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 労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会は、平成14年4月5日以降、雇用保険制度の見直しについて同年12月18日までの間に15回にわたり検討を重ねてきたところであるが、今般、その結果を別紙のとおり取りまとめたので報告する。
 なお、労働側委員から意見書が提出されたので添付する。


平成14年12月26日

労働政策審議会職業安定分科会
雇用保険部会
部会長   諏訪 康雄


職業安定分科会
分科会長  諏訪 康雄 殿


(別紙)

労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会報告書


雇用保険制度の見直しについて


1 雇用保険制度の見直しの必要性
 現在、雇用保険制度は、制度創設以来最も厳しい財政状況にある。その要因としては、平成6年度以降毎年度赤字が続き、特に平成10年度から平成12年度にかけては3年連続で1兆円前後の赤字を記録し、平成13年度から給付体系の見直し、保険料率の引上げ、国庫負担の原則復帰等の制度改正が実施に移されたものの、その後の労働市場において、構造的摩擦的失業率の上昇が続く中で雇用保険受給者が増加する一方、常用雇用労働者の減少、パートタイム労働者の増加、賃金水準の低下により保険料収入が減少するなど、雇用保険財政について前回の改正の想定を超える構造的な変化が進んだことがあげられる。
 ○ 雇用保険制度は社会保障制度の中でも厳しい経済状況下で大きな役割を発揮すべき雇用のセーフティ・ネットであり、当面する財政破綻を回避するとともに、将来にわたり制度の安定的運営を確保するため、雇用政策全体との関連にも留意しつつ、給付・負担の両面にわたり以下のとおりの見直しを早急に行う必要がある。
 ○ この見直しについては、景気変動に伴う短期的な雇用・失業の動向に加え、産業・職業の構造変化、中高年齢者を含む労働移動の増加、雇用就業形態の多様化、少子・高齢化の進展等の中長期的な労働市場の変化を背景とした上述の雇用保険財政の構造的な変化等を踏まえて行う必要がある。
 ○ 見直しの方向としては、給付について、失業中の生活の安定に加え再就職の促進を図るという雇用保険制度の基本的役割が適切に果たせるよう、(1)早期再就職の促進、(2)多様な働き方への対応、(3)再就職の困難な状況に対応した給付の重点化等を図るとともに、保険料率について、給付と負担の公平性を確保しつつ、制度の安定的運営の確保に必要な水準とすることとする。

2 雇用保険制度の見直しの方向
 (1) 早期再就職の促進
  イ 基本手当日額と再就職時賃金の逆転現象の解消による再就職意欲の喚起
 基本手当については、高賃金・高給付層の中に基本手当日額が再就職時賃金を上回る者が多く見られること等を踏まえ、再就職時賃金に比して基本手当日額が高い層の給付水準を調整するため、現行の給付率60〜80%を50〜80%(60〜64歳は50〜80%を45〜80%)に改めることが適当である。
 併せて、基本手当日額の上限額及び屈折点についても見直すことが適当である(具体的には、基本手当日額の算定の基礎となる賃金日額の上限を全労働者の賃金分布における第3四分位数以上の中位数(上位12.5%)とする。また、賃金日額の屈折点(給付率が逓減して下限の率に至る点)を第3四分位数(上位25.0%)とする。)。
 さらに、60〜64歳層における基本手当日額と再就職時賃金の状況等にかんがみ、60歳時賃金日額の算定の特例は廃止する必要がある。

  ロ 就職促進給付の整備
   (イ) 就業促進手当(仮称)の創設
 多様な方法による早期再就職の実現のため、現行の再就職手当の支給対象(=1年を超える雇用等)とならない就業形態で働いた期間(支給残日数が3分の1以上ある期間に就業を開始した場合に限る。)について、基本手当日額の一定割合を支給し、その就業日は基本手当の支給を受けたものとみなす仕組みを設ける必要がある。

   (ロ) 現行就職促進給付の整備
 再就職手当と常用就職支度金を就業促進手当(仮称)に統合するほか、以下のような見直しを行う必要がある。
 再就職手当の給付率及び上限額を見直す(具体的には、給付率は支給残日数の3割に相当する日数分の基本手当の額、上限額は基本手当日額の屈折点の額とする。)。
 規制改革推進3カ年計画を踏まえ、ハローワークと民間職業紹介所の紹介による再就職手当及び常用就職支度金の支給の仕組みを統一する。
 再就職手当と常用就職支度金を就業促進手当(仮称)に統合する際には、常用就職支度金を再就職手当の就職困難者特例と位置付けるとともに、併せて対象者の範囲を見直す(具体的には、45歳以上の者については、再就職援助計画の対象者に限定する。)。
 受給者が安心して早期再就職できるようにするため、再就職手当を受給後、直前の離職から1年以内に倒産・解雇等の理由により再離職した場合に受給期間の延長を行う。

