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パートタイム労働研究会中間とりまとめ(概要)

I パート労働の現状と問題点

1 パート労働者等の増加とその背景

・平成12年のパート労働者(週35時間未満雇用者)は1053万人で全体の2割
 (20年前は1割)。

・一方、「呼称パート」は1129万人で非正社員の8割強を占める。景気後退期の正社員と非正社員の増減パターンに変化がみられ、今回(平成9〜13年)ははじめて正社員が大幅に減少する一方で(170万人減)、非正社員が大幅に増加(200万人増)(図表3)。

(増加の背景)

(1) 需要側の要因
・コスト要因
 国際競争激化、先行き不透明感の高まりの下で、賃金コストが安く、雇用調整も容易な労働者のウェイトを拡大したいという企業側のニーズのかつてない強まり。
・業務変化要因
 サービス経済化の下で、業務の繁閑や長時間営業への対応のためパート化が進行。
・今後の少子高齢化への対応
 若年者確保の困難化。女性、高齢者など短時間就業を指向する層の有効活用が必要。

(2) 供給側の要因
・短時間パートの就業理由
 時間的な自由度を積極的に評価する者が多く、「正社員として働ける会社がなかったから」という者は割合としては少ない。
・女性
 女性が理想とする就業パターンとしては依然「再就職型」が多数派であり、再入職時の雇用形態は7割がパート。ただ、長期的には正社員へ移行するなどライフステージに応じた働き方を希望。
・若年層
 男女とも若年層でパート比率の上昇が顕著。新規学卒でもパート入職が大幅に増加(女性の2割、男性の16%)。こうしたいわゆるフリーターの増加の背景には仕事一辺倒でない生き方への指向など若年層の就業意識の変化がある。ただ、近年は正社員雇用機会の減少など需要側の要因も影響。
・高齢者
 高齢化の下で、無理なくこれまでの経験を生かして働く高齢者パートも増加。

→柔軟で多様な働き方を求める傾向は需給両面のニーズであり、パート等の働き方が拡大していくのは不可逆的な流れ。主に男性が若年、壮年の時期に集中的に働いて産業社会や家計を支えた時代から、女性や高齢者も含め、より幅広い社会構成員がそれぞれのライフスタイルに合わせてゆとりを持って働く時代に大きく変化。
 その意味で、「働き方についての柔軟性、多様性を確保していくこと」が、企業にとっても、個人にとっても今後の基本コンセプト。

2 問題点と課題

(1) パートの基幹的役割の増大

・正社員と同じ仕事をしているパート等がいる割合は(正社員からみて)4割強で、そうしたパートは3年前に比べて増加。責任の違いなどはあれ、従来正社員がやってきた基幹的な仕事にパートが組み込まれつつあることが類推される。

(2) 処遇の実態

・女性パートの所定内給与を時間換算で正社員と比べると7割弱の水準、格差の推移をみると拡大傾向(図表18)。職種構成の違いを除去するため、パートの職種構成を正社員にそろえ、いわば同じ職種における正社員との賃金格差を推計すると8割強である(図表19)。
 また、賞与、退職金制度の適用を受ける正社員は9割超だが、パートでは4割強、1割弱と大きな差。
・常用パート(臨時、有期でないパート)の割合はオランダ、フランスの8割程度に比べ日本は4割。常用パートが少ない形でパート化が進行。

(3) 背景となる構造と問題点(内部労働市場と外部労働市場)

・正社員とパートとで勤続を重ねた時の賃金の上がり方の違いが顕著(図表22)。
 「長期的な企業内キャリア形成、家計の支え手を前提とした正社員の賃金体系」と「地域市場で代替可能な仕事、家計補助を前提としたパートの賃金体系」の違い。
・パートの基幹的役割が増している中での問題点
(1)正社員とパートの大きな処遇差の中で正社員からパートへのシフトが加速しており、正社員雇用の入口が狭まるなど労働市場のアンバランスも拡大。非自発パートの増大。近年、新規学卒のパート入職が急増している背景にも、若年者の意識の問題のみならず、こうした労働市場問題が影響。
(2)増加する母子世帯、単身世帯の場合、パートであっても家計の支え手(図表26)。
 こうした場合、働きに見合わない処遇差の存在は特に不公平感をもたらす。
(3)「残業や配転などの拘束性は高いが雇用保障や高い処遇に守られたフルタイム正社員グループ」と「自由度は高いが雇用保障が不安定で低い処遇のパート等非正社員グループ」の二者択一の構図では、就業意識の変化が進む若年層やライフステージに応じた働き方を求める女性のニーズに対応できず。今後の少子化で、これら人材の有効活用が課題となる企業にとってこうしたニーズへの対応が必要。

