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平成13年8月8日

保健医療分野の情報化にむけての
グランドデザイン(第一次提言)について


 平成14年(2002年)から概ね5年間を見据えた保健医療の情報化計画を策定し、目標達成のための道筋と推進方策を示すため、今般、保健医療情報システム検討会において、保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン(第一次提言)が取りまとめられたので、公表する。


保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン
(第一次提言)


目次

0.はじめに
  <グランドデザインの目指すもの>

1.保健医療分野における情報化の理念と目的
  <何のために情報化を進めるのか>

2.保健医療分野における情報化の現状
  <情報化はどのように進んでいるか>

3.情報化によってかわる保健医療サービスの姿
  <情報化を進めれば医療はどう変わるか>

4.保健医療分野の情報化の目標と課題
  <情報化を進めるために何をするか>

5.今後の推進方策と関係者の役割
  <どのように進めるか>


0.はじめに <グランドデザインの目指すもの>

◯ 21世紀において日本はかつてない高齢社会を迎えているが、それに伴う疾病構造の変化を踏まえ、今後の医療の姿として予防から治療・リハビリ・在宅ケアまでを包含する、患者中心の包括的・全人的な医療が求められている。
◯ また、政府IT戦略本部が策定した「e−Japan重点計画」において、急速に進展する情報化社会に対応するため、保健医療分野の情報化を推進する戦略的グランドデザインを平成13年度(2001年度)早期に作成することとされている。
◯ そのため、情報通信技術を活用した今後の望ましい医療の実現を目指してこれまでも、保健医療分野の情報化について、平成6年(1994年)の保健医療情報システム検討会中間報告(以後「中間報告」と略す)、平成7年(1995年)の「保健医療福祉サービスの情報化に関する懇談会報告書」及び平成10年(1998年)改訂の「保健医療福祉分野における情報化実施指針」において議論がなされてきたところであるが、今般、情報技術の進展や社会状況の変化を踏まえ、情報化推進方策の見直しを行い、将来の方向性を示したグランドデザインを策定するものである。
◯ 今回のグランドデザインにおいては、平成14年(2002年)から概ね5年間を見据えた保健医療サービスにおける情報化計画を策定するが、保健医療サービスの「質の向上」と「効率的なサービスの提供」を大きな目的とし、達成のための道筋と推進方策を国民に分かりやすく示すこととする。
◯ 本検討会においては様々な個別課題について議論を進めているところであるが、これまでの検討結果を集約し、基本的な考え方を第一次提言として示すものである。
◯ 今後、本第一次提言を骨子とし、本年度(2001年度)できる限り早い時期に最終報告を取りまとめることとする。

1.保健医療分野における情報化の理念と目的 <何のために情報化を進めるのか>

○ 我が国の医療は、誰でも最適の医療を受けられる医療提供体制の整備と国民皆保険制度の導入により、大きく前進し、全般的生活水準や公衆衛生の向上をはじめ、医療関係者の努力等とも相まって、世界最高の健康水準を達成するに至っている。しかしながら、さらに医療の高度化・専門分化等が進む中で、平等性を維持しつつ、より質が高く効率的な医療提供のための環境整備が課題となっている。
○ このような環境変化や社会ニーズの変化の中で、医療における情報化の推進は、従来ともすればへき地・離島での医療支援や、一部地域の取り組みと認識されがちであったが、今や医療全体の構造変革にも大きな影響を及ぼしうる課題であると認識すべきである。
○ 一般に情報化とは、情報のネットワーク化が実現されることにより、科学的、客観的データの蓄積が可能となると共に、大量の最新情報がリアルタイムに伝送、共有されることが可能となることであり、医療分野においては、診療情報の電子化・高速伝送・同時共有がなされ、最新医療情報の多方向アクセスが可能となることを意味している。これが医療に与える影響は多方面にわたるが、大別すれば、医療の質の向上、医療の効率的提供、という好ましい効果が期待できる。
○ 保健医療分野における情報化については、「情報の安全性の確保に留意しつつ、サービス利用者の立場から情報処理・通信の技術を活用して情報の高度利用を図ること」を理念とし、「保健医療サービスの質の向上」と「資源の有効活用による合理的・効率的なサービス提供体制の構築」を目的として進めることが適切であり、この理念、目的の意義はますます大きくなっている。
○ したがって、このような理念・目的を踏まえ、二十一世紀の情報化社会において、いかに医療の情報化を進めて行くかは極めて重要な課題である。今後の望ましい保健医療サービスの提供を実現するために、情報化の戦略的グランドデザインを明らかにすることが今求められているのである。

