概要情報
事件名 |
朝日火災海上保険 |
事件番号 |
中労委平成 8年(不再)第6号
中労委平成 8年(不再)第7号
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再審査申立人 |
X1 外18名 |
再審査申立人 |
朝日火災海上保険株式会社 |
命令年月日 |
平成10年 1月21日 |
命令区分 |
一部変更(初審命令を一部取消し) |
重要度 |
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事件概要 |
会社が、組合員X1ら19名に関して、(1)支部大会出席代議員選出等に介入したこと、(2)時間内組合活動休暇を承認せず賃金をカットしたこと、(3)組合員X1ら17名を配置転換したこと、(4)賃金、賞与、職能資格格付け及び職位について差別的取扱いをしたことをめぐって争われた事件で、上記(1)及び(2)に関する支配介入の禁止並びに組合員X2の賃金カット分の支払い、組合員X1ら6名の原職又は原職相当職への復帰、昭和58年10月(賞与については同年12月)以降平成3年度までの賃金及び賞与の再査定及び差額支払い並びに平成3年6月以降の職能資格格付けの是正、文書掲示及び履行報告を命じ、その余の申立ては棄却ないし却下した。会社及びX1ら19名はこれを不服としてそれぞれ再審査を申し立てたが、中労委は初審命令の一部変更したほかは各再審査申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 初審命令主文第3項を次のとおり変更する。 3 被申立人会社は、申立人らの配置転換について、次のとおり措置しなけれ ばならない。なお、同人らの原職又は原職相当職への復帰に当たっては、主文第 4項の(3)で命じる各人の機能資格格付け及び職位の是正を考慮するものとす る。 (1) X3に対する昭和58年4月1日付け三鷹営業所への配置転 換命令がなかったものとして取り扱い、同人を本店東京営業本部の原職又は原職 相当職に復帰させること。 (2) X4に対する昭和57年10月25日付け城東営業所への配置転 換命令がなかったものとして取り扱い、同人を本店東京営業本部の原職又は原職 相当職に復帰させること。 (3) X5に対する昭和58年4月1日付け神戸支店への配置転換命 令がなかったものとして取り扱い、同人を大阪支店の原職又は原職相当職に復帰 させること。 (4) X6に対する昭和58年8月5日付け大分営業所への配置転換 命令がなかったものとして取り扱い、同人を大阪支店の原職又は原職相当職に復 帰させること。 (5) X7に対する昭和58年4月1日付け釧路駐在所への配置転換命令 がなかったものとして取り扱い、同人を千葉営業所の原職又は原職相当職に復帰 させること。 2 初審命令主文第4項を次のとおり変更する。 4 被申立人会社は、申立人らの賃金、賞与、職能資格格付け及び職位につい て、次のとおり措置しなければならない。 (1) 昭和63年4月以降平成3年度までの賃金について、人事考課査定 がD査定以下のものを査定の中間評価であるCとして再査定して昇給させ、既支 給額との差額を支払うこと。 (2) 昭和63年6月以降平成3年度までの賞与について、基礎となる賃 金は(1)で是正した金額を基準として、また、査定部分(平成元年12月を除 く。)については人事考課査定がD査定以下のものを査定の中間評価であるCと して再査定して金額を算出し、既支給額との差額を支払うこと。 (3) 各人(X8を除く。)の平成3年6月1日における職能資格 格付け及び職位について、同年同期入社者に遅れないように取り扱うこと。 3 初審命令主文第5項の記中「昇格」を「職能資格格付け及び職位」に改める 。 4 初審命令主文第7項中「58年9月分」を「63年3月分」に、「58年6 月期」を「62年12月期」に改める。 5 その余の各再審査申立てを棄却する。 |
判定の要旨 |
0120 政治(党)活動
X1らの活動は、組合内の特定政党の組織や活動を強化するためのものであるとの会社主張に対し、同人らの活動は、労働組合内部においてその意思決定機関に自分達の意見を反映させようとしたり、労働条件改善について意見を表明したりして労働組合の自主的・民主的運営に資する行為というべきであり、労働組合又は当該組合員の利益を図るために行う「労働組合の正当な行為」としての性格を有することは明らかであるとされた例。
2610 職制上の地位にある者の言動
2624 組合人事への干渉
会社職制の言動は、支部大会代議員選挙に際し、会社の意を体して、支部の中のA派以外の候補者に投票するよう働きかける一方、A派の活動を抑圧しようとしてなされたものであると認めざるを得ず、会社による支部の運営に対する支配介入であるとした初審判断が維持された例。
