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厚生労働省発表
平成14年4月19日

ポジティブ・アクションのための提言

〜意欲と能力のある女性が活躍できる職場づくり〜

 女性の活躍推進協議会(座長:浜田広 株式会社リコー取締役会長)では、昨年7月より、ポジティブ・アクションの普及を図るための取組について議論を行ってきたところであるが、このたび企業がポジティブ・アクションに主体的に取り組むことを促すための提言をとりまとめた。
 本提言では、「ポジティブ・アクション」とは何か、企業はなぜ取り組む必要があるか、企業にとってどのようなメリットがあるかを整理している。また、ポジティブ・アクションを進めている企業の経営者、人事担当者、活躍している女性の方々にインタビューをし、その結果浮かび上がってきたポジティブ・アクション推進のためのポイントを整理した上で、経営者、プロジェクト・チーム等推進担当者、人事担当者、職場の上司、働く女性、働く男性、本協議会及び行政がそれぞれ何に取り組むべきかをまとめている。
 この提言を受け、厚生労働省では、各都道府県労働局において開催する女性の活躍推進協議会等を通じて、経営者団体とも協力しながら、この提言の普及を図ることとしている。
 また、この提言において、ポジティブ・アクションを推進するために本協議会と行政が引き続き取り組むべき課題とされた、企業において目標を立てる際にベンチマークとして活用できるような女性の活躍状況等の各種データ、好事例についての情報収集と提供、取組を行う企業の顕彰のための効果的な方法等については、本協議会において今後検討を進めていくこととしている。


ポジティブ・アクションのための提言(概要)

「ポジティブ・アクション」とは
 「ポジティブ・アクション」とは、固定的な性別による役割分担意識や過去の経緯から、男女労働者の間に事実上生じている差があるとき、それを解消しようと、企業が行う自主的かつ積極的な取組のことです。
 ポジティブ・アクションは、単に女性だからという理由だけで女性を「優遇」するためのものではなく、これまでの慣行や固定的な性別の役割分担意識などが原因で、女性は男性よりも能力を発揮しにくい環境に置かれている場合に、こうした状況を「是正」するための取組なのです。

ポジティブ・アクションの必要性とその効果

I 労働意欲、生産性の向上−性にとらわれない公正な評価により活力を創出−

 男性優位の企業風土がある場合に、そのような風土を見直し、能力や成果に基づく公正な評価を徹底することは、女性社員の労働意欲と能力発揮を促すきっかけとなります。また、女性の活躍が周囲の男性社員にも良い刺激を与え、結果的に生産性の向上や競争力の強化をもたらすことにつながります。
II 多様な人材による新しい価値の創造−多様な個性による新たな発想−
 市場が多様化する中で、これからの新しいニーズに対応した商品、サービスを提供するための新しい発想が求められています。男女に関わりなく、多様な個性をもった人材を確保し、その能力を最大限に発揮させることは、これまでにない新しい発想を生み出す可能性があります。
III 労働力の確保−労働者に選ばれる企業へ−
 少子・高齢化が進んでいる我が国においては、労働力不足が見込まれており、女性の活躍が大いに期待されます。ポジティブ・アクションを積極的に実施する企業は、働きやすい企業、男女に関わりなく公正に評価される企業として認知され、選ばれることとなり、幅広い高質の労働力を確保することができるのです。
IV 外部評価(企業イメージ)の向上−人を大切にするというイメージの獲得−
 ポジティブ・アクションを実施し、社員の能力発揮と育成に積極的に取り組む企業姿勢は、経営の持続的発展が期待できる企業として、顧客や株主、取引先等の利害関係者からの信頼や好意的な評価を得ることができます。

ポジティブ・アクション推進のための取組

I 経営者の取組

・ 現在の厳しい経営環境の中で、人材の有効活用という観点から、能力と意欲のある女性に一層の積極的な活躍の機会を作り出すことが重要な戦略の一つになるという認識を持つことが重要になります。ポジティブ・アクションの成功の鍵は、経営者の決断にあります。

人事担当者の言葉「登用までの試験に挑戦する女性たちをみて、女性を登用することに対する役員たちの意識はさらに進んだ。登用試験の中で最終に役員プレゼンテーションがあるが、このプレゼンの迫力にみんな圧倒された。それだけ女性のプレゼンが良かったためである」

