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平成14年10月29日
照会先:厚生労働省医薬局
  安全対策課 関野(内線2748)
  審査管理課 佐藤(内線2790)
  血液対策課 丈達(内線2907)

平成14年度第1回伝達性海綿状脳症対策調査会における
審議の結果について


 本日、開催された標記会議における審議結果について、別紙のとおり、とりまとめましたのでお知らせします。


別紙

血液成分を使用した医薬品等の安全性評価について

1 血液を介した伝達性海綿状脳症(TSE)の伝播について

 (1)最近、牛海綿状脳症(BSE)の病原体に感染したヒツジ等の反芻動物から反芻動物への輸血実験において、伝達性海綿状脳症が伝播するとの報告がなされたところである。
 (2)懸念される変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)のヒトからヒトへの感染事例については、科学的に確認されていないが(2002年10月現在)、過去には、クロイツフェルトヤコブ病(CJD)発症患者のアルブミン製剤との関連が疑われるCJD発症の事例もあることから、これまで、血液製剤等については、慎重な予防的な措置を講じてきたところである。
 (3)また、反芻動物由来の血液成分を原料とした製剤についても、平成8年から逐次BSEの発症リスクを考慮し、反芻動物の原産国に係る規制を行ってきたところである。

2 文献等の評価について

 (1)継続して行われているヒツジの感染実験において、同種間での輸血による感染例が2例となったことから、同種間の場合はBSEが輸血によって感染する可能性が高いことが示された。ヒトなどにおける蓋然性があるか否かは不明だが、献血の際に海外渡航歴(イギリスをはじめとしたヨーロッパ各国)を確認するなど、現行の献血の要件を満たすことが感染リスクを軽減する上で必要である。
 (2)また、キツネザルにおける脳内投与による感染実験の結果により、霊長類においても同種間の感染が確認されたことから、投与経路が脳内投与であるもののヒトでの感染の可能性が疑われる。
 (3)異種動物間の場合(例えばウシからヒト)については、現時点において科学的な知見は得られていないものの、理論的な危険性が潜在することを否定するだけの科学的根拠は示されていない状況にある。
 一方、シカの慢性消耗性疾患(CWD)によると疑われる若年性CJDの報告は2001年にアメリカで3例あったが、それ以降報告は見られない。したがって現時点においては、CWDからと疑われるCJDの感染が有意に増加したとはいえない状況であると推定される。

3 血液製剤のリスクの評価について

 (1)国内での献血においては、BSE発生の欧州諸国に6ヶ月以上滞在した者、輸血歴のある者、臓器移植歴のある者、家族性のCJDを有する家系の者等からの献血が行われないよう、問診等の体制を強化したところである。現在、米国、カナダ等の諸外国においても同様の措置が講じられている。
 (2)また、これまでの英国における血液製剤の使用実績においても、血液製剤が原因となるvCJDの発生はみていない。
 (3)血液製剤のうち、輸血用血液製剤(赤血球等)は、製造工程中での処理が簡素であり、献血者の病原体の影響を直ちにうけるものであるが、現状では献血時の問診によりリスクを有する者の排除が行われている。また、血漿分画製剤については、別表のように、分画精製においてプリオン病感染リスクの低減が報告されている。
 (4)血液製剤は他の医薬品では代替できない医薬品であることから、現時点において可能な限り感染リスクを軽減した上で使用され、かつ感染症の伝播等の危険性を完全に排除できないため、治療上の必要性を十分検討の上必要最小限の使用に努めているところである。

4 医薬品等の製品に使用される血液成分のリスクの評価について

 (1)血液製剤以外の医薬品の製造においても、人血漿蛋白等の血漿分画成分が、製造工程中での細胞培養及び最終製剤の添加剤として使用されている事例がある。これらの成分についても、血液製剤のリスク評価と同様と考えられる。
 (2)反芻動物血液成分にいても、ワクチンのように生物由来製品の原材料として製造工程中で使用されている事例があるが、平成13年10月2日開催の伝達性海綿状脳症調査会におけるBSEリスク評価において、最終製品となるまでの製造工程中で相当程度希釈されることから、厚生労働省が有する知見に基づけば、安全性に関して懸念はないと評価されている。その他の製品についても、反芻動物由来血液成分の原産国に関する規制において、BSE発生国、発生リスクの高い国及びBSE発生リスク不明国を排除している現状において、ただちに健康上の不当なリスクを与えるものではない。
 (3)以上より、現時点において血液製剤等を使用する患者が不当なリスクにさらされている状況はないと考える。

