域:地方工場誘致型地域の事例として
 地域内企業の(横の)交流・ネットワークは十分行われているとは言えず、これは人材育成面でも同様である。この原因としては、このような地域内企業のネットワーク化の旗を振る人材が見当たらないことが指摘されている。しかしながら、例えばOBを組織化してものづくり現場の指導・若手育成に活用することについては好意的な反応が多く、地域内の企業同士でより自社の持つ技術・技能をオープンにし合って交流を進めることに前向きな意見もある。

 (3) 茨城県北部地域:企業城下町型地域の事例として
 本地区の産業集積は日立製作所を頂点に電機・金属など部品加工・製作の中小企業群がピラミッドをつくり、タテ型の産業・生産組織を形成してきた。このタテ型構造の維持が難しくなっている状況の中で、個別企業の自立化への取組が行われ始めている。
 他方、企業間連携を通じた自立化の取組としても、特に域内企業との関係ではその必要性を認識する企業が多く、脆弱な営業基盤の強化を図るため、合目的的に企業間連携を通じて販路拡大や新分野進出に挑戦する試みが誕生している。

 (4) 静岡県西遠地域:好調な地域の事例として
 地域におけるものづくり人材の育成については、これまでは輸送用機械及び楽器のそれぞれの系列の中で、親メーカーが行う講習及び自社内でのOJTを主体とした教育によって行われてきたケースが一般的であると思われる。
 地域にある各支援機関が行う地域ものづくり人材育成への取り組みとしては、「先端技術産業の発展」に力点を置いた取り組みが目立ち、ものづくり現場の技能者の育成に大きく寄与しているとは言いにくい。


これからのものづくり人材育成の方向性

第1章 ものづくり人材育成の重要性と地域の視点の導入の意義

 (1) 人材育成投資の重要性
 競争上の優位性を生み出すのは、その設備を動かすノウハウの部分、更にその設備を使ってそれ以上の加工を行っていく(或いはその設備を元にして新しいものを生み出していく)技能の部分である。この部分、即ち人材育成に対して積極的な投資を行うかどうかが、その企業の生き残りの分かれ目となるのである。

 (2) 地域(集積)を活用した競争力強化 これまで、中国(に代表されるアジア諸国)の「最新設備+コスト(人件費)安」に対して、日本は「技術+技能」で対抗を続けてきた。これまでこの「技術+技能」力の向上に大きな役割を果たしてきたのは、いわゆる縦のケイレツであったが、現在ケイレツの崩壊は確実に進みつつある。
 これからは中国の「最新設備+コスト(人件費)安」に対して、日本は「(技術+技能)+地域集積」により対抗していく、というスキームに変わることが必要である。

第2章 競争を生き抜いていくためのものづくり人材育成への取り組み方
 (1) 企業としての取り組み
 ものづくり企業が生き残っていくための一番の方法は、“オンリー・ワン”企業となることである。“オンリー・ワン”の製品づくりを可能にしているのは、その企業の持つ技術力・開発力であり、それを支えるものづくり人材の力であろう。そこまでいかなくとも、事業内容を高付加価値構造へと転換を進めながら、競争力を高めている企業が売上を伸ばしており、製造業の原点を見据えて競争力を維持している企業が伸びている。

 (2) 地域としての取り組み
1) 都市部開発企業型
 人材育成面からこれらの地域が抱える問題点を見てみると、開発型企業が多く、新しいもの・付加価値の高いものを作り出していくためには常に新しい技術や材料の変化をキャッチアップしている必要があるが、それらを学ぶ場がなく、またあったとしても日常の業務に忙殺されてなかなか学ぶ時間を作れない。
↓
 人材育成をよりシステマチックに行うことの効果について意識啓発することがまず必要であろう。その上で、開発型企業の基幹となっている技能者・技術者層には新しい開発に必要となる先端技術や材料・加工法、熟練層には技術革新への対応を積極的に図るように務めてもらい、若年層には新しい技術技能の基礎となる基本技能の習得を求める。

2) 地方工場誘致型
 人材育成面からこれらの地域が抱える問題点を見てみると、都市部の集積に比べて企業の立地が物理的に広範囲にわたるため、企業間の人的交流も少なくなりがちで、また地域の公的能力開発施設へ通うには時間がかかる場合も多いことから、工場の外での能力開発の場が都市部と比較して相対的に少ない。
↓
 地域として取り組まずそれぞれの会社が単独で取り組んでいるのではやがて限界が来ることをしっかりと認識した上で、地域内の企業の交流を深め、互いに支え合う形で地域のものづくり人材育成に取り組んでいかなければならない。

