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平成13年5月30日

小児のライ症候群等に関するジクロフェナクナトリウム
の使用上の注意の改訂について

1.これまでの経緯

(1) 解熱鎮痛剤とライ症候群との因果関係

 米国においてサリチル酸系医薬品、特にアスピリンの使用とライ症候群との関連性を疑わせる疫学調査結果が報告された昭和57年以降、厚生省では、国内において「Reye症候群に関する調査研究」(昭和57年度〜平成元年度)及び「重篤な後遺症をもたらす原因不明の急性脳症と薬剤との関係に関する調査研究」(平成2年度〜平成8年度)を行ってきたが、解熱鎮痛剤とライ症候群との明確な因果関係は確認されていない。

(注1)小児のライ症候群を含む急性脳症は、その前駆症状としてかぜ様症状を伴うことが多く、発症直前に解熱鎮痛剤が投与されていることが少なくない。

(注2)ライ症候群:
 急性脳症(嘔吐、意識障害、痙攣、高熱等の症状)で、肝臓ほか諸臓器の脂肪変性、CT上脳浮腫が見られる等により特徴づけられるものをいう。水痘、インフルエンザ等のウイルス性疾患の先行後、主に小児において発症する。

(2) サリチル酸系医薬品への対応

(1) 昭和57年には、米国における疫学調査結果を踏まえ、厚生省において、「医薬品情報」や「医薬品副作用情報」へ当該記事を掲載して医療関係者への情報提供と注意喚起を図った。
(2) 昭和60年には、米国において新たな疫学調査結果が公表されたことを踏まえ、因果関係は不明なものの、15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に対して投与する場合には慎重に投与し、投与後は患者の状態を十分に観察する旨の使用上の注意の改訂等の措置を行った。
(3) 平成10年には、(1)の一連の調査研究が終了したこと等を踏まえ、アスピリン等のサリチル酸系医薬品について、15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に対する投与を原則禁忌とする措置を行った。

(3) ジクロフェナクナトリウムについての対応

 平成11年には、ジクロフェナクナトリウムを投与された患者において、因果関係が否定できない意識障害、痙攣等の脳症症状の報告を検討し、使用上の注意の「重大な副作用」の項に「急性脳症」を記載する措置をとった。

2.検討結果

 平成12年以降新たに解熱鎮痛剤を投与された患者において、意識障害、痙攣等の脳症症状の症例報告が集積したことから、サリチル酸系医薬品、ジクロフェナクナトリウムを含め解熱鎮痛剤全般について、改めて平成6年以降に報告されたものも含め、薬剤使用の影響が疑われる急性脳症28例(別紙1)を検討した結果、次のような結論を得た。

(1) サリチル酸系医薬品(アスピリン及びサリチルアミド)について

 ライ症候群と確定されていないものを含め28例中16例と報告例が最も多いが、使用制限の措置を行って以降に投与されていた小児の症例が、配合剤で2例あった(単味剤ではジクロフェナクナトリウムとの併用例1例)。
 このため、特にサリチル酸系医薬品の配合剤について、平成10年の措置の趣旨を改めて注意喚起を行うことが適当と判断された。

(2) ジクロフェナクナトリウムについて

 次の理由から、ライ症候群に関する安全対策として、サリチル酸系医薬品と同様に、小児のウイルス性疾患(水痘、インフルエンザ等)の患者への投与を原則禁忌とすることが適当と判断された。

(1) 28例中10例において投与されており、特にライ症候群と確定された症例では、アスピリン等サリチル酸系医薬品と近似した発生傾向が見られること
(2) 小児における緊急を要する解熱目的には、ジクロフェナクナトリウム以外の他の解熱鎮痛剤の投与や代替処置で十分対応が可能であること

(3) その他の解熱鎮痛剤について

(1) アセトアミノフェンについては、28例中11例において投与されているが、その使用方法は次のような状況であり、アセトアミノフェンの影響を現時点で評価することは困難であり、今後の状況をさらに注視することが必要である。

