平成21年7月24日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室
審査官  野 康夫

電話 03−5403−2265

米八西日本不当労働行為再審査事件
(中労委平成20年(不再)第15号)命令書交付について

− 組合員が脱退して会社に雇用される組合員がいなくなったとしても救済利益は失われないとされた事例 −

1 組合の要求は義務的団交事項に該当するから、会社が団交を拒否した理由は正当なものとは認められず、団交拒否によって組合が会社との 交渉の機会を喪失し、労働条件の決定にあたっての影響力を行使する機会を失ったことは明らかである。

2 団交拒否による組合の被害が回復されていない以上、組合員の脱退により、会社に雇用される組合員がいなくなったとしても、 団交拒否によって生じた影響が解消されたとは認められず、救済利益が失われたとはいえない。

3 会社の団交拒否は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するが、組合には会社に雇用された組合員が存在するとは断定し難く、 会社に団交応諾を命ずるまでの必要性はなく、現在の状況を踏まえて、文書手交を命ずることが相当。

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成21年7月24日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
1 再審査申立人  : 株式会社米(よね)八(はち)西日本(従業員295名(平成20年1月現在))
2 再審査被申立人 : 神戸ワーカーズユニオン(組合員256名(平成20年1月現在))
II 事案の概要
1 本件は、組合が申し入れた団体交渉に、会社が、本件申入れに係る要求事項は団交の議題とならないこと及びその旨を文書で回答済みである ことを理由に応じないことが労組法7条2号の不当労働行為に該当するとして、兵庫県労働委員会に救済申立てがあった事件である。
2 兵庫県労働委員会は、会社の対応は労組法7条2号の団交拒否に該当するとして、会社に対し、 (1)誠実団交応諾(2)文書手交を命じたところ、会社はこれを不服として再審査を申し立てたものである。
III 命令の概要
1 主文
初審命令主文変更
[*会社の団交拒否が中労委において不当労働行為に該当すると認定されたこと、並びにこのことを誠実に受け止める旨の文書手交]
2 判断の要旨
(1) 本件救済申立ての適否
ア 会社は、組合が権利能力なき社団の実質を備えていないから本件救済申立ては却下されるべきであると 主張するが、労組法27条1項に基づく救済申立資格は、同法5条1項により、同法2条及び5条2項に規定する組合資格要件に適合することのほかに 格別の要件は必要とされておらず、組合は当委員会の資格審査において、労組法に適合する労働組合であると決定されたものである。
イ 会社は、組合員である店長Aは使用者の利益代表者であり、同人の加入を許している組合は救済申立て資格がない旨主張するが、 Aは、雇入れ、解雇、昇進又は異動を行う権限を有しておらず、また、労働関係についての計画と方針に関する機密の事項に該当する 業務を行っているとはいえないから、使用者の利益を代表する者には該当しない。
ウ 会社は、労組法5条1項の労働組合の資格審査は、規約通りに運営されているか等について実質審査を行わなければならない旨主張するが、 5条2項は規約の必要的記載事項を定めるものであり、実際に規約どおりの運営が行われているかどうかは、労働組合の自治に委ねられているから、 会社の主張は採用できない。
(2) 会社による本件団交拒否の労組法7条2号該当性
ア 組合の本件団交における要求事項は、団体的労使関係の運営に関する事項と、就業規則の手交及び年俸制の考え方という労働条件に関する事項であって、 いずれも義務的団交事項に該当する。
イ 使用者は、自己の主張を労働組合が理解し納得することを目指して、労働組合の要求等に対する回答や自己の主張の根拠を 具体的に説明したり、必要な資料を提示するなど誠実に団交に応じなければならない。また、最終的に労働組合の要求に譲歩できないとしても、 その論拠を示すなどして合意達成の可能性を模索する必要がある。しかるに会社は、最初から組合と直接話し合わず、これは、合意達成の意思がないことを 明確にしたものであるから、団交拒否の理由は正当ではなく、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
(3) 分会組合員の脱退及び団交事項の解決による救済利益の消滅の成否
ア 会社の団交拒否によって組合は、会社との交渉の機会を喪失し、労働条件の決定に当たっての影響力を行使する機会を失ったことは明らかである。
イ 会社は、分会の組合員3名が組合を脱退したこと、本件団体交渉の議題が解決したこと等によって救済利益が失われた旨主張するが、 上記アの組合の被害が団交が行われるなどして回復されていないのであるから、組合員の脱退により、会社に雇用される組合員がいなくなったとしても、 団交拒否により生じた影響が解消されたとは認められず、救済利益が失われたということはできない。また、Aらが年俸制給与選択に合意し、労働委員会への 救済を求めない旨を表明している事実によって、上記判断が左右されるものではない。
(4) 救済の内容について
上記のとおり、本件会社の団交拒否は正当な理由のないものであり、労組法7条2号の不当労働行為に該当するが、会社に雇用された組合員が存在するとは断定し難いので、 会社に団交応諾を命ずるまでの必要性はないものの、現在の状況を踏まえて、組合に対して文書手交を命ずることが相当である。
(5) 結論
結論 以上のとおり、本件団交拒否が不当労働行為に該当するとした初審判断は妥当であるが、その後の状況の変化に応じ、救済内容を主文のとおり変更することとする。
【参考】
初審救済申立日  平成19年8月27日(兵庫県労委平成19年(不)第8号)
初審命令交付日  平成20年4月14日
再審査申立日   平成20年4月17日

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