厚生労働省発表
平成13年11月8日(木)
1 調査の経緯 平成10年9月に大阪府豊能郡美化センターの土壌等から、高濃度のダイオキシン類が検出されたとの発表があり、労働省(当時)では、直ちに同美化センターの従業員に及ぼすダイオキシン類健康影響を調査するために中央労働災害防止協会に「豊能郡美化センターダイオキシン問題に係る調査研究委員会(委員長 高田 勗)」を設置した。
今回、これら平成12年度に実施した調査について、その結果が取りまとめられたので報告を行うものである。 2 調査結果の内容 平成12年度に追跡調査が実施された豊能郡美化センター関係労働者等の調査結果がとりまとめられた。今回報告された調査結果概要は、以下のとおりである。
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1 豊能郡美化センター関係労働者追跡調査
(1) 調査対象者
豊能郡美化センター関係労働者のうち、焼却炉関連設備内作業の支援は行うが焼却炉関連設備内には立ち入らない者(13名)及び焼却炉関連設備内に立ち入って作業に従事する者(15名)のうち本人が希望した者(24名)を調査対象者とした。これは、平成10年度の調査でこれらの群の労働者の血液中ダイオキシン類濃度が高かったためである。(ただし、採血が不能である等により、調査結果が得られた者は、21名であった。)
なお、焼却炉関連設備とは、焼却炉、電気集じん機、湿式洗煙塔等をいう。
(2) 調査結果
ア 血液中ダイオキシン類濃度
調査対象者21名の血液中ダイオキシン類濃度は、別添1のとおりであり、最大値は480.4pg-TEQ/g脂肪、最小値は、19.2pg-TEQ/g脂肪であった。
調査対象者21名の血液中ダイオキシン類濃度の平均値でみると、平成10年度調査では265.0pg-TEQ/g脂肪、平成11年度調査では、246.0pg-TEQ/g脂肪であったのに対し、平成12年度調査では、131.7pg-TEQ/g脂肪と平成10年度に比して50.3%、平成11年度に比して46.5%減少した。
イ 生化学検査及び免疫機能検査
今回調査した範囲において、生化学検査及び免疫機能検査の検査項目のうち、血液中ダイオキシン類濃度と明らかな関係が見られたものはなかった。
ウ 皮膚視診
調査対象者の皮膚視診の結果は、平成10年度、11年度調査の所見と比べ大きな変化はなく、ダイオキシン類へのばく露によると疑われる所見は認められなかった。なお、皮膚視診は全て、同一の医師により診察が行われた。
以上のことから、現時点でダイオキシン類の影響が疑われる疾病等は認められず、また、平成12年度調査の血液中ダイオキシン類濃度については、平成10年、11年度調査に比して大幅に減少したところであるが、本調査については、引き続き継続して行い、総合的な評価を行うことが望ましい。
2 豊能郡美化センターの敷地内労働者に係る調査
(1) 調査対象者
平成11年から平成12年にかけて行われた豊能郡美化センターの敷地内において、土壌の運搬等の作業に従事していた労働者12名を調査対象者とした。
(2) 調査結果
ア 血液中ダイオキシン類濃度
調査対象者12名の血液中ダイオキシン類濃度は、別添2のとおりであり、最大値は、80.2pg-TEQ/g脂肪、最小値は、12.5pg-TEQ/g脂肪であった。
また、調査対象者12名の血液中ダイオキシン類濃度の平均値は、26.2pg-TEQ/g脂肪であり、これは、これまでに実施された一般住民の測定値とほぼ同じである。
イ 生化学検査及び免疫機能検査
今回調査した範囲において、生化学検査及び免疫機能検査の検査項目のうち、血液中ダイオキシン類濃度と明らかな関係が見られたものはなかった。
ウ 皮膚視診
調査対象者の皮膚視診の結果は、ダイオキシン類へのばく露によると疑われる所見は認められなかった。
以上のことから、現時点でダイオキシン類の影響が疑われる疾病等は認められなかった。
3 全国8施設の労働者
(1) 調査対象者
以下の選定基準により選定した全国6の一般廃棄物焼却施設及び(社)全国産業廃棄物協会連合会を通じて協力が得られた全国2の産業廃棄物焼却施設を調査対象施設とし、8施設に従事している労働者合計143名を調査対象とした。
(2) 調査結果
ア 血液中ダイオキシン類濃度
8施設の調査対象者143名の各施設ごとの血液中ダイオキシン類濃度は、別添3のとおりであり、最大値は、132.9pg-TEQ/g脂肪、最小値は、6.7pg-TEQ/g脂肪であった。
調査対象者143名の血液中ダイオキシン類濃度の平均値でみると28.4pg-TEQ/g脂肪であった。これは、これまでに実施された一般住民の測定値とほぼ同じである。
今回の結果で、血液中ダイオキシン類濃度がやや高かった者(100pg-TEQ/g脂肪以上)は、6名おり、その6名の異性体濃度は、ポリ塩化ジベンゾフラン類についてもやや高く、焼却施設内の作業によりばく露を受けている可能性がある。
なお、この程度の濃度では健康影響が生じるレベルにはないものであるが、各人に対して、保護具の使用等の徹底を説明していくことが望ましい。
イ 生化学検査及び免疫機能検査
今回調査した範囲において、生化学検査及び免疫機能検査の検査項目のうち、血液中ダイオキシン類濃度と明らかな関係が見られたものはなかった。
ウ 皮膚視診
調査対象者の皮膚視診の結果は、ダイオキシン類へのばく露によると疑われる所見は認められなかった。
以上のことから、現時点でダイオキシン類の影響が疑われる疾病等は認められなかった。
(参考)
○ ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン類、ポリ塩化ジベンゾフラン類及びコプラナーPCBをいう。
○ 1pg(ピコグラム)とは、1グラムの1兆分の1の質量である。
○ TEQとは、ダイオキシン類の毒性を、最も毒性が強い2,3,7,8-TCDD(四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン)の毒性に換算してを表わしたものである。
○ 血液生化学検査については、以下の25項目について、検査した。
血液・生化学検査の測定項目
赤血球数(万/ul)、白血球数(/ul)、ヘモグロビン(g/dl)、ヘマトクリット値(%)、血小板数(万/ul)、総蛋白(g/dl)、アルブミン(g/dl)、総ビリルビン(mg/dl)、GOT(IU/l)、GPT(IU/l)、乳酸脱水素酵素(IU/l)、アルカリフォスファターゼ(IU/l)、γ-GTP(IU/l)、ロイシンアミノペプチダーゼ(IU/l)、クレアチンキナーゼ(IU/l)、アミラーゼ(IU/l)、総コレステロール(mg/dl)、HDLコレステロール(mg/dl)、中性脂肪(mg/dl)、血清鉄(μg/dl)、尿素窒素(mg/dl)、クレアチニン(mg/dl)、尿酸(mg/dl)、血糖(mg/dl)、HbA1c(%) |
○ 免疫機能検査については、リンパ球を分離し、PHAによるリンパ球幼若化検査、CON-Aによるリンパ球幼若化検査、NK細胞活性検査、モノクローナル抗体によるリンパ球表面マーカーの解析(CD3,CD4,CD8,CD19,CD56,CD4/CD8比)を実施した。
