平成19年6月22日

中央労働委員会事務局
 第三部会担当審査総括室
      室長 神田義宝
Tel 03(5403)2172
Fax 03(5403)2250


モリタエコノス外1社不当労働行為再審査事件
(平成17年(不再)第29、30号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成19年6月22日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

再審査申立人        株式会社モリタ(大阪市)
 (従業員数560名(16.8.11現在))
株式会社モリタエコノス(大阪府八尾市)
 (従業員数310名(16.8.11現在))
再審査被申立人 大阪地域合同労働組合
 (組合員数450名(18.2.3現在))
大阪地域合同労働組合モリタ管理職ユニオン分会
 (組合員数 数十名(18.2.3現在))

II 事案の概要

1 本件は、株式会社モリタ(以下「モリタ」という。)が、(1)従前から別組合に組合事務所及び組合掲示板(以下「組合事務所等」という。)を貸与していながら、大阪地域合同労働組合(以下「組合」という。)及び大阪地域合同労働組合モリタ管理職ユニオン分会(以下「分会」といい、組合と分会を併せて「組合等」という。)から要求のあった組合事務所等の貸与に応じなかったこと、(2)平成15年7月7日付けで分会に対して協議を申し入れた同社のエコノス事業部門に関する営業(なお、分会員は全員が同営業に従事していた。)の同年10月1日付け新設分割(以下「本件会社分割」という。)を議題として行われた組合等との団体交渉において、誠実に対応しなかったことが不当労働行為に当たるとして、組合が同年8月8日に、分会が同年9月26日に、それぞれ大阪府労働委員会(以下「大阪府労委」という。)に救済を申し立てた事件である。
 なお、同年10月1日、本件会社分割が行われ、株式会社モリタエコノス(以下「エコノス」という。)が設立されたことに伴い、分会員全員は同日付けでエコノスに移籍した。組合等は、同月17日に、大阪府労委に対して、エコノスを本件の当事者として追加するよう申し立て、これを受けて、大阪府労委は、同年11月11日に、エコノスを当事者として追加することを決定した。

2 大阪府労委は、平成17年2月23日に、上記1の(1)及び(2)はいずれも不当労働行為に当たると判断し、(1)エコノスによる組合事務所等の貸与に関する組合等との誠実協議及び分会への組合事務所等の貸与、(2)モリタ及びエコノスによる文書手交を命じることを決定し、同年3月30日に命令書を交付した。これを不服として、モリタ及びエコノスは、同年4月12日にそれぞれ再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文の要旨

(1)エコノスによる組合事務所等の貸与に関する組合等との誠実協議及び分会への組合事務所等の貸与(初審命令維持)

(2)モリタによる文書手交(モリタによる組合事務所等の不貸与及び不誠実団体交渉に関して)(初審命令維持。ただし、エコノスによる文書手交については取消し)

(3)エコノスを被申立人とする不誠実団体交渉に係る組合等の救済申立ての却下

(4)モリタの本件再審査申立て及びエコノスのその余の本件再審査申立ての棄却

2 判断要旨
(1)不当労働行為の成否

ア 組合事務所等の貸与について

モリタが従前から別組合には組合事務所等を貸与する一方で、組合等からの組合事務所等の貸与要求に対しては、「平等の原則は理解できるが、分会との労使関係は始まって間がなく、改めて協議する。」としながら、結局、何ら具体的な理由を示すことなく「貸与は困難である。」としか回答せず、組合事務所等を貸与しなかったことに正当な理由があるとは認められない。かかる行為は労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たる。

イ 本件会社分割を議題とする団体交渉について

モリタは、平成13年10月1日に、長期にわたり業績不振であったモリタのエコノス事業部門の前身会社の救済策として吸収合併を行ったばかりであるのに、そのわずか約1年9か月後の平成15年7月7日までに、安定的な収益確保のめどが立ったとして当該環境関連事業(エコノス事業部門)を分割して本件会社分割を行うとの方針を決定した。しかしながら、組合等が最も関心を持っていたとみられる本件会社分割後のエコノスの経常利益の見込みについて、組合等が第4回(最終)の団体交渉(15.7.30)において、その根拠を示すよう要求したのに対し、モリタは、内訳などは回答できないし、そこまで回答する必要がない旨述べて説明を拒否し、単に47億5000万円の借入金債務がモリタに引き継がれ、エコノスの金利負担が約6000万円減少すると返答するだけであった。このようなモリタの対応は、到底組合等が抱いていた本件会社分割後のエコノスの経営に対する懸念と雇用不安を軽減し、理解を得られるよう説明を尽くしたものとはいえない。かかる行為は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

(2)本件救済命令の名あて人について

ア モリタ

全分会員がエコノスに移籍し、平成15年10月1日以降はモリタにおける組合等の組合員は皆無である。しかし、労働組合法第7条の「使用者」とは、現実に雇用関係のある使用者に限られるものではなく、移籍等によって雇用関係が形式上切断されている場合においても、雇用関係にあった当時の労働問題に関して紛争が継続している限りは、労働組合法上の雇用関係が完全に消滅したものとはいえず、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正して正常な労使関係を回復すべき地位にあるので、なお同条にいう使用者に当たることになる。そして、本件各不当労働行為をしたのはモリタであり、その当時分会員はモリタの従業員としてエコノス事業部門に勤務していたのであるから、本件不当労働行為に関してモリタが使用者に当たることは明白であって、本件救済命令の名あて人とすることに何ら問題はない。もっとも、モリタに組合等の組合員がいないことは、救済方法を決定するに当たっては当然考慮すべきものである。

イ エコノス

本件会社分割により、モリタのエコノス事業部門に関する営業に従事していた従業員との間の労働契約がエコノスに承継され、分会員全員は同営業に従事していたので、平成15年10月1日にエコノスに移籍している。そして、組合等は、エコノスの八尾工場内で組合事務所等の貸与を求めているものであり、また、その施設を管理する権限はエコノスにあるものと認められる。そうすると、エコノスは、組合事務所等の貸与に係る本件不当労働行為に関しては、使用者として、その侵害状態を除去、是正して正常な労使関係を回復すべき地位にあるものと認めるのが相当であるから、本件救済命令の名あて人たり得るというべきである。

(3)救済方法

ア モリタに対しては、組合事務所等の貸与及び上記団体交渉に関し、文書手交を命じるのが相当である。

イ エコノスに対しては、組合事務所等の貸与に関する誠実な協議及び貸与を命じるのが相当である。しかし、本件会社分割を議題とする団体交渉に関しては、その名あて人たる立場にないから、その是正を命じることはできない。


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