 (2) 多様な働き方への対応
  イ 通常労働者とパートタイム労働者の給付内容一本化
(イ) 基本手当
 ○ 短時間労働被保険者とそれ以外の被保険者との給付内容(所定給付日数、下限額)については、雇用就業形態の多様化が進展していること等を踏まえ、一本化する必要がある(具体的には、所定給付日数については、特定受給資格者は短時間労働被保険者以外の被保険者に合わせる。また、非特定受給資格者のうち就職困難者以外の者は短時間労働被保険者に合わせ、非特定受給資格者のうち就職困難者は短時間労働被保険者以外の被保険者に合わせる。下限額については、短時間労働被保険者に合わせる。)。

(ロ) 高年齢求職者給付金
 ○ 短時間労働被保険者以外の高年齢継続被保険者の給付内容を短時間労働被保険者である高年齢継続被保険者の給付内容に一本化する必要がある。

  ロ 育児・介護休業法による休業又は勤務時間短縮措置期間中の基本手当日額の算定の特例
 育児・介護休業法による育児休業・介護休業又は勤務時間短縮措置により賃金が喪失・低下している期間中に倒産・解雇等の理由により離職した者については、措置前の賃金日額を用いて基本手当日額を算定する特例を設けることが適当である。

 (3) 再就職の困難な状況に対応した給付の重点化等
  イ 再就職の困難度に応じた壮年層の所定給付日数の改善
 35〜44歳で被保険者であった期間が10年以上の特定受給資格者の所定給付日数については、延長する必要がある。

  ロ 訓練延長給付制度における複数回受講制度の拡充
 雇用対策臨時特例法による公共職業訓練の複数回受講等の特例措置の対象年齢を拡大する(具体的には、現行の45〜59歳を35〜59歳とする。)とともに、特例措置の終期を延長する必要がある。

  ハ 在職者への給付の失業者への給付との均衡を考慮した見直し
(イ) 教育訓練給付
 ○ 適切な自己負担を求めることにより受講者の慎重かつ的確な受講を促すため、給付率を縮減する必要がある(具体的には、現行の8割を4割とする。)。
 ○ 若年者の利用機会を確保する等のため、被保険者であった期間に係る要件を緩和するとともに、被保険者であった期間に応じて上限額に格差を設ける必要がある(具体的には、現行の5年30万円を3年10万円、5年20万円とする。)。
 この場合、被保険者であった期間5年未満の者については、給付率を低く設定する(具体的には、2割)こととする。
 ○ 厚生労働大臣による講座の指定基準を見直し、真に効果のある教育訓練を給付の対象とすることが適当である。
 ○ 育児等のため離職して1年以上経過した者でも教育訓練給付が受給できるよう、基本手当の受給期間の延長と同様の仕組みにより教育訓練給付の受給期間の延長を行う必要がある。

(ロ) 高年齢雇用継続給付
 ○ 60歳以上の定年退職者等の基本手当の所定給付日数の変更、給付率の見直し等を踏まえ、支給要件、給付率を見直す必要がある(具体的には、支給要件について現行の賃金低下率15%超から25%超に改めるとともに、給付率について現行の25%から15%に改める。)。
 ○ 就職促進給付の整備等に伴い、高年齢再就職給付金と再就職手当について、併給調整を行う必要がある。

  ニ 不正受給に対する対応
 失業認定の厳格化の運用実績を注視しつつ、現行の事業主に対する連帯納付命令の発出や報告徴収・立入検査と同様の措置を職業紹介事業者等に対しても講ずることができるようにすることについて検討する必要がある。
 不正受給者に対して不正受給金の返還と併せて行う納付命令の額については、引き上げる必要がある(具体的には、現行の不正受給額の「倍返し」を「3倍返し」に強化する。)。

  ホ その他
 基本手当の受給期間延長事由に子の看護及び一定のボランティア活動を追加する必要がある。なお、ボランティア活動については、現行の取扱いも踏まえ、受給期間延長を行う必要性が特に高い範囲に限定することとする。
 受講手当及び特定職種受講手当については、基本手当に付随する給付であるという性格等を考慮して、受講手当については見直し(具体的には、日額600円を500円に改める。)、特定職種受講手当については廃止する必要がある。
 雇用保険の適用を的確に進めるため、新たに雇用保険加入手続がとられた場合にその事実を本人が確実に把握できる方法を整備する必要がある。
 雇用保険受給者が能力開発を含め誠実かつ熱心に求職活動を行う努力義務を法令に規定することについて検討する必要がある。

