労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛労委平成28年(不)第3号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成29年11月15日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、団体交渉において、被申立人会社が、申立人組合に対し、①本人同意条項のある36協定の締結に係る要求に対し、資料等を提示せず、十分な説明を行わなかったこと、②組合との合意事項でない内容を記載した協定書を提示することにより当該協定の締結を妨げたこと、③組合の主張する「継続協議事項」に係る要求書の提出を求めたことにより団体交渉の日程を不明な状態にしたこと、④イントラネットへの掲載(平成22年6月21日時点のもの)について昭和62年11月10日締結の確認書に係る会社の解釈を一方的に押し付けたこと等が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点(1)(団交における「本人同意条項のある36協定」の締結に係る会社の対応は、十分な説明を行わないものであって、当該協定の締結に代わる組合からの提案に対して合意形成に向けた根拠及び資料を示して具体的に説明することを拒んだものであったか。)について
 本人同意条項のある36協定の締結について、会社は組合に対して第1回団交以前から本人同意条項のある36協定を締結できない理由を一貫して説明し、この点についての組合と会社との協議は既に行き詰まりに達していたとみられ、第1回団交においても会社としては同じ回答を繰り返すほかなく、第6回団交において協議の打切りを宣言したものであるから、本人同意条項のある36協定の不締結に係る説明が十分でなかったとはいえず、第7回団交において36協定のさらなる協議を求めた組合に対し、具体的な要求を求めた会社の姿勢も、第6回団交での打切りを踏まえたものであって、不誠実とはいえない。
 したがって、会社が、本人同意条項のある36協定の締結に係る組合の要求に対して十分な説明を行わず、根拠及び資料を提示して具体的に説明することを拒んだとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
2 争点(2)(団交における「定年後の初回賞与時の算定期間の在籍日数分の賞与の支払に係る要求」に係る会社の対応は、十分な説明を行わないものだったか。)について
 会社は組合に対し、第1回団交以前から定年後初回賞与の考え方について資料を提示して説明し、同団体交渉においても資料を提示しつつ繰り返し回答をしていることから、給与規程第51条第3項ただし書の規定が一義的でなく、解釈の余地があるとしても、会社の定年後初回賞与の考え方に係る説明が不十分であるとはいえない。
 したがって、会社の定年後初回賞与の考え方に係る説明が不十分であったとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
3 争点(3)(団交における「嘱託再雇用条件の改善に係る要求」に係る会社の対応は、十分な説明を行わないものだったか。)について
 会社は、賃金と昇格制度の一体是正を計画していたところ、会社の経営指標に鑑みて、嘱託再雇用条件の改善が困難であることについて、組合に対し、同団体交渉以前から、説明会などにおいて貸借対照表や損益計算書に記載の情報だけでなく、部門別の人件費などの経営指標の基礎となる数字を開示し、説明を行っていたといえる。
 これに対し、組合は、部門別の合計の経費だけでなく、個別ごとの経費や役員各自の報酬額に関する資料の提出を求めたことが認められるものの、特段の事情が認められない限り、退職者の再雇用に利用することができる費用を算出するに当たっては、必要な経費の総額が明確になれば十分であり、個別部門別の人件費や退任役員を含む個別の役員報酬額までも明らかにする必要は認められず、経営状況を明らかにするために必要と思われる一応の資料を組合に対してすでに開示していた会社が同団体交渉において改めて資料を提示しようとしなかったとしても、直ちに会社の当該対応が不誠実であったとまではいえない。
 したがって、会社の嘱託再雇用条件の改善に係る説明が不十分であったとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
4 争点(4)(団交において、組合との合意事項でない内容を記載した協定書を提示することにより当該協定の締結を妨げたか。)について
 第2回団交において、会社が組合に対して「遅刻・欠勤控除の再配分は従来通り組合別に行う、で良いですね。」と確認したところ、組合は、これに対して「はい。」と応答し、すぐに別の要求事項である定年後の初回賞与に関する議題に話題が移ったことが認められ、会社が作成した同団体交渉に関する議事録に上記やり取りについての記載があるにもかかわらず、組合から提出された意見書には、これに対する異議をとどめた記載がなく、同団体交渉後に、会社が再配分条項のある協定書を組合に提示したことが認められる。
 組合は、会社の提案に対する同意ではなく、会社の発言を回答として認めたに過ぎないと主張するが、当該回答は「遅刻・欠勤控除の再配分は従来通り組合別に行う、で良いですね」との会社の確認を求めた発言に対するものであり、これに対する了承とみるのが自然である。
 したがって、会社が合意事項でない再配分条項が含まれた協定書を提示したことにより当該協定の締結を妨げたとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
5 争点(5)(団交における「嘱託再雇用者に係る一時金の支給」に係る会社の対応は、十分な説明を行わないものだったか。)について
