労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第55号
東京電力ホールディングス不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年5月10日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員A(会社が申立外の元請会社らに発注した福島第一原発等の事故収束作業等に申立外二次下請会社(C会社)の従業員として従事し、退職後に急性白血病を発症)に関し、業務上疾病であると認めることなどを求めて団体交渉を申し入れたのに対し、会社が応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、組合員Aとの関係で、労組法上の使用者に該当するか否か(争点1)

(1)原賠法に基づく責任との関わりについて

 組合は、原子力損害については、原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」)により、雇用主らの損害賠償責任が免責され、原子力事業者である会社が損害賠償責任を有することから、会社は使用者に当たると主張する。
 しかし、原賠法第3条及び第4条は、原子力事業者の原賠法上の損害賠償の責任集中を定めたものであり、同法の上記規定によって、直ちに、原子力事業者である会社が、原子力損害を受けた、同社と雇用関係にない作業員の使用者に当たると解することは困難である。

(2)安全管理について

ア 組合は、原子力発電所における安全管理について、法律上、電力会社に義務付けられており、雇用主であるC会社や元請事業者と併せて会社にも使用者責任があると主張する。
 しかし、会社が発注する工事等に係る共通仕様書や各元請事業者との契約書等の記載からすると、会社の担う安全管理とは、発注者としてのものであり、同社が、作業員に対して雇用主と同視できる程度の安全管理を行う立場にあったものとは認められない。また、Aが作業に従事した各工事等における状況をみても、会社がAら個々の作業員の労働条件を具体的に決定したという事情をうかがうことはできない。

イ 組合は、被ばく労働管理を含む安全衛生対策について、雇用主だけでは把握できない累積的な被ばく線量を一元管理する会社は、雇用主及び元請事業者とともに、使用者としての責任を担っていると主張する。
 しかし、工事等に係る放射線管理仕様書では、受注者が、線量管理計画を作成し、この計画に基づいて作業員の線量管理を行うこととされており、Aが作業従事した書く工事等における状況をみても、会社が、直接、作業員の線量管理を行っているような実態はうかがえない。
 そうすると、会社が、工事等での被ばく線量等の情報の一元管理をしているとしても、その情報に基づいて実際に現場で作業員の線量を測定し、個々の作業員の具体的な線量管理を行うのは、受注者である各元請事業者やその下請事業者であるとみるのが相当であり、会社が、同社と雇用関係にない、Aら個々の作業員の放射線安全の確保や線量管理を、直接行ったり、作業の安全対策等の労働条件を具体的に決定したりする立場にあったということはできない。

ウ 組合は、厚生労働大臣が会社に対して労働災害防止対策の徹底を求めた書面を根拠に、会社は、被ばく労働管理を始めとする労働災害防止対策について、現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったと主張する。
 しかし、上記書面では、会社に対し、「作業の発注者として、事業場における作業間の連絡調整を徹底するとともに、元請事業者が実施する労働災害防止対策に対して、必要な指導援助を実施すること。」も求めているのであり、第一義的には元請業者が労働災害防止対策を実施することを前提にしているといえる。そうすると、この書面をもって、会社が、同社と雇用関係にない、Aら個々の作業員の労働災害防止対策について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとまではいい難い。

(3)本件団体交渉申入れにおける要求事項について
 組合は、会社に対する要求の趣旨として、Aの被ばく労働に伴う危険手当の金額や算定根拠の説明を求めること、Aの急性骨髄性白血病発症を業務上の疾病と認めて補償することをあげ、いずれも会社でなければ対処できない義務的団体交渉事項であるとも主張する。
 そこで、組合要求事項①ないし④について、会社が使用者に当たるといえるか否かについて、以下、検討する。

① 危険手当(設計上の労務費割増)
 工事等の契約金額の算出に当たり、福島第一原発の事故収束作業に従事する作業員に係る分の割増を行っていたもので、平成26年アンケート〔注 会社が、会社の従業員以外で福島第一原発の作業に従事する作業員を対象として行った労働環境改善に向けたアンケート〕の結果発表資料には、「当社が割増した金額は作業員の皆さまのお手元に届くように元請企業と一体となって取り組んでまいります。」との記載がある。
 しかし、これは、会社の方針や姿勢を示したものと考えられ、同社と雇用関係にないAら個々の作業員の賃金としての危険手当の額を、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとまではいえない。

② A組合員の急性骨髄性白血病について、貴社が業務上疾病と認めること
 前記判断のとおり、会社が、同社と雇用関係にないAら個々の作業員の労働災害防止対策について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとまではいい難い。そうすると、会社が、無過失責任である原賠法上の損害賠償責任を負うとしても、同社が、Aの発症について、業務に起因するものか否かを判断して、団体交渉で組合に回答する義務を負うということはできない。

③ 貴会社従業員が福島第一原発および第二原発で就労するにあたって、基本給に加算して支払われる特別な手当の金額及び根拠を組合に明らかにすること

④ 貴会社従業員の労災職業病被災者に対する企業内上積補償制度の内容を、組合に明らかにすること
 これらについては、組合要求事項①及び②に付随して、会社と雇用関係にある従業員の処遇に関する情報を求めたものと考えられるところ、①及び②のいずれについても同社の使用者性が認められない以上、③及び④について、会社のAら個々の組合員に対する使用者性は問題にならないといわざるを得ない。

(4)以上のとおり、会社が、組合の組合員であるAとの関係で、労組法上の使用者に該当するということはできない。

2 本件団体交渉の申入れに会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか否か(争点2)

 本件において、会社がAとの関係で労組法上の使用者に当たらないことは上記1の判断のとおりであるから、争点2については判断するまでもなく、本件団体交渉申入れに会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否には該当しない。 
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