3) 企業城下町型
 人材育成面からこれらの地域が抱える問題点を見てみると、これまでは親企業が自分の会社のものづくり力向上の一環として下請中小企業の人材育成面まで面倒を見てくれていたのが、親会社にも下請中小企業の面倒を見るまでの体力がなくなりまた取引関係もケイレツに頼らなくなってきたことから中小企業が自社単独で人材育成に取り組まなければならなくなった。
↓
 親企業のものづくりの中により入り込んでいくことを志向する企業にとっては、単に与えられた生産工程をこなす能力だけでなく、ものづくりの現場の視点からよりよいものづくりの方法を提案できより上流工程(企画・開発工程)にも提案することができる技能者、いわゆる「考える技能者」を育成する必要がある。技術・技能的には各社とも似たような種類を持っていることも多いため、1社単独での取り組みが難しければ基礎となる部分の技能教育は地域の企業が共同して行うなどの展開が求められよう。

4) 地場産業型
 人材育成面からこれらの地域が抱える問題点を見てみると、企業規模が零細であるため1社単独では人材育成を行うだけの余力がない。
↓
 これらの地域における人材育成のあり方としては、従来の製品分野でデザイン力や即応性を強化していく戦略を採る企業においては、技能者のマルチ技能者化の促進が求められよう。そのために若いうちからマルチ化を意識して能力開発や職場ローテーションなどに取り組んでいく必要がある。

 どの地域にも共通することとして、「地域の熟練技能者の経験を生かす/伝える」ことを再度強調しておきたい。地域内の中小企業が共同企画して熟練技能者を講師とした講習会を開催したり、熟練技能者による派遣指導を行ったり、地域内技能者の交流の機会を設けるなど、熟練技能者の持つ技能を地域として継承していくことが求められる。


 (3) 国としての取り組み
1) ものづくり技能が適正に評価される社会づくりに向けた施策
 職業能力評価制度は、人材の育成、技能の向上・継承、円滑な労働力需給調整等を図るために不可欠な社会的基盤であり、今後も一層充実させていくことが必要である。それらによって日本の技能者が優れている点を明らかにして、技術・技能レベルに応じた適正な対価が支払われるような社会環境づくりを誘導していく必要がある。
 それと共に、若い技能者やこれから技能者になろうとする若年者に対して努力目標や優れた技能について知る機会を与えることや「ものづくり教育」(若年者に対する意識啓発等)は、次の世代を担う子供達にものづくりの正しい姿を理解してもらう点で重要である。

2) 人材育成に対する企業の意識改革のための施策
 中小零細企業では、「人材育成は後回し」という風潮を改めるには、この不況下でもものづくり人材の育成に積極的に取り組むことによってものづくり力を向上させ好業績をおさめている企業の事例を始めとして、「技能者を適正に処遇している事例」などの情報提供を積極的に行っていく必要がある。
 さらに、「人材育成投資減税」「人材育成控除」のような誘導策を用意し、中小製造業が主体的に人材育成に取り組むように仕向けていくことも求められる。

3) 技能レベルに応じたマッチングのための施策
 職業紹介の場面においては、高度な技能を持つ者についてはそれをきちんと評価し、その技能をアピールできるような形で人材マッチングが行われるようにしていくべきである。ハローワークにおいて技能の客観的なレベルに応じた適切な職業紹介を実施するなど、技能レベルに応じたものづくり人材のマッチングを図るべきであろう。

4) ものづくり技能者の育成支援のための施策
 「地域の企業が共同して実施する講習会」「熟練技能のデジタル化」「熟練技能者への教え方の指導」「公的職業能力開発施設等を活用した基礎基盤技能の習得」「技能者の団体等が行う人材育成や処遇改善への取り組み」など、ものづくり技能者の育成支援のための施策を積極的に展開していく必要がある。

5) 地域におけるものづくり人材育成を支援し、促進するための施策
 地域の視点からものづくり人材の育成を支援し、促進する施策の検討も必要である。具体的には、ものづくり産業の集積地域等において、事業主団体などを活用し、業界におけるものづくり人材の育成のための計画を策定し、傘下企業に対してものづくり人材の育成を奨励することなどが考えられる。
 ものづくり人材の育成に関するこれまでの国の施策は、助成金の支給など全国的な規模での施策にとどまっているが、今後は地域レベルにおいて、それらを具体的に推進する事業にも力を入れていくことが必要である。

6) 今後の日本のものづくりの発展に資する技能の育成のための施策
 特に技術の進歩に対応して新しく出現してきている技能に配慮しつつ、どのような技能が現在存在しているかを明確にし、その技能が支えているものづくりは何か、その技能の国際的優位性はどうか等を調査把握して、日本のこれからの産業発展に必要と考えられた技能については重点的に育成支援を行っていくことが求められよう。またその結果に応じて、ものづくり現場のニーズ・進歩に応じた職種の改廃や高度のレベル設定などの技能検定制度の適正な運営も図っていく必要がある。


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