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(別紙)

平成14年度医療制度改革について

平成13年11月26日
社会保障審議会医療保険部会

 社会保障審議会医療保険部会は、本年9月より8回にわたり、厚生労働省の「医療制度改革試案」を基に、平成14年度医療制度改革について審議を重ねてきた。
 医療保険制度は、医療提供体制の在り方、医療技術の発展、介護保険制度や年金制度との関わりも強く、単独で論ずることの限界はあるものの、医療制度改革が緊急の課題であることを踏まえ、次のとおり総括するとともに、併せて、当部会における様々な議論を別添の「社会保障審議会医療保険部会における議論の概要」として整理した。

  1. 我が国の医療保険制度は、第2次世界大戦前に始まり、戦後、ベバリッジ報告の影響下で、年金保険、失業保険、労災保険とともに社会保険を形成し、1961年に国民皆保険を達成した。今日、医療保険制度は、社会保障制度の中核を担っており、国民生活に不可欠の役割を果たしている。しかし、少子高齢化が一層進展し、1990年代以降経済が低迷する中で、医療制度については累次の改正が行われたものの、抜本的な改革が実現されないままに、医療保険財政は悪化し、制度としての持続可能性が危ぶまれる状況に至っている。

  2. 他の先進諸国においては、近年、医療費が経済の伸びを上回って増大する中で、医療費の増大の抑制を優先的な課題と位置づけ、各々の社会背景に応じて総枠予算制等医療費抑制策が推進されている。我が国においても、急速な少子高齢化の中で医療費が経済の伸びを大きく上回って増大しており、こうした諸国の動向や政策の帰趨を注視せざるを得ない状況にある。

  3. 我が国の医療費は、保険料、公費、患者負担により賄われており、医療費の増大には、これらの組み合わせにより対応するほかない。しかし、今後、かつてのような経済の伸びが期待できない中で、将来に向けて医療保険制度を持続させていくためには、特に保険料・公費負担と医療費の伸びの兼ね合いが国民的な合意の下に適切に保たれることが重要である。
     また、これまで我が国の医療は世界最高の保健医療水準を達成しており、この水準を維持し、更に医療の質と効率性を向上させていくことが求められる。
     持続可能性を保証するのは国民の信頼と納得であり、国民が負担との関係で納得できる無駄のない効率的な医療が提供されなければ制度を維持することはできない。また、医療保険の守備範囲を明確化し、給付と負担の公平性が確保されることも、国民の理解を得、制度を維持していく上での重要な条件となる。

  4. 医療保険制度は、元来、疾病に係る経済的リスクを分散するシステムであり、現役中心の社会を前提として発展してきたが、高齢化の進展により、この前提条件が失われつつある。生涯の医療費の過半は高齢期に費消されており、これを高齢者のみの負担で賄うことはできない。特に、制度が分立している我が国においては、この問題は高齢者が多く加入する国民健康保険制度において顕著に表れている。持続可能性の確保のためには、高齢者の負担と現役世代の支援を適切に組み合わせ、医療費を国民全体で公平に負担するシステムを考えていく必要がある。

  5. 深刻な医療保険財政の現状を踏まえると、医療制度改革が急務であるが、これを当面の財政対策に終わらせてはならない。国民皆保険の維持を基本とし、上記のような諸点に留意しつつ、質が高く効率的な医療を提供する持続可能な制度の構築を目指し、将来を見据えた改革を行うべきである。

  6. 厚生労働省の「医療制度改革試案」では、1.医療保険制度の給付と負担、2.高齢者医療制度、3.老人医療費の伸び率管理制度の3点を中心に提案がなされている。
     これまでの審議を通じ、論点の明確化が相当程度図られ、医療保険財政の深刻な状況や平成14年度医療制度改革の必要性、保険者の統合・再編の必要性、健康寿命の延伸のための健康づくり・疾病予防の推進、良質かつ効率的な医療を確保するための情報提供の推進を含めた医療提供体制の改革など、概ね共通認識が得られた部分もあるが、個別の項目については意見の隔たりが大きく、全体的な意見の一致には至らなかった。