 (4) 雇用保険三事業の見直し
  ○ 雇用保険三事業については、早期再就職の促進等雇用保険制度全体の見直しの方向に則し、現下の厳しい雇用失業情勢の中で十分な政策効果が上がるよう、重点化、合理化を図る必要がある。
  ○ 特に助成金については、政策的必要性を踏まえるとともに、分かりやすく利用しやすいものとするため、整理統合を図る必要がある。
  ○ 具体的には、労働移動支援助成金等の支給要件見直し、情報提供機能の強化、再就職支援・促進対策の強化、求人年齢制限の緩和促進、求人者サービスの充実、中高年離職者等に対する職業訓練等の充実により早期再就職・労働移動支援施策の充実を図るとともに、雇用調整助成金等の雇用維持支援施策については見直しを行うほか、雇入れ助成については経営基盤等の強化に資する人材の確保への重点化や失業者の創業支援の充実等を行う必要がある。
  ○ また、利用実績等から政策的必要性が低下している助成金については廃止するなど助成金の整理合理化を進め、より活用される制度となるようにするとともに、徹底した不正受給防止策を講ずる必要がある。
  ○ 助成金については、中小企業等がより一層利用しやすいものとなるよう、周知、PRに工夫をこらすとともに、支給手続について、不正受給防止の確認のために不可欠なもの以外についてはできる限りの簡素化を進める必要がある。

 (5) 負担面の見直し
  イ 保険料率
 雇用保険財政に係る構造的な変化を踏まえつつ、将来にわたり負担面も含め制度の安定的運営が確保できるようにする観点から、保険料率等の見直しについては、以下のとおりである。
 保険料率について、雇用保険制度の安定的運営を確保するために必要な負担として、失業等給付に係る法律本則の雇用保険料率を1.6%とすることはやむを得ない。ただし、平成15年度及び平成16年度は法律附則において1.4%とする。
 弾力条項による保険料率の変更幅については、±0.2%を維持する。
 なお、平成16年度末までの間について、失業等給付の支給に支障を生ずるおそれがあるなど保険料率を変更しなければならない財政状況に立ち至った場合に対応できるよう、弾力条項の発動ができるものとする。

 なお、雇用主代表委員から、次のような意見があった。
 失業等給付に係る各種手当の給付に当たっては、厳しい雇用保険財政の現状にかんがみ、制度の厳格な運用に努めるべきである。
 また、今後、不良債権処理の加速などの要因により失業者が増加し、当部会の想定を超えて雇用保険財政が逼迫した場合には、政府は、雇用保険料率の引上げ以外の措置を講ずる等の方法により雇用保険財政を支えるよう努めるとともに、強力に需要の創出や景気の回復のための対策を講じて、収縮しつつある経済を拡大し、雇用創出に努力すべきである。


  ロ 適用促進
 私立大学をはじめ未適用の事業所に対する適用促進を着実かつ迅速に進めるとともに、非国家公務員型独立行政法人に対する適用を確実に進める必要がある。

3 今後の課題
 ○ 雇用保険制度は雇用政策の一環をなすものであり、受給者の早期再就職を実現するため、雇用保険制度における対応だけでなく、総合雇用対策、改革加速のための総合対応策等に基づく雇用対策を適切に講じていく必要がある。また、このことは、厳しい雇用失業情勢が続く中にあって雇用保険財政の安定性の確保と雇用のセーフティネットとしての安定的運営の確保に資することとなる。
 なお、雇用保険財政の動向は経済情勢とも密接に関連するものであるため、官民挙げて経済活性化に取り組むことも期待される。
 ○ 今回の見直しは事業主、被保険者、受給者等にそれぞれ一定の「痛み」を求めるものであるが、その前提として、雇用保険制度本来の趣旨に則った運用がなされるよう、ハローワークにおける適切な職業相談・職業紹介、失業認定の的確な実施や不正受給の防止等に万全を期す必要がある。
 ○ 短期雇用特例求職者給付については、今回の見直しの対象としていないが、本給付は失業が元々予定された者に対する循環的な給付であり、他の雇用対策等で措置することが適当なものであることから、今後その在り方について検討していく必要がある。
 ○ 高年齢求職者給付金については、今回の見直しにとどまらず、将来的には廃止も含め見直しを検討していく必要がある。
 ○ 雇用継続給付及び教育訓練給付については、今回の見直しにとどまらず、雇用保険制度本来の役割との関係や、他の関連諸施策等の動向も勘案しつつ、今後ともその在り方について検討していく必要がある。
 ○ 雇用保険三事業については、政策評価を適切に実施し、保険事故である失業を予防し、再就職の促進による給付減に資する等の付帯事業として期待される機能が十分に発揮されるよう不断の見直しを行う必要がある。
 ○ 積立金は、(1)景気変動に対応し、好況期に資金を積み立て、不況期にこれを財源として使用することで必要な積立金を維持しつつ収支を中長期的にバランスさせる(ビルトイン・スタビライザー機能)、(2)年度当初の保険料納期前の期間などにおける短期的な資金需要に対応する、という2つの機能を有しているが、将来的には(1)の機能が十分発揮できるよう、必要な積立金水準の確保を目指していく必要がある。
 ○ 弾力条項の発動基準及び保険料率の変更幅については、今後の雇用保険財政の動向を見守りつつ、必要に応じ見直しを検討することが適当である。

