概要情報
事件名 |
全日本手をつなぐ育成会(緊急命令申立) |
事件番号 |
東京地裁平成26年(行ク)第276号 |
申立人 |
東京都労働委員会 |
申立補助参加人 |
ユニオン東京合同 |
被申立人 |
社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会 |
決定年月日 |
平成26年12月26日 |
決定区分 |
緊急命令申立ての一部認容 |
重要度 |
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事件概要 |
1 法人が、①平成19年に開催された団体交渉において、組合員A1の事務局長解任の理由を具体的に説明しなかったこと、②平成21年8月20日開催の団体交渉後、組合の申し入れた団体交渉に応じていないこと、③組合員A2に対し、初審手続きにおける審問出頭につき不就労として賃金等の減額措置を行ったこと、④同組合員にけん責処分を行ったこと等が不当労働行為に当たるとして争われた事件である。
2 東京都労委は、上記①ないし④は不当労働行為に当たるとし、法人に対して、文書の交付及び掲示並びに履行報告を命じ、その余の組合の申立てを棄却した(本件命令)。
3 法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟(本案事件)を提起したが、その後、同法人は、社会福祉法人解散認可申請を行った。東京都労委は、法人の消滅により事実上本件命令が履行されない状況が作出されてしまうおそれがあるとし、同地裁に緊急命令を申し立てた。同地裁は、本件命令中、上記②に関する部分を除いて申立てを認容し、審理不尽を理由に②に係る部分の申立てを却下した。
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決定主文 |
1 法人は、本案事件の判決確定に至るまで、都労委が発した本件命令主文1項及び2項に従い(ただし、平成21年8月20日開催の団体交渉後、組合の申し入れた団体交渉に応じていないことに関する部分を除く。)、文書の交付及び掲示並びにその履行報告をしなければならない。
2 都労委のその余の申立てを却下する。
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決定の要旨 |
1 救済命令の適法性
(1) 判断②について
法人が団体交渉に応じなくなったのは、組合が、法人の団体交渉員としての授権を受けて交渉に臨んでいたC1弁護士の発言をおよそ認めないとの強い態度を示し、その態度を変えなかったことに起因しているとみることができ、B1理事本人が回答しようとしなかったという経緯があるにしても、組合がこの点に固執したことには問題があるといわざるを得ない。しかし、その後の組合からの団体交渉申入れに対し、法人が、B1理事の見解が問題とされた議題以外の議題に関しても、一切の団体交渉を拒絶しているのは、やはり行き過ぎがあるというべきである。
もっとも、判断②の判断事項についての審理手続を検討すると、不当労働行為救済申立書や都労委の審理計画書等の書面は平成21年8月20日以降の団体交渉の状況を問題とする趣旨のものとは読み取れず、組合から提出された準備書面をみても、同趣旨のものはみられない。都労委は、主張立証の補充とこれに対する反論及び最終陳述書の各提出日を定め、組合は、準備書面を提出したが、従前の組合の主張や審理経過に反し、平成21年8月20日以降の団体交渉の状況までをも判断事項として指摘する趣旨のものと理解される具体的指摘までは見られない。他方、法人も、最終陳述書を提出し、同書面の冒頭で、あくまで団体交渉に関する争点について、第8回〔平成19年12月11日開催〕までの団体交渉における労組法7条2号の成否を適示して論じており、同書面の中で平成21年8月20日以降の団体交渉に関する対応が労組法7条2号所定の不当労働行為を構成するようなものではないことを主張はしているものの、同主張は、事情的説明に位置づけられるものである。以上に対し、都労委において、上記の審理経過に反し、平成21年8月20日以降の団体交渉に関する対応が判断事項となるか否かの認識を確認したり、それが判断事項になると思料している旨の特段の注意喚起をしておらず、本件命令を発出するに至っている。
そうしてみると、いかに法人が最終陳述書において平成21年8月20日以降の団体交渉に関する対応に関し、補足的・事情的主張をしていたとはいえ、特段の注意喚起等を経ないまま、法人の同対応が労組法7条2号の不当労働行為に該当するとして救済命令を発した点は、労働委員会における不当労働行為救済申立ての手続が申立主義を採用し、対審構造の下、準司法的手続により行われるものとされていることに照らすと、少なくとも法人に不意打ちを与えるものであったといわざるを得ず、その点において審理不尽の違法があるというべきである。本件命令の判断(判断②)の適法性には、現時点において、その維持可能性につき疑義があり、かかる判断部分に関する本件申立は肯認することができない。
(2) その他の判断
判断①、③及び④については、認定事実に照らせば、現時点において、本件命令の判断の適法性を肯認することができる。
2 緊急命令の必要性。
(1) 記録によれば、緊急命令の必要性は、これを肯認することができる。
(2) 本件命令主文にみられるようないわゆる労働委員会認定型の文書による文書の交付及び掲示並びにその履行を命じる場合、必ずしも使用者に回復不能な心理的効果をもたらすものといえず、これを使用者に履行させることが緊急に必要とされるような特段の事情がある場合には必要性が肯認されるべきである。
しかるに、法人は、社会福祉法人解散認可申請を行い、現状、認可手続きが進行している状況にあり、同認可により精算事務が開始することになることが見込まれるところ、文書の交付及び掲示ならびにその履行の報告の実効性が失われることは十分に想定される。本件においては、救済命令の救済内容を使用者に履行させることが緊急に必要とされる特段の事情があるといえる。
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その他 |
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