  7. また、医療保険制度の今後の在り方について、給付と負担の公平性や安定した保険運営の観点から、特に国民健康保険の厳しい財政状況を踏まえ、早急に制度の一本化を求める意見や、段階的な措置として財政の一本化を求める意見があった。
     一方、保険者機能発揮のインセンティブを阻害し、医療の効率化に逆行するため一本化は適当でないとする意見があった。また、現行の拠出金を廃止し、新たな高齢者医療制度を創設すべきとの意見があった。
     老人医療費の伸び率管理制度については、手法によっては違憲性が生じるおそれがあると指摘するなどの強い反対意見が出される一方、老人医療費のみならず一般医療費についても実効性のある総額管理を行うべきとの強い意見が出された。
     このように、制度の基本に立ち返った、幅広い観点からの種々の議論が行われたことも特記すべきものと考える。
     このほか、今回の改革においては、平成9年以来の懸案について進捗が十分でないため、その推進が求められるのであって、保険料や患者負担へのしわ寄せは行うべきではなく、診療報酬や薬価制度の見直しを進め、また、診療報酬の引き下げを行うべきとの意見があった。

  8. 今般、主張を異にしながらも、医療費、特に老人医療費の伸びをいかに適正化すべきか、新たな政策的な対応はどうあるべきかという共通した問題意識の下に議論が行われたことは重要な意義を有するものと考える。
     また、当部会においても厚生労働省試案の老人医療費伸び率管理制度が実質的な議論となったことは、我が国も他の先進諸国と共通の時代的要請の中にいることを感じさせるものである。また、これに関連し、審議の過程で出された診療報酬の見直しを求める意見も同様の背景を持つものが少なくなかったと考えられる。

  9. 厚生労働省は、改革をめぐる時代的要請も踏まえ、当部会における種々の意見に十分に留意し、中長期的な観点に立った検討を進めるとともに、平成14年度医療制度改革の成案を得、これを実現するよう強く求める。


(別添)

社会保障審議会医療保険部会における議論の概要

1.基本的な考え方

○ 日本の医療は世界最高水準の健康寿命を達成するなど大きな成果をあげてきた。また、近年、薬価制度や診療報酬の見直し等が行われ、薬価差の縮小や包括化の推進などの進捗をみた。
○ 平成9年以来の医療制度改革の経緯については、薬価制度、診療報酬、医療提供体制、高齢者医療制度の4つの課題について改革が不十分であり、平成9年に与党医療保険制度改革協議会が策定した「21世紀の国民医療」等を踏まえ、改革を進めるべき。
○ 急速な少子高齢化や経済の低迷など医療を取り巻く環境は大きく変化しており、質が高く、効率的な医療を将来にわたって持続的に提供できるよう、医療制度の大きな転換を図るべき。
○ 今後とも国民皆保険と医療機関へのアクセスの良さは維持していくべき。
○ セイフティネットにふさわしい安心を保障することが社会保障制度の基本であり、年金、介護を含めたトータルな社会保障を考えていくべき。
○ 医療保険制度の理念及び将来像を明確にすべき。
○ 21世紀の医療は、治療から予防へ重点を移す必要があり、病気にならない、病気を減らすという観点から、健康づくり・疾病予防の推進を図るべき。
○ 厳しい経済状況の下、医療費が経済の動向と乖離して増大しており、医療費の伸びの抑制がなければ、制度の持続可能性は維持できない。
○ これまで医療費の伸びを経済成長の範囲内に抑えるという目標は実現されてこなかった。
○ 単に持続可能というだけでなく、医療技術の進歩等を踏まえ、医療の質が十分に確保できる水準でなければならない。
○ 中長期的に持続可能な制度を目指すためには、保険財政や保険者としての立場だけでなく、国民にとって制度がどうあるべきかという視点が重要である。
○ 平成14年度医療制度改革は待ったなしの状況にあり、将来を見据えた思い切った改革を行うべき。
○ 保険財政の均衡を図るだけなく、医療提供体制や診療報酬、薬価制度の改革をあわせて進めるべき。
○ 医療制度改革に当たっては、患者だけでなく、行政、医療機関が痛みを分かち合うことが必要。
○ 今後の道筋も不明確なまま、負担だけが増えるような痛みあって改革なしであってはならない。