→今後、多様で柔軟な働き方の拡大は不可逆的な流れであるとしても、それが労働市場全体の不安定化や処遇条件の低下に結びつくのではなく、いわば多様な働き方が「望ましい」形で広がっていくためにはどうすればよいのか。それは今後のわが国の労働市場のあり方にも関わる重要課題。
 こうした課題への対応を考える上で、1000万人を超えるパートのグループとしての大きさやフルタイムも含めた就業意識の変化を念頭に置く必要あり。すなわち部分的にパートの処遇改善をすればいいということではなく、フルタイム正社員の働き方や処遇のあり方も含めた雇用システム全体の見直しが必要。

II 雇用システムの変化の方向(柔軟で多様な働き方が選びとれる社会の形成に向けて)

1 正社員も含めた雇用システムの多元化(図表28)

・「拘束性の高いフルタイム正社員か補助的パート」の二者択一からの脱却が必要。

・従来の正社員に比べ、残業、配転などの拘束性は少ないが、ある程度基幹的な仕事を行う「中間形態」の形成が一つの方向性として考えられる。

・基幹的パートについても「中間形態」に位置づけ、その中でパートかフルかにこだわらず、できるだけ統一的な雇用保障・処遇を行なう連続的な仕組みを形成。これは現在の複線型人事管理の流れの延長線上にあるもの。

2 さまざまな働き方を納得して選択できる「働きに応じた処遇」の確立

・企業の賃金決定における重視要素は年齢・勤続年数から職務遂行能力、業績・成果へ、いわば「必要に応じた処遇」から「働きに応じた処遇」にウェイトが変化しつつある。
 ex.年齢別賃金カーブのフラット化。家族・扶養手当の支給企業割合低下。

・働きに応じた処遇の流れは、基幹的役割を担いつつあるパートにとって望ましい方向。 ただ「家計の支え手としての正社員」と「家計補助的なパート」という発想を変える必要あり。共働き世帯が多数派となる中で、正社員も世帯全体の生活を支えなければならないというのは必ずしも平均的な姿でなくなりつつある。

3 ライフステージに応じて多様な働き方の間を行き来できる連続的な仕組みの構築

・まず、育児・介護に関連して、さらには他の理由を含めて、内部労働市場におけるフルとパートの行き来の可能性を広げることが重要。

・内部労働市場の中で本格的な短時間就業(ex.短時間正社員)が一つの働き方として確立されれば、外部労働市場からの参入による働き方にも選択肢が広がる可能性。補助的パートから入職しても、経験を重ねる中で、意欲と能力に応じて、より基幹的な働き方に移れる仕組みを広げていく。そのためにも雇用システムの多元化により「連続的仕組み」を作っていくことが重要。

III 政策の方向性

1 基本的考え方

 こうした仕組み作りはすでに進みつつある複線型人事管理や成果主義的処遇制度の流れの延長線上にあるものであるが、これを政策的に促すための条件は何か。

〇 正社員の働き方や処遇の見直しも含めた全体の雇用システムのあり方についての労使の主体的合意形成

 その際、合意形成のかぎとなるのは、

・企業側は、自らの活性化のために、パートの戦力化や働きに見合った処遇を進めることの重要性を認識しうるか。

・労働側は、パートのみならず、正社員の雇用安定のためにも、パートの処遇向上を正社員の処遇を見直してでも進めることの重要性を認識しうるか。
 ワークシェアリングの議論の中で、こうした認識の醸成により、正社員、パート含めた「働きに応じた処遇」の仕組みに向けた労使間の包括的な合意形成を推進。

〇 多様な働き方が「望ましい」形で広がっていくための制度改革の着実な実行

 その際、「企業の雇用の選択肢を拡大する方向での制度改革の要素」と「多様な働き方の下での雇用保障や処遇についての公正なルールの確保の要素」の両面を有機的に組み合わせ、総合的なパッケージとして進めていくことが大切。

・前者の要素としては、派遣労働者の拡大、有期労働契約の拡大など、多様な働き方が可能となるような制度改革を実行していくこと、

・後者の要素としては、働き方相互の間での処遇に不公平が生じないように公正なルールを社会的に確立していくこと、が重要。

2 具体的方向性

(1) 政労使による包括的合意形成の推進(ワークシェアリングの議論の活用)

(1)緊急避難型ワークシェアリング・・・時間賃金率意識が高まれば、パートの公平な処遇への一つのきっかけに。
(2)多様就業型ワークシェアリング・・・パートについても働きに応じた処遇が確保されることが前提条件であるが、パートのみならず、正社員も含めた総合的な働き方や処遇のあり方を労使で率直に議論し、新たな公平な配分のあり方について包括的合意に至ることを推進。

(2) 雇用システム多元化の下での雇用の安定性の確保

 先行き不透明感の強まりの中で、企業は無期雇用を回避し、基幹的、常用的な層においても有期雇用の反復更新で対応する傾向。結果的に正社員雇用機会が大きく制約されているのが現状。
 今後、労働市場全体の安定性を確保していくためには、(1)無期雇用でも雇用保障にかかる判断は一律でないことの理解を深めること、(2)有期雇用でも適正なルールの確保を徹底することにより、無期雇用と有期雇用の取扱いに一定の均衡をもたらし、就業実態に応じた雇用契約が選択される方向に持っていくことが重要。

