労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡高裁令和4年(行コ)第22号
ワーカーズコープタクシー福岡不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  有限会社X(「会社)」 
被控訴人  福岡県(代表者兼処分行政庁 福岡県労働委員会) 
判決年月日  令和4年9月30日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、C1労働組合のA1及びA2に対し、平成31年2月以降、残業指示について他の乗務員と異なる取扱いを行い、A1及びA2の給与を減少させたこと(以下「本件措置」という。)が、労組法7条1号及び3号に該当するとして、A1らが救済を申し立てたものである。
2 福岡県労委は、会社に対し、労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であるとして、不利益取扱いの禁止及びバックペイとともに、文書の交付・掲示を命じた。
3 会社は、これを不服として、福岡地裁に、福岡県労委の救済命令のうち、主文第2項及び第3項(A1らへのバックペイ)の取消しを求める行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
4 会社は、これを不服として、福岡高裁に控訴したが、同高裁は、会社の控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  1 控訴理由に対する判断
⑴ 不当労働行為該当性
ア 本件措置に係る通告書(以下「本件通告書」という。平成31年2月1日、M営業所に掲示等)に「そのようなC1組合に加盟されたお二人は、所定労働時間内の勤務にして下さい。」という記載があることに加え、本件措置は、A1らが会社及びC2労組に対して同労組を脱退してC1労組に加入する旨の通知を会社が受けた直後にされたこと、会社は、A1ら以外の従業員に対しては本件措置のような措置を取っていないこと、本件措置後、A2は、B2から、複数回にわたり、C2労組に戻れば前のように残業ができるなどとして同労組に戻るよう勧誘されたことによれば、会社は、A1らのC1労組への加入を理由に本件措置を行ったものと認められる。

イ 会社は、平成31年2月1日午前中にA1らからC1労組に加入する旨のファクシミリによる通知を受けた事実はなく、本件措置を取ることを決定した時点では加入の事実を知らなかった旨主張する。
 しかし、本件措置に係る本件通告書には「2019年2月1日付けでA1氏・A2氏はC1組合に加入した通知書が届きました」という記載があるほか、C1労組に加入する旨の通知を同日ファクシミリにより送付した旨のA1の福岡県労委における供述によれば、同日午前中に、A1らが会社に対してC1労組に加入する旨の通知をファクシミリにより送付し、会社がこれを受領した事実を認めることができる。
 また、同委員会におけるB1の証人調書によれば、本件措置を決定した理事の話合いは、前記加入する旨の通知が届いた後に持たれたことが認められる。
 そうすると、会社の前記主張は採用できない。

ウ 会社は、A1らの法令違反(労働基準法36条違反)に対する指導や、A1らによる不当に高額な割増賃金の請求への対応及び従業員間の公平を図るために本件措置を行った旨主張するが、以下のとおり採用できない。

(ア)本件通告書には、A1らの法令違反に関する言及は見られず、本件措置以前に、A1らの労働時間が問題視されていたことや、A1らの労働時間がM営業所の他の従業員の労働時間よりも恒常的に突出していたことを認めるに足りる証拠も見当たらないから、会社の主張するような法令違反に当たる事実が存在したとは認められないし、仮にあったとしてもそのためA1らに対して指導をする必要があったとは認め難い。
 なお、時間外労働を一切させないことは、他の労働者との間で取扱いに差別を設けるものであって、法令遵守の指導というにとどまらず、その違反に対する制裁と解さざるを得ないが、労働基準法36条に基づく義務を負うのは使用者である会社であり、その会社が、労働者であるA1らに対しこのような制裁を科することは通常考え難い。
 以上にみたところによれば、本件措置が、A1らの法令違反に対する指導であって、労働組合加入を理由とするものではないという会社の主張は採用できない。

(イ)本件通告書には、本件措置の理由について、A1らが不当に高額の割増賃金を請求したことや従業員間の公平に関する記載はない。
 本件通告書には、A3から割増賃金の件で訴えられており、事実無根の莫大な請求を受けている旨の記載はあるが、この記載は、そのA3が属するC1労組に対する否定的評価の根拠としてのものであることが文脈上明らかである。また、A1らが時間外手当の支払を催告し、タコグラフ等の資料の提供を求める旨の書面を書留郵便により送付したのは、本件措置が行われた平成31年2月1日の午後であり、当該書面が会社に到達したのは本件措置の決定及び通告より後であると推認されるから、この催告が本件措置の動機であったことは考えられない。
 仮に、会社が、A1らが時間外手当の請求を行うことを見込んで本件措置を行ったものであるとしても、前記事情に照らせば、C1労組への加入とは無関係に行われたものであるとは考え難く、前記認定を左右するものではない。なお、労働者からの賃金請求が不当と考えられたとしても、その請求の事実のみをもって本件措置のような対応を取ることは通常考え難い。
 また、本件通告書には、従業員間の公平を図るために本件措置を行う旨の記載も見当たらない。そして、本件措置以前に、A1らの労働時間の長さが問題視されていたことや、A1らがM営業所における早出、当直勤務を独占していたことを認めるに足りる証拠も見当たらないことに照らせば、本件措置が従業員間の公平を図るためにされたものとは認められない。
 なお、仮に、A1らが他の従業員よりも多く早出・当直勤務をしていたとしても、それが不正な手段によるものであったことの主張立証はなく、また、本来早出・当直等は会社の命令によるものであることも考慮すると、他の従業員と同等の取扱いとすることを超えて、本件措置を取ることの合理性は極めて疑わしい。
 以上のとおり、会社は、C1労組にA1らが加入したことを理由に本件措置を行ったものと認められる。そして、本件措置が、労働組合法7条1号所定の不利益取扱い及び同条3号所定の支配介入に該当するものであって、不当労働行為に当たることは、いずれも原判決の説示のとおりである。

⑵ 裁量権の逸脱又は濫用
 原判決「事実及び理由」第3の3の説示のとおり、本件救済命令は、本件措置以前の直近3か月分(平成30年12月から平成31年2月まで)の給与から算出した平均給与と、本件措置後にA1らに対し実際に支給された給与との差額の支払を命ずるものであり、不当労働行為に該当する本件措置によりA1らが現に被った損害の回復を目的とするものであって、その算定方法も妥当なものであるから、本件救済命令を発した福岡県労委の判断に、その裁量権を逸脱又は濫用した違法があるとは認められない。

2 結論
 以上、会社の請求は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡県労委令和元年(不)第7号 全部救済 令和2年12月11日
福岡地裁令和3年(行ウ)第3号 棄却 令和4年2月25日
福岡地裁令和3年(行ク)第6号 却下 令和4年2月25日
最高裁令和5年(行ヒ)第24号 上告不受理 令和5年3月15日
 
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