2.保健医療分野における情報化の現状 <情報化はどのように進んでいるか>

○ 平成6年(1994年)の中間報告以降の、保健医療分野の情報化に係る技術革新の動向とそれを取り巻く状況の推移は大略以下の通りである。

<情報処理における技術革新>

(ネットワーク化)
○ 医療機関内の診療情報の電子化が進み、診療録の電子化(いわゆる電子カルテ)が可能となり、また独立して処理されることの多かった画像情報も院内診療情報の一部として一体的に扱うことが可能になった。また、インターネットの普及等、ネットワークのインフラ整備が進んだことにより、外部の医療機関との間で診療情報等の交換が可能となり、医療機関相互の連携が強化される素地が形成された。
○ また、診療情報については個人情報保護の観点から厳密な取り扱いが求められるが、ネットワークを利用して情報を安全に交換するための社会的基盤として、公開鍵インフラストラクチャ(PKI)などのネットワークセキュリティ技術の整備がはじまったところである。これによりデータの受け手はネットワークを介して受け取ったデータが間違いなく送り手本人からのものであることを電子的に確認できるようになる。
(高度情報通信インフラ(高度ネットワークシステム))
○ 最近では、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)、CATV(Cable Television)、通信衛星などのインフラが整備されつつあるが、さらに、e−Japan重点計画によれば、5年以内に超高速アクセスが可能な世界最高水準のインターネット網の整備を促進し、必要とするすべての国民がこれを低廉な料金で利用できるようにするとうたわれており、各家庭で高速インターネット網が利用できるように環境整備が進められている。
(文字、画像、音声情報の統合利用)
○ 大量の情報を同時に転送できるネットワーク網により、文字・画像・音声を総合的に扱える技術が普及し、単なる文字の検査データや所見だけでなく、CT、MRIなどの医療画像や心電図、さらには在宅の画像診断など、豊富な診療情報を使ったネットワーク診療を実用レベルで行える環境が整備されつつある。
(オープンソースとオブジェクト指向プログラミング)
○ 最近では、ソースコードを公開し、無料で再配布を認めるオープンソースも可能となってきた。さらに、プログラムの再利用や改変が容易なオブジェクト指向プログラミングやシステムを構築する前に複雑な医療業務をあらかじめ分析し全体像を明確にするユースケース解析などプログラム開発技法の進歩により、医療機関にとって使いやすい院内情報システムを、効率的に構築することができる環境が整いつつある。
(マルチベンダー方式の普及)
○ 従来のコンピュータシステムは、単一のメーカーでしかシステム(端末機器、周辺機器、通信機器など)を構築できなかった。しかし、システムごとに異なるメーカーの製品を組み合わせることができる、マルチベンダー方式が普及したため、機器選定の選択肢が広がり、最適なシステムを、より安く購入できるととにも、必要なシステムを段階的に導入することにより、導入コストを軽減できるようになった。
○ さらに、業務ソフトなどをインターネット経由で配信し、貸し出すサービス(Application Service Provider :ASP)が開発され、医療施設ではインターネットを介して常に最新ソフトを手に入れられるだけでなく、オンラインでシステムのメンテナンスやサポートも受けられ、診療に専念できるようになるとともに、低コストでのシステムの管理、運用が可能となっている。
(携帯型複合情報端末(モバイルマルチメディア端末)、高性能パソコン)
○ 広帯域のデータ通信が可能な携帯型複合情報端末(モバイルマルチメディア端末)や高性能パソコンが一部の地域で利用できるようになり、今後の利用可能地域は全国に及ぶと思われる。これらの端末を利用することにより、ベッドサイドでの入力事象発生時の発生源入力が可能となるとともに、どこからでも診療情報の入力や参照ができるようになり、院内情報システムだけでなく遠隔医療をはじめ、救急医療や災害時の医療への応用が考えられている。
(バーチャル・リアリティシステム)
○ 3次元画像処理技術の応用により多量の2次元医療画像(CTやMRIなど)を合成し、あたかも立体的であるかのような映像を作ることが可能となっている。これにより、病変をあらゆる角度から観察するような映像の合成が可能で、容易に正確な病変の性状や周囲の臓器との関係を把握することができる。 さらに、コンピュータグラフィックなどの技術を用いて実際の人体のデータに基づく模擬空間を構築するバーチャル・リアリティ技術による手術支援などが試みられており、定型的な手術のシミュレーションによる手術手技の研修を行ったり、あらかじめ患者の病変の情報や体内構築を元に手術法の試行を行うなどのシステムが大学などで開発されつつある。
(ICカード)
○ 「次世代ICカード」といわれるICカードが開発され様々な分野での応用が試みられている。
(用語等の標準化)
○ このように、情報化の環境は急速に整備されつつあるが、医療における情報化においては医療情報の伝達や共有のため、用語・コード等様々な標準化が必要となる。これまで、疾病名コード等取り組みが進められてきたが、まだ課題が残されているのが現状である。