○ 皮膚視診については、労災病院の皮膚科医師により下記の点を中心に診察を実施した。
労働基準局安全衛生部 化学物質調査課 課長 西本 徳生 調査官 中村 富也 電話 03-3502-6756 03-5253-1111 内線 5511,5516
別添1
○ 豊能郡美化センター関係労働者の血液中ダイオキシン類濃度
1 豊能郡美化センター関係労働者平成12年度調査(対象者数;21名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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2 参考
表2−1.豊能郡美化センター平成10年度調査(対象者数;23名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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平成10年度労働省調査より |
※ ダイオキシン類は、平成11年3月発表時にはPCDDs及びPCDFsのみで、コプラナーPCBは別掲であったが、今回は、コプラナーPCBもダイオキシン類に含めて算出したものである。
※ TEF(毒性等価係数)は、コプラナーPCBはWHO(1993)のもの、その他のダイオキシン類については、NATO諸国の共同研究に基づく国際毒性等価係数を使用。
表2−2.豊能郡美化センター平成11年度調査(対象者数;23名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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平成11年度労働省調査より |
※ ダイオキシン類は、平成11年3月発表時にはPCDDs及びPCDFsのみで、コプラナーPCBは別掲であったが、今回は、コプラナーPCBもダイオキシン類に含めて算出したものである。
※ 表2−2におけるTEF(毒性等価係数)は、1997年にWHOより提案されたものを使用。
別添2
○ 豊能郡美化センターの敷地内労働者の血液中ダイオキシン類濃度
豊能郡美化センターの敷地内労働者平成12年度調査(対象者数;12名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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別添3
○ 全国8施設の施設ごとの労働者の血液中ダイオキシン類濃度
施設A(対象者数;20名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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施設B(対象者数;8名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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施設C(対象者数;19名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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施設D(対象者数;19名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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施設E(対象者数;19名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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施設F(対象者数;20名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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施設G(対象者数;20名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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施設H(対象者数;18名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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全体 (対象者数;143名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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(参考)
○ 一般住民の血液中ダイオキシン類濃度の測定結果例
表1.大阪府住民(対象者数;36名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||||||||||
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平成12年1月大阪府公表資料より |
※ ダイオキシン類合計の平均値は、PCDDs、PCDFs及びコプラナーPCBそれぞれの平均値の和により算出したものである。
※ 表1におけるTEF(毒性等価係数)は、1997年にWHOより提案されたものを使用。
表2.大阪府能勢町地域A地区住民(対象者数22名)、B地区住民(対象者数15名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||
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平成11年度環境庁調査より |
表3.埼玉県地域A1地区(対象者数;12名)、A2地区(対象者数24名)、B地区(対象者数13名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||||||
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平成11年度環境庁調査より |
表4.広島県府中市A地区住民(対象者数16名)、B地区住民(対象者数19名)
(単位pg-TEQ/g脂肪) | ||||||||||||
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平成11年度環境庁調査より |
※ 表2、表3及び表4におけるTEF(毒性等価係数)は、1997年にWHOより提案されたものを使用。