 なお、雇用主代表委員から、積立金に余裕があるときに増えてきた保険給付について、給付内容・水準、給付対象者の範囲等が雇用保険制度における失業等給付の本来の在り方から適切かという観点から、抜本的な合理化を図っていくべきであるという意見があった。


「雇用保険制度の見直しについて」に係る意見書 (PDF:73KB)


雇用保険部会における検討状況


○ 第2回(4月5日(金))
・最近の雇用保険制度の運営状況について

○ 第3回(4月24日(水))
・最近の雇用保険制度の運営状況について

○ 第4回(5月16日(木))
・雇用保険受給者の早期再就職の促進について

○ 第5回(5月30日(木))
・多様な働き方への対応について
・再就職が困難な状況等への対応について

○ 第6回(6月5日(水))
・雇用保険制度の在り方の検討に向けたヒアリング
 (ハローワーク新宿)

○ 第7回(6月13日(木))
・雇用保険受給者の早期再就職の促進について
・多様な働き方への対応について
・再就職の困難な状況等への対応について

○ 第8回(6月21日(金))
・安定した制度運営の確保と当面の対応について
・三事業の見直し等について

○ 第9回(7月4日(木))
・雇用保険制度の見直しについて

○ 第10回(7月11日(木))
・雇用保険制度の見直しについて

○ 第11回(7月19日(金))
・雇用保険制度の見直しについて

○ 第12回(9月3日(火))
・雇用保険制度の見直しについて
 (制度全体の議論)

○ 第13回(10月10日(木))
・雇用保険制度の見直しについて
 (給付の在り方)

○ 第14回(11月5日(火))
・雇用保険制度の見直しについて
 (給付の在り方、雇用保険三事業の在り方、負担の在り方)

○ 第15回(11月22日(金))
・雇用保険制度の見直しについて
 (雇用保険部会報告のとりまとめ)

○ 第16回(12月18日(水))
・雇用保険制度の見直しについて
 (雇用保険部会報告のとりまとめ)


雇用保険部会委員名簿

(五十音順)
(平成14年12月現在)

公益代表

おおさわ まちこ
大沢 真知子 日本女子大学人間社会学部教授

すわ  やすお
諏訪 康雄 法政大学社会学部教授

ちゅうま ひろゆき
中馬 宏之 一橋大学イノベーション研究センター教授

なかくぼ ひろや
中窪 裕也 千葉大学法経学部教授

はやし  のりこ
林  紀子 弁護士


雇用主代表

えんどう としゆき
遠藤 寿行 日本経済団体連合会労働政策本部
  雇用・労務管理グループ長

しんたに こうじ
新谷 航二 住友重機械工業(株)業務本部人事部長

なかじま よしあき
中島 芳昭 日本商工会議所理事・事務局長

はらかわ こうじ
原川 耕治 全国中小企業団体中央会調査部長

ひわたり さとこ
樋渡 智子 日本経済団体連合会国民生活本部国民生活グループ長
  兼労働政策本部雇用・労務管理グループ副長

ふじい よしひで
藤井 善英 川崎製鉄(株)人事労政部長


労働者代表

くぼ なおゆき
久保 直幸 UIゼンセン同盟常任中央執行委員

くりた ひろし
栗田 博 日本食品関連産業労働組合総連合会中央執行委員

とよしま えいざぶろう
豊島 栄三郎 国公関連労働組合連合会書記次長

なかむら よしお
中村 善雄 日本労働組合総連合会雇用労働局長

みき  しげる
三木 茂 全国一般労働組合書記次長

わたなべ きょうこ
渡辺 京子 JAM埼玉副書記長

 注)  ○=部会長
 ※=専門委員


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