<医療の情報化をめぐる環境変化の現状>

○ 保健医療情報システムを支える技術的環境が整備されてきたこと、質の高い医療に貢献するため診療情報の電子化を推進すべきとの考え方が示されたこと等を受けて、診療録等の電子保存について、真正性の確保、見読性の確保、保存性の確保の3つの基準を満たす場合に電子媒体での保存を認める通知が平成11年(1999年)4月に出され、これを一つの契機として電子カルテの医療機関への導入が進みはじめている。
○ 院内システムとしての電子カルテシステムについては、これを導入する病院・診療所が増加し、普及段階に入りつつあるものの、病院・診療所の機能分担、機能連携が求められる中で、診療情報の共有により、地域医療の向上を目指す医療機関相互のネットワーク構築という視点からは未だ普及レベルには達していない。
○ また、近年の医療技術の高度化・複雑化に対応するために各種の文献を幅広く収集し科学的に分析・評価を行って得られたものを活用して医療を行う「根拠に基づく医療」(Evidence−based Medicine:EBM)の推進が求められており、EBMの実践により、臨床に携わる医療従事者が、あらゆる診療の場で、最新かつ最適な医療情報に基づく治療を容易に行えるなど、医療の質のさらなる向上が期待されている。
○ このような医療の実践に医療の情報化は大きな役割を果たすものであり、臨床医が日常診療の中でEBMを実践できるよう、ネットワーク上で即座に参照でき、かつ治療方針決定の際の参考となる診療ガイドラインの作成支援を進めるとともに、ガイドライン作成の根拠となりうる、科学的根拠と認められた文献のデータベースについて早期整備を図ることが求められている。
○ 診療の情報の収集・分析については、診断群分類を用いた診療内容の調査事業が現在行われているが、傷病名のICD10コーディングの普及等の情報基盤の整備を進めることはこうした事業の推進にもつながるものである。
○ レセプト電算処理システムについては、平成11年(1999年)4月からすべての社会保険診療報酬支払基金の支部や国民健康保険連合会において磁気媒体によるレセプトを受け付ける体制が整備された。また、個々の医療機関の医事会計システムにおいてはすでに約7割(病院については9割以上)の医療機関において、コンピューター・システムが導入されている。したがってレセプト電算化が普及する下地はあると考えられるが、現状でレセプト電算化は十分進んでおらず、より「使い勝手」のよいシステムとすること等により、早急に推進・普及することが求められている。
○ ICカードについてはデータキャリアとしての役割は重要性を失いつつあるが、ネットワーク上の認証ツールとして電子カルテとの組み合わせが検討されつつある。
○ 情報通信技術を活用した遠隔医療システムについては、平成9年(1997年)12月に初診及び急性期の疾患を原則として除いた上で認めるという規制緩和を進める通知により、遠隔画像診断システムの普及が期待されたがそれほど進展はしていない。しかし、従来のへき地・離島医療の支援というイメージから、専門分野における地域医療機関相互支援のツールとして、また在宅医療への応用という面などでの検討が進み、医療サービス提供の一形態として、認知されつつある。
○ 近年、国民の間でインターネットの利用が急速に進んでいるが、現在、我が国におけるインターネット普及率は37.1%(平成13年度(2001年度)版通信白書)となっており、国民の約3人に1人は、何らかの形でインターネットを利用していることになる。インターネットを利用した、医療機関自身による情報提供や患者同士の情報交換は進んでいるものの、一方で不正確な情報の流通や公的な医療情報提供の不在など、インターネット普及に伴う新たな問題も指摘されている。

