労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岡委平成27年(不)第2号
正栄工業不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成29年3月23日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①平成27年4月支給の通勤手当から減額変更したこと、②平成27年4月17日、同年5月14日、同年6月5日、同月15日に組合が、班長手当の撤回、通勤手当の不利益変更の撤回、熱中症対策、夏季賞与等について申し入れた団体交渉をあっせんの場で回答するとして拒否したこと、③同年7月30日、同年8月7日に組合が申し入れた団体交渉への応諾要求について、同年8月27日まで引き延ばすとともに、夏季賞与などを団体交渉を経ることなく一方的に実施したことが不当労働行為に当たるとして救済申立てのあった事件で、岡山県労働委員会は、会社に対し、団交応諾及び文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人会社は、申立人組合から労働条件などの義務的団体交渉事項について団体交渉の申入れを受けた場合、あっせんを理由にこれを拒否してはらず、また、当該交渉事項を実施する前に団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人会社は、申立人組合に対し、次の文書を速やかに手交しなければならない。


年 月 日

  組合
   執行委員長 A1殿
会社          
代表取締役 B

 当社が、平成27年4月17日、同年5月14日、同年6月5日及び同年6月15日に貴組合から申し入れられた団体交渉に岡山県労働委員会のあっせんを理由に応じなかったこと、同年7月30日及び同年8月7日に貴組合から申し入れられた団体交渉に不誠実に対応したことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると岡山県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
        (注:年月日は文書を手交した日を記載すること。)

3 申立人のその余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 通勤手当の変更は、労働組合法第7条第3号に規定する支配介入であるといえるか。(争点1)
(1) 通勤手当の不利益変更について
 通勤手当の算定項目である往復通勤距離、1リットル当たりのガソリン価格の変更、ガソリン1リットル当たりの走行距離の変更は、現在の自動車の燃費の向上などを勘案すれば社会的に合理性がないとまではいえず、賃金規定ひいては就業規則に反したものではない。
(2)組合への支配介入について
 本件通勤手当の減額は、杜撰な事務処理による誤った計算によるものであるが、組合との継続合意事項を無視し、組合員を差別的に取り扱って組合の弱体化を図ろうとしたものとは認められず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為があったとまですることはできない。
2 組合の27年4月17日、5月14日、6月5日、6月15日、7月30日、8月7日の団体交渉申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号に規定する団体交渉拒否であるといえるか。(争点2)
 なお、組合は、労働組合法第7条第3号に規定する支配介入にも当たると主張している。
(1) 団体交渉が行われるまでの経緯について
 組合は、27年4月17日、5月14日、6月5日、6月15日、会社に対し団体交渉を申し入れたが、会社は、労働委員会のあっせんを理由にこれらに応じず、27年6月17日に第1回のあっせんが行われた。
 組合は、第1回のあっせん以降も同年6月15日の団体交渉申入れに回答がないため、同年7月30日、8月7日に回答を督促したが、団体交渉が行われたのは同年8月27日であった。
(2) 団体交渉を拒否する正当な理由について
① あっせんと団体交渉とは別個の行為であり、会社が労働委員会のあっせんを理由に団体交渉に応じないことは、基本的に正当な理由があるとは認め難い。
 ただし、双方の感情的対立が激しく会社が団体交渉の当事者同士だけでは話し合いができる状況ではなくなったと判断してもやむを得ないと認められるような場合とか、団体交渉申入れからあっせん期日までの期間が近接しているといった場合には、労働委員会のあっせんの場で交渉に応じる旨の回答も、一概に不誠実な対応とは認められない。
② 会社は、「小規模な会社であり、役員がたびたび職場を離れることは業務に大きな影響があることから、一つに統一して議論を行う方が望ましい」と主張するが、6月15日の団体交渉申入れを除き、労働委員会のあっせん期日までに団体交渉を実施できないほどの余裕のない申入れとは認められず、また、役員がたびたび職場を離れることになり業務に大きな影響があるほどの頻度のものとは認められない。
③ さらに、組合が申し入れた団体交渉の要求事項は、4.17団交申入れでは班長手当の撤回等、27年5月14日及び6月5日の団交申し入れでは4.17団交申入れに加えて通勤手当の不利益変更の撤回等、同年6月15日の申入れでは熱中症対策と夏季賞与等の要求であった。
 一方、同年4月20日に組合が申請した当委員会へのあっせん調整事項は、定期昇給の実施と精皆勤手当の改廃の撤回等であり、組合が申し入れた団体交渉の要求事項とは異なるものである。
④ 以上のことからすると、会社、労働委員会のあっせんを理由に団体交渉に応じなかったことに正当な理由があったとは認めがたい。
(3) 27年8月27日の団体交渉について
① 夏季一時金及び熱中症対策について
ア 会社は、夏季一時金については、要求が支給の直前期であり支給額の決定までに団体交渉の都合がつかなかったとするが、夏季一時金の支給は7月であり、組合の要求に譲歩できずとも組合と団体交渉を行い合意を目指して交渉することは可能であった。
イ また、熱中症対策については、会社は、27年に工場入口に庇を設けるなどの対策を講じていることが認められるが、仮に会社の対策が十分なものであったとしても、溶接などを行う組合員を代弁する組合の要求を聞くこともなく一方的に実施したものであり、最も熱中症が発症する時期に団体交渉に応じない理由とはならない。
ウ したがって、27年8月27日に行われた団体交渉は、夏季一時金及び熱中症対策については、時機に遅れたものである。
② 通勤手当
 会社は、27年8月27日に行われた団体交渉において、1リットル当たり8キロメートル走行するものとして通勤手当を計算している旨説明したものであるが、事実は、1リットル当たり10キロメートル走行するものとして計算しており、その原因はデータの誤使用であった。
 したがって、27年8月27日に行われた団体交渉は、通勤手当の開示を求めてきた組合に対しその事実関係を十分確認した上で正しい説明を行ったものとは評価できず、8月27日に団体交渉をしたことのみをもって組合からの団体交渉申入れに会社が誠実に対応したものとは認められない。
(4) 組合への支配介入について
   会社は、「小規模な会社であり、役員がたびたび職場を離れることは業務に大きな影響があることから、一つに統一して議論を行う方が望ましい」と主張し27年8月27日まで団体交渉に応じなかったものであるが、27年6月17日の第1回あっせんでは、組合の団体交渉申入れに係る要求事項について協議されることはなかったのであるから、それ以降、あっせんの場での話し合いを期待することには理由がなく、団体交渉を引き延ばしたものと認められるものの、それ以上に、あっせんを理由に団体交渉を拒否したことに、組合を嫌悪し組合の弱体化を図ろうとする意図があったとまでは判断することができない。
(5) したがって、27年4月17日、5月14日、6月5日、6月15日の団体交渉申入れを拒否したこと、同年8月27日まで団体交渉を引き延ばしたことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。  
掲載文献   

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