・ ポジティブ・アクションでは、企業理念の実現のために女性の活躍が不可欠なことを経営者が会社の内外に公言することが効果的です。

人事担当者の言葉「最初は“なんでこんなことをするのか”という男性社員もいたが、進めていくうちに変わっていった。トップの問題提起により、(問題点が)明確になった。男性役員が旗振りしたおかげでうまくいった。社員はトップの行動を見ている」

・ また、ポジティブ・アクションには、具体的なわかりやすい目標を定めることが大切になります。定めた目標や達成状況を内外に公表し、企業姿勢を明確にすることは将来的に意欲と能力のある人材の確保にもつながります。

経営者の言葉「株主総会でも女性の活用状況を質問されるなど、一般の消費者が企業を評価する際の評価ポイントの1つとして入ってきている」

人事担当者の言葉「内外に自社の取組を広く知らしめることによって自分たちにはっぱをかけていかないとなかなか取り組めないものである。外にアピールすることが大事」

・ 経営者直轄のプロジェクト・チームを立ち上げるなど企業風土によって、ポジティブ・アクションの実施体制は様々ですが、要は経営者の“本気”が目に見えるかたちとなることです。


II プロジェクト・チーム等、推進担当者の取組

・ 社内の人的資源活用の現状を確認し、問題点を発見することが、推進担当者の最初の活動となります。

・ 社内での意見の対立、食い違いをはっきりさせていくことにより、ポジティブ・アクションを進めていく上での問題点を明らかにしていくことが2番目の重要な活動となります。

プロジェクト・チーム参加者の言葉「女性社員の退職理由を、実際に会社を辞めた人に会って調べてみた。その結果、育児・家事などは間接的または遠因であって、辞めた真の理由は、働いていく上で(自分が歩むであろう)キャリアがみえないことであることがわかった」

・ ポジティブ・アクションを効果的に実施するため、自社の実態を踏まえた具体的な目標、可能なものについては数値化した目標を立て、いつまでに達成するかという期限を決めることが大切です。また、その際には、採用状況、離職状況、育児・介護休業の取得状況、管理職への登用状況、従業員満足度などを分析することが重要です。

・ ポジティブ・アクションを実施する際には、多様な“活躍する女性”の人物像(モデル)を社内に示すことが効果的であり、そのために目指すべき女性の人物像を、抽象的ではなく、具体的に構築することが求められます。

人事担当者の言葉「『役職者になったとき、どのような仕事をするのかわからないし、イメージもわかない。』といった意見が女性社員から出され、モデルケースがいないことが(女性役職比率向上のための)問題として指摘された」

・ 推進担当者の3番目の重要な活動は、ポジティブ・アクションの達成状況をチェック(確認)し、場合によっては新たな目標を設定するなど活動を継続していくことです。


III 人事担当者の取組

・ ポジティブ・アクションで重要なのは、例えば社内公募制など能力と意欲のある女性が手を挙げやすくなるような環境をつくることです。

・ 女性がその能力や成果に応じて処遇されるためには、評価が適切に行われなければなりません。人事考課基準を明確にするとともに、考課者教育の実施を通じて、評価システムの適正な運用を徹底させることは男女にかかわりなく社員の育成にとって重要なことです。

・ 女性の活躍といっても、女性ということで、全てを一括りにすることはできません。性別を超えた「個」の視点から細心の注意を払い、社員の中から意欲、能力に応じて抜擢をし、育成してくことが求められます。

人事担当者の言葉「男性は普通に抜擢が行われているという前提がある。だから女性にも同じようにやればいいのではないか」

・ 家族手当や配偶者手当などの制度が個々の働く能力とは関係なく、事実上男性を優遇する制度、運用となっている場合には見直すことも必要です。

・ ワーク/ライフ・バランス(仕事と家庭や個人生活のバランス)の観点からも、育児休業制度等の充実を図る、男女ともより取得しやすい職場となるように工夫するなど、性別に関わらず多様な働き方ができる環境づくりを検討していきましょう。

人事担当者の言葉「アンペイドワーク(育児・家事等)の90%以上を女性が担っている国は、日本しかない。他国と比べて女性に労働が偏っているにも関わらず、その認識が低い。働きやすいとはワーク/ライフ・バランスがとれていること。男女ともにワーク/ライフ・バランスが必要」

・ 女性の活躍には、育児休業制度などの制度面だけでなく、ソフト面でのサポートも重要になります。これからのキャリアを相談できる体制をつくることも有用です。

・ 女性の声に耳を澄ます努力が必要です。人事担当者ができるだけ現場に足を運ぶことが、社員のニーズ(要望)を正確に細かく把握するための近道です。


IV 職場上司の取組

・ 実際に女性が活躍する場が広がるか否かは、直属の上司、特に入社直後の上司次第で変わってくるのです。基本は、能力と意欲のある女性に、「権限」と「責任」を与え、「小さな成功体験」の機会を作っていくことです。