3.情報化によって変わる保健医療サービスの姿 <情報化を進めれば医療はどう変わるか>

 「e−Japan重点計画」によれば、目指すべき高度情報通信ネットワーク社会の姿を「ゆとりと豊かさを実感できる国民生活と、個性豊かで活力に満ちた地域社会が実現された社会」であり、「遠隔教育や遠隔医療などを普及することにより、地理的な制約や年齢・身体的条件に関係なく、すべての国民がインターネットなどを通じていつでも必要とするサービスを受けることができると同時に、様々なコミュニティへの社会参加等を行えるようになる」としている。ここでは、保健・医療分野の情報化が進んだ場合に期待できる社会の姿を述べる。

<医療サービスの質の向上が期待できること>

(医療の受け手からみた場合)
○ 診療科、診療時間、診療内容等国民の望む情報を備えた地域の医療機関情報がインターネットを通じて入手可能になり、自宅にいながら受診医療機関の選択に必要な情報を得ることができる。
○ 遠隔診療が普及することにより、在宅医療を選択した患者は自宅にいながら画像伝送等によりかかりつけの医師の診察を受けることができ、安心して自宅療養ができるようになる。
○ 遠隔診断が普及することにより、高度医療を提供する医療機関から離れた地域に居住する場合であっても、地域の医療機関からレントゲン画像等の検査結果を高度医療機関に転送し、専門医による読影を受けることができる。
○ 電子カルテが導入された医療機関において、画面を医師と患者がともに見ながら診断し、十分な説明を行うとともに、患者の同意を得て診療を進めることが多くなっている。また、さらに一部の医療機関ではインターネットを通じて自宅からカルテを見られるようにする取り組みが始まっている。このように、電子カルテの普及により、インフォームドコンセントの促進、カルテ開示の促進等が期待される。なお、このような医師と患者における診療情報の共有は、生活習慣病が増加する中で、病名の告知等に対する自己責任の問題など十分な配慮の必要な事項を残しながらも、患者が積極的に治療に参加していく上で重要になってきている。
(医療の提供者からみた場合)
○ 電子カルテは、医療従事者同士による診療情報の共有により、例えば専門医のコンサルテーションが、画面上で即時に受けられるなど診療プロセスが支援されることで医療の質を向上させることが期待されるほか、医療施設間でも診療情報の共有がしやすくなるため、病病連携、病診連携を支援できると考えられる。
○ 電子カルテやオーダリングシステムを中心とする院内情報システムの整備により、院内のコミュニケーションのミスは少なくなり、過剰投与や重複禁忌等の医薬品投与ミスのチェックが可能になるなど、医療における安全性が向上する。また、電子カルテとクリティカルパス(疾病ごとの入院診療計画表)の連動により、画一的診療に陥らぬよう配慮すれば、処置、投薬、注射等の際の事故防止が期待される。
○ また、診療情報の共有により他の医療機関との間での患者の紹介・逆紹介が行いやすくなり、同様の検査の重複を減らすことも期待できる。
○ 電子カルテの導入により、過去の診療情報が随時整理・保存され容易に検索できるようになることから、治療データの蓄積と活用が容易になり、治験や臨床研究の推進に資することが期待される。
○ EBMに基づくガイドラインや文献データベースが整備され、インターネット等で提供されることから、医療現場においてこれを適時適切に参照し、最新の知見に基づく適切な医療を提供できる。
○ 電子カルテが導入された場合、各医療機関において医療情報が蓄積されるため、それらのデータを解析することにより医療のパフォーマンスの数値化や治療結果の客観的評価、さらにそれに基づく医療機関間の比較が可能となる。
○ 保健事業実施主体と医療機関がネットワーク等を通じて情報共有が図れれば、過去の健診情報を診療の場で活用することができ、生活習慣病の予防および生活の質の向上などに寄与することが可能となる。

