平成18年11月13日
中央労働委員会事務局
第一部会担当審査総括室
  審査総括官 西野幸雄
Tel 03-5403-2157
Fax 03-5403-2250


尼崎市・尼崎市教育委員会不当労働行為再審査事件
〔平成17年(不再)第89号〕
命令書交付について


 中央労働委員会第一部会(部会長 山口浩一郎)は,平成18年11月13日,標記事件の再審査命令書を関係当事者に交付しましたので,お知らせします。
 命令の概要等は,次のとおりです。

I 当事者

 再審査申立人大阪教育合同労働組合


大阪市所在,大阪市内外の教職員等により組織される混合組合;
構成員約330名


 再審査被申立人(1) 尼崎市(地方自治法上の普通地方公共団体)
(2) 尼崎市教育委員会


地方自治法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律に
基づき尼崎市に設置された行政委員会



II 事案の概要等

 1 本件は,被申立人尼崎市及び尼崎市教育委員会(以下「市」「市教委」)が,申立人大阪教育合同労働組合(以下「教育合同」)構成員である外国人外国語指導助手(アシスタント・ランゲージ・ティーチャー;略称「ALT」)の平成17年度報酬額等を議題として平成16年度中に実施された団体交渉において誠実に交渉しなかったこと,また教育合同との間で合意した事前協議約款に反し,かつ,同団体交渉の継続中にALTに平成17年度の職務委嘱契約を締結させたこと及びALTの平成17年度からの小学校勤務日数を増数させたことがいずれも不当労働行為であるとして,平成17年4月20日,教育合同が大阪府労働委員会(以下「大阪府労委」)に救済申立てを行った事案である。
 2 大阪府労委は,教育合同は地方公務員法(以下「地公法」)適用構成員と労働組合法(以下「労組法」)適用構成員で組織される混合組合であるが,構成員約340名(当時)のうち約6割の200名が地公法適用構成員であって,労組法上の労働組合とは認められないから,原則として不当労働行為救済申立て制度の申立人適格を有しないとして,同年11月30日,本件救済申立てを却下する旨の決定をした。
 3 教育合同は,上記初審決定を不服として,同年12月12日,再審査を申し立てた。

III 命令の概要等

 1 命令主文要旨

(1) 初審決定中,尼崎市に対する救済申立てを却下した部分を取消し,同部分に関する救済申立てを棄却する。
(2) その余の本件再審査申立てを棄却する。

 2 判断要旨
(1) 教育合同の申立人適格について
 初審決定は,労働団体の法的性格を一元的に取り扱うことを前提に,当該労働団体の一時点の構成員の量ないし質的構成を捉えて基準とするものであるが,これは基準として曖昧かつ不確定であって構成員に意外の不利益を蒙らせるものである上,労組法及び不当労働行為救済制度の趣旨を没却するものであって妥当でない。
 労組法及び不当労働行為救済制度の趣旨たる労働者の団結権保障並びに労働組合加入及び労働組合選択の自由の保障,また我が国の批准するILO87号条約,同98号条約等の国際条約及び同条約批准を受けて行われた国家公務員法,地公法を始めとする国内法諸法規の改正整備を踏まえると,混合組合についても,労組法適用構成員に関わる問題については労組法上の権利を行使することができると考えるのが相当であり,労組法第7条各号の別を問わず一律に不当労働行為救済手続における申立人適格を認めるのが相当である。
 また本件申立人たる教育合同のうち地公法適用構成員は,別途登録職員団体(以下「(職)教育合同」)を結成しており,同構成員らの権利利益の保護ないし行使はこれを代表する(職)教育合同による市・市教委との団体交渉等を通じて行われることとなっており,組織及び活動の識別性,分別性は明確であるから,職員団体と労働組合を区別する法の規定ないし趣旨を潜脱する事態が生じることもない。
 したがって,教育合同の申立人適格を否定し,市に対する申立てを却下した初審決定は取消しを免れない。
(2) 市教委の被申立人適格について
 市教委は公法上独立した権利義務の主体ではないので,被申立人適格を認められない。
(3) 平成16年度団体交渉の不誠実団交該当性について
 教育合同と市・市教委との間では,平成16年度中のべ7回にわたる団体交渉が実施されているところ,うち6回で平成17年度ALT報酬額が中心的な交渉事項とされ,市・市教委は各団体交渉時に適当な資料を準備するなどして対応し,説明義務を尽くしているほか,提案内容について2回にわたる譲歩を行っていること,またこの間教育合同らはストライキを実施するなどしていた経緯等を考え合わせると,団体交渉の過程に特段の問題はなく,交渉事項,回数,時間等から見ても特に不誠実な点は認められない。また,同団体交渉に市財政当局者が出席していなかったために交渉に支障が生じたという事実はなく,市財政当局者を出席させなかったことをもって団交応諾態度が不誠実であったとは言えない。よってこれが不誠実団交ないし団交拒否の不当労働行為に該当するとは認められない。
(4) 事前協議約款違反等の支配介入行為該当性について
 教育合同と市・市教委の間で実施された平成15年度団体交渉の過程で,平成16年2月27日に市・市教委が発した回答書は,事前協議約款を内容とするものとは認められない。
 上記(3)に認定のとおり,平成16年度団体交渉において市・市教委は誠実義務を尽くしていると言えることからすると,同団体交渉は行き詰まりにより終結したものと認められること,同団体交渉の過程で平成17年度ALTの勤務条件については十分な議論が行われており,平成17年度ALT委嘱契約締結当時,同契約内容がさらなる団体交渉により決定される余地はなかったこと,また同契約締結に際してALTらが同意書を作成提出しているが,その経緯に市・市教委による強迫等があったとは認められないことに加え,市・市教委が当時不当労働行為意思を有していたと認めるに足る証拠はないことなどの事情から,市・市教委が同契約締結に際し,ALTらに同意書の署名と提出を行わせたことが支配介入行為に該当するとは認められない。
 小学校勤務はALTの職務内容に含まれるものであり,平成17年度ALTについても職務内容となることが予定されていたこと,ALTの小学校勤務日数等については,平成15年度及び平成16年度団体交渉において中心的交渉事項または付随的な協議事項となって協議が重ねられていたことに加え,市・市教委が不当労働行為意思をもって平成17年度ALTについて小学校勤務日数を増数させたものと認めるに足る証拠はないことなどの事情から,ALTの小学校勤務日数を増数させたことが支配介入行為に該当するとは認められない。

【参考】

 ●本件審査の概要
 ・初審救済申立日  平成17年 4月20日(大阪府労委平成17年(不)第14号)
 ・初審命令交付日  平成17年11月30日
 ・再審査申立日  平成17年12月12日
 ・再審査結審日  平成18年 6月22日

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