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○ おわりに
 近年における中年男性の自殺急増は、日本の社会全体を支配する先行き不透明感、生きる不安の増大を如実に示している。自殺する中年男性の多くに共通しているのは、それぞれ「うつ病」を背景に持つと同時に、家庭や職場において、「ひとりぼっち」で悩み苦しんでいたという状況である。「うつ病」に対する専門的な対策を推進する一方で、人間を「ひとりぼっち」の状況からいかにして、解放するかは、自殺予防のため、中年男性の自殺予防のためばかりではなく、国民一人ひとりの生き方にとって、今日、喫緊の課題であると言わねばならない。
 明日への期待と不安のないまぜになった気持ちを抱きながらも、一日一日の「くらしといのち」をいかにして輝かせるかが、今日の私たちの幸せにとって最大の課題である。そのために、一人ひとりの持ち味を生かし、互いに助け合って生きる、「共助の時代」が到来しつつある。そのための体制づくりを国、地域、事業場、家族、個人等あらゆるレベルにおいて推進し、子どもからお年寄りに至るまで、すべての人を「ひとりぼっち」の状態から解放する必要がある。
 世の中に、役に立たない人はいない。すべての人が、その持ち味で他人を助け、自分もまた他人に助けられつつ生きる、共助・共生社会の創出こそ、現在に生きる不安を克服するための方策である。自殺を考える人には、そのような意味でのより積極的な、新しい生き方への強い励ましが求められる。
 そのような仕組みを実現する一環として、社会全体が今、真剣に自殺予防の具体策に取り組むべきである。心の健康づくりの対策と教育を通じて、生きる上での「安心の構図」が示されてはじめて、「心の時代」と呼ばれる21世紀にふさわしい個人の生き方、人と人とのつながりのあり方が明らかとなるに違いない。
 改めて、この提言が、多くの国民、専門家、関係者等の目に触れ、国民の心の健康の保持・増進、そして、自殺予防の契機となることを切に願うものである。また、提言の具体化に向け、長期的視野にたち、早急に取り組む必要がある。


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