<医療サービスの効率化が期待できること>

(医療の受け手からみた場合)
○ 遠隔診断技術が普及することにより、専門的医療を提供する医療機関と地域の医療機関との連携や機能分担が可能となり、遠隔地の医療機関を受診する負担を軽減したり、専門的医療機関に患者が集中することを防ぎ、患者の待ち時間を短縮することが予想される。
(医療の提供者からみた場合)
○ 電子カルテやオーダエントリーシステムなどの導入により、カルテ保管スペースの縮小のほか効果的な院内物流管理や医薬品・医療材料の電子商取引が可能となり、在庫コントロールなどにより経営コスト削減に寄与する。更に蓄積されたデータの解析により経営分析が可能となり、経営改善に貢献する。
○ レセプト電算処理システムの導入や、診療報酬請求・審査支払のペーパーレス化の進展などにより、医療機関における医療費請求事務が効率化されるとともに審査支払機関の事務の合理化が図られる。

4.保健医療分野の情報化の目標と課題 <情報化を進めるために何をするか>

<保健医療情報システムの構築>

(電子カルテシステム)
○ 電子カルテシステムの導入により様々な効果が期待されることは先に述べたとおりであり、保健医療分野の情報化の中でも今後の積極的な普及推進が求められている。
○ その普及推進のためには、電子カルテにもさまざまな段階があり一気に汎用システムを普及させるのは現実的ではないことから、医療機関のニーズを踏まえて固有の目的のための情報システムの導入を優先し、その後目的別に順次導入したシステム相互のネットワーク化により汎用的な標準化システムが開発されるようその推進策についてさらに検討を進めるべきである。
○ また、電子カルテを導入する医療機関は増加しつつあるが、地域医療連携という視点からは医療機関相互のネットワーク構築はほとんどなされていないのが現状であり、このようなネットワーク化を進めていく必要がある。このため、今後、地域の中で中核的な役割を担っていこうという医療機関を中心に周辺の医療機関を結ぶモデル事業などを通して課題を検討し、導入に向けての環境整備を進めるべきである。
○ さらに、日本医師会においては全国の医療機関の医療情報ネットワークシステムを構築中であり、地域医療連携の視点からも、その推進が期待される。
○ なお、電子カルテの普及のためには、病名等、診療情報に含まれる用語やコードの標準化を始め、必要な環境整備を今後とも進めていくことが不可欠であることは言うまでもないことであり、そのための積極的取り組みが望まれる。
(レセプト電算処理システム)
○ レセプト電算処理システムについては、今後、以下のような取り組みを行うことにより、推進を図るべきである。
(遠隔医療)
○ ITを活用した遠隔医療については、在宅医療の進展への活用など、都市部における技術の応用に関しても、その有効性を引き続き検証していく。
(ICカード)
○ ICカードについては、今後は医療の被保険者証への利用等ネットワーク上の認証ツールとして電子カルテとの組み合わせによる有効活用とともに、被保険者等の資格確認システムについても検討を進める。
(電子商取引)
○ 電子商取引など医療における物品の流通機構に対するIT利用を促進すべきである。