(3) パートについての日本型均衡処遇ルールの確立

・ヨーロッパ諸国では同一労働同一賃金の考えに立脚した労働時間による差別的取扱い禁止の立法化。97年、EUパートタイム指令として共通のルール化。
・ただ、わが国では、ヨーロッパ諸国と仕事の組み立て方や処遇の仕組みが異なり、正社員の間でも外形的に同じ仕事でも処遇が異なりうる。ヨーロッパ的な意味での「同一労働同一賃金」原則が公序となっているとは言いがたい。

・今後、わが国で柔軟で多様な働き方が「望ましい」形で広がっていくためには、「日本型均衡処遇ルール」の確立が必要(「パートタイム雇用管理研究会報告」の考え方)。

(1)「同じ職務の場合に処遇の決定方式を合わせる」
 同じ職務であれば、正社員が職能給ならパートも職能給というように処遇の決定方式は合わせ、その決定方式の下で各人をどう評価・処遇するかは企業のルールに委ねるべき。
(2)「残業、配転、転勤等の拘束性が正社員と異なる場合、合理的な差を設けることもあり得る」
 現在は同じ職務でも、残業、配転などの拘束性が正社員とパートで違えば処遇決定方式に違いのあることは合理的。ただ、フルタイムでも拘束性の少ない働き方が広がっていけば、それとパートの間では処遇決定方式を合わせるべき。
 要は、フルかパートかの違いだけで、職務も責任も配転等の拘束性も同じであれば、同じ評価の枠組みの中で処遇すべきということ。
  現状、職務も責任も配転等の拘束性も同じであり、処遇決定方式を合わせるべきと考えられるケースは、事業所、正社員、パートいずれからみてもパート全体の4〜5%(図表17)。
(3)「水準について正社員とのバランスを図る」
 合理的な理由があり、処遇決定方式を合わせられない場合においても職務が同じなら処遇差は合理的範囲内であるべき。ただ、その判断は一律には定められず、企業、労使に委ねられるべき。
 調査によると正社員と同様の仕事をしているパートが納得できると考えている所定内賃金の水準はパート、正社員、事業所いずれからみても、正社員の約8割が平均値(図表33)。
・「日本型均衡処遇ルール」は、それぞれのケースに応じて判断すべき要素が多く、画一的な規制にはなじまない。法律では基本的な原則を示し、その具体的な内容をわかりやすく事業主等に示すガイドラインで補う手法が望ましい。

・法制の検討に当たっては、
(1)フルタイム有期など短時間以外の非正規労働者への対応を考慮するとともに、
(2)企業の雇用意欲を削ぐことのないように時機を計ること、
(3)単なる職務分離に終わらせぬよう、ワークシェアリングの議論などを通じ、正社員も含めた処遇システムの変革が並行的に促進されるように図ること、
(4)企業にとって雇用の柔軟性を増す他の制度改革とあわせ、総合的なパッケージの中で有機的に打ち出していくこと、
 など、そのあり方や道筋についてさらに考える必要がある
・今後、法制のあり方について検討するとともに、均衡処遇を進めるためのガイドラインの策定、ガイドラインの実効性を高めるための事後的な救済措置の充実、均衡処遇のベースとなる「働きに応じた処遇」を促すための職務、能力、成果の評価手法の開発などの取組をあわせて行なっていくことが重要。

(4) 多様な働き方を行き来できる連続的な仕組みの促進(図表34)

 フルとパートの行き来ができる仕組みを社会的に醸成していく上で、フルタイム正社員とパート非正社員のバイパスとしての「短時間正社員制度」を政策的に広げていくことが有効であると考えられることから、企業のこうした制度導入への取組への支援のあり方を検討すべき。

(5) 働き方に中立的な税・社会保険制度の構築

・税、社会保険制度等の関係で、収入が一定額を超えないようにする就業調整行動がパートの低賃金を助長し、能力発揮への妨げにもなっている面あり(図表39) 。
・このうち、税制についてはすでにパートの勤労収入が一定額を超えると世帯収入がかえって減少するといういわゆる「逆転現象」は解消しているが(図表40)、調査からも、税制に対する誤解から就業調整している層がかなりいることが判明(図表41)。まず現行税制について正しい理解を促すことが重要。
・社会保険制度においては、パートの年金・健康保険の充実に向けて、また現在のような世帯収入の逆転現象が解消され、就業調整行動が起こりにくい制度となるように、適用拡大の方向で検討を進めるべき。なお、パートの社会保険の適用拡大の下で適用を嫌って特段の措置を講じることはしないとする事業主が約半数(図表43)。


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