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厚生労働省発表
平成13年12月12日(水)

脳・心臓疾患の認定基準の改正について

1 「過労死」の労災認定については、平成7年2月に改正した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(以下「脳・心臓疾患の認定基準」という。)に基づき行ってきたところである。
 このような中、平成12年7月、最高裁判所は、自動車運転者に係る行政事件訴訟の判決において、業務の過重性の評価に当たり、脳・心臓疾患の認定基準では具体的に明示していなかった慢性の疲労や就労態様に応じた諸要因を考慮する考えを示した。

2 このため、医学専門家等を参集者とする「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」において、疲労の蓄積等について医学面からの検討が行われ、平成13年11月16日に検討結果が取りまとめられた。

3 厚生労働省では、この検討結果を踏まえて、脳・心臓疾患の認定基準を改正し、平成13年12月12日付けで厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長あて通達したところである。
 厚生労働省では、新認定基準に基づき、迅速・適正な労災認定を行うよう、努めていくこととしている。

4 新認定基準の主な改正点は、次のとおりである。

(1)脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、長期間にわたる疲労の蓄積を考慮することとしたこと(長期間の過重業務)。

(2)(1)の評価期間を発症前おおむね6か月間としたこと。

(3)長期間にわたる業務の過重性を評価するに当たって、労働時間の評価の目安を示したこと。

(4)業務の過重性を評価するための具体的負荷要因(労働時間、不規則な勤務、交替制勤務・深夜勤務、作業環境、精神的緊張を伴う業務等)やその負荷の程度を評価する視点を示したこと。

5 新認定基準の概要は、別添のとおりである。


(別添)

脳・心臓疾患の認定基準の概要

1 基本的な考え方
(1) 脳・心臓疾患は、血管病変等が長い年月の生活の営みの中で、形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症する。

(2) しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合がある。

(3) 脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる疲労の蓄積も考慮することとした。

(4) また、業務の過重性の評価に当たっては、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握、検討し、総合的に判断する必要がある。

2 対象疾病

(1) 脳血管疾患
 ア 脳内出血(脳出血)イ くも膜下出血
 ウ 脳梗塞エ 高血圧性脳症

(2) 虚血性心疾患等
 ア 心筋梗塞イ 狭心症
 ウ 心停止(心臓性突然死を含む。)エ 解離性大動脈瘤

3 認定要件

 次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、労基則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱う。

(1) 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事)。

(2) 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)。

(3) 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)。

4 認定要件の運用

(1) 脳・心臓疾患の疾患名及び発症時期の特定について

ア 疾患名の特定について
 脳・心臓疾患の発症と業務との関連性を判断する上で、発症した疾患名は重要であるので、臨床所見、解剖所見、発症前後の身体の状況等から疾患名を特定し、対象疾病に該当することを確認すること。

イ 発症時期の特定について
 脳・心臓疾患の発症時期については、業務と発症との関連性を検討する際の起点となるものであるので、臨床所見、症状の経過等から症状が出現した日を特定し、その日をもって発症日とすること。

(2) 過重負荷について

 過重負荷とは、医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいう。

ア 異常な出来事について

(ア) 異常な出来事

a 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態

b 緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態

c 急激で著しい作業環境の変化

(イ) 評価期間
 発症直前から前日までの間

(ウ) 過重負荷の有無の判断
 遭遇した出来事が前記(ア)に掲げる異常な出来事に該当するか否かによって判断すること。

イ 短期間の過重業務について

(ア) 特に過重な業務
 特に過重な業務とは、日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう。)に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいう。

(イ) 評価期間
 発症前おおむね1週間

(ウ) 過重負荷の有無の判断
 特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、(1)発症直前から前日までの間について、(2)発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合には、発症前おおむね1週間について、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
 具体的な負荷要因は、次のとおりである。

a 労働時間
b 不規則な勤務
c 拘束時間の長い勤務
d 出張の多い業務
e 交替制勤務・深夜勤務
f 作業環境(温度環境・騒音・時差)
g 精神的緊張を伴う業務
(b〜gの項目の負荷の程度を評価する視点は別紙のとおり)

ウ 長期間の過重業務について

(ア) 疲労の蓄積の考え方
 恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。
 このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。

(イ) 評価期間
 発症前おおむね6か月間

(ウ) 過重負荷の有無の判断
 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
 具体的には、労働時間のほか前記イの(ウ)のb〜gまでに示した負荷要因について十分検討すること。
 その際、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、

(1) 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること

(2) 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること を踏まえて判断すること。

5 その他

(1) 脳卒中について

(2) 急性心不全について

(3) 不整脈について


(別紙)

労働時間以外の要因

就労態様負荷の程度を評価する視点
不規則な勤務予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度、事前の通知状況、予測の度合、業務内容の変更の程度等
拘束時間の長い勤務拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容、休憩・仮眠時間数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)等
出張の多い業務出張中の業務内容、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張による疲労の回復状況等
交替制勤務・深夜勤務勤務シフトの変更の度合、勤務と次の勤務までの時間、交替制勤務における深夜時間帯の頻度等
作業環境温度環境寒冷の程度、防寒衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖の状況、暑熱と寒冷との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度等
騒音
おおむね80dBを超える騒音の程度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等
時差5時間を超える時差の程度、時差を伴う移動の頻度等
精神的緊張を伴う業務
【日常的に精神的緊張を伴う業務】
業務量、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等
【発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事】
出来事(事故、事件等)の大きさ、損害の程度等



担当
労働基準局労災補償部補償課
職業病認定対策室
  室長    佐藤 清
  室長補佐 佐々木 博仁
電話   5253−1111(内線5569)
夜間直通 3502−6750


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