<保健医療情報システムにおけるコンテンツの充実>

(コンテンツと提供体制)
○ 保健医療情報システムが効果を上げるためには、有用なコンテンツを充実させることがまず重要であるが、それに加えてその情報を提供する仕組みを構築することが重要である。
○ 医療の質の向上のために必要とされるEBMの推進に当たっても、ガイドラインの作成や各種データベースの構築を図るとともに、医師がEBMに基づく最新の医学情報をインターネット上で検索でき、日常診療の場で参照できるように電子情報として提供することは、非常に有益である。
○ また、一般家庭でもインターネットから自分の病気に関する正確な医学情報を入手できるようにすることで、病気に対する理解が深まり、医師の十分な説明の下、患者自らが治療方針等を選択し、治療に積極的に参加できるようになり、治療効果が上がることが期待できる。
○ したがって、EBMに基づき最新医学情報を集約した診療ガイドラインを学会等において作成することや、その元になる臨床研究の推進を国の支援の下に進めるとともに、作成された診療ガイドラインやその元となる臨床研究文献をデータベースとして蓄積し、ネットワーク上で提供できる体制を、公平で中立な機関において構築すべきであり、そのための方策を早急に検討すべきである。
○ また、日常診療や臨床研究から得られる診療情報を一診療機関を越えてデータベース化しておくことは、新たな医学的知見を得るために重要であり個人情報保護に留意しつつ、その構築に向けて検討が進められるべきである。
○ その際、現在も利用されている既存の保健医療福祉関係のデータベースとのリンクなど、十分な相互活用が図れるよう留意することが必要である。