2.医療保険制度

(1)制度体系・保険者の在り方

○ 保険者が5千もあるのは多過ぎ、財政基盤の強化等を図るため、保険者の統合・再編を推進すべき。
○ 市町村国保は、現在、高齢者、無職者、低所得者等を中心とする保険集団となっており、現行の保険集団のままでは、国民皆保険を支える国保財政運営は破綻のおそれがある。国民皆保険を維持するとともに、負担と給付の公平を図るため、保険制度を長期的に一本化すべき。中長期的に、現行保険者を維持しながら財政調整を行う財政の一本化を図るべき。
○ 持続可能で安定的な医療保険制度を構築するためには、全国レベルでの一本化を含めた改革を目標とすべき。
○ 医療保険の一本化は直ちに実現することはできないとしても、将来的な一本化を目指し、段階的に進める考え方も必要であり、将来の展望を議論していくべき。また、保険者の一本化だけでなく、都道府県などの地域単位で保険財政を一本化するという考え方もあり得る。
○ 医療保険の一本化や保険者間の財政調整の強化については、連帯感を共有できる保険集団内でのリスク分散という本来の目的を超えること、負担と給付の関係を不明確にすること、保険者機能発揮のインセンティブを減殺することから、適当ではない。
○ 医療保険の一本化は、制度間における所得捕捉や必要経費の取扱い、医療費効率化、保険料徴収等の違いを考慮すれば、適当ではなく、これらの問題の解決が前提となる。
○ 保険者が一つでは競争が働かず、保険者機能も働きにくい。
○ 医療保険の一本化と、税制やその運用の問題とは別の問題として議論していくべき。
○ 国民健康保険制度については、国庫負担が重要な役割を果たしており、その財政基盤の強化を図るための制度の在り方やその対策について検討が必要。
○ 国民健康保険が多額の一般会計の繰り入れにより運営されている実態を踏まえ、当面の措置として、国保財政支援のため国において十分な実効ある措置を講ずるべき。

(2)給付と負担

(給付等)

○ 平成9年以来、国民は数次にわたり負担増という痛みを受け入れており、さらなる患者負担や保険料の引き上げは認められない。むしろ、今回は、医療機関、行政が痛みを分かち合うべき。
○ 患者負担や保険料の引き上げは、医療サービスの改善とあわせて考えていくべき。
○ 患者負担は、好んで病気になるわけでないことから、受益者負担の観点から論じられる性格のものではない。
○ 3割負担は負担が過重であるので、給付率は8割で統一すべき。
○ 持続可能な制度としていくためには、現在の各制度間における給付と負担の不公平の解消が必要である。
○ 制度間を通じた給付率の統一については、給付の公平性のみで論じられるものではなく、各制度における負担と給付の関係やこれまでの給付率の見直しの経緯等も踏まえ考えるべきであり、給付率7割への統一は受け入れられない。
○ 今後も財政状況によりさらに給付率が引き下げられるのではないかなど将来の制度への不安があることから、制度の持続性について明確に示すべき。
○ 給付の見直しについては、高額療養費制度や、保険料、公費を含めた上で、総合的に検討すべき。
○ 給付率を引き下げるのであれば、自己負担限度額の水準について、十分な配慮が必要である。
○ 保険料は所得に応じて負担し、給付は公平に行うことを原則とすべきであり、自己負担限度額の引き上げは適当でない。
○ 薬剤一部負担は、多剤投与の抑制や患者のコスト意識の醸成に効果があり、また、国民に定着しており、国民健康保険への影響など財政状況等を踏まえれば、廃止すべきではない。

(保険料負担等)

○ 厳しい経済情勢の下で、企業における医療保険を含めた社会保険料の負担は限界にある。
○ 医療コストは保険料で賄うことが原則であり、高齢者数の増大や、医学、医療の進歩等を見込むべき。
○ 医療保険制度としての持続性を確保するためには、税財源の問題を含め検討すべき。
○ 賞与総額は企業の業績により大きく変動することから、総報酬制の導入は、単年度収支を基本とする保険財政の安定化を損なうおそれがある。また、医療保険では、年金の場合と異なり、支払った保険料が給付に反映されないこと、退職者医療制度を通じて拠出金による財政調整が拡大することから、総報酬制の導入は適当でない。

