平成21年6月25日

中央労働委員会事務局

第一部会担当審査総括室
室長   西野 幸雄

Tel 03(5403)2157

Fax 03(5403)2250

太平洋セメント不当労働行為再審査事件
(平成20 年(不再)第20 号)命令書交付について

−セメント運輸会社の共同出資者である太平洋セメントはセメント運輸会社従業員の労組法上の使用者には該当しない−

太平洋セメントは、他社と共同して設立したセメント運輸会社に運送業務を委託していたが、セメント運輸会社の従業員である組合員との関係において、 労働契約上の雇用主ではなく、また、基本的な労働条件等に対して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者と いうことはできず、労組法上の使用者には該当しない。

したがって、太平洋セメントがセメント運輸会社解散時におけるセメント運輸会社従業員の雇用確保措置を講じなかったことは不当労働行為には該当しない。

中央労働委員会第一部会(部会長諏訪康雄)は、平成21 年6月24 日に、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
再審査申立人:全日本建設運輸連帯労働組合関東支部(「組合」)(東京都千代田区)組合員約160 名(平成21 年3 月現在)組合員A、B
再審査被申立人:太平洋セメント株式会社(「太平洋セメント」) (東京都中央区)従業員約3,300 名(平成21 年3 月現在)
II 事案の概要
1  本件は、太平洋セメントが、他のセメントメーカー等と共同出資して設立したセメント運輸会社の解散に際して、セメント運輸会社の従業員である 組合員A及びBに対し、太平洋セメントの子会社又は関係会社において採用するなどの雇用確保措置を講じなかったことが、不当労働行為であるとして 救済申立てのあった事件である。なお、セメント運輸会社は昭和39 年5月に設立され、平成18 年5月に解散したものである。
2  初審東京都労働委員会は、上記の救済申立てを棄却したところ、組合らはこれを不服として、再審査を申し立てた。
III 命令の概要
1 主文の要旨(初審棄却命令を維持)
本件再審査申立てを棄却する。
2 判断の要旨
当委員会も、太平洋セメントは、組合員A及びBにとって、労働組合法第7条の使用者に当たらないと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1)使用者性の判断基準について
労働契約上の雇用主以外の者であっても、基本的な労働条件等に対して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な 支配力を有しているといえる者は、その限りにおいて労働組合法第7条にいう使用者に当たると解すべきである。
組合らの主張のように、労働者の労働関係上の諸利益に何らかの影響力を及ぼしうる地位にある者をすべて含むと解すると、同法の使用者 の範囲を拡大しすぎるものとなることから相当ではない。
(2)使用者性に係る事実の有無について
次の理由からみて、太平洋セメントが労働組合法第7条の使用者であるとする組合らの主張は採用できない。
ア  太平洋セメントのセメント運輸会社に対する指示は運送請負契約による注文者の指示にとどまり、セメント運輸会社は別個の事業者 として業務を行っていたもので、太平洋セメントがセメント運輸会社の従業員の業務遂行について指示していたとはいえないこと
イ  セメント運輸会社は太平洋セメント以外の業者からも運送業務を請け負っており、太平洋セメント関連の業務は、セメント運輸会社が 請け負う運送業務の一部にすぎないことから、セメント運輸会社は太平洋セメントと専属的に取引を行っていたものではないこと
また、セメントメーカー各社の内部輸送部門にすぎないとはいえないこと
ウ  太平洋セメントからセメント運輸会社に派遣された役員は、非常勤の取締役や監査役にすぎず、通常の業務執行や労務管理にはほとんど関与していないこと
エ  セメント運輸会社の解散は、セメント運輸会社の株主総会で決議されたもので、その当時、太平洋セメントは既にセメント運輸会社の 株式を所有していなかったのであり、太平洋セメントがセメント運輸会社の解散を決定したとはいえないこと
(3)結論
以上の点からすれば、太平洋セメントは、組合員A及びBの労働契約上の雇用主ではなく、また、同人らの基本的な労働条件等に対して、 雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者ということはできないから、労働組合法第7条の使用者には当たらない。
よって、太平洋セメントが同人らに対しグループ経営内における雇用確保措置を講じなかったことは、同条第1号及び第3号の不当労働行為には当たらない。

【参考】

1 本件審査の概要
初審救済申立日平成18 年3 月28 日(東京都労委平成18 年(不)第25 号)
初審命令交付日平成20 年5 月14 日
再審査申立日平成20 年5 月28 日(平成20 年(不再)第20 号)
2 初審命令主文要旨
上記IIの2のとおり

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