労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成28年(不)第30号
新井鉄工所不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  会社Y(「会社」) 
命令年月日  平成30年12月4日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社の製造事業からの撤退、組合員の雇用維持、平成28年度(以下「平成」の元号を省略する。)の賃上げ及び組合による金銭解決案の提示に係る27年12月11日から28年10月24日までの団体交渉における会社の対応、会社が、②組合の交渉参加人数を絞るよう申し入れたこと、③組合に対し、支部組合員及び上部団体構成員以外の部外者が承諾なく会社敷地内に立ち入ることを控えるよう申し入れたこと、④組合事務所の使用時間を制限したこと、事前に利用日、使用時間、入構者名等を届けない限り組合事務所の使用を認めないこととしたこと及び組合事務所の使用に当たり、車等での会社への入構を禁じたこと、⑤組合から申入れのあった就業時間内の面会を認めなかったこと、⑥組合に対し、娯楽室内に設置されていた組合掲示板を移設するよう求めたこと、⑦組合員に対して、個別面談を行い、退職勧奨したこと、⑧支部組合員8名を解雇したことが不当労働行為であるかが争われた事件である。
 東京都労働委員会は、会社に対し、⑦について文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人X1組合、同X2組合及び同X3組合に交付しなければならない。


年  月  日
 X1組合
 中央執行委員長 A1殿
 X2組合
 執行委員長 A2殿
 X3組合
 執行委員長 A3殿
会社         
代表取締役 B1
 当社が、貴組合らの組合員に対して、個別面談を行い、退職勧奨したことは、東京都労働委員会において、不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)

2 被申立人会社は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。

3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社の製造事業からの撤退、組合員の雇用維持、平成28年度の賃上げ及び組合による金銭解決案の提示に係る27年12月l1日から28年10月24日までの団体交渉における会社の対応が不誠実といえるものであったか否か(争点1)
ア 製造事業からの撤退に係る団体交渉について
  会社は、事業継続について消極的な態度に終始していたとはいえ、本件事業撤退の必要性と不可避性について、会社なりに説明を行っており、会社が組合の合意を得るための努力を行わなかったとみることはできない。
 既に支部組合員8名及び退職していない1名を除く他の従業員が、会社が講じた優遇措置の条件を受け入れ希望退職に応じていたところであり、団体交渉を重ねても合意退職に応じようとしなかった組合がようやく出した条件も、希望退職の条件とあまりにかけ離れたものであったことから、(会社が)組合との話合いによる解決はもはや困難であると判断したのはやむを得なかったものといわざるを得ない。
 したがって、本件事業撤退に係る団体交渉における会社の対応が不誠実なものであったとはいえない。
イ 賃上げに係る団体交渉について
 会社は、28年3月8日の従業員向けの説明会において、4月からの新年度の賃上げに係る質問に対し、「金額は別にして、改定はされます。」と述べているが、3月31日の本件事業撤退を前にした時期の発言であったことも踏まえると、会社のこの回答は、必ずしも有額回答を約束したものとはいえず、また、組合の賃上げ要求に対し、ゼロ回答を行ったことも不合理なものとはいえない。
 したがって、賃上げ要求に対する会社の対応が不誠実なものであったとはいえない。

2 会社が、組合の団体交渉参加人数について行った申入れが、支配介入に当たるか否か(争点2)
 会社が、組合の過激な言動、参加人数の差等を理由に、組合に対し、複数回、団体交渉の参加人数を絞るよう求めたことが認められる。
 しかし、組合の参加人数は従前と変わらず団体交渉が継続して行われており、会社が組合の参加人数を絞ることを団体交渉開催の条件として固執したとか、この問題のために団体交渉が暗礁に乗り上げたというような事情は認められず、会社は飽くまでも要請をしたにとどまっているといえる。
 したがって、会社の申入れは、支配介入に当たるとはいえない。

