この医療制度改革試案は、少子高齢社会に対応した医療制度の実現に向けて、広く国民の論議に供するため、厚生労働省としてとりまとめたものである。 今後、平成14年度予算編成までに成案を得、所要の法律改正案を次期通常国会に提出するものとする。 |
厚生労働省
平成13年9月25日
(照会先)保険局総務課企画法令係 (内線3219、3217)
第2 保健医療システムの改革 第3 持続可能で安定的な医療保険制度の構築 |
第1 医療制度改革の基本方向
国民の生命と健康を支える医療制度は、年金制度と並ぶ社会保障の基盤であり、これまで世界最高の平均寿命や高い保健医療水準を実現してきたが、急速な少子高齢化、低迷する経済状況、医療技術の進歩、国民の意識の変化など医療を取り巻く環境は大きく変化している。
こうした環境変化に対応し、良質で効率的な医療を国民が享受していけるようにするためには、保健医療システム、診療報酬体系、医療保険制度といった医療制度を構成する各システムを、大きく転換していかなければならない。
○ 保健医療システムについては、健康づくり・疾病予防の推進を図るとともに、情報の開示、患者の選択の拡大、医療提供体制における機能分化・集約化等を進めることにより国民が安心・信頼できる質の高い医療サービスが効率的に提供される仕組みへと見直す。
○ こうした医療提供体制の構築に向け、診療報酬についても、基本に立ち返り、医療技術や医療機関の運営コストが適切に反映される診療報酬体系としていく。
○ 医療保険制度については、国民皆保険を基本に、各制度・世代を通じた給付と負担の公平化を図るとともに、保険者の統合・再編成や規模の拡大など運営基盤を強化しつつ、持続可能で安定的な制度を構築する。
○ 特に、高齢化の進展に伴いその重要度が増している高齢者医療制度については、急速に増大する老人医療費への対応が必要であり、世代間の公平な負担を実現するとともに、後期高齢者への施策の重点化・公費負担の拡充を図ることにより、保険者にとって重圧となっている拠出金を縮減する。
○ また、高齢者医療制度と密接に関連する介護保険制度との関係について、その実施状況を踏まえつつ、両制度の整合性に留意し、将来の介護保険制度の見直しにあわせて検討を進める。
以上のような基本方向に向けて、当面する保険財政の破局を防ぐとともに、中長期的に持続可能な制度を確立するため、以下の事項を内容とする平成14年度医療制度改革を進める。
第2 保健医療システムの改革−21世紀保健医療ビジョン−
I.健康づくり、疾病予防の推進 |
○ 健康寿命の延長、生活の質の向上を実現する健康づくり、疾病予防の取組みを推進するとともに、健康増進法(仮称)の制定など法的基盤の整備を含め、その推進方策を検討する。
| −「21世紀の医療提供の姿(概要)」(別添)参照− |
1.今後の我が国の医療の目指すべき姿
○ 我が国医療の目指すべき将来像について幅広い合意を形成し、国民の視点に立って医療提供体制の改革を推進。
目指すべき将来像の合意形成 |
○患者の選択の尊重と情報提供 ○質の高い効率的な医療提供体制 ○国民の安心のための基盤づくり |
2.当面進めるべき施策
○ 今後の医療の方向性を念頭に置きつつ施策を進めていくこととし、当面、次のような課題に取り組むこととする。
当面進めるべき施策 |
○「根拠に基づく医療(EBM)」の推進(平成14年度より逐次実施) ○医療のIT化の推進(電子カルテ)(平成13年度より逐次実施) ○臨床研修必修化への対応(平成15年度結論) ○広告規制の緩和(平成13年度) ○医業経営の近代化・効率化(平成13年度) ○医療安全対策の総合的推進(平成14年度) ○小児救急医療等の充実・確保(平成14年度) |
第3 持続可能で安定的な医療保険制度の構築
I.医療保険制度の課題と平成14年度医療制度改革 |
○ 我が国の医療制度を取り巻く諸課題について、平成14年度医療制度改革において取り組むとともに、高齢化がピークを迎える時期においても国民皆保険が安定的に運営されるよう、保険者間の統合など医療保険制度の在り方について早急に検討を開始し、結論を得る。
