平成21年1月30日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

室長  鈴木  裕二

Tel 03−5403−2172

Fax 03−5403−2250

福岡西鉄タクシー不当労働行為再審査事件
(平成19年(不再)第47号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成21年1月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

命令のポイント
〜併存する組合間の差別が不当労働行為に当たるとした事案〜

各組合に対し乗務員の賃金の低下を来たすことなく、合理的に収益改善を図るための提案を行った会社が、その提案に合意した組合の組合員に対しては、提案内容とは異なる措置とともに、新たな措置を講じる一方で、その提案を合意しない組合の組合員に対しては、一部の措置のみを講じることで、合意した組合の組合員が有利となるような状況を生じさせたことは、提示・交渉段階には組合間で差別して取り扱おうと意図していたものではないとしても、会社に協力的か否かによって、会社が、特定の組合ないし組合の組合員を差別的に取り扱ったものとして、不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為に該当する。

I  当事者

再審査申立人

福岡西鉄タクシー株式会社(以下「会社」)(福岡県福岡市)従業員445名(平成18年8月現在)

再審査被申立人

福岡西鉄タクシー乗務員労働組合(以下「組合」)(福岡県福岡市)48名(平成18年8月現在)

II  事案の概要

本件は、(1)会社が、実運収方式(タクシーチケット等にかかる手数料等を控除して運賃収入を計算する方式)導入及び労働時間延長の提案(以下「会社提案」)に一括合意した別組合(以下「合意労組」)の組合員に対しては、実運収方式導入を猶予しながら労働時間延長を実施し、組合の組合員に対しては、実運収方式導入に合意をしていないことを理由として労働時間延長を実施しなかったことが、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為である、(2)組合が、18年8月1日に組合の申し入れた団体交渉に対する会社の対応が、同条第2号の不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。

初審福岡県労委は、(1)については不当労働行為に該当するとして、会社に対し、組合の組合員の労働時間延長及び文書交付を命じ、その余の救済申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として、再審査を申立てた。

III  命令の概要

1  主文

初審命令主文の1項(労働時間延長)及び2項(文書交付(上記IIの(1)に関して))を変更し、文書交付のみを命ずる。

2  判断の要旨
(1)不当労働行為の成否

ア 会社の措置の不利益性

会社は、合意労組に対しては、労働時間延長を実施しつつ、実運収方式の導入を猶予し、他方、組合に対しては、実運収方式の導入に合意しないことを理由として、組合が数度にわたり労働時間延長を求めたにもかかわらず、これを実施しなかった。加えて、会社は、合意労組のみに、午前12時からの勤務を新たに認め、かつ、全乗務員に対して拘束時間の遵守を厳格化した(以下、合意労組及び組合に対する会社の上記一連の対応を「会社の措置」という。)。

会社の措置は、合意労組の組合員に対し、乗務員にとって不利益となる実運収方式導入を猶予しつつ、未合意労組の組合員と比べ賃金獲得上有利となるように配慮して労働時間延長を実施するものであり、さらに、合意労組の組合員のみに運収すなわち賃金が多く得られる時間帯が含まれる午前12時出勤を認めるものであった。そうすると、会社の措置は、合意労組の組合員を有利に取り扱うもの、すなわち、組合の組合員を不利益に取り扱うものであったといえる。

イ 不当労働行為意思

(ア)会社は、合意労組に対し、会社提案どおりの内容を実施せず、また、拘束時間の遵守を厳格化したり、運収獲得に有利な午前12時出勤を合意労組の組合員のみに新たに認めたりしているのであって、このこと自体により不当労働行為意思が推認されるものである。

また、会社が、合意労組の組合員に対して、実運収方式の導入を猶予した理由をみてみると、会社が合意してくれた労働組合の組合員の方が、同じ運収の未合意労組の組合員よりも賃金が下がるのは好ましくないなどと判断したことがその理由であった。

会社が、会社に協力的か否かにより、労働組合間で取扱いに差を設けていたことは明らかである。

(イ)なお、会社は、会社提案の内容及び提案手続は相当であり、会社に組合を差別する意図はなかった旨主張するので、以下検討する。

a 会社提案の内容の相当性

会社提案は、会社の経費負担の増加を軽減し、収益を改善するとともに、乗務員の賃金の低下を来さないように配慮したものであり、格別不合理なものとはいえない。

また、厳しい経営状況にあった会社が、時間外手当の増加及び手数料等の増加に対応するため、労働時間延長と実運収方式の導入を抱き合わせで提案し、その双方について一括合意するように組合に求めたことが不当であるということもできない。

賃金算定をどのような内容にするかは原則として労使間の交渉により決定されるべきものであり、会社が実運収方式の提案を行ったこと自体に問題はない。

b 会社提案の手続の相当性

会社は、会社提案を各組合に、ほぼ同じ時期に同じ内容を提示し、取扱いに差が生じることのない態様で提案している。さらに、組合との団交についても、会社は、他の組合に対するのと異なるような対応を行ったとは認められない。

また、会社は、会社提案について、計26回に及ぶ労使交渉を行い、組合の理解を得るべく説明を続けており、また、乗務員の計8割が所属する他の労働組合らが合意した後も、会社提案を強行するのではなく、あくまで組合との妥結を図ろうとしたのであって、組合に対し誠意をもって対応していたことがうかがえる。

c 以上からすると、会社提案の内容や提案手続が不当であったとはいえず、会社が、会社提案の提示・交渉の段階から、あえて組合を差別して取り扱おうと意図していたものとは認められない。しかしながら、会社は、いずれの組合に属するかによって 取扱いに差を設けており、このこと自体によって不当労働行為意思を推認できるのであるから、会社提案の提示・交渉段階において不当労働行為意思が認められないとしても上記(ア)の判断が左右されるものではない。

ウ 結論

本件は、会社が、会社提案の提示・交渉の段階から、あえて組合を差別して取り扱おうと意図していたものではないとしても、会社提案の実施に当たり、組合の組合員に不利益を生じせしめたことには合理的な理由は認められないのであるから、会社の措置は、会社が不当労働行為意思により組合ないし組合の組合員を差別的に取り扱ったものとして、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当するといわざるを得ない。

(2)救済方法について

会社は、同年12月1日に就業規則を改定し、組合の組合員を含む全乗務員の拘束時間を19時間40分としたため、労働組合間の差別状況は解消されている。したがって、組合の求める所定内時間外勤務時間の延長を命じるまでの必要性はなく、文書手交を命じるのが相当である。

【参考】

1  本件審査の概要

初審救済申立日   平成18年8月17日(福岡県労委平成18年(不)第11号)

初審命令交付日   平成19年8月9日

再審査申立日     平成19年8月21日(使)


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