女性の言葉「自分は運が良かった。上司に恵まれたから」

・ 特に男性上司の方は、自分が知らず知らずのうちに、男性中心の考え方や行動になっていないか、チェックしましょう。

人事担当者の言葉「女性をうまく育成している上司は、男性もうまく育てている。しかし、男性をうまく育てられても女性を育成していない上司も多く、女性部下の育成を管理職の指標としている企業もある」

・ ポジティブ・アクションの最初の段階では、職場の男性から不満が生まれやすいので、このような場合には、不満を持つ人に対して、企業理念の実現には、女性の活躍の機会を広げることの必要性を良く説明しましょう。

・ 男女ともに育児休業を取得しやすい職場の雰囲気づくりに努めるとともに、育児休業を終えて職場に戻ってきたときの迎え方の配慮が大切です。

人事担当者の言葉「休職中は一切会社とコンタクトをとらず育児に専念したいという人もいる。それはそれでいい。問題は復職していかに会社に貢献してくれるかだ」

・ 女性上司の方は、女性社員の不安を解消するため、積極的に話を聞き、また、自分の経験やノウハウを伝えていただきたいと思います。

人事担当者の言葉「今回の取組(管理職登用のための取組)によって管理職に登用された女性が、これからのモデル像になっていくだろう」


V 働く女性の取組

・ ポジティブ・アクションは女性を保護し、優遇することだけを目的とした取組ではなく、能力と意欲のある女性が主体的に働く機会を拡大するための取組です。女性は、「働けるときにしっかり働く」といった意識を持ち、それを行動に示していきましょう。

人事担当者の言葉「制度は在籍者の権利ではなく、仕事を継続するためのツールだ。だからそのツールを使って、そのあと成果を出して欲しい」

・ 会社内外のネットワークを持つことは、ビジネス・チャンスを拡大するだけでなく、情報源となり、また、ネットワークのメンバーがよき相談相手となることから、女性間のネットワークの形成も意識しましょう。

経営者の言葉「会社が女性に対して直接的に行う意識啓発だけでなく、女性フォーラムのような“場”を与えることにより、女性間のネットワークづくりや刺激の与え合いが行われることも重要。同じような立場や苦労している仲間がいるのだと“気づかせること”は、働く女性にとって精神面での支えとなるだろう」


VI 働く男性の取組

・ ポジティブ・アクションの実施によって、性差なく働くことができる環境が整備されることは、能力と意欲のある男性にとっても、最終的には望ましいものなのです。

人事担当者の言葉「ポジティブ・アクションを進めることで、女性にとって働きがいがあり、働きやすい職場になることは、長期的には、男性にとっても働きやすい職場になるという意識を持ってほしい」

・ 男性も家事・育児や介護の責任を担っているという観点から、ワーク/ライフ・バランス(仕事と家庭や個人生活のバランス)を自らの問題として考えることが望まれます。

・ 固定的な性別役割分担意識や職場優先の企業風土を変えるためには、男性の役割が重要です。また企業風土づくりには、労働組合にも役割が期待されます。

組合執行委員の言葉「ポジティブ・アクションに取り組んだ背景としては、組合員や顧客に女性が多いという状況の下で、会社の中で女性が活躍していかないと、将来的に会社が立ちゆかなくなってしまうという大きな危機意識を、組合も持っていた」


VII 女性の活躍推進協議会及び行政の取組

・ 個々の会社がポジティブ・アクションを進めるための目標を立てる際にベンチマーク(自社の状況を測ることのできるものさしとなる値)として活用できるよう、業種や規模ごとの女性の活躍状況や先進的な会社における女性の活躍状況等の各種データ、個々の会社で活躍する女性のモデル(模範となる人材像)の事例も含めたポジティブ・アクションの好事例について、情報を収集し、広く提供していきます。なお、その際には、多くの業種や規模が網羅できるよう努めてまいります。また、他社の参考となるように、女性の活躍機会の創出に向けた取組を行う会社の顕彰を行うための効果的な方法を検討していきます。

経営者の言葉「ポジティブ・アクションとして、女性の管理職比率を上げる努力をすることは重要であるが、身近に目標となる女性がいないために怖じ気づいてしまう女性もいる。活用の進んでいる企業が、成功例を社内のみならず社外にも積極的に示していくことが大切だ」