II.医療保険制度の改革 |
1.医療保険制度全体の給付の見直し(平成14年度実施)
給付率の一元化 |
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高額療養費の見直し | ○自己負担限度額を引き上げ。 (低所得者については据え置き) |
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薬剤一部負担金制度の廃止 | ○一般制度に係る外来薬剤一部負担金制度を廃止。 |
2.保険料の見直し(平成15年度実施)
総報酬制の導入 | ○平成15年度に導入。 (厚生年金と同時実施) |
政府管掌健康保険の保険料率の引上げ | ○総報酬制の導入にあわせて、保険収支が均衡するよう、保険料率を引き上げ。 |
3.国民健康保険制度の財政基盤の強化(平成15年度実施)
III.高齢者医療制度の改革 |
1.老人医療費の伸び率管理制度の導入(平成14年度実施)
老人医療費の伸び率 管理制度の導入 |
○経済の動向と大きく乖離しないよう老人医療費の伸び率目標を設定し、その範囲に抑制する枠組みを構築する。 |
2.対象年齢の見直し・公費負担の重点化(平成14年度から5年間 かけて段階的に実施)
対象年齢の引上げ | ○現行70歳から75歳に段階的に引き上げ。 |
公費負担の重点化 | ○現行3割から5割に段階的に引き上げ。 |
3.患者一部負担の見直し(平成14年度実施)
患者一部負担割合の見直し |
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自己負担限度額の見直し等 |
○自己負担限度額を引き上げ。 ○低所得者については据え置き。 |
4.老人医療費拠出金の算定方法の見直し(平成14年度実施)
IV.診療報酬・薬価基準等の見直し |
○ 診療報酬については、患者の立場に立ったあるべき医療の姿を踏まえ、基本的な考え方の再検討を行い、基礎的な医療の充実を図るとともに、医療技術や医療機関の運営コストが適切に反映されるように体系的な見直しを進める。薬価基準の見直しを含め、一部については年度末までに結論を得る。
○ 次期改定においては、上記の視点を踏まえつつ、最近の経済の動向、保険財政の状況等を勘案し、以下のような事項を中心に見直しを行う。
平成14年度改定の課題 |
○療養病床に係る報酬体系の見直しや長期入院に係る給付の在り方の見直し。 ○包括払いの拡大等支払い方式の見直し ○生活習慣病等に対する生活指導の重視 ○医療技術の進歩等に対応した特定療養費制度の拡大 ○薬価や保険医療材料価格の適正化 ○205円ルールの見直しなど医療事務の透明化 |
V.その他 |
1.保険者に関する規制緩和等
保険者による直接審査等 |
○保険者自らが審査支払を行うこと及びその民間委託を可能とする。(平成13年度) ○社会保険診療報酬支払基金の審査業務の在り方の見直し。(平成13年度より順次実施) |
保険者と医療機関の契約 | ○診療報酬に係る個別の契約を締結することを可能とする。(平成14年度) |
レセプト電算処理の推進 | ○レセプト電算処理を容認する地域や医療機関を個別に指定する省令の廃止。(平成13年度) |
2.パート労働者や派遣労働者に対する社会保険の適用
○ パート労働者に対する社会保険の適用の在り方について検討するとともに、派遣労働者の就労実態等を踏まえた措置を講じる。
3.徴収の一元化とレセプト審査の改革
○ 年金、医療、労働等の保険料徴収の一元化の準備を開始するとともに、レセプト審査の効率化等を進める。
21世紀の医療提供の姿
(概要)
1.我が国の医療提供体制の現状と課題
我が国の医療は、WHO(世界保健機関)の評価などにおいて、世界最高の健康水準を達成している。しかし、少子高齢化の進展、医療技術の進歩、国民の意識の変化等を背景として、多くの課題も指摘されている。
2.我が国医療の目指すべき姿