3.高齢者医療制度

(1)制度体系

○ 社会保険は現役労働者を中心としたリスクプールの仕組みであったが、高齢化によりこの前提と社会実態の間にギャップが生じており、それが今日の問題の基本構造である。
○ 老人医療費拠出金の伸びが大きく、各被用者保険における割合が高くなり過ぎているため、保険制度そのものの健全な運営が損なわれている。
 また、拠出金制度は、現役世代の保険原理を歪めるとともに、保険者が医療費の効率化等に取り組むインセンティブが働きにくい。拠出金の廃止など拠出金制度の改革を進めることが不可欠であり、現行制度の枠組みの修正では根本的な解決にはならない。
○ 老人医療費拠出金の精算額が相当な額となっており、各保険者において相当の負担となっている。
○ 75歳以上を対象とする独立型の高齢者医療制度を創設すべき。その場合、10%程度を保険料と患者負担で賄い、90%を公費により賄うべき。一般医療保険制度は保険料収入により賄うことを原則とし、将来的には医療保険の一本化を図るべき。
○ 65歳以上の者を対象とする独立型の制度を創設すべき。
○ 被用者OBを対象とし、その医療費を被用者保険により支える突き抜け方式による制度を導入すべき。
○ 高齢者医療の対象年齢の引き上げは、制度間の調整機能を弱めるおそれがあり、医療保険の一本化の方向に逆行するので、適当でない。
○ 高齢者医療の対象年齢の引き上げは、70〜74歳の者を医療から遠ざけるおそれがあり、また、介護保険制度との整合性や老人保健法の趣旨・目的からみて問題があり、適当でない。
○ 高齢者医療の対象年齢を75歳で区分することは、医療費など様々な要素を勘案すると根拠がないわけではない。
○ 高齢者医療の対象年齢の引き上げにより、老人医療費拠出金が縮減し、退職者医療拠出金をあわせた拠出金でみても、現行制度のまま推移した場合に比べ縮減することとなる。しかしながら、拠出金は、2015年には保険料収入の過半を占めることが見込まれ、保険者としての自立性や制度の持続性の観点からみて、問題が解決されていない。
○ 高齢者医療の対象年齢の引き上げにより、70〜74歳の年金受給者の位置づけも75歳以上の者の医療費を支える側となっており、世代間扶養とリスクプールの概念をどう調整するかという根本的な問題の整理が必要。
○ 退職者医療制度については、就業形態の多様化により被用者OBを区別する意義が薄れており、また、保険者が財政的な責任を負い医療費効率化に取り組むようにする観点から、改革が必要。
○ 老人医療費拠出金の算定方法の見直しは被用者保険と国民健康保険の財政調整をさらに拡大させるものであり、理解が得られない。
○ 高齢者医療の対象年齢の引き上げにかかわらず、制度間の財政調整の強化を図る観点から、老人加入率の上限撤廃、退職者に係る拠出金の負担の見直しは行うべき。
○ 老人医療費拠出金の算定に当たっては、全加入者を対象とするのではなく、稼得能力のある20歳以上の者を対象とすべきである。
○ 制度間の財政調整は、年齢リスク等を踏まえて行うべき。

(2)老人医療費の伸び率管理制度

(導入を求める意見)

○ 現在の経済状況や保険財政の危機的状況を踏まえれば、医療費適正化策を別途講じつつも、総枠での医療費の抑制は行うべき。
○ 制度の対象が老人医療費のみでは一般医療費が増大する懸念もあり、一般医療費も含めた医療費全体について伸び率管理を行うべき。
○ 本来は診療報酬体系等を抜本的に見直すことにより社会保険として持続できるシステムを確保していくべきであるが、それまでは緊急避難的に伸び率管理もやらざるを得ない。

(導入に反対の意見)

