平成19年11月8日

中央労働委員会事務局
第二部会担当審査官 榎本 重雄
電話03−5403−2175
FAX03−5403−2250

大成学園不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第10・14号)命令書交付について

中央労働委員会(会長 菅野和夫)は、平成19年11月8日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

命 令 の ポ イ ン ト

学園が副執行委員長のTを普通解雇したことは、不利益取扱い及び支配介入に該当する。

組合員を学園の生徒募集業務、入試問題作成業務及び入試委員業務に就かせなかったこと並びに組合員に対して自宅研修を命じたことは、正当な理由が認められるため、不当労働行為には当たらない。


I 当事者

[第10号再審査申立人・第14号再審査被申立人]:学校法人大成学園(以下「学園」)

教職員数約40名(平成17年8月29日現在)

[第14号再審査申立人・第10号再審査被申立人]:東京私立学校教職員組合

組合員数約200名(平成17年8月29日現在)

:学校法人大成学園大成高等学校教職員労働組合(以下「組合」)

組合員数11名(平成17年8月29日現在)

II 事案の概要

本件は、学園が、[1]副執行委員長のTを平成15年9月1日付け(以下元号省略)で普通解雇したこと(以下「本件解雇」)、[2]組合員を15年10月から同年12月にかけての学園の生徒募集業務、16年度入試問題作成業務及び入試委員業務(以下、これらの業務を合わせて「本件入試業務等」)に就かせなかったこと、[3]組合員に対して、学園の入試日程等に当たる16年1月22日、同年2月10日、同月12日及び同月13日の4日間を指定して自宅研修を命じたこと(以下「本件自宅研修命令」)が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。

初審東京都労委は、18年3月1日、上記1の[1]については不当労働行為の成立を認め、Tに対する本件解雇がなかったものとしての取扱い並びに現職復帰及びバックペイを命じ、同1の[2]及び[3]についての救済申立ては棄却したところ、学園並びに東京私立学校教職員組合及び組合はこれを不服として、再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文

本件各再審査申立てを棄却する。

2 判断の要旨

(1) 本件解雇について

 本件解雇は、教員を解雇するという重大な問題について、過去の体罰に対する処分等について調査もせず、また、理事会等の学園の機関などに諮ることもなく、しかも、校長が責任を問えないとして表明していた過去の事実をも理由に行われており、手続的にみた場合、相当性が疑わしい。また、本件解雇の理由として事実を認定し難い非違行為が含まれ、処分としての均衡を明らかに欠いており、この点でも不相応なものであったといわざるを得ない。さらに、学園が過去の体罰の事実についての処分を前提とした調査であることを明らかにしたことなどから、学園との面談の際にTが体罰の事実を否定する対応をするようになったことには、同人の心情からすれば無理からぬ側面もあったと考えられ、Tの面談における対応をもって、学園が解雇をもって対応するほど、Tが教員としての資質を欠き、Tと学園との間の信頼関係が破壊されたということまではできない。以上のことと、当時、生徒指導のあり方など学園の根本問題をめぐって労使が激しく対立していた状況を合わせて考慮すると、組合の学園運営に関わる活動を嫌忌していた学園が、組合の要職である副執行委員長に就いていたTに関する体罰の事実とそれに関する学園の面談におけるTの態度に藉口して、普通解雇という過去に例もなく通常では考えられない重い処分に付することにより、組合を弱体化させるべく同人を学園から放逐したものと思料され、労組法第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為に該当する。

(2) 組合員の本件入試業務等からの排除及び本件自宅研修命令について

ア 組合員を生徒募集業務に就かせなかったことについて

 教員でもある組合員は、赤腕章等を着用して卒業アルバム用の写真に写ったり、さらに、ストライキ中ではあったが、授業中に廊下を練り歩いたりするなど生徒を巻き込んで激しい組合活動を行ったり、学園が行った学校説明会の場に赤腕章を着用して傍聴するなどしていた。これらの組合活動は、Tの解雇撤回を求めるという目的等を考慮に入れても、手段・態様上の相当性を超えており、正当な組合活動の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。組合がこのような激しい抗議活動を行っていたことからすれば、学園が、組合員を生徒募集業務に就かせなかったのは、上記のような組合の活動により生徒募集業務に深刻な影響を受けるとの懸念を抱き、業務上の必要性から行った措置であるといえるから、不当労働行為には当たらない。

イ 組合員を16年度入試問題作成業務に就かせなかったことについて

 第1回及び第2回入試問題作成会議において教頭が期日までに入試問題の作成を間に合わせることができるか確認した際や、校長が入試問題を責任を持って作ってくれるかを確認した際に、組合員は入試問題作成という学園運営上の重要な業務について、担当教員として積極的に協力する姿勢を示さなかった。これらの事情からすれば、学園が組合員を16年度入試問題作成業務に就かせなかった行為をもって、不当労働行為に当たるということはできない。

ウ 組合員を入試委員に就かせなかったことについて

 学園が16年度入試委員を選任する直前の15年11月当時の状況をみると、組合は同月4日から同月15日までの間、ほぼ1日おきに半日ストライキを行い、休み時間中に校内でシュプレヒコールを行ったほか、職員室内のドアや窓ガラスにビラを合成接着剤で貼付したり、同月16日には学園において学校説明会が開始される時刻に、JR中央線三鷹駅から大成高等学校に至る三鷹通をシュプレヒコールを繰り返しながらデモ行進を行っていた。このような状況では、入試委員に関する文書を組合に交付した同月21日の時点で、組合による入試妨害を懸念する状況にはなかったとはいえず、学園が組合員を入試委員に就かせなかったことは、業務上の必要性に基づく判断によるものであったといえるから、不当労働行為には当たらない。

エ 本件自宅研修命令について

 組合は、15年12月8日に学校敷地ないし施設内でのビラ配布、赤腕章等の着用の停止などを決定してその旨を学園に通知しており、この時期、従前のような激しい組合活動をしていなかったことが認められる。しかしながら、上記アのような激しい組合活動を行っていた中で、同年11月14日に東京地裁八王子支部が発出した仮処分決定の内容に抵触するデモ行進を同月16日に組合が行っていたことなどからすれば、本件自宅研修命令は、学園がなお組合員による妨害的行為がなされるかもしれないとの懸念を抱き、入試業務を円滑に進めるという学校運営上の不可欠の要請に応じるため、業務上の理由からやむを得ず採った措置と考えるのが相当であるから、不当労働行為には当たらない。

【参考】本件審査の経過初審救済申立日平成15年12月12日(東京都労委平成15年(不)第110号)

平成16年 3月 1日(東京都労委平成16年(不)第 11号)

初審命令交付日平成18年 3月 1日

再審査申立日平成18年 3月 1日(平成18年(不再)第10号)

平成18年 3月16日(平成18年(不再)第14号)


トップへ