我が国の医療提供体制について、一層質の高い効率的なものにしていくことが必要。このためには、医療関係者、医療を受ける患者をはじめとした国民全体で共有できる医療の将来像を形作っていくことが不可欠。
国民や関係者による活発な議論を通じて国民各層の幅広い合意に沿った医療提供の変革に資することを目的とし、医療の将来像のイメージを提示。
(将来像のイメージの概要)
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3.当面進めるべき施策
この今後の医療の方向性を念頭に置き、患者の視点を十分に踏まえつつ、総合的な取組を推進する。
1.我が国の医療提供体制の現状と課題
少子高齢化、医療技術の進歩、国民の意識の変化等を背景として、医療提供体制の効率性、競争が働きにくい医療提供体制、国民の安心できる医療の確保、情報基盤等の近代化・効率化等が課題となっている。
2.我が国医療の目指すべき姿
(将来像のイメージ)
(1)患者の選択の尊重と情報提供 |
<患者の視点の尊重と自己責任> ○患者への治療方針や治療方法の選択肢の説明、患者と医師等との信頼関係の醸成が進む ○患者は自覚と責任をもって医療に参加する <情報提供のための環境整備> ○医療機関相互の比較が客観的に可能となる ○最新の標準的診療ガイドラインが提供される |
(2)質の高い効率的な医療提供体制 |
<質の高い効率的な医療提供体制> ○情報開示と患者の選択を通じて病院病床の機能分化・集約化が進む ○急性期病床における平均在院日数の短縮化が進み、病床数の一定数への収れんが進む。また、リハビリテーションや長期療養など急性期以外の患者の状態に応じた病床への機能分化が進む ○診療所等は、他の病院との連携の下、患者に密接な医療の提供拠点となる 等 <医療の質の向上> ○臨床研修等の充実による医師・歯科医師の資質向上が図られる ○「根拠に基づく医療」(EBM)が普及するとともに医療における標準化等が進む 等 |
(3)国民の安心のための基盤づくり | ○二次医療圏で通常必要な医療需要が充足される ○小児救急医療の確保等の救急医療の充実、医療安全対策の進展、医療機関のネットワーク化による遠隔診療等が進む |
3.当面すすめるべき施策
(1)根拠に基づく医療の推進 |
○根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine : EBM )を実施するため、質の高い最新医学情報を医療従事者や患者に提供するデータベースを整備(平成14年度より逐次実施) ○EBMの考え方に基づいた診療ガイドラインについて、学会による作成を支援(優先順位の高い10疾患について平成13年度中に完成。さらに優先順位に基づき順次作成を支援) |
(2)医療のIT化の推進 |
○診療情報の用語、コード、様式などの標準化を完成(平成15年度) ○インターネットを活用したオンライン請求等レセプトのペーパーレス化の検討(平成14年度) 等 |
(3)医療を担う適切な人材の育成・確保 | ○臨床研修の必修化に向け、研修目標や研修プログラムなど臨床研修の具体的な在り方について検討するとともに、研修医と研修病院の広域でのマッチング方式等について検討し、平成15年度までに結論を得る |
(4)広告規制の緩和 | ○客観的で検証可能な事項について、広告規制の更なる緩和を検討し、医療機関が広告可能な事項の拡充を図る(平成13年度) |
(5)医業経営の近代化・効率化 | ○医療機関の経営情報開示の在り方、医療法人における組織、運営など医業経営の近代化・効率化方策を検討するため、検討会を設置する(平成13年度) |
(6)医療安全対策の総合的推進 | ○今後の我が国の中長期的かつ体系的な医療安全のグランドデザインを策定(平成14年度) 等 |
(7)小児救急医療対策の推進 | ○小児救急患者を2次医療圏の範囲を超え広域で受け入れる「小児救急拠点病院」を新たに整備。また、在宅当番医制における小児の初期救急対応のモデル的取組を推進(平成14年度) |