ア.サリチル酸系医薬品との配合剤として投与されたもの:8例
イ.ジクロフェナクナトリウムとの併用:1例
ウ.その他の解熱鎮痛剤との併用:2例

(2) メフェナム酸及びイブプロフェンについては、次のような状況から現時点でその影響を評価することは困難であり、今後の状況をさらに注視することが必要である。

ア.集積例数が相対的に少ないこと(メフェナム酸5例、イブプロフェン3例)
イ.ライ症候群と確定された症例は、アスピリン又はジクロフェナクナトリウムとの併用例であること

3.今回の対応

(1) 厚生労働省では、本日、ジクロフェナクナトリウム製剤(別紙2)を製造する各製薬企業に対し、次の使用上の注意の改訂(詳細:別紙3)を指示し、医療関係者への情報提供を指示した。

[改訂の要旨]
(1) 解熱の目的で使用されるジクロフェナクナトリウム製剤については、「重要な基本的注意」の項に、小児のウイルス性疾患の患者への投与を原則禁忌とする記載を新たに追加する(注腸軟膏剤を除く)とともに、引き続き「重大な副作用」として急性脳症への注意喚起を図る。
(2) 鎮痛の目的のみで使用されるジクロフェナクナトリウム製剤については、基本的に小児に対して投与されないものであるが、「小児等への投与」の項にライ症候群に関する記載を新たに追加するとともに、引き続き「重大な副作用」として急性脳症への注意喚起を図る。

(2) また、厚生労働省では、日本医師会、日本薬剤師会等、関係団体へ、ジクロフェナクナトリウム製剤に関する新たな措置について、会員等に周知徹底を図るよう要請を行った。

(3) なお、サリチル酸系医薬品、特に配合剤について、15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に対する投与を原則禁忌としている平成10年の措置に関して、「医薬品・医療用具等安全性情報」により医療関係者へ改めて注意を呼びかける予定である。


(照会先)
医薬局安全対策課
伏見、工藤
TEL(03)5253-1111
内線2755、2753


(別紙1)

解熱鎮痛剤の影響が疑われる急性脳症の症例
【1994(平成6)年以降:合計28例】

1 サリチル酸系医薬品投与例(他の解熱鎮痛剤の併用を含む)【16例】

  報告年 性別/年齢 使用薬剤(使用目的) 転帰 備考
1 1994 女/22 サリチルアミド+アセトアミノフェン(解熱) 回復  
2 1995 男/15 アスピリン(解熱・鎮痛) 死亡  
3 1996 男/45 アスピリン(解熱)、ジクロフェナクナトリウム(解熱) 回復  
4 1997 男/17 アスピリン(解熱) 後遺症  
5 1997 男/35 アスピリン(鎮痛)、ザルトプロフェン(鎮痛)、サリチルアミ
ド+アセトアミノフェン(解熱・鎮痛)
後遺症  
6 1997 女/30 ジクロフェナクナトリウム(解熱)、アスピリン(解熱) 死亡  
7 1997 男/ 3 アスピリン(鎮痛) 死亡  
8 1998 男/ 2 アスピリン(解熱)、メフェナム酸(解熱) 回復
9 1998 女/11 サリチルアミド+アセトアミノフェン(解熱・鎮痛) 回復
10 1999 女/ 1 サリチルアミド+アセトアミノフェン(解熱) 後遺症  
11 1999 女/ 2 サリチルアミド+アセトアミノフェン(不明) 死亡 82/2投与
12 1999 男/11 アスピリン(不明) 死亡 82/1投与
13 2000 女/ 7 アスピリン(解熱・鎮痛)、ジクロフェナクナトリウム(解熱) 後遺症
14 2001 男/15 ジクロフェナクナトリウム(解熱)、サリチルアミド+アセトア
ミノフェン(解熱)
死亡
98/1投
15 2001 男/34 サリチルアミド+アセトアミノフェン(解熱・鎮痛) 後遺症  
16 2001 女/ 8 サリチルアミド+アセトアミノフェン(解熱)、アセトアミノフ
ェン(鎮痛)
回復  