 会社は組合に対し、嘱託再雇用者に対して賞与を支払うことの理由、賞与額を算定した根拠、組合の提案に応じられない理由等を説明し、賞与の支給辞退の可否についても検討の上回答していることから、十分な説明を行わなかったとはいえない。
 したがって、会社の嘱託再雇用者に係る一時金の支給に関する説明が不十分であったとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
6 争点(6)(団交において、組合の主張する「継続協議事項」に係る要求書の提出を求めることにより、団体交渉の日程を不明な状態にしたか。)について
 会社は、行き詰まりに達していた「継続協議事項」に係る団体交渉の申込みについては、これを拒否することができるところ、これに関して新たな問題点が生じたことなどの事情変更により組合から団体交渉が申し込まれた場合には、これに応じなければならない余地があることから、当該事情変更の有無を検討するため、組合に対し要求書を求めることには一定の合理性があるといえる。
 さらに、会社は組合に対し、具体的な要求書の提出の後に団体交渉の開催日を決定する旨を伝えており、団体交渉の日程を定めること自体を拒否したとはいえない。
 したがって、会社が、組合の主張する「継続協議事項」に係る要求書の提出を求めることにより団体交渉の日程を不明な状態にしたとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
7 争点(7)(団交における「イントラネットへの掲載」に係る会社の対応は、会社の解釈を一方的に押し付ける不誠実な対応であったか。)について
 第4回団交及び第5回団交において、22.6協定書のイントラネットへの掲載に係る解釈についての見解が組合と会社で異なり、その対立が続いたといえ、また、第4回団交において会社が当該見解の対立を前提として話合いを提案したことに対し、第5回団交において組合が当該提案を事実上拒否したといえることから、同団交において、会社が当該規定の自らの解釈を一方的に組合に押し付けたとまですることはできない。
 したがって、会社が、組合に対して62.11確認書に係る会社の解釈を一方的に押し付ける不誠実な対応をしたとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
8 争点(8)(団交における「賃金と昇格制度の一体是正」に係る会社の対応は、具体的な説明を行わないものだったか。)について
 会社が組合に対し、第8回団交開催以前から賃金と昇格制度の一体是正に係る説明会において自己の主張を裏付ける資料を提示しつつ是正の必要性を説明したこと及び同団体交渉において同説明会における内容と同旨の説明をしたことからすれば、同団体交渉及び第9回団交において会社が資料を提示しなかったことをもって直ちに会社の当該対応が不誠実であったとまではいえず、また、具体的な説明を行わなかったともいえない。
 会社は、制度の改正の必要性と会社の構想について具体的数値を示しつつ、組合に対する説明を行っているが、組合の見解に十分に耳を傾けたとは言い難い。
 しかし、それは会社と組合の構想が全く異なっていたことに起因し、団体交渉においてはより丁寧な対応が望ましかったとしても、やむを得ない範ちゅうにとどまる。
 したがって、会社が、賃金と昇格制度の一体是正について、数値的根拠や資料等を提示しなかったことが直ちに不誠実な対応であるとはいえず、また、具体的な説明を行わなかったとはいえないことから、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
9 争点(9)(団交における「優先的解決事項」に係る会社の対応は、根拠のない同じ理由を繰り返すのみで協議することを拒んだものだったか。)について
 第9回団交において、会社は、優先的解決事項①について、長期療養職員の復帰並びに契約社員及び派遣社員の増員により一定の対応ができた旨を回答し、組合はこの回答を了承したことが認められ、優先的解決事項①は解決したといえる。
 第9回団交において、会社が優先的解決事項②ないし⑤について全て回答済みとしたことは一定程度理解できる。
 したがって、会社が、「優先的解決事項」について、根拠のない同じ理由を繰り返し、協議することを拒んだとはいえず、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。
10 争点(10)(「第9回団交における組合の主張する継続協議事項」について、会社が要求書を求めたことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。)について
 賃金と昇格制度の一体是正に関することについては、会社は組合に対し、第8回団交開催以前からこれに係る説明会において自己の主張を裏付ける資料を提示しつつ是正の必要性を説明をし、及び同団体交渉において同説明会における内容と同旨の説明をしたといえ、また、優先的解決事項②ないし⑤に関することについては、会社は第8回団交においてこれらの事項について全て回答済みとしたことは一定程度理解できることから、会社としては、これら説明済みないし回答済みの事項に関して組合が協議を求めた場合、その要求が既に説明済みないし回答済みの再度の要求であるのか、又は、新たな内容が含まれているのかを判断した上で、協議の必要性を判断したいと考えることは一定の合理性があることから、会社が要求書を求めたことは無理からぬことといえる。
 したがって、会社が、「第9回団交における組合の主張する継続協議事項」について、要求書を求めたことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。 
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