<高度情報通信社会における保健医療の基盤整備>

○ 高度情報通信社会における質の高い効率的な保健医療サービスを実現するためには、社会的基盤の整備が重要である。必要な基盤としては、安全性と信頼性の確保、医学情報の標準化、制度の改革、情報格差の是正、人材の育成、経済的基盤の整備等がある。
(社会的基盤としての情報セキュリティ対策)
○ 情報セキュリティおよび個人情報保護は、保健医療分野のみの問題ではなく、高度情報通信社会における共通の社会基盤である。従って、保健医療分野における対応は、e−Japan重点計画に記載された施策に加えて、保健医療分野の特殊性を配慮して対策をたてる必要がある。以下に述べるものは、主として保健医療分野における目標と課題である。
(保健医療情報の真正性の担保)
○ 保健医療情報システムにおいて処理・伝達・保管される情報は、生命に関連した情報であるので、その真正性については十分に担保されなければならない。
○ 真正性の保証は、システムのみで行うことは困難であり、システムと運用の組み合わせによって行うべきである。また、医療機関の規模によって、その方法は同一ではなく、各医療機関がもっとも適した方法を採用するべきである。
(情報セキュリティおよび個人情報保護)
○ 患者個人の診療データを保健医療情報ネットワークにおいて共有することは、医療の質の向上に寄与するが、システムの社会的支持を得るためには、万全の情報セキュリティ対策と個人情報保護対策をたてるべきである。
(電子認証システム)
○ ネットワークのアクセスに対する電子認証の問題は、情報化の社会的インフラストラクチャという視点で取り扱うべき課題で、その技術基盤および運用の基準を早期に確立する必要がある。
○ 患者情報にアクセスする資格(医師・歯科医師・薬剤師・看護婦等)を認証するシステムについては、技術面・制度面から検討を進め、平成15年度(2003年度)までに結論を得る必要がある。また、被保険者等の資格確認システムについても検討を進める。
○ 医学研究等のために、診療情報が二次利用される場合などにおいては、その取り扱いについて、国会で継続審議となっている個人情報保護法(案)の動向を踏まえ、関係者によるガイドラインを整備するべきである。
○ 診療情報の二次利用の問題は、情報に関わる権限(診療情報などのデータを入力する/閲覧する/利用することの正当性)という枠組みで十分に検討すべきである。
(医学情報の標準化)
○ 医療機関相互のネットワークで情報を電子的に共有するためには、これまで進めてきた診療情報の用語、コード、様式などの標準化をさらに推進する必要がある。そのため関係者の協力を得て平成15年度(2003年度)完成を目途にその作業を進めるとともに、日常診療に際し必要十分な用語・コードの整備を含め、今後のメンテナンス体制についても検討を進めるべきである。
(制度面での対応の検討)
○ 医療サービスは公共性の高いサービスであり、医療についての諸規制や医療保険制度など関連する法制度も多岐にわたっているが、情報化に際して制度面での検討が必要な場合には早急に検討が行われるべきである。
○ 具体例としては、医療情報のネットワーク化の促進のため、カルテ情報の外部保存を可能にすることが求められており、その制度的な問題などについて早急に検討を進めるべきである。
(情報格差の是正)
○ 医療の提供者および受益者の双方において、情報化が一部の人のみに有利なものとならないように、情報機器のユニバーサルデザイン開発など情報弱者に対して常に配慮するべきである。
(人材の育成)
◯ 医療従事者の養成機関におけるIT教育、職域におけるIT研修などが必要である。さらに保健医療分野に特有な情報システムの運用のためのIT技術者の養成についても必要な方策を検討する。
(経済的基盤の整備)
○ 情報化が医療業務全体のコストダウンに寄与することが期待されるが、実際に検証された例は極めて少ないので引き続きデータを集めるべきである。
○ 医療機関の情報化による効率化やコストダウンは、組織の変更や業務の流れの変更などを行ってはじめて現れるものであり、経営責任者のマネージメント能力が重要である。
○ ITを用いた効率化は行政システム(いわゆる電子政府)や公的な社会システムと一体になって実現するものであり、国民が公的データベースを自由に使用できる仕組みなどを含め、医療関連システムの全体的なIT戦略を継続的に見直していくことが必要である。
○ 情報化した場合の運営費は業務の効率化がもたらすコストダウンによってまかなうことができる場合もあるが、導入の際の初期投資の負担が医療施設の情報化の障害となっているため、融資や補助金などによって初期投資が容易になる方策を講ずるべきである。
○ ベンダーサイドにおいては導入の際の障害について検討し、ユーザーサイドにとって導入のインセンテイブとなるよう、使用しやすさの改善やコストダウンを図る必要がある。
○ 情報化が医療の質の向上や効率化に寄与することを明らかにしつつ、誰がその恩恵を受けるかという視点から論点を整理して、医療機関、医療保険者、患者、公的資金などで費用を分担する方法を引き続き検討すべきである。

5.今後の推進方策と関係者の役割 <どのように進めるか>

○ 今後の推進方策については、このグランドデザインの主旨に則り、目標と課題に示された個別事項ごとに、官民の役割分担を明確にした年次ごとの実施計画表を作成し、引き続き保健医療情報システム検討会においてその実施状況についてフォローアップを行う。
○ その際、e-Japan重点計画の考え方にも示されている通り、民間主導という考え方のもと、政府は民間活力発揮のための環境整備を行うことを基本とし、民間の関係団体(学会・医師会等の医療関係団体・産業界)はそれぞれの役割において主体的に情報化の推進を図るものとする。
○ また、情報開示推進と個人情報保護の視点に立ってプライバシー保護に関するガイドラインや指針等を策定することを通じ、医療情報の利用法や流通の際のセキュリティに関する社会的コンセンサスの形成に努めるものとする。


保健医療情報システム検討会メンバー

〔◎:座長〕
氏 名 所属・職名
石川 准 静岡県立大学教授
井上通敏 日本医療情報学会長
大山永昭 東京工業大学教授
開原成允 (財)医療情報システム開発センター理事長
西島英利 日本医師会常任理事
樋口範雄 東京大学法学部教授
藤本利雄 保健医療福祉情報システム工業会代表
細羽 実 (社)日本画像医療システム工業会代表
[五十音順]


照会先:医政局研究開発振興課
    医療技術情報推進室
  (担当、内線) 武末・植田、 (2589)
    (代表)03-5253-1111
    (直通)03-3595-2430


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