○ 医の倫理よりも経済を優先させるという考え方は適切ではない。
○ 経済の伸びにかかわらず、医療技術の進歩や、新薬の出現、高齢者数の増加により医療費が伸びる要因がある。日本の医療制度は国による公定価格の管理の下に比較的効率的に行われており、これ以上の制限は適当ではない。伸び率管理により、高齢者が適切な医療を受けられなくなることが懸念される。
○ 医療費や高齢化の地域格差、診療科目の相違、医療機関の規模、各医療機関の医療費適正化への取り組み等を考慮せず、一律にペナルティをかけるのは不平等である。
○ インフルエンザの流行など、医療機関に責任のない場合でもペナルティをかけるのは適当でない。
○ フランスのように違憲の判決が下された例もあり、手法によっては違憲性が生じるおそれがある。

(伸び率の目標値)

○ 強制加入の公的医療保険では、持続可能性という観点から、加入者の報酬の伸びと同程度に抑えることを目安とすべき。
○ 国内総生産などの経済指標だけでなく、高齢者、特に後期高齢者の増大を勘案する必要がある。
○ 老人医療費は90年代に平均8%伸びており、中長期的にはともかく、現下のデフレ経済の下で高齢者数を見込む必要はない。
○ 医療の効率化等の視点を盛り込むとともに、一般医療費についても保険料収入の基礎となる国民所得の伸び率に準拠したものとすべき。

(調整の方法)

○ 地域や医療機関を単位に、目標を設定し、調整することとすべき。
○ 試案では2年後に調整を行うこととしているが、早期に調整を行い、実効あるものとすべき。
○ 老人医療費のみ伸び率管理を行えば、世代間で診療費の不公平が生じることから、伸び率管理は老人だけでなく一般の者も含めて行うべき。

(3)患者負担

○ 高齢化や不況の中でこれまでと同様の負担では現行の制度を維持していくことはできないということは高齢者も理解しており、公平性について納得できる内容をもつことが重要である。
○ これまで高齢者の患者負担の引き上げが数次にわたり行われてきたが、老人医療費の伸びの抑制にはつながっていない。
○ 不況の中で患者負担の増加は生活への影響が大きい。高齢者は制度を破綻させてはいけないという気持ちをもっているが、今回の患者負担の見直しには納得できないという声が強い。
○ 所得の高い者は負担に耐えうるので制度の健全化に協力したいという声もあり、所得に応じたきめ細かな配慮が必要。
○ 年金受給者等が負担の見直しに耐え得るかどうか老人の生活実態について十分な検証が必要である。
○ 低所得者の患者負担には十分な配慮が必要。
○ 高齢者の患者負担については、受益と経済的能力に応じた定率負担を求めるべき。
○ 患者が医療機関等で支払いを行う際に、実際に要した医療費を知ることは大変重要であるが、定額負担ではこれがわかりにくく、定率負担とすべき。
○ 低所得者や複数科の受診者等に対しては、現行の窓口負担の上限額を据え置くべきである。
○ 訪問看護については、自己負担の上限を撤廃することによる安易な重複受診の抑制効果が期待できず、頻回訪問が必要な医療機器を装着している患者や難病患者等について必要な訪問が抑制される可能性が高いため、自己負担の上限を撤廃すべきではない。

(4)その他

○ 老人医療費の増大の要因や1人当たり医療費に関する5倍の老若格差の要因を解明し、高齢者はじめ国民にわかるように説明するとともに、必要な対策を講ずるべき。
○ 老人医療費の膨張に歯科はほとんど関連しておらず、歯科医療費の適正化、効率化の観点からも、歯科疾患の特性を考慮した高齢者医療制度とすべき。
○ 高齢者といっても一様ではなく、年齢層が広く、個々人で健康や所得、家族構成、障害の有無等によりその状況が異なることを十分に認識の上、制度を考えていくべき。
○ 高齢者の医療については、高齢者の立場に立ち、QOLを高めるなどの観点から考えていくべきであり、過度な診療、投薬、検査を排除し、生活指導や訪問指導を重視すべき。
○ 介護保険制度創設の趣旨を踏まえ、社会的入院の解消を進めていくべき。
○ 医療と介護の役割を明確化すると同時に、医療と介護の必要な連携を強化することが必要。
○ 平均在院日数の短縮や社会的入院の解消を図るため、訪問看護等の在宅における受け皿を充実させるべき。

