平成19年8月21日

中央労働委員会事務局
  第一部会担当審査総括室
   審査官  横 尾 雅 良
TEL 03-5403-2169
FAX 03-5403-2250

東海旅客鉄道(東海労配転)不当労働行為再審査事件
〔平成14年(不再)第42号〕命令書交付について

中央労働委員会第二部会(部会長 菅野 和夫)は、平成19年8月21日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

I  当事者

再審査申立人   ジェイアール東海労働組合(東京都大田区)
再審査被申立人  東海旅客鉄道株式会社(愛知県名古屋市)

II  事案の概要

1  本件は、会社が組合に所属するAを平成12年1月25日付けで三重支店管内の亀山運輸区から同紀伊長島駅に配置転換したことが不当労働行為であるとして、三重県労委に救済申立てがあった事件である。

2  初審三重県労委は、組合の申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、当委員会に再審査を申し立てたものである。

III

1  主文

本件再審査申立てを棄却する。

2  判断要旨
(1)  本件配転の必要性について

会社は、6年3月以降、指導業務は原則として管理者のみが担当するとしていたところ、紀伊長島駅においては指導業務を担当する管理者の補充ができなかったことから、11年12月に一般運転士のBを指導業務に従事させていた。Bは12年4月末の定年退職を前に同年2月中旬から年休を取得するため、2月中旬以降月末までは同駅所属の運転士Cが、3月以降は同運転士Dが指導業務に従事することとなり、同駅では運転士要員が不足することとなった。

そこで、この当時の運輸区等における管理者の需給状況をみると、本件配転当時及びその後相当期間、三重支店管内では管理者が不足しており、紀伊長島駅に管理者を充当することができなかったものといえる。

そうすると、同年2月以降、退職前の年休に入ったBの補充としてC又はDが指導業務に従事することにより、紀伊長島駅では運転士の要員に不足が生じることから、予め運転士を補充する必要があったものといえる。

(2)  本件人選基準について

ア 会社は、三重県労委の審問において、本件配転の人選基準として、まず、内燃車免許を所持しない者(人選基準1)、50歳以上の高齢者(人選基準2)、会社発足後に採用された若手社員(人選基準3)を除外し、さらに残された者の中から、紀伊長島駅の社宅への転居を考慮して、就学中の子どもがいる運転士(人選基準4)を除外したことを示したことが認められる。

イ そこで、これらの人選基準についてみると、まず人選基準1については、紀伊長島駅は内燃車が走行する紀勢本線のみを担当しているのであるから、これを所持しない者を除外することは当然であるといえる。人選基準2及び3については、紀伊長島駅においては50歳以上の社員が半数以上を占めていること、若手社員にはその育成を図る観点からも担当線区や車種の多い亀山又は伊勢運輸区で運用するとの方針は首肯できるものであることから、これらの基準は合理性があると認められる。

ウ 人選基準4についてみると、会社は、必ずしも社宅への転居を条件としているものではなく、本人が希望すれば現在の居住地から通勤することも承諾していたものであること、また、人事異動に際して、通勤時間は最大2時間は合理的な範囲内であると判断していることが認められる。
  そうすると、就学中の子どもがいる社員であっても通勤時間が2時間以内の地域に居住している社員であれば、本件配転の対象者とすることはできるのであるから、これらの者を含めて一律に除外したことにはいささか疑問を抱かざるを得ない。

エ 以上のとおり、会社が示した人選基準には妥当性が疑われるものがあるほか、これらの基準については、三重県労委における審問時まで明らかにされていなかったことからすると、本件配転に際し、これらの人選基準が予め明確に定められていたと判断することは困難であると考えられる。 しかしながら、会社が本件配転の人選に当たって、内燃車の操縦資格、紀伊長島駅の年齢構成、社員の人材育成の観点を踏まえた上で、家族状況、通勤の事情などを総合的に考慮し、配転者を選んだとする説明には一応の合理性が認められる。

(3)  Aが人選されたことの合理性について

ア Aには3歳児と5か月児の2人の子どもがいるが、転校を余儀なくされる就学児を抱える社員に比べれば紀伊長島駅に近接する社宅への転居は容易であると考えられること、社宅への転居を選択せず、通勤することになったとしても、亀山運輸区への通勤と比べ通勤時間が大幅に増えるものでもなく、また、会社が合理的範囲内としている2時間以内の通勤が可能であること、他に自家用自動車で90分以上を要して通勤している社員もいることなどを考慮すると、上記の基準を用いて、Aを人選したことに不合理なところは見当たらない。

イ また、Aは母の面倒をみる必要があること、そのために自宅を購入する計画があったこと、それを前提に子どもの通う保育園を考えていたことなどの家庭の事情があったことを主張する。 しかし、これらの事情については、本件配転当時、Aは会社に伝えておらず、かつ簡易苦情処理会議においても組合は何ら主張していないのであるから、本件配転に当たって、会社がこれらの事情を考慮しなかったからといって、会社に非があるということまではできない。

(4)  本件配転によりAが受けた組合活動上の影響について

Aの組合活動については、本件配転により勤務終了後を利用して名古屋地本に行くことが困難になったことなど、組合活動にある程度の支障が生じていることは認められる。しかし、[1]Aは本件配転により従来担当していた組合活動に支障が生じたという具体的疎明をしていないこと、[2]本件配転が三重支店管内の異動であること、[3]名古屋地本の執行委員には基本協約により月1日の勤務時間中の組合活動が認められていることからすると、名古屋地本から遠い勤務地となったことをもって直ちにAが組合活動上の不利益を被っているとまで認めることは困難である。加えて組合からは、本件配転によって生じた具体的な組合の不利益について特段の疎明もなく、組合の主張に理由はない。

(5)  会社がAの組合活動及び組合を嫌悪していたか否かについて

Aは、T組合若手組合員と趣味等を通じて、個人的に気の合う仲間と遊ぶことはあったものの、組合への勧誘等、組合活動という意識はなく、組合からも積極的に付き合えという指示もなかったことからすると、会社及びT組合がAとT組合若手組合員との関係が深まるのを嫌ったことにより、本件配転が行われたとまで認めることはできない。

(6)  結 論

本件配転は、紀伊長島駅の運転士不足に対して補充するために行われた点で、その必要性が認められる。また、本件人選基準には一部妥当性が疑われるものもあるが、全体としては一応の合理性が認められる。そして、それらの基準でAが人選されたことにも格別不合理なところはなく、本件配転によってAが特段の不利益を被ったということもできない。さらに、会社がAの組合活動を嫌悪していたという事実も認められない。 よって、同旨の初審判断は相当である。

【参考】

本件審査の概要

初審救済申立日平成12年6月28日(三重県労委平成12年(不)第3号)
初審命令交付日平成14年9月2日
再審査申立日平成14年9月12日

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