5201 継続する行為
本件における各配転は別々の人物に対して行われており、それぞれ一個の独立した行為としてなされたものであり、継続する行為に該当しないとして、組合員X8ら9名の申立てを却下した初審判断が維持された例。
3010 労組法7条1号(不利益取扱い、黄犬契約)と競合
労使関係の経緯と本件配転の時期等を併せ考えると、X1ら8名に対する配転は、いずれも同人らのA派としての組合活動を嫌ってこれを困難にするためになした支部に対する支配介入であるとされた例。
4411 配転・転勤・出勤停止・下車勤等の場合
本件の救済方法については、X3ら5名については、各人の配転命令がいずれもなかったものとして取り扱い、原職又は原職相当職へ復帰させるよう命じるのが相当であるとされた例。
4613 P.Nのみを命じ、他の救済の必要性を認めなかった例
X1については既に会社を退職し、X9については既に別件訴訟判決の結果原職相当職に復帰しているので、それぞれポストノーティスのみにとどめるものとするとされた例。
1600 休暇の取扱い
3010 労組法7条1号(不利益取扱い、黄犬契約)と競合
本件組合活動休暇の不承認は、会社が、A派の者が社外の上部団体で活動することを嫌い、かかる活動の機会を未然に防止することを意図し、同人らの有給休暇を必要以上に費消させたり、賃金カットを行うことにより同人らを不利益に取り扱い、事実上組合活動に参加することを困難な状態に至らしめたものと認められ、不当労働行為であるとした初審判断が維持された例。
1202 考課査定による差別
X2が退職金制度の減額改定について初めて公式の場で発言したのは、人事考課表が常務会に上がって処理決定された後の時期であり、如上の事実関係のもとでは、58年昇給に関しては不当労働行為は成立しないとした初審判断が維持された例。
1202 考課査定による差別
3010 労組法7条1号(不利益取扱い、黄犬契約)と競合
X1らの賃金、賞与、職能資格格付け及び職位が他の社員に比べ低位に置かれていることは、公正な人事考課の結果生じたものではなく、会社がX1らのA派としての活動を嫌悪し、これを抑圧しようとする意図のもとになした人事考課の結果によるものであると判断せざるを得ず、不当労働行為であるとした初審判断が維持された例。
5201 継続する行為
使用者が正当な組合活動を理由として当該労働者に賃金等の支払いを行ったとすれば、その差別的取扱いの意図は賃金の支払いによって具体的に実現されるものであるから、使用者の賃金等の決定行為とこれに基づく賃金等の支払いとは一体として一個の不当労働行為を構成するというべきであり、同決定行為とこれに基づく賃金等が支払われている限り不当労働行為は継続することになるとされた例。
4413 給与上の不利益の場合
昇給後の賃金額に格差があるとすれば当該賃金額を基礎として決定される賞与についても必然的に格差が発生することとなるのであるから、63年4月以降の賃金について救済の対象とする以上、賞与についても63年6月以降について併せて救済の対象とするのが相当であるとされた例。
4415 賃金是正を命じた例
本件賃金差別に係る救済方法については、人事考課査定がD査定以下のものを査定の中間評価であるCとして再査定して昇給させ、既支給額との差額を支払うよう命じるとともに、賞与について、基礎となる賃金は上記により是正した金額を基準として、また、査定部分については人事考課査定がD査定以下のものを査定の中間評価であるCとして再査定して金額を算定し、既支給額との差額を支払うよう命じるのが相当であるとされた例。
4415 賃金是正を命じた例
会社の61年制度では職能資格毎に対応する職位が定められ、一定の職能資格に格付けされるとそれに対応するいずれかの職位に就くこととなるのであるから、各人の職能資格格付けを同人らの同年同期入社者に遅れないよう取り扱うよう命じるとともに、各人の職位についても当該是正後の職能資格格付けに対応するよう、その是正を命じるのが相当であるとされた例。
4411 配転・転勤・出勤停止・下車勤等の場合
X3ら5名の原職又は原職相当職への復帰に当たっては、各人の職能資格格付け及び職位の是正を考慮するものとされた例。
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業種・規模 |
金融業、保険業 |
掲載文献 |
不当労働行為事件命令集110集654頁 |
評釈等情報 |
中央労働時報 1998年3月 933号 13頁 
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