*:肝病理において脂肪変性等の所見があり、ライ症候群と確定されたもの
   15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に対する使用を原則禁忌とする措置の実施(98/12)

2 ジクロフェナクナトリウム投与例(他の解熱鎮痛剤の併用を含む)【10例】

  報告年 性別/年齢 使用薬剤(使用目的) 転帰 備考
3 1996 男/45 アスピリン(解熱)、ジクロフェナクナトリウム(解熱) 回復 再掲
6 1997 女/30 ジクロフェナクナトリウム(解熱)、アスピリン(解熱) 死亡 再掲
17 1997 女/21 ジクロフェナクナトリウム(鎮痛) 回復  
18 1997 女/77 ジクロフェナクナトリウム(鎮痛) 死亡 *1
19 1998 女/33 ジクロフェナクナトリウム(解熱)、アセトアミノフェン(解熱) 死亡 *1
20 1999 女/15 ジクロフェナクナトリウム(解熱) 死亡  
13 2000 女/ 7 アスピリン(解熱・鎮痛)、ジクロフェナクナトリウム(解熱) 後遺症 再掲 *2
14 2001 男/15 ジクロフェナクナトリウム(解熱)、サリチルアミド+アセトア
ミノフェン(解熱)
死亡 再掲 *
98/1投
21 2001 女/ 3 ジクロフェナクナトリウム(解熱)、メフェナム酸(解熱) 死亡 *2
22 2001 男/ 1 ジクロフェナクナトリウム(解熱) 後遺症 *2

*1:肝病理において脂肪変性等の所見があったが、典型的なライ症候群とは評価されなかった
*2:肝病理において脂肪変性等の所見があり、ライ症候群と確定されたもの
   「重大な副作用」の項に、「急性脳症」を記載(99/11)

3 その他の解熱鎮痛剤投与例【6例】

  報告年 性別/年齢 使用薬剤(使用目的) 転帰 備 考
23 1997 女/ 3 イブプロフェン(解熱・鎮痛)、アセトアミノフェン(解熱・鎮
痛)、スルピリン(解熱)
死亡  
24 1999 男/ 7 イブプロフェン(解熱・鎮痛) 回復  
25 2000 女/ 1 アセトアミノフェン(解熱)、メフェナム酸(解熱) 死亡  
26 2001 男/ 3 メフェナム酸(解熱) 死亡  
27 2001 女/ 3 メフェナム酸(解熱) 死亡  
28 2001 男/13 イブプロフェン(鎮痛) 回復  


(別紙2)

1.解熱の目的で使用されるジクロフェナクナトリウム製剤

  商品名 製造企業
内服剤(25mg) ボルタレン錠 日本チバガイギー
アデフロニック錠 大洋薬品
イリナトロン錠 辰巳化学
サフラック錠 日本新薬
サンナックス錠 三恵薬品
ジクロフェナクナトリウム錠「ホクエイ」 大原
シーコレン錠 日医工
ソファリン錠 日本ケミファ
ソレルモン錠 東和薬品
ダイスパス錠 ダイト
チカタレン錠 イセイ
ドセル錠 日本化薬
ネリオジン錠 ナガセ
フェナドシン錠 竹島製薬
ブレシン錠 沢井製薬
ボナフェック錠 日新山形
ボラボミン錠 鶴原
ボルマゲン錠 大正薬品
ヨウフェナック錠 陽進堂
プロフェナチン「カプセル」 菱山
坐剤(12.5mg,
25mg,50mg)
ボルタレンサポ 日本チバガイギー
アデフロニックズポ 大洋薬品
アナバン坐剤 富士化学
ジクロフェノン坐剤 オリエンタル
ドンジャストA坐剤 堀田
ネリオジン坐剤 帝国化学産業
ピナナック坐剤 東光薬品工業
フェナシドン坐剤 竹島
フェニタレン坐剤 長生堂製薬
ベギータ坐剤 シオノケミカル
ボナフェック坐剤 日新山形
ボラボミン坐剤 鶴原
ボルマゲン坐剤 大正薬品工業
ボンフェナック坐剤 京都薬品工業
メクロフェン坐剤 日本ガレン
メリカット坐剤 太田製薬
アスピゾンズポ 共和薬品工業
ジフェナック坐剤 小林化工
ジクロニックズポ 大興製薬