4.診療報酬・医療提供体制等

(1)診療報酬・薬価基準等

○ 国民皆保険を維持するためには関係者が痛みを分かち合うべきであり、これまで患者が痛みを受け入れてきたことから、次の診療報酬改定ではマイナス改定を行い、医療提供側も痛みを分かち合うべき。また、厳しい経済・財政状況、賃金・雇用状況や物価動向を踏まえ、相当程度のマイナス改定とすべき。
○ 診療報酬の見直しについては、最も効率的に運営され、かつ、良質な医療を提供している医療機関のコストを踏まえて水準を設定し、効率化を促すような仕組みとすべき。
○ 患者に対する情報提供や療養指導等について、診療報酬上適切に評価していくべき。
○ 保険診療と自由診療の併用を拡大し、国民の選択の幅を広げるとともに、公的医療保険の守備範囲について検討していくべき。
○ 包括払いの拡大を図るべき。
○ 205円ルールは、早期に廃止すべき。
○ 薬価制度の改革が必要。

(2)健康づくり・疾病予防

○ 将来的には健康基本法のような基本的な法律を作るべき。
○ 予防は、医療費抑制には即効性はないが、中長期的視点に立ってこれを進めるべき。
○ 医療費抑制の観点からも、地域の特性に応じた健康対策を強化していくべき。
○ 健康診断については、労働安全衛生法や老人保健法に基づくもの、各保険者が行うものを一本化すべき。また、データの互換性を持たせるべき。
○ 予防対策については、健康保持、疾病予防、合併症予防、重篤化・慢性化予防等に応じ、保健事業等と医療保険で給付すべき範囲を区別・整理すべき。
○ 「健康日本21」については、高齢者が実践しやすいような工夫が必要。
○ 高齢期のねたきりや疾病の予防を促進するため、高齢者自らが行う自主的な健康づくりと予防活動の普及を図るべき。
○ 健康学、特に老人の健康について、基準値の設定や投薬の有効性などの研究を急ぎ、対応策を講ずるべき。
○ 生涯を通じた保健事業については、性別への配慮やリプロダクティブヘルスの視点を盛り込むべき。

(3)医療提供体制

○ 「21世紀の医療提供の姿」で示された施策について、目標や実施時期等を明確化し、早期にその実現を図るべき。また、その実施について、例えば3年間などの期限を定めて集中的に改革を進め、政府全体でフォローアップやサポートを進めていくべき。
○ レセプトやカルテの電子化等の医療のIT化等について、目標、期限、手順を具体的に示し、これに沿って早急に実施していくべき。医療のIT化の推進のため、コードの標準化等の基盤整備を進めるべき。また、今後、医療のIT化の費用負担の在り方について、さらに検討が必要。
○ EBM(根拠に基づく医療)について早期に体制を確立すべき。
○ 医療サービスの効率化を徹底的に進めるべき。
○ 医療機関の広告規制の緩和を推進するとともに、医療機関の適切な評価を推進し、安全対策への取り組みも含め、情報公開を進めるべき。また、患者に慢性疾患や生活習慣病などの自己管理を促すために、医療機関はカルテ等の開示を進めるべき。

5.その他

○ 医療保険制度の運営の効率化等を図るため、保険者に関する各種規制緩和を進め、保険者機能の強化を行うべき。
○ 医療保険の運営に関して、情報開示の推進を図るべき。
○ 医療保険制度を患者本位のものとするため、制度の内容や医療費等について、国民にわかりやすく説明していくべき。
○ 被保険者証のICカード化を推進すべき。
○ 政府管掌健康保険の事務費の財源については、財政構造改革法以前の取扱いとすべき。
○ 財政の厳しい政府管掌健康保険において、社会保険病院を運営するのであれば、国費で整備すべき。
○ 今後の雇用情勢や、パートタイマーや派遣労働者の増加等雇用形態の多様化、賃金形態・分布の変化等を踏まえ、これに応じた社会保険の適用を進めていくべき。
○ 医療費の適正化等を図るため、包括化の推進や、重複多受診の是正、薬価や医療材料価格の適正化、レセプト審査の強化、生活習慣病対策や市町村の保健事業の推進等の対策を積み重ねていくべき。
○ 医療機関は診療の内容と医療費を明示した領収明細書を発行すべき。また、各保険者も定期的に医療費通知書を発行すべき。

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