事件番号・通称事件名 |
神労委平成26年(不)第16号 |
申立人 |
X1組合(「組合本部」) X2組合(「組合支部」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
平成29年1月12日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①組合本部らが先行した不当労働行為救済申立事
件(神労委平成24年(不)35号事件(以下「24-35号事件」という。)の審査手続において、申立人A3の夫の陳述書を
証拠として提出し、組合支部とは別の社内組織(C1会)に属する従業員によるA3に対するセクシュアルハラスメント(以下
「セクハラ」という。)やパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)について明らかにしたところ、何の対応もせずに放
置したこと、②上記①のセクハラやパワハラを交渉事項とする団体交渉において不誠実な対応をしたこと、③上記①のセクハラを
「当事者間の問題」として何ら対応しないと決定したことにより、上記従業員を擁護したこと、④本件申立て後に休職したA3が
健康保険傷病手当金の支給を受けるために必要な事業主証明をしないことが不当労働行為であるとして、救済申立てがなされた事
件である。
神奈川県労働委員会は、本件申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 争点①(会社が、A3が夫の陳述書を24-35号事件の証拠と
することに協力し、後に組合支部に加入したことを理由にA3に対するセクハラやパワハラを放置したことは、労働法第7条第1
号及び第4号の不利益取扱いに当たるか。)
(1) 会社としては、A3の通報したセクハラについて、その解決を当事者間の話合いに委ねるとの方針でいたことがうかがえ
るものの、その決定がなされたのは同人の組合支部への加入前であり、加入後もその方針に変更は見られないことからすると、会
社が、A3が組合支部に加入して組合員になったことや組合支部の正当な行為をしたことを理由に上記のセクハラを放置したもの
と認めることはできない。
(2) 申立人らはA3に対するパワハラが、組合加入後にさらにひどくなったことを会社は認識しながら放置したと主張する
が、かかる事実を認めるに足りる証拠はない一方、会社は、上記方針を決定した後も、A3とC1の座席を離したり、女性指導員
室を新設するといった対策を講じていることからすると、上記主張は採用できない。
(3) また、申立人らは、本件陳述書を24-35号事件の証拠とすることに協力したA3に対するパワハラを会社が放置した
ことは、労組法第7条第4号に該当すると主張するが、会社がセクハラに関する方針を決定したのは、(セクハラやパワハラに関
する)本件陳述書の提出前であることからすると、上記主張は採用できない。
(4) したがって、A3に対するセクハラやパワハラに関する会社の対応は、労組法第7条第1号及び第4号の不利益取扱いに
は当たらない。
2 争点②(A3に対するセクハラやパワハラを交渉事項とする団体交渉における会社の対応は、労組法第7条第2号の不誠実団
体交渉に当たるか。)
会社は、本件団体交渉において組合側の要求するA3との面会による事情聴取を実施しない理由について(A3に対し、既に電
話で事情聴取をしたこと、調査の結果、セクハラの事実は認められなかったことなど)相応の説明をしているだけでなく、本件団
体交渉から10日余り後にはA3との面会による事情聴取の実現に向けて対応する意思を表明しており、またA3の利用も想定し
て女性指導員室を新設するといった職場環境の改善にも努めていることを併せ考えると、本件団体交渉における会社の対応が不誠
実とはいえない。
3 争点③(会社が、A3に対するセクハラの加害者を認識してから4日後に、A3からの事情聴取等適切な調査をしないまま、
「当事者間の問題」として何ら対応しないと決定したことは、労組法第7条第3号の支配介入に当たるか。)
(1) 会社が、A3に対するセクハラについて、必要な調査を行ったとしてそれ以上の対応をしない旨の方針を決定したのは同
人の組合支部への加入前であると認められることから、上記方針によって組合支部の弱体化がもたらされることはない。
(2) この点につき、申立人らは、上記方針決定は、組合支部の組合員にパワハラの疑いがかかったときに退職強要したことと
比較すると、C1会を殊更有利に取り扱ったものであると主張する、しかし、組合支部らの主張するように、会社が組合支部の弱
体化を図るために組合員に退職を強要したことを認めるに足りる証拠はなく、組合支部の運営に対する支配介入には当たらない。
4 争点④(会社が、A3が夫の陳述書を24-35号事件の証拠とすることに協力し、後に組合支部に加入したことを理由に、
健康保険傷病手当金の支給を受けるために必要な事業主証明をしなかったことは、労組法第7条第1号及び第4号の不利益取扱い
に当たるか。)
会社が、健康保険傷病手当金の支給を受けるために必要な事業主証明をしなかったのは、A3が休職中に飲酒をしながら野球観
戦しており、支援センターの産業医の助言に従い、飲酒や野球観戦が治療として必要な行為であるかについての意見を付した新た
な診断書の提出を求めたものの、その提出がなかったことによるものであり、上記意見を付した診断書の提出を受けた会社はその
1週間後には事業主証明をした上で申請手続をとっていることを併せ考えると、A3が組合員であること又は労働組合の正当な行
為をしたことを理由とするものとは認められず、労組法第7条第1号及び4号の不利益取扱いには当たらない。 |
掲載文献 |
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