5 今後の対策について

 (1)vCJDの血液からの感染のリスクについてはこれまでも懸念されていたが、現時点で考えられる感染症の伝播のリスクについて、vCJD患者とBSE多発国での長期滞在者からの献血は除外する等の指導を行っており、従来の対応を継続するが、BSE多発国から輸入された血漿分画製剤については、製品ごとに適切に評価し、対応を検討する。
 (2)添付文書の記載については、アメリカでは全血及び血液製剤によるCJD及びvCJDの伝播の可能性を軽減するための企業向けガイドラインを示している(2002年1月改正)。その中でウィルス感染と共に理論的なCJD伝播のリスクに関する記載を求めている。
(参考)米国ガイドラインによる記載
 (1)全血及び輸血用血液製剤
 「ヒト血液由来の製品であるため、ウィルス等感染源及び理論的にはCJD原因物質の伝播の危険性がある。」
 (2)血漿分画製剤(アルブミンを除く)
 「ヒト血液由来の製品であるため、ウィルス等感染源及び理論的にはCJD原因物質の伝播の危険性がある。」
 (3)血清アルブミン
 「アルブミンはヒト血液から分画されたものである。献血者のスクリーニングや製造工程により、ウィルス感染のリスクは極めて低いと考えられる。CJDの理論的リスクについても極めて低いと考えられる。アルブミンによるウィルス性疾患やCJDの実例は今まで確認されていない。」
 (4)血清アルブミン含有製剤
 「本剤はヒト血液から分画されたアルブミンを含有する製剤である。献血者のスクリーニングや製造工程により、ウィルス感染のリスクは極めて低いと考えられる。CJDの理論的リスクについても極めて低いと考えられる。アルブミンによるウィルス性疾患やCJDの実例は今まで確認されていない。」
 ヒトからヒトの場合、輸血によりvCJDに感染する可能性は否定できない。日本においては全血及び血液製剤等について添付文書の注意の項に「献血による貴重な血液を原料として製剤化されたものである。問診、感染症関連の検査等の安全対策を取っているが、血液を原料としていることに由来する感染症の伝播等の危険性を完全に排除することはできないことから、疾病の治療上の必要性を十分に検討の上、血液製剤の使用指針等を参考に必要最小限の使用にとどめる。」と記載されている。したがって血液製剤等の使用の際のCJD等に関する注意喚起等については、本日の調査会の意見を十分踏まえたうえで、今後の状況を見極めつつ厚生労働省において検討を行う。
 (3)それとともに、製造業者及び厚生労働省は今後も引き続き、各分画の感染性の試験成績やその根拠に関する情報収集等を高等霊長類も含めて行う。
 (4)また、今後の米国及び韓国におけるCWDとCJDの動向についても、引き続きシカの頭数、消費、感染の状況等を含め、情報を収集し、適宜必要な対策がとれるような体制を整えておく必要がある。


別表

人血漿蛋白のスクレイピー感染性の分配

 全血にスクレイピーのプリオンを1010.0ID50添加した場合の感染性の回収実験
 (Brown P et al. Transfusion 1998;38;810による)

成分 感染性 ID50 感染性の回収率※
全血 1010.0 100%
赤血球 109.9  22%
白血球、血小板 108.8   7%
血漿 108.5   3%
 
成分 感染性 ID50 感染性の回収率※
血漿 108.2 100% (3%)
クリオ上清 106.8   0.7% (0.0021%)
免疫グロブリン分画 103.9   0.006% (0.000018%)
アルブミン分画 102.7   0.0004% (0.0000012%)
 ※全血又は血漿の感染性を100%とした場合の感染性回収率。( )内数は、全血から換算した値


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