3 会社が、組合に対し、28年1月28日付けで、支部組合員及び上部団体構成員以外の部外者が承諾なく会社敷地内に立ち入ることを控えるよう申し入れたことが、支配介入に当たるか否か(争点3)
 18年10月3日付「組合事務所等の貸与に関する協定」には、組合の集会等のために、会社が会社会議室の使用を認めることがある旨の定めはあるが、これまでに組合の集会等のために支部組合員及び上部団体構成員以外の者が会社敷地内に立ち入っていたという事実を認めるに足りる疎明はなく、また、かかる立入りを認める労使協定等の締結の事実も認められないこと等からすると、会社が、28年1月28日付けで、支部組合員及び上部団体構成員以外の部外者が承諾なく会社敷地内に立ち入ることを控えるよう申し入れたことには、相当な理由があるというべきであって、この申入れが支配介入に当たるとはいえない

4 会社が、組合事務所の使用時間を制限したこと、事前に利用日、使用時間、入構者名、人数を届けない限り組合事務所の使用を認めないこととしたこと、組合事務所の使用に当たり、車、自転車又はオートバイでの会社への入構を禁じたことが、それぞれ支配介入に当たるか否か(争点4)
 会社が、組合事務所の使用時間に制限を加えたこと及び事前届出としたことについては、本件事業撤退に伴う守衛の配置や機械警備の導入等の事情が認められ、これらの措置が不合理なものとはいえない。その一方で、会社は、結局のところ組合の要求等を受け入れ、守衛の本則の配置時間以外の時間帯も含めた組合事務所の使用を認める等の柔軟な対応を執っており、会社の行為が支配介入に当たるとはいえない。
 会社が、通勤の便宜のために限って認めていた車、自転車又はオートバイでの会社への入構を、組合事務所の使用に当たって認めなかったことが不合理であるとまではいえず、これを支配介入とはいえない。

5 会社が、28年4月頃、組合から申入れのあった就業時間内の面会を認めなかったことが、支配介入に当たるか否か(争点5)
 会社の対応が、労使間の合意や労使慣行に反するものであったということはできず、会社が、28年7月8日以降、組合が実績と主張する範囲内で面会を許可していることも考慮すると、会社が、就業時間内の面会を認めなかったことが支配介入に当たるとまではいえない。

6 会社が、組合に対し、娯楽室内に設置されていた組合掲示板を移設するよう求めたことが、支配介入に当たるか否か(争点6)
 会社は、支部組合員の解雇後、組合員の立入りを認めていない娯楽室内の組合掲示板を使用しないよう求めたものであり、組合員が娯楽室などの組合事務所以外の場所に立ち入れなくなったのは従業員としての身分を失ったからであるという理由には合理性が認められる。そして、会社は、そのように申し入れたものの、団体交渉での協議も経て、組合の要求を踏まえて、組合掲示板を組合事務所の入口前に移すという代替案を提案していること及びそれに対する組合の対応を踏まえると、会社が、掲示板の移設を組合に対して求めたことをもって支配介入と評価することはできない。

7 会社が、組合員に対して、個別面談を行い、退職勧奨したことが、支配介入に当たるか否か(争点7)
 会社は、組合員に個別面談を行った理由として、希望退職者には退職金規程に定められた退職金に加え、更なる優遇措置を講じていたものの、団体交渉において組合に説明しようとしても、組合がこれに応じなかったので、希望退職の条件も含め、組合員と非組合員の別なく説明及び情報提供を行うべきと考えたと主張しており、この主張に一定の理解ができないではない。しかし、説明や情報提供が目的であったとすれば、説明会の開催に加え、組合や組合員の反対を押し切ってまで個別面談を4回も実施する必要はないはずであるし、4回目の個別面談で、会社が出席者をそれまでの1名から2名に増やす必要もなかったといえる。
 会社が希望退職に応じなかった組合員に対して、4回にわたり個別面談を実施したことは、組合の頭越しに個々の組合員に対して希望退職に応ずるよう直接働き掛けるものであったといわざるを得ず、支配介入に当たる。
8 会社が28年9月30日付けで支部組合員8名を解雇したことが、組合員の組合活動を理由とした不利益取扱いといえるか否か(争点8)
  会社は、団体交渉によってもこれ以上の進展がみられないとの認識に至り、やむなく、支部組合員8名を解雇したものとみることができることから、当該解雇は組合活動を理由とした不利益取扱いに当たらない。 
掲載文献   

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