労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広島県労委令和3年(不)第4号
日本郵便不当労働行為審査事件 
申立人  A組合X支部(本件組合支部) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和4年8月26日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、本件組合支部が、会社に対し,会社C郵便局内に組合事務室を貸与するよう求めたところ、会社がこれを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 広島県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合事務室不貸与と支配介入

 労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであり、使用者は、労働組合に対し、当然に企業施設の一部を組合事務所等として貸与すべき義務を負うものではなく、貸与するかどうかは原則として使用者の自由に任されている。
 しかし、同一企業内に複数の労働組合が併存している場合には、使用者としては、全ての場面で各労働組合に対し中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきであり、各労働組合の性格、傾向や従来の運動路線等のいかんによって、一方の労働組合をより好ましいものとしてその組織の強化を助けたり、他方の労働組合の弱体化を図るような行為をしたりすることは許されない。使用者がこのような意図に基づいて両労働組合を差別し、一方の労働組合に対して不利益な取扱いをすることは、同労働組合に対する支配介入となるというべきである。
 そして、組合事務所等が労働組合にとってその活動上重要な意味を持つことからすると、使用者が、一方の労働組合に組合事務所等を貸与しておきながら、他方の労働組合に対して一切貸与を拒否することは、そのように両労働組合に対する取扱いを異にする合理的な理由が存在しない限り、他方の労働組合の活動力を低下させその弱体化を図ろうとする意図を推認させるものとして、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当すると解するのが相当である(最高裁第二小法廷判決昭和62年5月8日(日産自動車事件))。

2 本件における支配介入該当性

(1)C郵便局には複数の労働組合が存在していることが認められるが、組合事務室が貸与されている労働組合はなく、他に本件組合支部が他の労働組合と異なる取扱いを受けていると認めるに足る疎明はない。

(2)また、本件組合支部は、組合事務室を貸与するか否かは原則として使用者の自由であるとしても、会社が組合事務室を貸与しなければ支配介入となる理由として次のとおり主張するので、以下検討する。

ア (申立外)E組合とA組合に対する組合事務室の貸与状況の差異について

(ア)本件組合支部は、(仮に、E組合が組合事務室貸与の要求をしていたとしても、それは「分会の組合事務室貸与」要求であり)「支部」と支部の補助組織で執行権のない「分会」とは異なるため、会社は組合事務室貸与の要求について両者を同列に扱うことはできないと主張する。
 しかし、本件組合支部主張のとおり「支部」と「分会」が異なるとしても、そのことにより、会社がC郵便局において「支部」である本件組合支部に組合事務室を貸与しないことが直ちに支配介入となるものではない。

(イ)また、本件組合支部は、E組合の「支部」に対しては郵便・物流拠点局を含む多数の郵便局において組合事務室が貸与されているにもかかわらず、A組合の「支部」である本件組合支部に貸与されないのは不合理な差別であると主張する。
 しかし、E組合だけでなくA組合に対しても組合事務室が貸与されている支部があることが認められ、また、両組合への組合事務室の貸与状況について不合理な差別を認めるに足る疎明はない。また、C郵便局が郵便・物流拠点局であるからといって、そのことが直ちに組合事務室を貸与すべき理由とはならない。
 仮にそれぞれの支部において組合事務室の貸与状況に差があるとしても、それは、それぞれの支部が会社と交渉した結果であり、また、それぞれの郵便局で局舎状況や存在する労働組合数・組合員数も異なることからすると、他の郵便局での貸与状況が直ちにC郵便局において本件組合支部に組合事務室を貸与すべき理由とはならない。
 したがって、他の郵便局での貸与状況により、C郵便局において本件組合支部に組合事務室を貸与しないことが直ちに支配介入となるものではない。

(ウ)そして、本件組合支部は、E組合に対してはH郵便局に組合事務室が貸与されているにもかかわらず、本件組合支部に対してはC郵便局に組合事務室が貸与されないのは支配介入となるとも主張する。
 確かに、E組合S支部はC郵便局に存在する分会を統括する支部であり、同支部に対してはH郵便局の一角に組合事務室が貸与されているが、A組合及びE組合と会社との間では、支部であれば結成した労働組合には組合事務室を貸与するとの取決めや運用はないことからすると、同郵便局における組合事務室の貸与はC郵便局が設置される以前の貸与をめぐる労使の交渉の結果であると推認される。そして、本件組合支部が結成されたのはE組合D支部の組合員の約4割がC郵便局に異動になったことが契機となっていること並びにC郵便局においては労働組合への組合事務室の貸与はされていないことをも勘案すると、E組合S支部に対してH郵便局に組合事務室が貸与される一方で、本件組合支部にはC郵便局に組合事務室が貸与されないことが支配介入となるものではない。

イ 会社による組合事務室貸与の検討について

 本件組合支部は、会社が組合事務室の貸与を検討した形跡や努力は見当たらない、会社は工夫して貸与を検討すべきであると主張するが、そもそも組合事務室の貸与は労使間の合意を必要とするのが原則であり、たとえスペースのゆとりがあったとしても、他の労働組合に貸与しながら本件組合支部には貸与しないなどの事情があれば各別、そうでなければ会社の貸与拒否が支配介入になるものではない。

ウ 組合事務室不貸与により本件組合支部が被る不利益について

 本件組合支部は、組合事務室が貸与されない結果、財政的な負担を含めた組合活動全般に支障がある旨主張するが、本件組合支部に不利益が生じていることのみをもって使用者の支配介入が認められるものではない。

エ 以上のとおり、本件組合支部の各主張はいずれも理由がない。

3 よって、会社が本件組合支部に対して組合事務室を貸与しなかったことは、労働組合法第7条第3号の支配介入には該当しない。 

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