・ 協議会メンバーは、自らこの提言の内容に取り組むとともに、上記の情報収集への協力に努め、さらに、提言内容を広く産業界に周知していきます。

・ 多くの人にポジティブ・アクションの価値を認識してもらうため、地域レベルで協議会の提言等の普及・促進を図るための仕組みを整備していきます。

・ 今後とも待機児童の多い地域の保育所の受入れ児童数の増大や延長保育、休日保育、病後児保育などを実施する施設数の増大に努めていきます。また、急な残業など臨時的、一時的な保育ニーズに対応するため、会員制で地域における相互援助活動を行うファミリー・サポート・センターの設置を積極的に促進しており、事業の拡大を図っていきます。

 女性の活躍推進協議会報告書「ポジティブ・アクションのための提言」の全文をダウンロードできます。(PDF:317KB)


(参考)

女性の活躍推進協議会開催要綱
−ポジティブ・アクションの推進に向けて−
1 趣旨

 平成9年の男女雇用機会均等法の改正により、募集・採用から定年・退職・解雇に至るすべての雇用管理における女性に対する差別が禁止されたところであるが、実質的な男女均等を実現し、女性の能力を最大限活かすためには、制度上の均等が確保されるだけでなく、従来の慣行や固定的な役割分担意識に根ざした雇用管理が繰り返されているため生じている男女労働者間の事実上の格差を解消するための企業の積極的な取組(ポジティブ・アクション)が不可欠である。このような女性の積極的な活用は、近い将来、労働力供給の減少が見込まれる中で、我が国企業の競争力の維持・強化のためにも重要である。
 しかしながら、現状においては、一部の企業において取組が見られるものの、多くの企業においては、ポジティブ・アクションの必要性が十分に認識されていない状況にある。このような状況の中で、ポジティブ・アクションの取組をさらに広く普及させていくためには、企業が自ら主体的にポジティブ・アクションに取り組むことを促す仕組みとして、行政と経営者団体が連携し、経営者団体を通じ傘下の企業に対し強力に働きかけを行っていくことが効果的である。
 このため、官民連携して、広くポジティブ・アクションの普及を図っていくこととする。

2 検討事項

(1)ポジティブ・アクションの取組の必要性について

(2)ポジティブ・アクションの取組状況の把握及び分析

(3)ポジティブ・アクションの取組方針及び取組方針のPR戦略について

(4)企業での具体的取組方法について

(5)その他

3 運営

(1) 会議は、雇用均等・児童家庭局長が企業経営者、有識者の参集を求め、平成13年から開催する。

(2) 会議は、必要に応じて関係者の出席を求めることができる。

(3) 会議の座長は、参集者の中から互選により選出し、座長代理は座長が指名する。

(4) 会議の庶務は、雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課において、日本経営者団体連盟、東京商工会議所及び全国中小企業団体中央会の協力を得て行う。

4 メンバー(50音順、敬称略)

<経営者>(14名)

明石 博義 西日本鉄道株式会社 代表取締役社長
大河原愛子 株式会社ジェーシー・フーズネット 代表取締役会長
大國 昌彦 王子製紙株式会社 代表取締役会長
大星 公二 株式会社NTTドコモ 代表取締役会長
奥井 功 積水ハウス株式会社 代表取締役会長
北城恪太郎 日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役会長
桜木 敬 東京商工会議所 常務理事
立石 信雄 オムロン株式会社 代表取締役会長
中村 紀子 株式会社ポピンズコーポレーション 代表取締役
浜田 広 株式会社リコー 取締役会長
福原 義春 株式会社資生堂 名誉会長
水越さくえ 株式会社イトーヨーカ堂 常務取締役
矢野 弘典 日本経営者団体連盟 常務理事
山本 貢 全国中小企業団体中央会 常務理事

<有識者>(6名)

玄田 有史 東京大学社会科学研究所助教授
河野真理子 株式会社キャリアネットワーク 代表取締役社長
樋口 恵子 東京家政大学教養部教授
樋口 美雄 慶應義塾大学商学部教授
守島 基博 一橋大学大学院商学研究科教授
森永 卓郎 株式会社UFJ研究所 経済・社会政策部部長

<行政>(1名)

岩田喜美枝 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長

(◎は座長、○は座長代理)

担当
雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課
課長 村木 厚子
課長補佐 小林 洋子
電話 03-5253-1111(内7836)
夜間直通 03-3595-3271

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