 次の製剤については、剤形上の理由から、従来から小児禁忌となっている。

注腸軟膏剤
(25mg,50mg
レクトス 太田

2.鎮痛のみを目的に使用されるジクロフェナクナトリウム製剤(徐放性内服剤)

  商品名 製造企業
(37.5mg) ボルタレンSRカプセル 同仁医薬化工
ナボールSRカプセル エスエス
アデフロニックLカプセル 大洋
サビスミンTPカプセル 全星
ソレルモンSRカプセル 東和薬品
ダイスパスSRカプセル ダイト
ジクロニックLカプセル シオノ
ストロングコールカプセルSR 大原
ドンジャストA−SRカプセル 堀田
ブセトンカプセル 前田
ジクロフェナクナトリウムSR錠MEEK 小林化工


(別紙3)

ジクロフェナクナトリウム製剤に係る使用上の注意の改訂

[解熱の目的で使用されるジクロフェナクナトリウム製剤]

ア.「重要な基本的注意」の項 *注腸軟膏剤を除く

『ジクロフェナクナトリウム製剤を投与後にライ症候群を発症したとの報告があり、また、同効類薬(サリチル酸系医薬品)とライ症候群との関連性を示す海外の疫学調査報告があるので、本剤を小児のウイルス性疾患の患者に投与しないことを原則とするが、投与する場合には慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察すること。

[ライ症候群:水痘、インフルエンザ等のウイルス性疾患の先行後、激しい嘔吐、意識障害、痙攣(急性脳浮腫)と肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着、ミトコンドリア変形、AST(GOT), ALT(GPT), LDH, CK(CPK)の急激な上昇、高アンモニア血症、低プロトロンビン血症、低血糖等の症状が短期間に発現する高死亡率の病態である。]』

イ.「重大な副作用」の項「急性脳症」

『急性脳症(特に、かぜ様症状に引き続き、激しい嘔吐、意識障害、痙攣等の異常が認められた場合には、ライ症候群の可能性を考慮すること)』

ウ.「小児等への投与」の項 *注腸軟膏剤を除く

『ウイルス性疾患(水痘、インフルエンザ等)の患者に投与しないことを原則とするが、投与する場合には慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察すること。(重要な基本的注意の項参照)』

[鎮痛のみを目的に使用されるジクロフェナクナトリウム製剤(徐放性内服剤)]

ア.「重大な副作用」の項「急性脳症」

『急性脳症(特に、かぜ様症状に引き続き、激しい嘔吐、意識障害、痙攣等の異常が認められた場合には、ライ症候群の可能性を考慮すること)』

イ.「小児等への投与」の項

『ジクロフェナクナトリウムを解熱目的で投与後にライ症候群を発症したとの報告があり、また、同効類薬(サリチル酸系医薬品)とライ症候群との関連性を示す海外の疫学調査報告がある。

[ライ症候群:水痘、インフルエンザ等のウイルス性疾患の先行後、激しい嘔吐、意識障害、痙攣(急性脳浮腫)と肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着、ミトコンドリア変形、AST(GOT), ALT(GPT), LDH, CK(CPK)の急激な上昇、高アンモニア血症、低プロトロンビン血症、低血糖等の症状が短期間に発現する高死亡率の病態である。]


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