労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成30年(行コ)第1号
社会福祉法人札幌明啓院不当労働行為救済命令取消請求控訴事件
控訴人  社会福祉法人X(「法人」) 
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z1労働組合北海道地方本部Z2分会(「組合」) 
判決年月日  平成30年5月23日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が、法人の以下の行為が労組法7条各号所定の不当 労働行為に当たるとして、北海道労委に救済を申し立てた事案である。
 (1) A組合員が、法人運営の救護施設の施設長に対し、利用者の苦情申立てに係るあっせんに応じること等を要望したことを理由に、夜勤のある生活支援員へ配置転換したこと(労組 法7条1号及び3号)
 (2)就業規則改正等を議題とする団交申入れに関し、団交については文書報告のとおりでありこれ以上の回答はない旨の回答 書を交付したこと(本件回答書交付)(同条3号)
 (3)団交確認書(26年確認書)に反し、25年度末までに就業規則の改定理由を明記した文書や協議日程を提示しなかった こと(本件不提示)(同条3号)
 (4)開催条件(集会室を開催場所とすることを拒否して施設外の貸会議室(地区センター)を開催場所と指定し、組合側参加 者を7名に制限)に固執して団交を開催しなかったこと(本件団交不開催)(同条2号)
2 初審北海道労委は、救済申立ての一部(前記1(2)ないし(4))について救済命令を発したところ、法人は、同命令を不 服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審命令の一部を変更したほかは、再審査申立てを棄却する旨の命令を発したところ、法人は、これを不服として東京地裁に訴訟を提起した。
4 東京地裁は、法人の請求は理由がないから、法人の請求を棄却したところ、法人は、これを不服として東京高裁に控訴した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  当裁判所の判断
1 当裁判所も,法人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,当審における法人の主張に対する判断を加えるほか,原 判決「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における法人の主張について
(1) 本件団交不開催について
  法人は,団体交渉への参加人数について,法人と本件組合との団体交渉が施設長室でその収容人数以内である組合側2,3名 での少人数で実施されてきた慣例を尊重すべきであると主張しているのであって,法人が今日まで一度たりとも参加人数制限など したことはないと主張する。しかしながら,本件団交不開催に先立つ平成24年9月及び平成26年1月に2回連続で10名を超 える組合員が参加して団体交渉が行われており,また,従前の団体交渉において参加者数を原因とする混乱が生じていないにもか かわらず,法人は本件各団交申入れにおいて組合側参加者を7名に限定し,その後も施設内での団体交渉の条件として組合側の参 加者を10名程度とすることに固執していることから,参加人数制限をしたことがない旨の法人の主張は理由がない。
  次に,多人数の場合の開催場所について,法人は,地区センター又は事務室での開催は本件組合ないし組合員に特段の不利益 や不都合を被らせるものではなく,本件組合は集会室での開催を不適当とした施設管理者たる法人の判断に従うべきであるとも主 張する。しかしながら,地区センターで開催することとなれば,本件施設内での開催に比して,参加者には地区センターまでの移 動の労力,時間の負担が新たに生じ,その負担ゆえに団体交渉に参加できない者が生じる可能性があること,地区センターの都合 により,団体交渉を開催することができる日時が限定されたり,交渉時間の延長等の弾力的運用が阻害されたりする可能性がある こと,地区センターの使用料に関する費用負担の問題も生じ得ること,また,事務室での開催は,打ち合わせスペース付近に着座 できる組合員は5名に限られ,その他の組合員には事務机やOA機器の狭間の空きスペースに椅子をおいて対応するというのであ り,上記5名以外の組合員にとって団体交渉で発言することはもとよりその内容を傍聴することにすら困難があることは明らかで ある。したがって,地区センター又は事務室での開催は,本件組合及び組合員に実質的な不利益を及ぼすものであると認められ る。
  以上の事実は,法人においても当然に認識することが可能であったと考えられるのであって,それにもかかわらず法人が集会 室での開催に応じなかったのは,多人数での団体交渉を回避することを企図したものとみられ,本件団交不開催は,実質的にみて 法人による団体交渉の拒否にほかならず,本件団交拒否について正当な理由は認められないといわざるを得ない。
(2) 本件回答書交付及び本件不提示について
  法人は,本件命令が,本件回答書交付及び本件不提示については,同一の不当労働行為が繰り返されるおそれはないと認め て,禁止命令の必要性を否定しながら,同種又は類似の不当労働行為に及ぶことを防止するためとの理由でポストノーティスを命 じたのは,裁量権の濫用であると主張する。
  しかしながら,上記のとおり法人が団体交渉の参加人数及び開催場所について頑なな態度を続けていたことに鑑みると,処分 行政庁において,法人が団体交渉を契機として労組法7条3号所定の支配介入に及ぶおそれはなお否定できないと判断したとして も不合理とはいえないから,ポストノーティスを命じたことが裁量権の濫用に当たるとは認められない。
(3) 基礎事情の変更について
  法人は,平成29年11月22日以降,本件組合に対し,団体交渉の開催場所として,法人施設内である特養ミーティング ルームを提案し,平成30年1月15日には特養ミーティングルームにて団体交渉が円満に開催されたから,法人と本件組合間の 団体交渉の場所を巡る紛争は,基礎事情の変更があり,本件命令は取り消されるべきであると主張する。
  しかしながら,特養ミーティングルームは,特養専有の施設管理下にあり,団体交渉のため特別に特養施設長にお願いして特 例上の措置として了解して頂いて提案したというのであって,今後も継続的に団体交渉の開催場所として確保できるか不明である 上,本件組合は,4年ぶりに団体交渉が開催されることの有益性を重視して特養ミーティングルームを開催場所とすることに同意 しつつも,本件組合が団体交渉を行うために最も相応しい場所と考えているのは集会室であると主張しているのであって,その他 一件記録を精査しても,団体交渉の開催場所を巡る法人と本件組合との対立が終局的に解決したと認めることはできず,したがっ て,本件訴えに係る訴えの利益が消滅したともいえない。  
3 以上によれば,本件命令は適法であり,本件命令の取消しを求める法人の請求は理由がなく棄却されるべきものであるとこ ろ,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとする。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
北海道労委平成26年不第6号 一部救済 平成27年6月26日
中労委平成27年(不再)第32号 一部変更 平成28年8月3日
東京地裁平成28年(行ウ)第466号 棄却 平成29年12月13日
最高裁平成30年(行ヒ)第344号 上告不受理 平成30年11月16日
 
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