平成21年3月27日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

室長 鈴木裕二

電話 03(5403)2172

FAX 03(5403)2250

中労委平成21年(審査)第1号大阪京阪タクシー物件提出命令審査申立事件
(原処分・大阪府労委平成19年(物)第2号物件提出命令申立事件)
の決定書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成21年3月27日、標記事件に係る決定書を関係当事者に交付したので、お知らせします。決定の概要は、次のとおりです。

【決定のポイント】

組合分裂後の会社による旧労組役員への金銭供与が不当労働行為であるとして、新労組から申立てがあった事件について、旧労組役員の賃金台帳の提出を命じる大阪府労働委員会の決定は、要証事実(当該物件によって証明すべき事実)と申立事実(不当労働行為を構成する具体的事実)との関連性の存否、程度を決することが困難であるといわざるを得ないこと等から、現時点において直ちに証拠としての高度の必要性を認めることはできない。

I 当事者

審査申立人 大阪京阪タクシー株式会社(大阪府枚方市)
(従業員数327名)

原処分労委 大阪府労働委員会(大阪市中央区)

II 事案の概要

本件は、平成9年の組合分裂以降、会社が大阪京阪タクシー労働組合(「旧労組」)の役員に対し「賃金と賞与相当額」の金銭を供与し、賃金改定を含む就業規則変更等に重大な影響を及ぼしたこと等が不当労働行為であるとして、大阪京阪タクシー新労働組合(「新労組」)から救済申立てが行われた本案事件の審査手続過程で、大阪府労働委員会(「大阪府労委」)が、新労組の申立てを受け、会社に対し、旧労組役員3名(本件旧労組役員)の同18年4月から同19年3月までの本件賃金台帳の提出を命ずることを決定し、物件提出命令通知書(本件通知書)を交付したため、これを不服として、当委員会に対し審査の申立てがあった事件である。

III 決定の概要

1 主文の要旨

原命令を取り消す。

2 判断要旨
(1)物件提出命令発出の要件及びその検討方法について

物件提出命令の根拠規定である労働組合法第27条の7第1項第2号の「当該物件によらなければ当該物件により認定すべき事実を認定することが困難となるおそれがあると認めるもの」とは、「要証事実の認定のために他に的確な証拠方法を見いだし難いという意味での当該物件について証拠としての高度の必要性が認められる場合」を意味すると解するのが相当である。

物件提出命令の発出要件の存否を判断するに当たっては、[1]当該物件提出命令申立てに係る救済申立事件における不当労働行為の有無に関する事実(不当労働行為を構成する具体的事実(「申立事実」)及びその他の成立要件事実)を具体的かつ明確にする、[2]次に、当該物件によって証明すべき事実(「要証事実」)を具体的かつ明確に確定し、要証事実が間接事実である場合には、それによって推認される申立事実ないしその他の成立要件事実が何であるかをも明確にする。その後、不当労働行為の有無に関する事実との関連性を検討する、[3]さらに、物件の表示及び物件の趣旨から、その物件と要証事実との関連性を検討する、[4]上記[2]、[3]の関連性は、物件提出命令の正当性・適法性を明確にし、かつ、提出を命じられた物件に関する労使双方の攻撃防御を可能とするものであるから、客観的、明確に認められる必要がある。

(2)原命令の当否について

原命令は、新労組からの、会社の所持する本件旧労組役員の平成15年10月以降の賃金台帳の提出命令の申立てを受け、大阪府労委が、同役員の同18年4月から同19年3月までの本件賃金台帳の提出を命ずることを決定したものである。

大阪府労委は、本件本案事件における争点を「会社が新労組とは別の労働組合である旧労組の役員に対して金銭の支払をしたことが、新労組に対する支配介入に該当するか」と整理し、本件通知書における「物件の表示」の記述から、本件本案事件の申立事実を「平成18年4月から同19年3月までの間に、会社が新労組とは別の労働組合である旧労組の役員に対して金銭の支払をしたこと」(本件申立事実)と把握しているものと解される。そして、これを前提に、本件通知書において、「証明すべき事実」を「平成18年4月から同19年3月までの本件旧労組役員に対する賞与を含む賃金の支払額、水揚高及び課税控除額」(本件要証事実)として、本件賃金台帳の提出を命じたものである。

本件要証事実は、本件賃金台帳の記載内容そのものであり、争点を上記のとおり整理した上での本件申立事実との関連性の薄い単なる間接事実にすぎない。そして、本件通知書における「提出を命じる理由」中の記述から、原命令が、本件本案事件を、組合間差別の一態様としての不当労働行為と把握していると解してみても、本件賃金台帳記載の上記各金額(間接事実)によって推認すべき事実として原命令が想定しているのは、上記のとおり整理した上での本件申立事実ではないと解される。結局、本件要証事実と本件申立事実との関連性の存否、程度を決することが困難であるといわざるをえない。

上記から、現時点において直ちに本件賃金台帳に証拠としての高度の必要性を認めることは困難であり、労働組合法第27条の7第1項第2号の要件を満たすものと認めることはできない。したがって、本件審査申立てには理由があり、原命令は取り消さざるを得ない。

【参考】

○物件提出命令審査申立制度の概要

労働委員会は、当事者の申立てにより又は職権で、調査又は審問を行う手続において、物件の所持者に対し、その提出を命じ、又は提出された物件を留め置く方法により証拠調べをすることができる(労働組合法第27条の7第1項第2号)。都道府県労委又は中労委のいずれかが発した物件提出命令を受けた者がこれについて不服がある場合には、中労委に対して不服申立て(都道府県労委が発した命令については審査の申立て、中労委が発した命令については異議の申立て)をすることができる(同法第27条の10)。

○本件審査の概要

・本案不当労働行為救済申立日 平成19年4月16日(大阪府労委平成19年(不)第14号)

・本件物件提出命令申立年月日 平成19年8月3日 (大阪府労委平成19年(物)第2号)

・本件物件提出命令交付年月日 平成21年1月16日

・本件審査申立年月日       平成21年1月20日(中労委平成21年(審査)第1号)


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